創世戦争記

歩く姿は社畜

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創世戦争編 〜箱庭の主〜

ロマナース防衛戦

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 ロマナースにはクテシア公国軍が押し寄せ、熾烈な戦いが繰り広げられていた。
「フム、数が増えたね。暗闇で見えにくいが、あれは魔物かな?」
 ロマーノ子爵は目を細めて呟いた。
「子爵、数で押されています!東第一門が間も無く破られます!」
「仕方が無い。東第二門まで撤退しなさい」
「徹底!徹底ー!」
 ロマーノ子爵は後ろにいる人間の奴隷達に言った。
「お前達も武器を持って来なさい。魔人は強いが、この戦いはお前達を守れるかどうか分からないからね」
 奴隷達は互いに顔を見合わせると、急いで武器庫へ向かった。
「子爵、彼らじゃ戦力になりません!」
「そうだろうね。だが、異国の地で何も出来ぬまま死ぬのは哀れだろう。此処が落ちても、生き延びるチャンスは与えたい」
「落ちる…?此処がですか?」
「ん?まさか。あくまでも万が一だよ。魔物如きに負けるロマーノ騎士団ではないが、常に万が一を考えて行動する事が重要だ」
 その万が一を考えて、民を避難させて正解だった。敵は魔人をあらゆる手段を使って襲ってくる。
「人間や魔法族マギカニアは確かに魔人を迫害してきた。だが…」
 ロマーノ子爵も、かつては十二神将だった。その称号はヴィターレと同じ〈監視者〉。その力は監視や視察に特化したもので、敵の魔力などを詳しく知る事ができる。
 金の双眸が、ふさふさした眉毛の下から西を睨む。
「その憎悪を煽っているのは誰だろうなぁ?」
 公国軍からはかつては不朽城で皇帝に謁見した時に感じた、皇帝の膨大な魔力を感じる。
「真の敵は人間や魔法族ではない。皇帝だよ」
「子爵の考えに意見するつもりはありませんが、どういう事です?」
 子爵は西の彼方を指差す。
「皇帝は、戦いから生まれる負の感情と死者の魂を集めている。何をするつもりかまでは分からない。だが、良くない事だろうね」
 空には緋月が昇り、全てを赤く照らしている。まるで、全てを睨んでいるかのようだ。或いは、何かを待っているようにも見える。
「…しかし、勝機は見えてきたよ」
「え?」
 部下が疑問を呈そうとした瞬間、居城の前に保管してある〈鍵〉が起動した。
「ほら、頼もしい援軍だ」
 ミレトクレタへ向かっていたアレン達だ。
「子爵、狼煙台を借りたい!」
 ロマーノは手を振って頷いた。
「どうぞ」
「パカフ、頼んだ。後で増援が向かう」
 アレンに花火を渡されたパカフは素早く動いた。
「東第一門を奪還する。続け!」
 魔人より小さな身体の者達が果敢に敵へ向かって行く。その中には一部の海軍の姿もあった。
「あれ、ヴィターレ様だ!」
 ロマーノ子爵は息子の姿を見ると、自分も剣を握った。
「さあ皆の者、反撃開始といこうではないか。未来の領主の活躍も見たかろう」
 その言葉に全軍は一斉に反撃に転じる。鬨の声はロマナースだけではなく、砂漠をも震撼させた。



