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battle24…踊り子雅、誕生
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次の街には、二日の野宿の後に着いた一行。とりあえず宿を探す。
「あった…」
「飯ぃぃ…」
「宿に行くぞ…」
そうして有無を言わせることもないまま、まずは宿探しを始めた。宿は大部屋しか空いていないと言うことだったか、文句は言えない。そのまま部屋を取り、次は悟空始め、胃を満たさなくてはならない。
「どこかありますかね…」
「こっち……マジでうまそうな匂いする…」
そう言って歩いていく悟空の後をおっていく一行だった。時期に食堂は見つかった。
「とにかくなんでもいい!!」
「そう焦らないでください?」
「全くだ…」
「またこの街で材料買えたらまた作るよ…」
「そうして貰えると僕たちも楽しみができます。」
そう、前の街を出たあとにすぐにも悟空が一つ…また一つと食べ、結局作った内残り二分の一個になった所で悟浄が食べてしまったのだ。
「お前らは次には食うな」
「えぇぇ!?俺も?」
「当然だろ。食ったんだから」
「ひど!」
「そう言わないで?うまく作れるか解らなかったから少ない材料だったけど、作り方のコツ解ったから…!今度はみんなで食べれる様にたくさん作るから!」
そう言ってその場をなだめた雅。話をしていると食事も運ばれてきて、テーブルの上一杯になってきた。しかし、同時に皆の胃袋に収まっていく。
「ゆっくり食べないと…」
「てか…三蔵……食事の前にクリームぜんざいって…」
「何か文句あるのか」
「無いけど……口の中甘くならない?」
「フン…」
無愛想にもパクつく三蔵をにこにこしながら見つめる雅。しかし、早々に食べ終えると食事もしっかりと食べている。
「本当に三蔵って……独特だよね…」
「そうですよね」
にこっと笑いながらも八戒が相づちをうっていた時だ。
「あの!」
後ろから不意に声をかけられた。一行の視線は声をかけてきた男性に集まっているものの、そんなことはお構い無しにその男性は話を続ける。
「すみません!僕は城太郎と言うんですけど。少しお時間いただいても?」
「……」
「あの…」
「三蔵?またナンパされてる…」
「言っておくが俺は興味ない」
「…え?あの……僕が話してるのではあなたでは無く…」
そう言うと雅に視線を向けた城太郎。
「……え?私?」
「はい!あの…」
「あらぁ、なんと言う…」
「躍りって…できますか?」
「……え?」
一行の声はきれいにハモるように被っていた。そう、ナンパ、ではなく、踊り子の誘いだった。
「え……でも…」
「もちろん旅の最中なら今回限りでも全然いいんです。ただ、踊り子が不調でして…」
「そんなの関係無いだろうが…」
「そう言わず!……明後日のイベントに今からでは間に合わないんです……どうか人助けと思って…」
「…どうします?」
「三蔵…私やってみてもいいかな…」
「引き受けるのはいいが、第一雅、踊れるのか…?」
その一言で雅ははたっと気付いた。
「城太郎さん…でしたっけ…すみません、私踊ったこと無くて…」
「でしたら一度テントに来てください!」
「俺も見てみたい!」
「どうします?」
「明後日…だな」
「はい!」
「……好きにしろ」
その返事を貰って雅は一旦誘われるままにテントに向かっていった。テントに着くと、バサっと入り口を開ける。
「帰ったよ?」
「あ!ジョー!」
「姫、居たよ」
そう言うと城太郎は雅の背中を押してすっと中へと促した。
「えと…はじめまして…」
「あなた…かわいい!!!」
一気にが張りと巻き付いてくる姫と呼ばれた女性。しかし雅の中では不意に何か違和感があった。
「はじめまして、姫乃って言います。足捻挫しちゃって……イベントは待ってくれないし……どうしようかって困って……」
「そうだったんですね…」
「こちら、雅さん。後ろの方は一緒に旅してらっしゃる方。」
「そうなんですね、すみません無理いって」
「まだやると決めたわけではない」
「え、そうなの?」
「そうなんです…私踊れるか解らないし…」
「踊るって言っても、ジョーの弾く音に合わせて体をその時のイメージで動かしてるだけだよ?」
「そうは言っても……」
「試しにやってみる?」
そう話している間に城太郎は楽器の準備をしている。そうして調律を始めた。
「まずはジョーの音、聞いてみて?」
そういわれ、座るときれいな音が流れてくる。弾き終わると城太郎は雅の前にやって来た。
「どう?こんな感じなんだけど…」
「私…やってみたい!」
