創世戦争記

歩く姿は社畜

文字の大きさ
上 下
99 / 197
大和神国編 〜陰と陽、血を吸う桜葉の章〜

絡まる勢力図

しおりを挟む
 その数刻後、大和ヤマトの都真秀場まほろばにて。
「我が君、桜宮にて〈桜狐オウコ〉と〈社畜連盟〉が衝突しております」
 黒い着物に烏帽子の貴族がそう言うが、御簾の向こうからは一切の声や物音が聞こえない。
 この国では、もう二千年もすめらぎの声を聞いた者は居ない。二千年前に皇の妹である姫が行方をくらましてから、真秀場の最奥は静寂に包まれている。つまり、皇は形骸化して貴族による支配となっているのだ。
「一応、報告はしましたが…相変わらずですな」
「報告はしたので、後はこちらで動きましょう」
 貴族達は広間を出ると、廊下を歩きながら喋る。
「…にしても、〈桜狐〉と〈社畜連盟〉ですか…」
「避けられぬ戦いだったのでしょう。何せ、背後に居るのは魔人ときた」
 そう言って貴族達はほくそ笑む。
「この騒ぎに乗じて両勢力を叩き潰してしまえば…どさくさ紛れにである桜宮を抑えられるやも知れませぬなぁ」
「確か、領主を自称しているのは…」
 年若い貴族がそう言うと、年長の貴族が言った。
「…二千年前に行方をくらました、皇女表春うわはる。今ではその名を時の皇女のものだと知っている者の方が少ない」
「何故、皇女でありながら行方をくらましたのですか?」
 老貴族は溜息を吐いて首を振った。
「かの者にまつわる文献は一切残っていない。我が家ではかつて皇女表春という者が居たという事が口伝では語り継がれているが、詳細は不明なのだよ。しかし…」
 ふと、足を止めて老貴族は思い出したように言う。
「…行方をくらます直前、九尾の狐とまぐわったという噂がある」
 大和には昔話がある。それは九尾の狐と恋に落ちた美しい娘の物語。許婚と結婚していたにも関わらず不貞を働き、妖に処女を捧げた美しい姫の物語は、絵巻として、そして官能小説として後世へ語り継がれていた。
「ああ…確か、始まりの陰陽師でしたな」
 妖が扱う奇怪な力を手に入れ、人が多く持つ陽の力と妖や魔物が持つ陰の力を用いる、陰陽師。それの原初とも言われている。
「あれの力は敵に回せば厄介だ。穢を祓うだけなら良いが、それを人に向けられては敵わん。祖父があれの懐柔を試みたが、蛙の姿になって帰って来た」
「やはり人外の力は危険ですな。駆逐すべきでしょう」
 老貴族は扇子を揺らしながら言った。
「…満場一致だな、桜宮領への軍事作戦は」
 高位の貴族数名による話し合い、それが大和の政の現状だ。
 貴族達はほくそ笑むと、桜宮侵攻へ向けて動き出した。


 桜宮での戦いは、〈社畜連盟〉が有利だった。美凛メイリン率いる鳳凰遊撃隊の参戦によって一方的な殺戮は防がれているが、鳳凰遊撃隊の者にも疲労が見え始めている。
「除霊師、このままじゃ負ける!」
 フレデリカは叫びながら敵を斬り伏せた。美しかった初夏の木々や町並みは赤く染まり、舗装されていない地面は赤い泥沼と化した。
「何人か、魔人が紛れていますね…!にしても、彼らは人間ですか!?」
 陰陽道を極め、陰と陽の力や式神を自在に操る〈桜狐〉達が押されている。
(数だけじゃない)
 〈社畜連盟〉の動きは何処か不自然だ。致命傷を与えても、完全に心臓を破壊するまで止まらない。糸操り人形マリオネットのように誰かが背後で操っているとしか思えない。
 フレデリカは一歩下がると、目を閉じた。人が多く持つ陽の力の間を潜り抜けるように探知の範囲を広げ、より集中する為に深く呼吸する。すると、引っ掛かるモノがあった。
(この気配…)
 この場に在って良い陰の力は、〈桜狐〉以外ではアレンとフレデリカだけだ。しかし、此処にはそれ以外に三つある。そしてその内の二つをフレデリカは知っていた。
(近くにガンダゴウザとサリバンが居る!)
 〈大帝の深淵〉の中でも、特に危険と思われる二人。
 フレデリカは舌打ちした。
「除霊師、〈深淵〉が居るわ。判明してるのは、ガンダゴウザとサリバン・ノルディーン」
 美凛誘拐に協力したガンダゴウザと、グラコスの先王ゴトディスの処刑や一連の騒乱、〈魔女狩り〉に関与したサリバン。フレデリカの嫌いな人物ばかりだ。
「大物揃いですね…しかも、首級を上げよと士気を上げにくい領域の者…」
 サリバンか他の魔人が社畜を操っているとしたら、人の身にそぐわぬ強さにも説明が付く。
 社畜が唸り声を上げながら刀を振り下ろすと、フレデリカと表春は左右に飛んで避けた。刀は地面に叩き付けられ、跳ねた血生臭く赤黒い泥が表春とフレデリカの服を汚す。
 表春が舌打ちして御祓棒を握った、その時だった。
「獣だ!獣が出たぞ!」
 誰かがそう叫ぶ。声の方向には、鶴蔦が言っていた特徴と完全に一致する獣が居た。
「何あれ…!?」
 獣は魔人の男を咥えている。そしてその男は、帝国十二神将に配布されるコートを羽織っていた。
「十二神将!皆、奴を捕らえるわよ!」
 フレデリカがそう叫ぶと、兵士達は武器を持って獣を取り囲んだ。
 フレデリカはこの場を表春に任せると、獣への接近を試みようとする。しかし、獣は視界にフレデリカを入れると下卑た笑みを浮かべた。
「ちょっと、待ちなさい!」
 獣は影の中に身を沈め、やがて姿を消す。まるで挑発しているかのようだ。
「…あいつ、まさかアレンの元へ…?」
 フレデリカは走り出した。獣の目付きには覚えがあった。銀の瞳は欲でギラギラと光っている。あの銀髪の魔人ヴェロスラヴァそっくりなのだ。
(あれが本当にヴェロスラヴァなら、アレンに何をするか解からない!)