 一方、パカフは狼煙台に向かって走っていた。
「くっそー、道長過ぎるよ…」
 スラム街育ちのパカフもまた、生き残る為に高い運動能力を持っていた。
 狼煙台は領都の中で最も高い塔の天辺にあるが、階段が大きい上に長い。
「魔人の体格が羨ましいや…」
 そう呟いていると、その魔人が目の前に現れる。〈大帝の深淵〉だ。
「援軍は想定外だったが…更に援軍を呼ぶつもりだろう。そうはさせんぞ小僧!」
 目の前だけではない。背後にも魔人の気配がした。
「二対一って卑怯じゃないか?」
 魔導書を取り出すと、パカフは臨戦態勢に入る。
(敵は二人、こっちは一人…どう考えても分が悪過ぎる!)
 相討ちでは狼煙台に火を灯せない。死ぬ気の特攻など出来ない。
「卑怯も糞もあるか。これは喧嘩じゃない。殺し合いだ!」
 魔人が襲い掛かってくる。パカフはそれを伏せて躱すと、一か八か、階段の外へ向かった。
「なっ!?」
 階段の向こうは何も無い。この高さから落ちれば、人間は即死する。しかしパカフは素早く階段の縁に掴まって遠心力を利用すると、もう一度階段の上に立つ。これで魔人の向こうへ行けた。
地獄の業火ヘルファイア!」 
 空気が乾燥している事もあり、〈深淵〉のローブは簡単に燃える。
「ぎゃああああ!」
「うわぁおい、こっちに来るなよ!」
 これで時間は稼げた。
 パカフは一気に階段を駆け上がる。しかし、その先で待ち構えていたのは〈深淵〉のサリバンだった。
「お前、何で此処に!?」
 サリバンはパカフを見て目を細める。
「ほう、若いが才能のある魔法使いだ。惜しい、これを殺さねばならぬのか」
 パカフは眉をひそめる。何故、サリバンは此処で何もせずに居たのだろう。
 その疑問に気付いたのか、サリバンは肩を竦めた。
「敵に気付かれたから、下手には動けないのだよ。ロマーノ子爵にアレン、それから⸺」
 その時、サリバンの背後にサーリヤが現れる。
「見ぃつけた♡」
 高密度の魔力の塊がサリバンに叩き付けられる。結界を張らなければ魔人をも即死させるその魔力は、サリバンが押される程だ。
「アーキル!」
 反りの入った剣を持ったアーキルがサリバンに襲い掛かる。
「パカフ君、こいつは僕とに任せて」
「わ、分かった!」
 パカフは梯子を登ると、積み上げられた薪の上に吊るされている容器をひっくり返して油を注いだ。自分も油で汚れるが、構わない。塔からは戦場が見える。皆、戦っているのだ。
 パカフは魔法で青い炎を生み出すと、その小さな火種を薪の中へ投げ入れた。その直後。
「うわぁ!」
 凄い勢いで炎が燃える。余りの勢いにパカフは梯子から落ちた。
「いってててて…」
 髪が焦げた臭いがする。前髪が焦げたようだ。しかし気にしている余裕は無い。次は花火を上げる必要がある。
「吹っ飛べ!」
 パカフは塔の屋根を魔法で吹き飛ばした。乾燥してゴミの無い空は満点の星空が見える。この星空に〈レジスタンス=プロテア〉の名前の元になった花を咲かせるのだ。
 パカフは花火を取り出した。これは元々大和ヤマト鶴蔦つるつたが面白半分で作ったロケット花火で、敵に〈プロテア〉の存在をアピールするという大義名分があったが、使いどころが無く湿気るのを待つ運命だった。
 石畳の隙間に太いロケット花火を突き立てると、パカフは導火線に着火した。
「やらせんぞ!」
 サリバンが魔法で水を生み出して狼煙と導火線の火を消そうとする。
「邪魔んすんじゃねぇ!」
 パカフはサリバンの懐に飛び込んだ。
「くっ!小僧、離さんか!」
「やだね!この狼煙を消したきゃ、自爆してでも俺達を殺してみろ!」
 サリバンにそれは出来ない。サリバンにとって自爆とは、魔法の研究に使える時間が永遠に終わる事を意味するからだ。
「命張ってでも戦えない軟弱者が、しゃしゃんな!俺達は!何も無かったから!今あるもの全部捨てる覚悟で戦争してんだよ!」
 サリバンがパカフの気迫に怯む。
「うおおおお!」
 パカフは花火が空へ舞い上がったのを視界の端で確認すると、サリバンを狼煙の中へ押し倒した。
「ぎゃあああああ!」
 悍ましい悲鳴が美しい花火の下で響き渡る。同時にから東の山の上で青い炎が灯った。狼煙台の万人が、青い炎を真似て灯したのだ。その狼煙の上空で、花火の代わりにプロテアの花を模した魔法陣が煌めく。その光は次々と東へ灯されていく。
「よし、やったぜ!」
 パカフ達は手を取り合って喜んだ。きっと応えてくれる筈。
 しかし、狼煙台の中から炭化した腕が伸びて来た。
「…ッ、パカフ君!」
「え⸺」
 その炭化した腕はパカフの襟を掴むと、狼煙台の中へ引きずり込んだ。
「ぎゃあああああッ!」
 アーキルが黒い腕を振り払いながら何とかパカフを助け出すが、背中が赤く焼け爛れている。
 狼煙台の中から、骨になったサリバンが立ち上がる。
「これが、聖女の力か!」
 サリバンの高笑いが響く。今の彼らには、アレンが居なければ勝てないのだ。
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