「…だそうだ、三蔵」
「好きにしろ」
そういうなり三蔵は一足先にテントをあとにする。後の三人も『雅の事お願いします』と頼んで三蔵の後をおって出ていった。そうこうして嬉しそうに始め出した雅。最初は恥ずかしさもあったものの、大分慣れてくると大きく体を使うことができるようになってきた。
「そろそろ休憩にしますか?」
「いえ…!ようやく解ってきたので…」
「クス…無理しないでくださいね?」
「はい!……あの…」
「なんですか?」
「姫乃さんって……」
「あぁ、姫?……姫!呼んでる!」
「何?」
そうして目の前にやって来たのは上半身裸になっている姫乃その人だった。しかし、姫乃の胸元にあるべき膨らみがない。
「…えっと……姫乃さんって…女性…ですよね?」
「そう!」
「嘘吐け」
「なんで?」
「男性……の裸に見えるんですけど…」
「正確には、女性にめちゃくちゃ憧れてる男。だよね?」
「まぁ、そうなるね。」
「でも…!女性みたいで…」
「やった!雅ちゃん好き!」
そう言うが早いか、そのままの格好で抱きついてきた。
「ちょっ……そういうの……は、困ります」
「そう?あんな男だらけの中の紅一点だから癒し係なのかと思った」
「癒し係……?」
「そう、例えばこういう…」
そう言うと姫乃はくいっと手慣れた手付きで顎を持ち上げて雅の唇に重なるだけのキスを落とした。
「……ッッ…ですから…!」
「違うんだ、なら……ワタシ狙っちゃおうかな…」
「やめとけ、姫。」
「あれ…ジョー…もしかして惚れちゃった?」
「うるせぇ、とにかく姫はもう寝てろ」
「残念!会場の下見とかあるからね。少し帰り遅くなるから!」
無邪気な笑顔を残して、テントを後にした姫乃。どうしていいか解らないまま雅はうつ向いている。
「ごめんな…雅さん…」
「……いえ…」
「もし嫌なら、断ってくれて構わないよ?ただ…こんなこと言うのもおかしいけど、姫も悪気がある訳じゃないんだ…」
「……そうです…よね…」
「とりあえず、今日はもう宿に帰ると良い。明日また来てくれる?」
そう言われて雅は宿へと戻ることにした。
「おっかえりー!!」
「大分練習していたんですね」
「みんな…遅くなってごめんね?」
「いんや、大丈夫だけど……」
「けど…どうしたの?」
「いえ…ね?三蔵が…」
「三蔵…?」
訳が解らないまま三蔵の部屋を訪れた雅。
「三蔵?居る?」
『入るな』
「え……?」
突然の拒絶だった。雅には全くといって良いほど理由は見つからない。いや、理由はあっても、知られてる訳も無い。仕方なく八戒達の居るところに戻っていった。
「三蔵に…入るなって言われた。」
「あら…雅ですら…拒否かぁ…」
「みんなも?」
「えぇ、実は今日テントであった姫乃さん、が三蔵を訪ねてきたんです。」
その八戒の言葉を聞いて雅の胸はドクンと高鳴った。キスをされて、三蔵に拒絶をされた。そこにはわかりきった答えがあったからだ。
「八戒……私…どうしよう…」
「どうかしたんですか?」
「……ッッ」
しかしながらも、相手が八戒と言えど言えるわけも無かった。
「雅?どうしましたか?」
「…あっ、ごめん。やっぱりなんでもない…」
そう笑顔を取り繕うと、部屋を後にした。雅が出ていった後の部屋に残った三人は顔を見合わせる。
「…何か…あったな」
「えぇ、ありましたね…」
「雅…どうしたんだろ…」
「とりあえず、…どうする?」
「困りましたね、雅も話してくれず、三蔵は論外に部屋に居れてくれない、となると」
「なると?」
「お手上げですね」
「えぇぇぇ、八戒!どうすんの?」
そう話していた。
少し時は戻り…
「失礼するよー!」
「なんなんだ、貴様」
「あれ、ワタシさっき雅ちゃんに挨拶したときにいたんだけど」
「興味ねぇな」
「そう言わないでさ!キミに聞くのが一番かと思って!」
「なんだ」
「彼女、恋人いる?」
「……なんの話だ」
「恋人いないなら、ジョーもワタシも彼女の事狙ってるの」
「……フン…それで、どうして俺に聞く」
「キミが一番あの中で堅物そうだったから。それでも、一番分かりやすそうだったし!」
「あいにくだが分かりやすいと言われたことはないな」
「そうなの?残念!クスクス」
「それはそうと、なんで貴様はここにいる」
「お連れ様に場所聞いて!!そうそう。ワタシ本気で雅ちゃんの事気に入って…キスの相性も悪くないなって…」
その姫乃の一言で三蔵はピクリと手が止まる。
「今…何て言った?」
「ん?キスの相性?」
「……チッ」
一気に不機嫌になった三蔵そのときだ。戸をノックする音がした。
『三蔵、居る?』
その声は聞きなれた声そのものだった。しかし、三蔵の口をついてでた言葉は『入るな』だった。
