会長様と私 ~キス・KISS・XXX~

降谷みやび

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scene1…side会長様

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初めてのキスからおよそ半年はたった頃。水族館に誘いをたてて行くことになった。

『本当にここでよかったの?』
『何でですか?私は嬉しいですよ!』

そう言いながらも少し先を歩いていくのを見て自然と笑みは零れていく。

なんだろうな。子供だましみたいな場所なのに。それでもあれだけ喜んでくれるなら俺は十分だ。

『あんまり急ぐと転ぶよ?』
『転びません!』

少しむぅっとする膨れ顔。そんな顔してもダメだってば。何回言ったら理解するんだか。かわいいだけなんだから。素直に表情を表してくれるのは嬉しい。でも、このままじゃいずれつまずくな…

『ほら、』
『え??』
『え?じゃない。人が少ないとは言え君の事だ、迷子になり兼ねない』
『すごく失礼に子供扱いしてませんか?』
『つべこべ言わない。会長命令!』

俺がこれを言えば君は逆らえない。嫌だ嫌だといいながらも諦めてくれる。迷子になるわけ無い。子供じゃない、君の事だから俺の近くを歩いてくれる。知っていても手を繋ぎたいわがままだ。これじゃぁ、俺のがよっぽど子供だ。

そう言いながらすっと右手を救い取り、指は気付けば絡めている。俯いたままの君は、ぽつりぽつりと話し出す。

『意地悪…』

聞こえなかった振りをしようか。こんなかわいい瞬間は何度もみたい。

『なんか言った?』
『いえ、他のスタッフだとパワハラになりますよ?』
『他のスタッフとは手を繋がないから心配は要らない』

他のスタッフと手は繋がない。パワハラか…セクハラになるとは言われたな。あれはいつだったか…

そんな事を思いながら入場し、大きなメイン水槽からクラゲの水槽、あまり見かけない海中生物等を見て回ると、ペンギンの水槽にまでやってきた。

ん…?なんかそわそわしてる?どうした?

そんな時だ、珍しく目を輝かせ見上げて来たかと思えば躊躇うこと無く言葉を放つ。

『会長!ペンギンさん見てもいいですか?!』
『クス…どうぞ』

『ペンギンさん』って。どんだけかわいいんだよ…

計算じゃないことはすぐに解った。水槽の前まで行けば、ピタリと足は止まり気持ち良さそうに泳ぐペンギン、陸でパタパタと羽をはばたかせているペンギン…たくさん居るのを目の前にしてスマホを取り出す。

あーあ。あんなに夢中になって…ペンギンさんよ、その子の心を一瞬で虜にする術を教えてくれよ。そう考えながらも気付けば俺自身もスマホを取り出して君を写真で撮っていた。

少しして君は振り返ると申し訳なさそうにパタパタと俺の元に戻ってくる。

『すみません…一人はしゃいで』
『いや、構わないよ。ただ、本当に解りやすいなぁと思ってみてただけ。』
『??子供みたいだって事ですか?』
『そこまでは言っていない』

子供っぽいなんて思っていない。そんな君を見ているだけで十分だ。こんな日が来るなんて数年前は考えてもなかったから。

このまま、少しの物陰に身を潜める様に君を誘い込む。

『会長?』
『…フ』

そんなかわいい顔ばかり見せてくれるな…頼むから…そんな事をされたら止まらなくなる。
回りの男もきっと見てるから…

小さく息を吐くと、触れるだけの軽いキスを重ねる真っ赤な顔をしながら俯く姿…軽く体を押し戻す姿を見て俺は少し腰を屈めて耳元で問うた。

『嫌だった?』
『そうじゃなくて場所…!』
『俺は構わない』

あぁ、そうだ。どこであろうと、誰が見てようと構わない。君を好きだと伝えるのに場所なんて関係ない。

『私が構います!』

…そう言うと思った。

『そう怒るなって。後で車戻ったらまたしよっか』
『そんな軽く聞きますか?』
『ん?シたくない?』
『……ッッ…知りません!』

そういいながらもふいっと体を背けてその場を離れていく。クツクツ喉を鳴らしながら笑いが込み上げてくる。確かに少し意地悪が過ぎたかもしれないな。

一頻り見終わり、後にしようと車に戻った二人。
エンジンをかけるのも、シートベルトをかけるのもまだしたくない。車を発車させる合図になってしまう。しかし、そんな俺と裏腹に手早くシートベルトをかける君の頭に自然と手が近付いた。

『ねぇ』
『はい?』
『こっち、向いて?』

キスしたい。そう言えば君は向かないから、ただ『向いて』とだけ言ってみる。

『まだ怒ってる?』
『怒っては居ません、居ませんけど…!』
『機嫌悪いな』

俺のせいだな。

『誰のせいだと…ン』

ほら、やっぱり俺のせいだ。あんなところでキスしたからだな。でも言い分は聞かない。

ゆっくりと離れると、躊躇いがちにも体を押し戻す君は、ただ俯いてほんのりと色付いている。

『怒ってもダメ、単にかわいいから』
『何言って…ンァ』

ヤらしくリップ音をたて、両手で頬を包み込むようにしながら、何度も確かめる様にキスを繰り返す。
少し体を離すと、俺は跡を消すかのように親指で唇をなぞり上げ、笑いかけてみる。

『今は?…嫌?』
『…ッ////意地悪』

確かに今の聞き方はずるいかもな。嫌だと思っていないのも解ってる。体を離すタイミングも嫌がってる相手のタイミングじゃない。

『意地悪言ってるつもりはない』
『だって敢えて聞くから…』
『今のはどう取ったらいい?』
『…そんなの……』
『言って?』

俺も相当だ…解ってて、自己欲のために君からわざと言葉を引き出そうとしてる。君が言うほど俺も大人じゃないな…

恥ずかしさから俯くばかりの君の顔をわざと覗き込んでみる。

『ほら…言っちゃいなって…』
『…絶対笑うから嫌です』
『笑わないよ、…多分』
『多分って…なんですか…』

笑うかもしれないな。君がかわいすぎるから。答えなんて解ってる。

『ほら』
『嫌じゃ…無い……です』

ほら、やっぱり。俺は子供だな。君の口から聞きたかったんだよ。嫌じゃないって…嫌じゃないだけで、俺を好きだと言ってくれてる訳じゃないのに…

ゆっくりと唇を寄せる。抱き締めたくても君がシートベルトを早々にかけるからそれは叶わない。それならただ、キスを重ね、俺の気持ちを知らせるまで…

『好きだ』

その言葉と一緒に何度も重ね合う。俺の気持ちで一瞬でも君の心が俺で満たされるように……





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