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それはカラリと晴れた日だった。
二人はティータイムに喫茶店に訪れていた。

『俺は決まった、君は?』
『あの…』
『ん?』
『ケーキ…食べてもいいですか?』

あまりに唐突な疑問符に思わず吹き出しそうになってしまった会長様も、なんとか堪え、少しの間を置いて答えを出す。

『…どうぞ?』
『やった…!』

小さく笑いながらもパタンとメニューを閉じる。

『決まったのか?』
『はい!』

そうしてにこにこ顔をみつつも店員を呼ぶ会長様。

『アイスコーヒー、一つ』
『私はアイスティーと、このベリーモンブランください』
『レモンかミルクはお付けしますか?』
『いえ、大丈夫です。』

そうして注文を終えるものの、口許が緩みっぱなしの顔をみて会長様はふと問いかけた。

『そんなにケーキ食べたかった?』
『だって…美味しそうだったから…』
『悩むことでもないだろうに…』
『悩みますよ!』


声は大きくないものの 、確実に力は入っているのは手に取るようにはっきりとしていた。

『お待たせいたしました』

そうして運ばれてきた物を見て一気に目の輝きは増した。

『美味しそう…』
『どうぞ?』
『いただきます!』

丁寧に手を合わせフォークでひと掬いし、口に運ぶ。

『…ーーっ!!!』
『美味しい?』
『はいっ!』
『よかった』

そうひと言残して会長様がコーヒーに口をつけた時だ。

ピリリリリ…ピリリリリ…

『ごめん』
『大丈夫ですよ、出てください』

そうにこりと笑いながら会長様に出るように促した。そのまま甘えて電話に出る。仕事の話だろうが、少しその場で離していたものの席を立った。視線で会話を済ませると、外に出る者とケーキを食す者に別れた。

『…美味しかったはずなのに…』

カチャっとフォークを置いていたずらにストローを回している。やることがないわけでもない。美味しいと感じたケーキを食べて待つもよし、紅茶でひと息つくも良し…しかしただ会長様が仕事の電話で席を外しただけなのに。こんなにも寂しく感じるなんて思いもよらなかった。

『ごめん、』
『…!』
『ん?…ケーキ減ってない?どうした?』
『なんでもないですよ?ただ戻るの待ってようかなって思って…』
『よかったのに』

それから少し話をしながらも、目の前のオーダー品は減っていく。ティータイムもそこそこに店を出た二人。駐車場に戻り車に乗ろうとしたときだ。徐に会長様は後部座席の戸を開けた。

『乗って?』
『…え?』
『いいから』

そう言われ初めてて二人は後部座席へと乗り込んだ。戸を閉めると隣り合ったまましばしの沈黙があった。

『何か隠してる?』

口火を切ったのは会長様だった。ゆっくりと顔を上げるとまっすぐに見つめている会長様と目が合う。

『あの…』
『さっきの。嘘つくならもう少し分かりにくい嘘つけよ』
『…ッ』
『なに?』

優しく解きほぐすように聞いてくる会長様の声に抗うことなど出来るわけもなく…でも何と言葉にしたらよいかよく分からないまま首を横に振った。

『何もないことはないだろ。戻ってきたとたんあんな暗い顔されてちゃ…』
『よく…解らないんです』
『ん?』

ようやくぽつりぽつりと話し始めた声に耳を傾ける会長様。俯きながらも何かを模索しているかのように話し始めた。

『会長が席を立って、外に出ていった途端なんです。』
『ん…』
『美味しかったはずのケーキが美味しくなくなって…急にひとりになった気持ちになって…このまま帰ってこないんじゃないかって…』
『置いてくわけ無いだろ』
『解ってます…解ってるんですけど…』

そこまで言うとコツンと会長様の肩に頭をのせもたれ掛かった。

『よく解んないんです。なんでこんな風に感じるのか…』
『…バカだな』

小さく笑みを浮かべながら会長様はそっと背中に腕を回し、包み込むように抱き締めた。

『まさかここまで甘えるのが下手になってたとはね…』
『…すみません』
『遅いんだよ、来るのが』

そう言うだけ言うとゆっくり体を離し、距離を持ったまま話は続いた。

『もっと早くに頼ってきなさい』
『そんな…甘えれない』
『そんなこと無いよ』
『頑張れたって言うほど進めてないし…』
『十分頑張ったよ』
『それに…』 
『もう黙って…』

そう最後に呟くと未だ話したげなその唇を会長様は自身のそれで塞いだ。いつもよりも近い距離で、腕だけでなく体にすがり付ける距離…ゆっくりとキスを味わって離れると、小さく笑って会長様は呟いた。

『今日のは格別甘いな』
『私は少し苦いです』
『そう?』
『…あの』

何かを言いかけたもののすぐに俯いてしまった。それを見て会長様は優しく問いかける。

『何?』
『やっぱりいいです…』
『なんで?言いかけたならちゃんと最後まで言いなさい?』
『…呆れませんか?』
『聞いてないからなんとも言えない』
『…じゃぁやっぱりやめます…忘れてください』
『それは無理な願いだな』

両肩に腕をのせ、掌は後頭部にあるため逃げ道は閉ざされている。勇気を振り絞るかのように言い出したものの消えそうなほど小さな声だった。

『聞こえない、何?』
『…だから…もう一回…その……いいですか?』
『何を?』
『……ッ……・・・キス』

真っ赤になりながら顔を上げることもままならないほど緊張して、発した言葉に会長様は瞬間的に驚いたものの、すぐにその顔に笑みが零れた。

『俯いてたら出来ない。それとも君がしてくれる?』
『そんな…』
『冗談。でも、…だったらこっち向いて、顔、あげて?じゃないと届かない』
 
後頭部から頬に滑らせる手に誘われるように顔を上げ、ゆっくり近付く唇を受け入れた。手はゆっくりと会長様の腰に回された。少し唇を離し、腰に回る腕を解くと、会長様はそのまま自身の首に回すよう促した。

『腕、…こっち』

そのまま会長様は腰に腕を回し、抱き寄せる。ぴたりと体はくっつき、ぐっと近付いたのは体だけではなかった。キスは深さを増していく。
互いの吐息と混ざり合う水音だけが響く中、ただ、夢中に繰り返した。

欲望と、想いをぶつけるように…





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