凜恋心

降谷みやび

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battle36…安らぎのパープル

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朝食を食べながらも八戒は口火を切った。

「そういえば、この街、まだ妖怪に襲われた事は無さそうですね。」
「何だ、藪から棒に」
「いえね?お祭りというわけではないみたいなんですが、街の雰囲気がすごく明るいですし。露店とかもたくさんありましたし。」
「露店!?」
「雅が食いついたな」
「珍しい…」
「見たい!行きたい!」
「…好きにしろ」
「じゃぁ、朝食終わったらみんなで行ってみましょうか。」
「やった!!」

そう嬉しそうに話して居た。

「それにしても、雅が珍しいな」
「そうですね。」
「悟空が食いつくならまだしも…何かあったか?三蔵」
「俺に聞くな。知らん」
「ふぅぅぅん。」
「何が言いたい。」
「いんやぁ???」

意味ありげに笑う悟浄。しかし、朝食も早々に終わると支度をしにそれぞれ向かう。

「じゃぁ、五分後には入り口に集合な?」
「わかった!」

そう答えて二部屋に別れていく。

「雅!行くぞ!」

悟空に促されながらも髪をまとめる雅。

「待って?ごめん!」
「なんだよ、先行くぞ?」
「うん!すぐ行く!」

そういいながら短いながらも少し結っていく。

「お待たせ!」
「遅せぇよ」
「……おんやぁ?」
「悟浄…あんまり見ないで…」
「いや、可愛いじゃん?」

結った髪をまず褒めたのは予想通りに悟浄だった。三蔵は気付いたのか気付いてないか解らないものの、顔には出す事は無かった。

「あれ、三蔵も行くの?」
「たばこが切れた」
「そか!」

しかし嬉しそうな雅を見て八戒や悟浄も、嬉しそうだった。街の広場には色々な露店や屋台が店の合間にたくさん出ている。


「…わぁ」

目をキラキラとさせる雅。

「ね!みて!!すごい!」
「雅、うっれしそうー!」
「ねぇ!あっち見てきていい?」
「はぐれんな」

そういう三蔵の言葉をさらっと聞き流すかのように走り出す雅。悟空も後を追う。そんな二人を見て話し出したのは悟浄だった。

「雅も良く笑うようになったな」
「そうですね、泣く事が多かったですし。」
「多かったんじゃねぇよ、泣いてばかりだろうが、あいつは…」
「でも、頑張って笑っていたじゃないですか」
「そうそう、お前も見たろ?三蔵」
「……あんなの笑ってる内に入らねえよ」

そう呟いて居た。

「でも、まぁ……なんだかんだ言ってもさ、三蔵のお陰じゃねぇの?」
「そんな事あるか。あいつの成長だろうが…」
「素直じゃないねえ」

そんな事を三人で話して居た時だ。一つの露店の前で悟空としゃがみこんでわあわあ話して居た。

「なに話してるんですか?」
「俺的には雅ならこっちの白かピンクがいいと思ったんだよ!」
「でも…これ……きれいだなって…」
「紫…?」
「ん…でも……いいや!」
「いいの?雅?」
「ん!!ごめんなさい、おじさん」
「そうかい?またな!」

そういって雅は立ち上がった。それは雅にしては珍しく紫色を主に、所々に小さな金色の玉が連なり、作られたブレスレットだった。

「いいのか?雅…」
「ん!」

悟空について、食べ物の屋台に向かっていく。その後を着いていく悟浄。八戒は三蔵をチラリと見ていた。

「なるほど…それで…なんですか」
「なんだ」
「いえ?」
「…何が言いたい」
「いえ…誰かさんの瞳と同じ色だなと思っただけですよ」
「……フン」
「雅も素直じゃないですねぇ」
「…知らん」

そう言いながらも三蔵を見てクスクス笑う八戒。売られている商品を見ても、悟空の言う事はもっともらしいことだった。雅の持っていた紫のブレスレットよりも、白やピンクなど…柔らかい色のブレスレットもいくつかある。

