凜恋心

降谷みやび

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battle19…所有物

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隣の部屋に行き、八戒達に三蔵の熱がしっかりと下がった事を伝えに向かった雅。ノックをして、中に入る。

「あの…昨日はごめんなさい…食事一緒に行けなくて…」
「良いんですよ、それで…三蔵……は、熱下がったみたいですね…」
「え…なんでそれ…八戒って心読める?」
「いえ、心は読めませんが、観察力はある方だと自負してるんです。」
「観察力…?」
「あぁあ…三蔵サマって…本当に熱があったのか?」
「悟浄!!今日の朝御飯もキュウリ!」
「だって…そう聞きたくなるぜ?」
「悟浄?雅がかわいそうですよ?」

そんな会話をしていたときだった。悟空がきて首元に手をやると心配そうに聞いてきた。

「雅、痒くない?」
「え?」
「虫にでも刺された?」
「え?刺されてないよ?」
「でもここ…赤くなってる…」
「え…?」
「猿、それなら心配すんな。痛くも痒くもねぇから。」
「悟浄にゃわかんねぇだろ!八戒、薬とか…」
「要らないんです、悟空。」
「え?」
ですから」
「キ…ッ!?!?」
「おや?気付いてなかったんですか?」
「……また後で来る!!」

そういって三蔵の元に逆戻りしていった雅。

「三蔵!!」
「なんだ、騒々しい…」
「キス……キスマーク!!」
「あぁ付けた」

しれっと言う三蔵に顔は真っ赤になる雅。

「皆に見られた…」
「何言ってんだ貴様は…」
「だって!」
んだから、気にするな」
「見せてって…わざと?」
「あぁ」
「なんのために…!!」
「俺の所有物って見せつけるために。」
「しょ…ゆうぶ…つ……私ものじゃない!!」

真っ赤になりながらも部屋を出ていった雅の背中を見て三蔵は首を捻っていた。

「何怒ってんだ…」

そう呟きながら…雅は隣の部屋に向かって入ると悟浄のもとに向かっていった。

「三蔵に『もの』って言われた…」
「は?」
「俺の所有物って……」
「あの…雅ちゃん?それってノロケですか?」
「そうじゃないよ…物だよ?」
「ただの物じゃねぇだろ、三蔵の、だろ?」
「でもあの言い方じゃ銃とかと同じじゃん…私ばっかり好きな気がしてやだ…」
「あの……これって完全ノロケじゃね?」
「まぁま、雅?そのくらいにしておかないと悟浄が三蔵に殺されますよ?」
「……八戒ぃぃ…」
「三蔵はあぁ見えて独占欲の塊ですからね。変な虫が付かないようにしたかっただけなんでしょう?」
「あー、三蔵虫嫌いだしなぁ!!」
「悟空?そういう虫じゃないんですけど…」
「でも…」
「まぁまぁ。それはそうと、今日この街で小さなお祭りがあるみたいですよ?」
「お祭り……?」
「行く先々で祭りやってるよな!!」
「そういう時期だから、じゃないですか?」
「お祭り…か…」

祭りがあると情報をくれた八戒にお礼を言って、雅は三蔵の元に帰っていく。

「俺トイレ!!」

後を追う様に悟空もまた部屋を後にする。残された悟浄は八戒になだめられていた。

「完全にあれ…ノロケだろうが…」
「もしかしたら気付いてないのは雅だけかも知れませんね」
「げ…」
「虫除け、というより、悟浄避けの様な気がします」
「笑い事じゃねぇよ…見る度にこんな思いしなくちゃいけねぇの?」
「三蔵も意地が悪いですから…」
「全く…」
「だったらいっその事、雅に本気だって言ってみたらどうです?」
「三蔵に殺されながらか?」
「思いを伝える分には殺さないと思いますよ?ただ、手を出したりしたら殺しかねませんけど…」
「や、好きだって言った後にハグも出来ねぇの?」
「あー、そしたら三蔵に撃たれる前に雅に完全に『ごめん』とか言われません?」
「……どっちも痛てぇな…」
「それかもう諦めるとか…」
「それだとずっと思いっぱなしになりそうだわ…俺…」
「どっかで踏ん切り付けたら良いと思いますけど?」

そんなことを話していた。その頃の雅は三蔵に話をしていた。

「だからね!三蔵、もし病み上がりでも気分転換になるって思ったら一緒に行こ?」
「……祭りか…」
「八戒も言ってたよ?お祭りをやるにはもってこいの時期だから、いろんなとこであるんだろうって!」
「…で、お前は怒ってたんじゃねぇのか?」
「……そりゃ物扱いされたもん、怒ってるよ!」
「じゃぁそんな相手誘ってんのはただのバカか?」
「そうじゃないもん!三蔵とお祭り行きたいだけだもん。」
「俺は人混みは『嫌いなのも知ってる!』……だったら」
「でも…お祭りって…良い思い出がないから…前の時には髪燃えちゃったし…それに変に酔っぱらうし…」
「あれは祭りじゃなくて、ただの催し物だろう、それに酔っぱらったのは自業自得だ。雅、お前が居た所じゃ祭り、なかったのか?」
「うん…正確にはあったんだけど、参加してなかった…」
「……準備しておけ…」
「じゃぁ!」
「その代わり、離れんなよ?」

