凜恋心

降谷みやび

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battle12…男同士の夜

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宿に帰ると、身支度をしてジープの姿に変身した白竜に荷物を積み込み、宿を後にしようとした時だ。

「あ…そうだ。三蔵?」
「なんだ」
「これ…忘れるところだったわ…」

そういうと軽く三蔵の頬にキスをする悟浄。 

「なんだ、一体…何の真似だ」
「貰いっぱなしじゃいけねぇからさ?」
「……殺す」
「返したんだからいいだろうがって、ちょっと待て!!」
「問答無用…」

そういうと構えるが早いか、銃弾は悟浄を目掛けて何発も飛んでいく。

「ねぇ八戒?キスの貸し借りなんて出きるの?」
「そういうことじゃぁ無いと思うのですが…」
「ちょ!!マジ死ぬ…!!」
「テメェに運がついてたら死なねぇよ、クソ河童」
「黙ってたらいいものを…」
「え?八戒、何か言った?」

そんな雅の問いと悟空からの視線をさらりと受け流すかの様ににこりと笑い、 運転席へと一足先に乗り込んでいった。次いで雅と悟空が乗り込む。ガタンと荒々しく乗り込んだ三蔵は八戒に突如もの申し始めた。

「八戒、直ぐ出せ、とっとと出せ!」
「そうは言っても…」
「待てって!!」
「…チッ」
「皆乗りましたね?行きますよー?」

そういってゆっくりと八戒はジープを出した。道中かなり機嫌の悪い三蔵。こんな時には声をかけないのが一番良い。恐らく、何かを言っても返事は返ってこないだろう。

「三蔵?」
「うるせぇ」
「まだ何も言ってませんよ?」
「聞く気なんざねぇ」
「困りましたねぇ…」

本当に困っているのだろうか…と疑いたくなるような八戒の笑みに誰もが言葉を交えることは出来なかった。
大分進んできただろうか…一旦休憩を取るべくジープを停めて、昼食がてら休憩することにした一行。白竜も水を貰い、皆でご飯を食べる。そんな時だった。

「白竜?おいで?」
「キュキュキュー」
「重たいのに、ありがとう」

そういいながら雅はそっと体を撫でてみる。すると一気に体力が回復した白竜。それを目の当たりにした悟空は目をキラキラ輝かせていた。

「やっぱ…雅すげぇよなぁ!!」
「え?」
「白竜の体力まで回復させれるなんて…」
「すごくないよ…八戒だって出来ることだし…」
「すげぇよ!俺出来ないもん!!」
「体力バカだもんなぁ…猿は」
「うるせぇ!エロ河童!!」
「同感だ」
「三蔵、まだ怒ってるわけ?」
「どの口が言ってやがる…!」
「もう!皆でご飯くらい楽しく食べようよ…」
「僕は雅に賛成です」
「俺もー!!」

そういわれて三蔵は顔を背け、悟浄は観念したとばかりに頭を掻いていた。
昼食を済ませ、道中に変わらず妖怪が襲ってくる。

「相変わらず…皆強い…」
「…フ…」
「ねぇ、三蔵…」
「がら空きだぞぉぉぉ!!玄奘三蔵!!」
「…うるせぇよ」

そう呟くと雅の頭をぐいっと抱き寄せて右手で銃を放つ。

「ご…めん……」
「ボサっとするな」
「うん…」 

その様子を見て悟浄は近くにいる八戒に問いかけた。

「なぁ八戒?」
「はい?」
「俺等に妖怪退治させといてあんな風にイチャついてる二人ってどうなんでしょうね…」
「全くです。そのわりにちゃんと返事もしないなんて…」
「よそ見してんじゃねぇぞぉぉ!!」
「あー、ちょっと黙ってて?」
「そうです、作戦会議中なので…」

そう答えながらも鎌や気功砲は妖怪達を確実に捉えていく。

「終わったぞぉ」
「三蔵ぉ!腹減ったぁ」
「食ったばっかだろうが、テメェは」
「うるせぇ!ゴキブリ河童!!」

相変わらずの会話がなされているジープの上で、雅もまた、ワイワイと話していた。
その日の夜は、野宿となった。大分なれてきたのか、雅もぐっすりと眠りについていた。熟睡している一行の中でふと体を起こしたのは三蔵だった。木に凭れ、何をするでも無くマルボロに火をつける。

「眠れねぇ?三蔵…」
「……貴様か…」
「隣、良い?」
「チッ…良いって言う前に座ってんじゃねぇよ…」

そう悪態吐かれながらも、悟浄は揺ったりと腰を降ろし、同様にたばこに火をつけた。

「なぁ、聞いて良い?」
「断る」
「…って、まだ何も言ってねぇだろうが」
「貴様の言う事は大抵どうでも良いことだ。」
「雅の事…でも?」
「……なんだ」
「クク…聞く気になった?」
「さっさと話せ」
「雅に好きだって言われたんだろ?なぁんで答えてやんねぇ訳?」
「…おしゃべりなヤツだ…たく」
「俺が聞いたんよ、雅は悪くねぇからな?」
「別に、答えてねぇ訳じゃねぇよ」
「でも好きって聞いてないっていってたぜ?」
「言葉だけが伝える術じゃねぇだろうが」
「おや…?三蔵サマ…?」
「…なんだ」
「じゃぁ、どうやって想いを伝えたわけ?」
「貴様には関係ない」
「言っとくけど、キスだけで良い時と悪い時があるぜ?」
「関係ねぇ」
「まぁ、これは俺の憶測だけどな?女性にはちゃんと言葉にしてやらなきゃいけない時があるわけよ。今までの三蔵じゃ関係なかっただろうけどさ?」
「全く、どいつもこいつも…」
「何か言ったか?」
「何にも」

そう言いながらも三蔵は夜空を仰ぎながらゆっくりと話し始めた。

「アイツが…雅が考えてるよりかは俺は…雅の事大事にしてやりたい。好きだとか、んな言葉なんざ嘘でも言えるし、重たくもなる。だったら、そんな事のないように…言葉以外の手段を取るだけだ。」

余りにも素直すぎる、まっさらな三蔵の心に悟浄は少し驚きながらもふっと笑った。

さ、普通に雅に言ってやれば?」
「言うつもりはない」
「雅、意外と待ってるかもよ?三蔵に言われるの」
「それは貴様の考えだろうが」
「俺なら言ってやりてぇけど?」
「貴様と一緒にするな」
「でもまぁ、三蔵に嫌気差したら俺が引き受けるからなぁ?」
「フッ…やれるものならやってみやがれ」
「ん?何その自信。雅は俺から離れねぇって?」
「………離すつもりなんざない」

そう呟き、たばこの火を消すと立ち上がり数歩移動するとごろりと寝転がった。そんな三蔵を視線で追いながらも悟浄は体育座りの膝に突っ伏した。

「…なんだ、これ……惨敗じゃねぇの…」

誰に言うでもなく、悟浄の呟きは暗闇の闇夜に溶けていった。
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