「いいの?あんな言い方しちゃって」
「貴様には関係ないことだろうが」
「……ふぅん」
にっと笑った姫乃は手を振って扉の方に向かっていった。
「ならさ、明後日!見に来なよ!」
そう言い残して、三蔵の返事もろくに聞くことなく部屋を出ていった。
次の日、朝早くに雅は宿を出ていった。三蔵に会うことも出来ないまま、少し穴の空いた気持ちも埋められることもないまま…朝食に、と出た先で三蔵はあまり食が進んでいないことに気づいた八戒は声をかけた。
「どうしました?三蔵」
「何でもねぇよ」
「なんでもねぇって割には眉間のシワ、めっちゃふっかいよ?三蔵」
「うるせぇ、猿」
「本当の事言って猿って……」
「超機嫌悪いじゃん…」
「雅なら朝早くに練習に向かいましたよ?」
「誰も聞いてねぇよ」
「そうですか?三蔵がすごく聞きたそうだったので…」
「俺はなんにも言ってねぇだろうが…」
ガタンと席を立ち、カードを出すと八戒に預け、先に宿に戻っていった。そんな三蔵の背中を見て三人は顔をまたも見合わせる。
「雅と……喧嘩って訳でも無さそうだし…」
「何かあったとは思うんですが…」
「だったらさ!雅の様子テントに見に行ってみない?」
「お、たまには猿もいいこと言うじゃねぇの」
「そうですね、悟空達で見てきてくれませんか?」
「八戒は?」
「少しでも気を紛らせてやらないと……」
くすりと笑い、もう見えない三蔵の背中を見つめた。それぞれ二手に別れると、それぞれに任された場所へと向かっていく。
結局八戒は宿に戻るまで三蔵に追い付くことはできなかった。部屋に戻ると軽いノックと同時に八戒は遠慮なく入っていく。
「……なんだ」
「いえね?三蔵がとても不機嫌そうだったので、様子でも見にいこうかと思いまして。あ、心配しないでください?悟空と悟浄は雅の方の様子を見に行ってるのでここにはいませんから。」
「……ハァ…」
大きくも微かなため息を吐くと、三蔵はつけたばかりであろうたばこの火を押し潰して消した。
「あいつは…」
「はい?」
「あいつは俺達といるのが本当にいいのか、八戒、どう思う」
あまりに珍しい三蔵の弱音にも聞こえる呟きに八戒は驚きながらも小さく笑った。
「三蔵らしくないですね。でも、雅は言っていましたよ、僕らと一緒に、というか、三蔵と一緒に色んなものをみたいからと。それが僕らと一緒にいる理由になっていること。あなたも知っているでしょう?」
「…そんなの少し前の事だろうが。……これだけ旅をして、色んな世界みりゃ、気だって変わる。」
「じゃぁ、三蔵?あなたが雅を守りたいといったあの言葉さえも変わりましたか?」
「……」
少しの間をおいた三蔵。
俺は変わらない…そういいたいのに……
「不変なもんなんざ…信じる意味が有るのか?」
「僕はあってもいいと思いますよ?たったひとつなら。」
「……八戒…」
「それが僕と三蔵は違って当然です。僕ら自身の事を守ろうと思ってくれるならそれは不変で構いません。」
「…フ…貴様等は自由勝手だろうが」
悪態にも似た言葉と同時に三蔵の表情が元に戻っていくのが解った八戒。
「もう大丈夫ですね?」
「何がだ」
「あぁあ、嫌だなぁ…自分の気持ちを見失いかけてたのに気付かないフリするなんて」
「…誰が迷子だ」
「迷子だなんていってませんよ?」
くすくすと笑う八戒。その時、悟空達が帰ってきた。
「おーい!八戒!三蔵!!いる?」
「いますよ?どうしたんですか?」
「なんかさ、雅、今日向こうに泊まるって言ってんだ」
「どう言うことだ」
「いやね?俺と猿で見に行ったらさ、すっげぇ躍り込んでるはいいんだけど、衣装がどうのって…」
「衣装ですか…」
「なんかさ、姫乃ちゃんが作り直すって言ってるんだけど、時間かかりそうで…」
「それで何で雅まで?」
「イメージ作り込みたいとかなんとか…」
「もうすっかりとプロみたいですね」
仕方がないという八戒と少し不機嫌そうな三蔵だった。
「それでさ、雅が明日の見に来てっていってた!」
「いきますよね?三蔵」
「好きにしろ」
「好きに、じゃなくて三蔵もいくんでしょ?」
「俺はいい」
「いいって…」
「雅、三蔵にも見てほしそうだったよ?」
「どうでもいい」
「三蔵?」
たばこの火を押し消し、ベッドにごろりと横になってしまった三蔵を見てため息を吐く三人。そのまま三蔵は夕食も摂る事も無く、眠りについてしまった。
翌日…雅はやはり帰ってこなかった。朝食を済ませ、イベントが始まる十時まで広場辺りを見て回っていた。
「本当に三蔵いかねぇの?」
「行かねぇって言ってるだろ」
「後悔するぞ!」
「フン…」
そう捨て吐き、本番前の雅のもとへと向かっていった三人。