そう言われ、報告に…と隣の部屋に向かっていく雅。

「タク…騒々しい…にしても…参加してなかった、か。んだろうな」

そんなことを考えていた。ふと気付けば、ちらほらと音も聞こえてくる。祭り囃子に、甲高い鐘の音。それに太鼓の音や陽気に笑う大人子供の入り交じった声。

「三蔵!!みんなも行くって!!」
「騒々しい!」
「あ…ごめん!ほら!行こ!」
「…ハァ…怒ってる相手と行くのか…」
「何かいった?」
「いや、何も」

そういって三蔵も一緒に扉を出た。そこにはにやにやと含みを得た笑みを浮かべる悟浄にかわりないにこやかな八戒、目をキラキラさせて屋台の話をしている悟空…皆揃っていた。

「病み上がりですが大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない」
「そりゃそうだよな…」
「何かいったか」
「いんや?」
「そういや悟浄?何か三蔵に言うことがあったんじゃありませんか?」
「断る」
「まだ何も言ってねぇだろうが!!」
「どうせろくなことじゃねぇ」
「まぁまぁ、たまには聞いてあげたらどうですか?」
「俺に得はあるか?」
「損得勘定だけじゃだめだぜ?三蔵」
「うるせぇ。」
「全く……たまには話くらい」
「さっさと話せ」
「……じゃぁ、僕は先に悟空と雅のところに行ってますね?」
「ハァ…」

ため息を吐きながらも、扉に凭れた三蔵。腕を組ながら悟浄の言葉を待った。

「あのさ、三蔵」
「さっさと話せ」
「俺、雅に告って良いか?」
「……なんだと?」
「三蔵の女だって知ってるし、雅の返事なんてずいぶん前に聞いてるのと同じなんよ。でも…」
「ほう…」
「でも、あの時にはマジだってしっかり言えなかったから。」
「言ってどうする」
「どうもしねぇ。」
「なら言う必要はあんのか」
「ある。俺がすっきりしてぇんだよ」

そういいきった悟浄。ふぅっと大きくため息を吐いた三蔵はうつむき加減のままゆっくりと答えた。

「好きにしろ」
「しっかりと聞けって!」
「聞いている。その上で好きにしろと言ってんだ。」
「余裕ぶってる?」
「……なんだと?」

うつむいていた三蔵が顔をあげた。

「テメェの心くらいテメェでどうにかしろって言ってんだよ」
「……あっそ」
「その代わり…」

その場を離れようとした悟浄の腕を掴み自身の背を預けていた扉に押さえつけた三蔵。そのまま胸ぐらを掴むと身長差のある悟浄を下から見上げた。

「抱こうとか、キスしようとか…変な真似事考えてんじゃねぇぞ?」
「…さんぞ…ッッ」

言うだけ言ってスルッと腕を離すと何事も無かったかの様に宿の出入り口へと向かった。

「あっ!来た来た!三蔵遅い!!」
「あれ…悟浄は?」
「さぁな…直に来るだろ」
「私…ちょっと様子見てくる」

そう言って雅は部屋の方に向かっていった。少し行ったところでくるりと向きを変えると、『先に行ってて!!すぐ追い付く!!』と言って手を降っていた。

「悟浄…?悟浄ぉ!?」

扉の前に座り込んでいる悟浄を見つけた雅は一緒になって座り込んだ。

「大丈夫?悟浄…調子悪い?」
「…雅」
「ん?何?」

プツン…と悟浄の中の何かが切れた。腕を引き、部屋に引き込むと思いっきり抱き締めた。

「ちょっ…悟浄…苦しい…」
「好きだ…雅…」
「え?」
「俺…マジだよ……」
「…ちょっと……まって…」
「ごめん…もう無理だわ…」

そういうとそのまま床に押し倒し、首筋を骨張った指が這う。

「三蔵に…どうやって愛された?」
「ちょ…悟浄…!」
「それとも…まだ未遂?」
「……ン…!やめて…!!」
「俺にしとけよ…」
「や…!!さんぞ…!!」

そう名前を呼び掛けたときだった。ノックと同時に八戒が入ってきた。

「悟浄!!」
「……ッ…」
「何やってるんですか…」
「……」
「こんなことして…」

八戒に引き離された悟浄と雅。はぁっと大きなため息を吐いて雅には三蔵達の元に行く様促し、悟浄は八戒と共にその場に残ることにした。
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