 五年前。地下牢にて。
「気持ち良い?初めては大好きなじゃなくて、魔力で振動する玩具だなんて。可哀想に~」
 男性器の形を模した玩具を挿れられたフレデリカは悲鳴に誓い嬌声を上げる。
 そんなフレデリカに追い打ちを掛けるようにヴェロスラヴァは耳元で囁いた。
「男ってね、尻の穴も開発出来るの。あの澄まし顔が快楽で歪むのを想像してみて」
 ヴェロスラヴァの長い指が、フレデリカの双丘に隠された小さい蕾を押し広げる。同時に、そこは一瞬で性感帯として開発された。
「えーと、多分、この辺かしらぁ?」
 人間の中指の第二関節が入った辺りの所、ヴェロスラヴァはそこを開発すると、指で押し込んだ。
「ぉアッ、あああッ♡やめ…!ンッ、イグッ♡♡」
「ここね、男の場合は前立腺があるの。ここグリグリされただけで…ほら」
「んいィいいいッ♡♡♡」
 勢い良く潮を吹いてフレデリカは仰け反る。
「君はお母さんがお医者さんだったから、内臓の位置は熟知してるでしょ?女だと対応する器官が無いけど…考えてみて。おちんぽの先から細い棒を挿れて、前立腺を前と後ろからグリグリしちゃうの。あの澄ました顔は、どんな風に歪むのかしら」
 そう言いながら指を引き抜き、代わりに太く長い棒を挿れると、挿抜を繰り返す。棒は開発されたそこを刳り、直腸に繋がる最奥をごちゅごちゅと音を立てながら繰り返し突いた。
「ンあッ、いだ、ぃ…!やめ…ごあれ、る…ッ」
 この奥には入ってはいけない気がする。そう思って尻に力を入れるが、魔人の強い力で捩じ込まれた棒はグポンッと音を立ててその向こうへ強引に侵入した。
「~~~~~~~ッ♡♡♡」
 声にならない悲鳴のような嬌声を上げて、フレデリカは開きっぱなしになった口の端から涎を垂らしながら果てる。
「想像して、君の大好きなアレンが、私にこうやって犯される様を。屈辱で顔を歪めるあのスカした顔を思い浮かべて」
 しかし快感で思考が乱れているフレデリカには、それの想像は難しい。身体の中からぐぽぐぽと響く音を遠く感じながら、フレデリカの意識は快楽の中で途切れた。



 血の匂いを乗せた風に、青い髪の青年は顔を上げた。
「…悪趣味だな、ヴェロスラヴァ」
 フレデリカとまぐわったアレンは、フレデリカと遠く離れても彼女の記憶に干渉出来た。
「オマエ、犯ス。ワタシ、力手ニ入レル!」
 アレンは縁側から立ち上がった。
「フレデリカに手ぇ出した事、俺に執着してる事、後悔させてやる。死ね、ヴェロスラヴァ!」
 そう言ってアレンは得物を取ると、素早く踏み込んだ。
 手にはアーサーの形見の剣。無念にも、今までに儚い桜のように散って逝った者達への手向けとして、今此処でヴェロスラヴァを討つのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...