「あ!!いた!雅!」
「あ、悟空!悟浄、八戒も!ありがとう!」
「緊張してね?」
「少し…ね?」
小さく笑いながらも視線は三蔵を探していた。
「あの生臭坊主なら行かねぇっていって聞かねぇんだ…」
「そっか……三蔵らしいって言えばらしいね」
「雅、ごめんな?三蔵つれてくるっていったのに…」
「仕方ないよ、あの三蔵だもん」
そうこう話していると五分前になり、三人は客席に向かっていった。
「もぅ!三蔵なんで見ねぇのかな…」
「照れ臭いとか?」
「三蔵が踊る訳じゃねぇのに?」
「まぁまぁ……ッ?……クス……素直じゃないんだから…」
「なんかいった?八戒」
「いえ?何も」
そう、客席の最後列の場所に有る大きな木に凭れ、うつむく三蔵の姿を見つけていた八戒だった。姫乃が舞台に立ち、挨拶をする。そして城太郎は椅子に座り、ポロン…と現をならし出す。舞台の袖からゆったりとした足取りで出てきた雅は中央で一礼をする。視界には三蔵以外の三人がすぐに目にはいってきた。しかし、愛おしい相手の姿だけが見えない。少し寂しそうな顔をしてしまいながらも躍り切る。思いの外拍手がなりやまずに城太郎は目配せをしてギターをならし出した。次の瞬間だった。雅は木元に居る三蔵の姿を見つけたのだ。
「……もう……遅いよ…」
ポツリと呟くその声は誰にも聞こえなかったものの、さっきまでとはうって変わってキラキラと、溢れんばかりの笑顔が溢れていたのだった。
「なんか…雅さっきと全然違う…」
「ですね…」
「すげぇ…きれいだな…」
「だな」
「三蔵…超もったいねぇ…」
「だよな…」
そう返事をする悟浄と目があった八戒は後方に目配せをする。悟空はステージに見入っている中、悟浄は後ろを見ると苦笑いをしていた。
「素直じゃねぇなぁ…」
そう呟きながらも最後までステージを見ていた。
「……皆さん、本当にありがとうございます。」
「ありがとうございます」
「今回踊ってくれたのは先程姫からも説明有りましたが…不調の姫の代わりに、と旅の途中だった彼女が引き受けてくださいました。彼女に、雅にもう一度大きな拍手を!」
そういう城太郎の声で、皆席は総立ちで拍手が巻き起こっていた。その拍手を背中に受けながらも袖に佩けていく三人。後を追う様に悟空達三人も席を離れてテント側に向かっていった。
「お疲れ!雅!」
「ありがとう!」
「本当にありがとう、雅ちゃん」
「いえ…本当に楽しかったです!」
「それで、考えてくれた?」
「え……考えてって……何?」
「あれ…聞いてなかった?」
「何?」
「城太郎さん、それは…!」
「俺と、俺たちとこれからも一緒に躍り続けようってこと」
その言葉を聞いた三人は驚いていた。
「どういうことだよ!雅!」
「何?どういうこと?」
「俺やだよ?!雅と別れるなんて!」
「君たちには聞いていないんだ。」
「それはお断りしたはずです…城太郎さん!」
「でも、今日、実際に踊ってみて、観客の前で踊って気持ちよくなかった?」
「それは……」
そう俯き、答えあぐねいていた時だった。
「退け」
「え?」
「三蔵?」
「いい加減に返して貰うぞ」
そういいながらも雅の後ろから腰に腕を回しぐいっと引き寄せられた。不意打ちの為、雅も驚いていた。
「え……三蔵…?」
「返してっていうのは聞き捨てならないよ?ね、雅ちゃん?」
「あの……」
「旅って危険なんでしょ?やめなよ!一緒に踊って、一緒に楽しくいこうよ!」
そう姫乃も城太郎と一緒に雅を最後の説得に入ってくる。
「三蔵…離して?」
「…ハァ」
小さくため息を吐くと雅の腰から腕を解いた。
「本当にごめんなさい」
「後悔しない?」
「うん。踊ることの楽しさ、教えてくれてありがとう」
「俺が、これから先も何があっても一緒にそばにいるよ。それでも?」
「……ありがとう、そういってくれて。でも私がこれから先も一緒に居たいのは悟空や八戒や悟浄で…それに三蔵とこれからもたくさん色んなもの見たいから…」
「それでも…妖怪がいつ襲ってくるかも解らないのに…死んじゃうかも知れないよ?」
「死なないよ。みんなが…三蔵がいてくれるから…」
そういって雅はペコリと頭を下げてくるりと向きを変えた。
「帰ろ!」
「雅……」
「本当にあなたは……」
「三蔵、…来てくれてありがとう」
「たまたま通りかかっただけだ。」
「クスクス…それでもいい、立ち止まってくれたんでしょ?」
下から見上げ、三蔵にも礼を言っていたその時だ。
「雅ちゃん!」
城太郎が大きめの声で呼び止めた。振り返るとしゅっと何かが放り投げられた。
「それと衣装で今回のお礼!受け取って?」
「え……?」
