創世戦争記

歩く姿は社畜

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魔導王国アミリ朝クテシア編 〜砂塵と共に流れる因縁の章〜

元十二神将と殺戮の姫

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 一週間後。
「まさか、鍵を量産してたなんてな」
 ドゥリンが凰龍京から新しい鍵をアスラン城⸺現在の新都クテシア近郊へ運び終わったとの連絡を受けたアレンがフレデリカにそう言うと、フレデリカは胸を張った。
「フフン、私に掛かれば複製なんてお手の物よ。皆が魔法で武器を生成したら一定時間後に消えるみたいな事も無いし。もっと褒めて良いんだからね!」
 大和ヤマトに居る間、アレンはどうして鍵を置いていない筈の国から人が拠点を介して戦闘に参加出来たのか不思議だった。どうやらフレデリカがラヴァを探して旅をしながら、訪れた国の主と話し合って置いたらしい。
「はいはい、凄いよ」
 今は余計な事を話している場合ではない。それはフレデリカも分かっているようだ。
 拠点には今、反帝国を掲げる各国の王と彼らの率いる軍隊が集まっている。これから、正気を失っているヌールハーンの目を覚まさせる為のパレードを行うのだ。
「…数が多いから派手になりそうだ」
 おまけに種族がバラバラで、見てて飽きない。海竜や殆どの人魚マーメイドは海から進軍しているが、それ以外は基本的に拠点から進軍する。
 あの後、ウサーマ将軍から折り返しの連絡があった。内容はやはり、援軍要請だ。しかし大陸は広過ぎて普通に陸路を進軍するだけでは、地域によっては一年以上掛かってしまう。
 そこでドゥリンが提案したのが、彼女が鍵を新都クテシア近郊へ運び、派手なパレードを行うというものだった。
 事の経緯を思い出していたその時、アレンはフレデリカからコートを渡された。
「…おいおい、冗談だろ」
 そのコートは十二神将の物だった。
「まだ取ってたのかよ」
「この方が目立つでしょ」
「それは悪目立ちと言うんだよ。正気か?変なモン食ったんじゃねぇよな」
 本気で心配そうな顔をするアレンの顔を見たフレデリカは笑うと、コートの紋章を見せた。
「これはあんたの魔法陣よ。あんたはこれを着るに相応しい理由があるじゃない。それに元十二神将が味方だとアピール出来る」
 御もっともな理由を聞いて、アレンはコートを渋々受け取った。
「…これ、誰が直したの」
美凛メイリンだよ。苏安スーアンでは裁縫や舞踊、詩の読み書きは高貴な女性の義務教育だからね。舞蘭ウーランも裁縫と舞踊の達人だし」
 アレンはじっくりと青いコートを見詰めた。ほつれていたエポレットも直され、継ぎ接ぎも見えないくらい綺麗になっている。しかし、袖の内側に変な刺繍があった。
「…これ、俺の似顔絵?」
「あら、似てるわね。この眼付きと口とか。凄く可愛い」
 アレンは「可愛いって何だっけ」と呟きながら今羽織っているコートを空間魔法で仕舞うと、今度は十二神将のコートを羽織った。
「格好良いじゃない。やっぱそのコートが似合うわ」
「味方に殺されないか心配なんだけど」
「大丈夫よ。あんた、何人か怒らせたら怖い人に気に入られてるみたいだし」
 怒らせたら怖い人、キオネと苏月の事だろう。アーサーも二人の事を怖いと感じていたようだが、味方ならば心強い。しかしキオネはこの五年で鍛え直した海竜アクアドラゴン部隊とテオクリス率いる海軍、そして隣国の社龍シャ・ロンとその軍隊を率いて進軍している為不在だ。
 その時、誰かが扉を叩いた。
「入ってくれ」
 そう言うと、金髪碧眼の美青年と赤毛の美女が入って来る。まるで絵に描いたかのような二人は、バルタス王国の新王に即位したジェラルドと、第一王妃アマリリスだった。
「挨拶をしに来た」
 アレンは「ああ」と呟いた。各国の主達と会議をする際に顔合わせはしていたが、ちゃんと話すのは初めてだった。
(歳は…ネメシア達と同じくらいか)
「改めて、ジェラルド・ハールマン・バルタスだ」
「アマリリス・クレスト…今はアルフォンサを名乗ってますわ」
 かつて東方連合を裏切り、連合の管理下にあった士官学校の生徒を殺した悪女。加減を間違えた苏月に殺されたと思われていたが、恋人のジェラルドに匿われて生き永らえた。
 身分を偽り、隠れて来た事はアレンと共通する。
 アレンは紋章が刺繍されたコートの袖を掴んでぷらぷら振った。
「見ての通り…元十二神将のアレンだ」
 アマリリス⸺アルフォンサ王妃は微笑んだ。