「三蔵?いいんですか?」
「良いも何も、あいつはいいって言ってんだ。」
「あぁあ、こっちも素直じゃないんですから。」

そう呟いて居た。

「それに、俺の目と同じ色だからって何の意味がある」
「それは知りませんよ、僕は雅じゃないんですから…」

そう平然と答えた八戒。それでも楽しそうなな雅の姿を見て、『平和ですねぇ』と答えていた。
色々見て回り、それぞれほしいものを三蔵に頼んでは買っていく。三蔵と悟浄はそれぞれたばこ、悟空は大量の肉まん、八戒はこれと言ってなく無理に買うことも無いと判断した。

「さて、あとは雅か?何か欲しいの無いの?」
「んーー……これと言ってなかった!」
「そうなの?」
「皆で楽しく見れたし!それで十分!」
「なぁ雅?一番最初に見てたのは?」
「なんだっけ?」

そう言い交わす雅。しかし三蔵の横を歩く悟浄はくはっと笑っていた。

「雅、相変わらず嘘が下手だねぇ…」
「本当に忘れたんじゃないのか?」
「意地悪だね、三蔵も」
「知らん」
「ほら!紫色の腕輪!」
「……ッ」
「良いなって言ってなかった?」
「あ……でも、私もう一つ三蔵にこれ、買って貰ってるし」

そういって雅はネックレスを握りしめた。しかし悟浄が笑いながら声をかける。

「それはもうずいぶん前だろ?旅の仲間としての。」
「仲間じゃねぇよ、下僕だ」
「あー、はいはい。それに、ネックレスとブレスレットじゃ意味が違うだろ」
「……でも…」
「無理に買う事はねぇよ」
「…三蔵?」
「なんだ」
「もう一回だけ……見に行ってもいい?」
「好きにしろ」

そう言われると満面の笑みで来た道を戻っていく。

「あぁあぁ、あんな笑顔で…あれ見ても買ってやらないの?」
「誰も買わんとは言ってないだろうが」
「ほえぇ?」
「自分で欲しいと言えば良いだろう」
「…うわ…」
「なんだ」
「何か…雅が欲しいって言ったらなんでも買いそうに取れるぞ?三蔵」
「バカが…そんな事あるか」
「いえ…気付かないだけであり得そうなのが少し怖いですけどね?」

クスクスと笑い会う悟浄と八戒。ふんっと目を細める三蔵。ようやく始めに立ち寄った露店を見つけた。

「おんや?また来てくれたのかい?」
「おじさん、また見せてくれる?」
「あぁ、いいよ、ゆっくりと見ていきな!」
「なぁなぁ、やっぱり雅ならこっちのが似合うと思うよ?」
「ん、そっかな……」
「なぁな!悟浄や八戒は?」
「まぁ、雅のイメージってのならこっちの白かなぁ」
「雅?なぜこの色にこだわるんです?」
「……それは…」
「それは?」
「……ほら、あんまり見ない色でしょ?なんか…」
「…クスクス……ですか」
「だったらさ!こっちは?」
「……どうするんだ」
「三蔵…これ…買ってもいい?」
「おい、主人。」
「毎度ありがとうございます!」

そういって雅はブレスレットを買って貰った。嬉しそうに填めて口許が緩んでいる時、悟空は声をかける。

「なぁ雅?なんでその色にしたんだ?俺てっきり雅白とかピンクとか…そういうのにすると思った!!」
「……ん、この色、最近の私の好きな色なんだ…」
「そうだったのか…!」
「ん」

にこりと微笑みながら雅は三蔵に向かって見上げていた。

「三蔵、ありがとう!」
「フン…無くすんじゃねぇよ?」
「ん!!