顔をあげた雅の目には、ニッと笑いVサインを出している城太郎だった。もう一度深く頭を下げて大きく手を振り、雅は一行と一緒に宿へと向かっていったのだった。
「あった…」
「飯ぃぃ…」
「宿に行くぞ…」
そうして有無を言わせることもないまま、まずは宿探しを始めた。宿は大部屋しか空いていないと言うことだったか、文句は言えない。そのまま部屋を取り、次は悟空始め、胃を満たさなくてはならない。
「どこかありますかね…」
「こっち……マジでうまそうな匂いする…」
そう言って歩いていく悟空の後をおっていく一行だった。時期に食堂は見つかった。
「とにかくなんでもいい!!」
「そう焦らないでください?」
「全くだ…」
「またこの街で材料買えたらまた作るよ…」
「そうして貰えると僕たちも楽しみができます。」
そう、前の街を出たあとにすぐにも悟空が一つ…また一つと食べ、結局作った内残り二分の一個になった所で悟浄が食べてしまったのだ。
「お前らは次には食うな」
「えぇぇ!?俺も?」
「当然だろ。食ったんだから」
「ひど!」
「そう言わないで?うまく作れるか解らなかったから少ない材料だったけど、作り方のコツ解ったから…!今度はみんなで食べれる様にたくさん作るから!」
そう言ってその場をなだめた雅。話をしていると食事も運ばれてきて、テーブルの上一杯になってきた。しかし、同時に皆の胃袋に収まっていく。
「ゆっくり食べないと…」
「てか…三蔵……食事の前にクリームぜんざいって…」
「何か文句あるのか」
「無いけど……口の中甘くならない?」
「フン…」
無愛想にもパクつく三蔵をにこにこしながら見つめる雅。しかし、早々に食べ終えると食事もしっかりと食べている。
「本当に三蔵って……独特だよね…」
「そうですよね」
にこっと笑いながらも八戒が相づちをうっていた時だ。
「あの!」
後ろから不意に声をかけられた。一行の視線は声をかけてきた男性に集まっているものの、そんなことはお構い無しにその男性は話を続ける。
「すみません!僕は城太郎と言うんですけど。少しお時間いただいても?」
「……」
「あの…」
「三蔵?またナンパされてる…」
「言っておくが俺は興味ない」
「…え?あの……僕が話してるのではあなたでは無く…」
そう言うと雅に視線を向けた城太郎。
「……え?私?」
「はい!あの…」
「あらぁ、なんと言う…」
「躍りって…できますか?」
「……え?」
一行の声はきれいにハモるように被っていた。そう、ナンパ、ではなく、踊り子の誘いだった。
「え……でも…」
「もちろん旅の最中なら今回限りでも全然いいんです。ただ、踊り子が不調でして…」
「そんなの関係無いだろうが…」
「そう言わず!……明後日のイベントに今からでは間に合わないんです……どうか人助けと思って…」
「…どうします?」
「三蔵…私やってみてもいいかな…」
「引き受けるのはいいが、第一雅、踊れるのか…?」
その一言で雅ははたっと気付いた。
「城太郎さん…でしたっけ…すみません、私踊ったこと無くて…」
「でしたら一度テントに来てください!」
「俺も見てみたい!」
「どうします?」
「明後日…だな」
「はい!」
「……好きにしろ」
その返事を貰って雅は一旦誘われるままにテントに向かっていった。テントに着くと、バサっと入り口を開ける。
「帰ったよ?」
「あ!ジョー!」
「姫、居たよ」
そう言うと城太郎は雅の背中を押してすっと中へと促した。
「えと…はじめまして…」
「あなた…かわいい!!!」
一気にが張りと巻き付いてくる姫と呼ばれた女性。しかし雅の中では不意に何か違和感があった。
「はじめまして、姫乃って言います。足捻挫しちゃって……イベントは待ってくれないし……どうしようかって困って……」
「そうだったんですね…」
「こちら、雅さん。後ろの方は一緒に旅してらっしゃる方。」
「そうなんですね、すみません無理いって」
「まだやると決めたわけではない」
「え、そうなの?」
「そうなんです…私踊れるか解らないし…」
「踊るって言っても、ジョーの弾く音に合わせて体をその時のイメージで動かしてるだけだよ?」
「そうは言っても……」
「試しにやってみる?」
そう話している間に城太郎は楽器の準備をしている。そうして調律を始めた。
「まずはジョーの音、聞いてみて?」
そういわれ、座るときれいな音が流れてくる。弾き終わると城太郎は雅の前にやって来た。
「どう?こんな感じなんだけど…」
「私…やってみたい!」
「…だそうだ、三蔵」
「好きにしろ」
そういうなり三蔵は一足先にテントをあとにする。後の三人も『雅の事お願いします』と頼んで三蔵の後をおって出ていった。そうこうして嬉しそうに始め出した雅。最初は恥ずかしさもあったものの、大分慣れてくると大きく体を使うことができるようになってきた。