「とても心強いですわ、最高司令官殿」
 アレンは思わず変な声を上げた。
「えっ?最高司令官?」
 ジェラルドが吊り上がった眉を更に上げる。
「聞いてないのか?美凛の奴が最高司令官はお前だと言っていたぞ。パレードの先頭を歩くのはお前だって、苏月殿やライカニアのシルヴェストロ大統領も言ってたな」
「満場、一致…?」
 新都クテシアは初めて行くが、城壁からヌールハーンの魔法攻撃に晒されて死ぬ未来が視えた気がする。これがアイユーブの持っている預言の力だろうか。
「フレデリカ、俺…ヌールハーンに殺される気がしてきた…」
「大丈夫よ、大将軍の名に懸けてウサーマが抑えてくれてる筈だから。それにこっちには苏月とかいうナンチャッテ人間が居るし。抑止力はあるから大丈夫よ」
 アルフォンサは『ナンチャッテ人間』に吹き出した。
「んっふふ、ごめんなさい。十年前のあの日、私は叔父様の平手一発で気絶してしまったわ。確かにあれは人間の火力じゃないから、安心して大丈夫ですわよ。最高司令官殿」
 ジェラルドとフレデリカはその言葉に頷いた。
「…骨になる前に拾ってくれよ」
 そう言って執務室の窓から外を見た。既に〈新東方連合〉の軍隊が集結し、進軍の準備を終えている。
 大和の〈桜狐〉と〈社畜連盟〉、グラコスの陸軍、親帝国派の騎士団を総入れ替えしたバルタス王国の〈騎士団〉。謝坤シェ・ゴン思薺スーチーヤン親王を始めとした有力な武将率いる苏安陸軍。ライカニア合衆国の陸軍とロルツ率いる傭兵、新生ソレアイア王国軍。そして噂を聞き付けた有名な用心棒や流離い人、規模の小さい傭兵団や賞金稼ぎを中心とした義勇軍。
 いつか見た三叉路の野営地に集う旗より多くの軍旗がはためき、新たな風が砂漠を越えて西へ往こうとしている。
「俺達も進軍の準備を始めよう」
 アレン達は執務室を出た。
 しかし準備と言っても、出来る事はもう無い。必要な物資は持ったし、戦力も整った。ここに居る〈新生東方連合〉の陸軍以外にも、海軍と飛空艇や有翼人ハーピィを中心とした空軍も進軍中だ。総数は百万を超え、その行軍に感化された者達も次々と志願兵としてついて来ている。
 庁舎の外に出た四人は厩舎から馬を連れて来ると、馬を走らせて全軍の先頭に立った。
「おまたせ。パレードに参加する人数は…え、こんなに?」
 獅子の頭を持つ獣人の王であり大統領のシルヴェストロは笑った。
「まさか、大半は外で待つ事になりますよ。フェリドールの帝都は魔人の巨躯に合わせて大きいのでしょうが、アスラン城はそうではない。一万人くらい入れて貰えれば御の字でしょうな」
 ゴロゴロと喉を鳴らして目を細める姿はまるで猫だが、その目はアルフォンサ⸺アマリリスを見ると僅かに見開かれた。
「アマリリス殿もアスラン城へ…!?ヌールハーンに何をされるか…」
 シルヴェストロもアマリリスを信用していないようだ。
 十年前の〈東方連合崩壊〉では、アマリリスたちの手によって生徒である大勢の貴族子弟が命を落とした。そしてアマリリスの父であるバルダは会議場となっていたアルケイディア城の会議堂を爆破し、シルヴェストロや苏月達も巻き添えを食らった。
 口調からは心配が滲んでいるが、それはアマリリスにではなく、自分達が精神を病んでしまって壊れたヌールハーンの餌食にならないかという心配だ。
(百獣の王とは言うが…)
 結局、食物連鎖の頂点は人型種族だ。
 シルヴェストロはアレンのコートを見て更に困惑を見せる。
「本当に大丈夫か…?」
「…俺も心配」
 だが、なるようにしかならない。
「だが、俺は元十二神将が味方で彼女はバルタスの王妃アルフォンサ。今はそれだけだ。ヌールハーンが何か言ったら、多分ユエさんとかその辺がどうにかしてくれる」
 少し無責任な発言だが、アマリリスも頷く。
「仮にアルフォンサとして生きる事が赦されないとしたら、過去の罪を償う為に戦う意志がある事を伝えた上で、甘んじて罰を受けます。私は…それだけの事をしてしまったのですから」
 その時、苏月がやって来た。
 シルヴェストロはまだ心配そうな顔をしていたが、苏月の気配に気付くと表情を直した。
「貴公の心配も分かるが、先ずはパレードを終わらせよう。幸い、ヌールハーンは自室に軟禁状態のようだ」
 そう言ってアレンに目配せした。
 アレンは頷くと、手を上げた。直後、巨大な扉が開く。そして同時に角笛の音が響き、砂の匂いが漂って来た。
 遥か西の故郷と同じ匂いを感じながら、アレンは号令した。
「全軍、進め!」
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