胸元にはピンク色の桜が、左手首には紫色のブレスレットが、それぞれかかり、雅はどちらも愛おしそうに触れていた。

「あぁあ、なんでその色が好きなんだろうね」
「…だからいちいち俺を見るな」
「クスクス、悟浄?野暮ですよ?そうだ、どこかで休憩しませんか?」
「賛成!!」

そう言って休憩と言う名の八戒の欲しい安らぎの時間になった。

「いらっしゃいませ!」
「♪~♪…店員チャン、当たりだな」
「悟浄…やめてください…恥ずかしい」
「五人だ」
「五名様ですね?どうぞ」

そうにこやかに案内された一行。悟浄はいつになく上機嫌だった。

「……ん、二十一だな」
「どっから出した、その数字」
「お肌の張りで解るんだよ」
「解りたくないですが」
「二十一だと私と同じ?」
「そうだなぁ…まぁ、雅は最近また一段と可愛くなってるからな」
「……ばか」
「こちらでよろしいですか?」
「はい」
「なぁなぁ、あれって何?」
「…んーー、ありゃドリンクサーバーだな」
「あそこにあるレバーを回すと中に入ってるドリンクが流れてくるって仕組みです」
「飲み放題じゃん!!」
「つまみ出されるがな」
「何にしますか?」
「えーっと、…」
「ご注文決まりましたら、また呼んでくださいね?」

そういって店員はその場を離れた。

「……いいねぇ…彼氏持ちか?」
「僕に聞かないでください」
「女じゃなくて、注文決めろ」
三蔵にゃわかんねぇよな」
「うるせえ」
「えっと……あ!オレンジジュースあった」
「雅オレンジジュース?だけでいいの?俺は…どれもうまそうだなぁ」
「飯食いに来たんじゃねぇからな」

そういう三蔵にも耳を傾けること無く悟空はどれがいいかと迷っている。

「決まったか?呼ぶぞ」
「はい」

そうして悟浄がてをあげる。

「お待たせ致しました」
「俺、生ビールジョッキで!」
「あ、僕はホワイトサワーで」
「…俺はぁ、取り合えず桃まんと、春巻きと、豚まんと、あ!!これ!」
「…ジンジャエール」
「私は…オレンジジュースお願いします」
「かしこまりました。」

一度ぺこりと頭を下げて店員は去っていく。

「いやぁ、かわいいねぇ」
「そんな目で見ないであげてください?」
「悟浄、変態みたいに見えるよ?」
「雅、悟浄のナンパと目利きは食事と同意語ですから…」
「そっか…」
「……納得するな、そんなこと」

そう突っ込まれながらも、一番最初に悟浄のビールジョッキがやってくる。

「お待たせしました。生ビールのジョッキです」
「ども、……お姉さん、ここ、長いの?」
「え?あ…はい」
「かわいいねぇ…モテるでしょ」
「そんなこと無いですよ?フフ…」
「ほら、そういうところ、かわいいからさ」
「チッ……」

三蔵の舌打ちとほぼ同時に店員は去っていく。

「おい、悟浄……俺達まで同類と思われるだろ!」
「同類ってひっでぇなぁ」
「少しは大人しくしてろ」
「へーへー」

気の無い返事をしながらも悟浄の視線は気付けば店員では無く、雅に向いていた。

「もぉ…悟浄も気が多いんだから…」
「ステータスと言ってくれ」
「……下らん、安っぽい人生だな」
「うるせぇよ、生臭坊主」

そう言い合っている傍らで八戒は雅に問いかけていた。

「本当にその紫色で良かったんですか?」
「うん、これね…『アメシスト』っていう宝石が一つだけ使われているんだって。すごく貴重なんだって。」
「へぇ、宝石、ですか」
「なんかね、高い値段のはもっとするみたいなんだけど、たった一つだけを使ってるっていうのと、小さな傷があったりで値段が付かないからって。それであのおじさんの家族がこうやって作ってるんだって!」
「そうなんですね。」
「小さくても、宝石には代わり無いから…」

そう呟きながら、雅はそっと石を撫でていた。そんな雅を見て八戒は続けて聞いていた。

と言うわけではないでしょう?」
「……ん、でも、それは秘密」

そっと唇に人差し指を添えて雅は笑って言った。

「そうですか、それは残念です」

くすりと笑い合い、それぞれ届いたドリンクに口を付けていた。
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