「そろそろ休憩にしますか?」
「いえ…!ようやく解ってきたので…」
「クス…無理しないでくださいね?」
「はい!……あの…」
「なんですか?」
「姫乃さんって……」
「あぁ、姫?……姫!呼んでる!」
「何?」
そうして目の前にやって来たのは上半身裸になっている姫乃その人だった。しかし、姫乃の胸元にあるべき膨らみがない。
「…えっと……姫乃さんって…女性…ですよね?」
「そう!」
「嘘吐け」
「なんで?」
「男性……の裸に見えるんですけど…」
「正確には、女性にめちゃくちゃ憧れてる男。だよね?」
「まぁ、そうなるね。」
「でも…!女性みたいで…」
「やった!雅ちゃん好き!」
そう言うが早いか、そのままの格好で抱きついてきた。
「ちょっ……そういうの……は、困ります」
「そう?あんな男だらけの中の紅一点だから癒し係なのかと思った」
「癒し係……?」
「そう、例えばこういう…」
そう言うと姫乃はくいっと手慣れた手付きで顎を持ち上げて雅の唇に重なるだけのキスを落とした。
「……ッッ…ですから…!」
「違うんだ、なら……ワタシ狙っちゃおうかな…」
「やめとけ、姫。」
「あれ…ジョー…もしかして惚れちゃった?」
「うるせぇ、とにかく姫はもう寝てろ」
「残念!会場の下見とかあるからね。少し帰り遅くなるから!」
無邪気な笑顔を残して、テントを後にした姫乃。どうしていいか解らないまま雅はうつ向いている。
「ごめんな…雅さん…」
「……いえ…」
「もし嫌なら、断ってくれて構わないよ?ただ…こんなこと言うのもおかしいけど、姫も悪気がある訳じゃないんだ…」
「……そうです…よね…」
「とりあえず、今日はもう宿に帰ると良い。明日また来てくれる?」
そう言われて雅は宿へと戻ることにした。
「おっかえりー!!」
「大分練習していたんですね」
「みんな…遅くなってごめんね?」
「いんや、大丈夫だけど……」
「けど…どうしたの?」
「いえ…ね?三蔵が…」
「三蔵…?」
訳が解らないまま三蔵の部屋を訪れた雅。
「三蔵?居る?」
『入るな』
「え……?」
突然の拒絶だった。雅には全くといって良いほど理由は見つからない。いや、理由はあっても、知られてる訳も無い。仕方なく八戒達の居るところに戻っていった。
「三蔵に…入るなって言われた。」
「あら…雅ですら…拒否かぁ…」
「みんなも?」
「えぇ、実は今日テントであった姫乃さん、が三蔵を訪ねてきたんです。」
その八戒の言葉を聞いて雅の胸はドクンと高鳴った。キスをされて、三蔵に拒絶をされた。そこにはわかりきった答えがあったからだ。
「八戒……私…どうしよう…」
「どうかしたんですか?」
「……ッッ」
しかしながらも、相手が八戒と言えど言えるわけも無かった。
「雅?どうしましたか?」
「…あっ、ごめん。やっぱりなんでもない…」
そう笑顔を取り繕うと、部屋を後にした。雅が出ていった後の部屋に残った三人は顔を見合わせる。
「…何か…あったな」
「えぇ、ありましたね…」
「雅…どうしたんだろ…」
「とりあえず、…どうする?」
「困りましたね、雅も話してくれず、三蔵は論外に部屋に居れてくれない、となると」
「なると?」
「お手上げですね」
「えぇぇぇ、八戒!どうすんの?」
そう話していた。
少し時は戻り…
「失礼するよー!」
「なんなんだ、貴様」
「あれ、ワタシさっき雅ちゃんに挨拶したときにいたんだけど」
「興味ねぇな」
「そう言わないでさ!キミに聞くのが一番かと思って!」
「なんだ」
「彼女、恋人いる?」
「……なんの話だ」
「恋人いないなら、ジョーもワタシも彼女の事狙ってるの」
「……フン…それで、どうして俺に聞く」
「キミが一番あの中で堅物そうだったから。それでも、一番分かりやすそうだったし!」
「あいにくだが分かりやすいと言われたことはないな」
「そうなの?残念!クスクス」
「それはそうと、なんで貴様はここにいる」
「お連れ様に場所聞いて!!そうそう。ワタシ本気で雅ちゃんの事気に入って…キスの相性も悪くないなって…」
その姫乃の一言で三蔵はピクリと手が止まる。
「今…何て言った?」
「ん?キスの相性?」
「……チッ」
一気に不機嫌になった三蔵そのときだ。戸をノックする音がした。
『三蔵、居る?』
その声は聞きなれた声そのものだった。しかし、三蔵の口をついてでた言葉は『入るな』だった。
「いいの?あんな言い方しちゃって」
「貴様には関係ないことだろうが」
「……ふぅん」
にっと笑った姫乃は手を振って扉の方に向かっていった。
「ならさ、明後日!見に来なよ!」
そう言い残して、三蔵の返事もろくに聞くことなく部屋を出ていった。
次の日、朝早くに雅は宿を出ていった。三蔵に会うことも出来ないまま、少し穴の空いた気持ちも埋められることもないまま…朝食に、と出た先で三蔵はあまり食が進んでいないことに気づいた八戒は声をかけた。
「どうしました?三蔵」
「何でもねぇよ」
「なんでもねぇって割には眉間のシワ、めっちゃふっかいよ?三蔵」
「うるせぇ、猿」
「本当の事言って猿って……」
「超機嫌悪いじゃん…」
「雅なら朝早くに練習に向かいましたよ?」
「誰も聞いてねぇよ」
「そうですか?三蔵がすごく聞きたそうだったので…」
「俺はなんにも言ってねぇだろうが…」
ガタンと席を立ち、カードを出すと八戒に預け、先に宿に戻っていった。そんな三蔵の背中を見て三人は顔をまたも見合わせる。
「雅と……喧嘩って訳でも無さそうだし…」
「何かあったとは思うんですが…」
「だったらさ!雅の様子テントに見に行ってみない?」
「お、たまには猿もいいこと言うじゃねぇの」
「そうですね、悟空達で見てきてくれませんか?」
「八戒は?」
「少しでも気を紛らせてやらないと……」
くすりと笑い、もう見えない三蔵の背中を見つめた。それぞれ二手に別れると、それぞれに任された場所へと向かっていく。
結局八戒は宿に戻るまで三蔵に追い付くことはできなかった。部屋に戻ると軽いノックと同時に八戒は遠慮なく入っていく。
「……なんだ」
「いえね?三蔵がとても不機嫌そうだったので、様子でも見にいこうかと思いまして。あ、心配しないでください?悟空と悟浄は雅の方の様子を見に行ってるのでここにはいませんから。」
「……ハァ…」
大きくも微かなため息を吐くと、三蔵はつけたばかりであろうたばこの火を押し潰して消した。
「あいつは…」
「はい?」
「あいつは俺達といるのが本当にいいのか、八戒、どう思う」
あまりに珍しい三蔵の弱音にも聞こえる呟きに八戒は驚きながらも小さく笑った。
「三蔵らしくないですね。でも、雅は言っていましたよ、僕らと一緒に、というか、三蔵と一緒に色んなものをみたいからと。それが僕らと一緒にいる理由になっていること。あなたも知っているでしょう?」
「…そんなの少し前の事だろうが。……これだけ旅をして、色んな世界みりゃ、気だって変わる。」
「じゃぁ、三蔵?あなたが雅を守りたいといったあの言葉さえも変わりましたか?」
「……」
少しの間をおいた三蔵。
俺は変わらない…そういいたいのに……
「不変なもんなんざ…信じる意味が有るのか?」
「僕はあってもいいと思いますよ?たったひとつなら。」
「……八戒…」
「それが僕と三蔵は違って当然です。僕ら自身の事を守ろうと思ってくれるならそれは不変で構いません。」
「…フ…貴様等は自由勝手だろうが」
悪態にも似た言葉と同時に三蔵の表情が元に戻っていくのが解った八戒。
「もう大丈夫ですね?」
「何がだ」
「あぁあ、嫌だなぁ…自分の気持ちを見失いかけてたのに気付かないフリするなんて」
「…誰が迷子だ」
「迷子だなんていってませんよ?」
くすくすと笑う八戒。その時、悟空達が帰ってきた。
「おーい!八戒!三蔵!!いる?」
「いますよ?どうしたんですか?」
「なんかさ、雅、今日向こうに泊まるって言ってんだ」
「どう言うことだ」
「いやね?俺と猿で見に行ったらさ、すっげぇ躍り込んでるはいいんだけど、衣装がどうのって…」
「衣装ですか…」
「なんかさ、姫乃ちゃんが作り直すって言ってるんだけど、時間かかりそうで…」
「それで何で雅まで?」
「イメージ作り込みたいとかなんとか…」
「もうすっかりとプロみたいですね」
仕方がないという八戒と少し不機嫌そうな三蔵だった。
「それでさ、雅が明日の見に来てっていってた!」
「いきますよね?三蔵」
「好きにしろ」
「好きに、じゃなくて三蔵もいくんでしょ?」
「俺はいい」
「いいって…」
「雅、三蔵にも見てほしそうだったよ?」
「どうでもいい」
「三蔵?」
たばこの火を押し消し、ベッドにごろりと横になってしまった三蔵を見てため息を吐く三人。そのまま三蔵は夕食も摂る事も無く、眠りについてしまった。
翌日…雅はやはり帰ってこなかった。朝食を済ませ、イベントが始まる十時まで広場辺りを見て回っていた。
「本当に三蔵いかねぇの?」
「行かねぇって言ってるだろ」
「後悔するぞ!」
「フン…」
そう捨て吐き、本番前の雅のもとへと向かっていった三人。
「あ!!いた!雅!」
「あ、悟空!悟浄、八戒も!ありがとう!」
「緊張してね?」
「少し…ね?」
小さく笑いながらも視線は三蔵を探していた。
「あの生臭坊主なら行かねぇっていって聞かねぇんだ…」
「そっか……三蔵らしいって言えばらしいね」
「雅、ごめんな?三蔵つれてくるっていったのに…」
「仕方ないよ、あの三蔵だもん」
そうこう話していると五分前になり、三人は客席に向かっていった。
「もぅ!三蔵なんで見ねぇのかな…」
「照れ臭いとか?」
「三蔵が踊る訳じゃねぇのに?」
「まぁまぁ……ッ?……クス……素直じゃないんだから…」
「なんかいった?八戒」
「いえ?何も」
そう、客席の最後列の場所に有る大きな木に凭れ、うつむく三蔵の姿を見つけていた八戒だった。姫乃が舞台に立ち、挨拶をする。そして城太郎は椅子に座り、ポロン…と現をならし出す。舞台の袖からゆったりとした足取りで出てきた雅は中央で一礼をする。視界には三蔵以外の三人がすぐに目にはいってきた。しかし、愛おしい相手の姿だけが見えない。少し寂しそうな顔をしてしまいながらも躍り切る。思いの外拍手がなりやまずに城太郎は目配せをしてギターをならし出した。次の瞬間だった。雅は木元に居る三蔵の姿を見つけたのだ。
「……もう……遅いよ…」
ポツリと呟くその声は誰にも聞こえなかったものの、さっきまでとはうって変わってキラキラと、溢れんばかりの笑顔が溢れていたのだった。
「なんか…雅さっきと全然違う…」
「ですね…」
「すげぇ…きれいだな…」
「だな」
「三蔵…超もったいねぇ…」
「だよな…」
そう返事をする悟浄と目があった八戒は後方に目配せをする。悟空はステージに見入っている中、悟浄は後ろを見ると苦笑いをしていた。
「素直じゃねぇなぁ…」
そう呟きながらも最後までステージを見ていた。
「……皆さん、本当にありがとうございます。」
「ありがとうございます」
「今回踊ってくれたのは先程姫からも説明有りましたが…不調の姫の代わりに、と旅の途中だった彼女が引き受けてくださいました。彼女に、雅にもう一度大きな拍手を!」
そういう城太郎の声で、皆席は総立ちで拍手が巻き起こっていた。その拍手を背中に受けながらも袖に佩けていく三人。後を追う様に悟空達三人も席を離れてテント側に向かっていった。
「お疲れ!雅!」
「ありがとう!」
「本当にありがとう、雅ちゃん」
「いえ…本当に楽しかったです!」
「それで、考えてくれた?」
「え……考えてって……何?」
「あれ…聞いてなかった?」
「何?」
「城太郎さん、それは…!」
「俺と、俺たちとこれからも一緒に躍り続けようってこと」
その言葉を聞いた三人は驚いていた。
「どういうことだよ!雅!」
「何?どういうこと?」
「俺やだよ?!雅と別れるなんて!」
「君たちには聞いていないんだ。」
「それはお断りしたはずです…城太郎さん!」
「でも、今日、実際に踊ってみて、観客の前で踊って気持ちよくなかった?」
「それは……」
そう俯き、答えあぐねいていた時だった。
「退け」
「え?」
「三蔵?」
「いい加減に返して貰うぞ」
そういいながらも雅の後ろから腰に腕を回しぐいっと引き寄せられた。不意打ちの為、雅も驚いていた。
「え……三蔵…?」
「返してっていうのは聞き捨てならないよ?ね、雅ちゃん?」
「あの……」
「旅って危険なんでしょ?やめなよ!一緒に踊って、一緒に楽しくいこうよ!」
そう姫乃も城太郎と一緒に雅を最後の説得に入ってくる。
「三蔵…離して?」
「…ハァ」
小さくため息を吐くと雅の腰から腕を解いた。
「本当にごめんなさい」
「後悔しない?」
「うん。踊ることの楽しさ、教えてくれてありがとう」
「俺が、これから先も何があっても一緒にそばにいるよ。それでも?」
「……ありがとう、そういってくれて。でも私がこれから先も一緒に居たいのは悟空や八戒や悟浄で…それに三蔵とこれからもたくさん色んなもの見たいから…」
「それでも…妖怪がいつ襲ってくるかも解らないのに…死んじゃうかも知れないよ?」
「死なないよ。みんなが…三蔵がいてくれるから…」
そういって雅はペコリと頭を下げてくるりと向きを変えた。
「帰ろ!」
「雅……」
「本当にあなたは……」
「三蔵、…来てくれてありがとう」
「たまたま通りかかっただけだ。」
「クスクス…それでもいい、立ち止まってくれたんでしょ?」
下から見上げ、三蔵にも礼を言っていたその時だ。
「雅ちゃん!」
城太郎が大きめの声で呼び止めた。振り返るとしゅっと何かが放り投げられた。
「それと衣装で今回のお礼!受け取って?」
「え……?」
顔をあげた雅の目には、ニッと笑いVサインを出している城太郎だった。もう一度深く頭を下げて大きく手を振り、雅は一行と一緒に宿へと向かっていったのだった。
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