創世戦争記

歩く姿は社畜

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苏安皇国編 〜赤く染まる森、鳳と凰の章〜

攻城戦

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 木を粉砕しながら進む事二時間後、同盟軍は遂にリーサグシア城へ到着した。
「一応聞こう。降伏するつもりはあるか?」
 破城槌の前に立ち、城壁で弓を持つエルフ達に問うようにアレンは言った。今頃、奇襲部隊は城の井戸の中で待機している頃合いだろう。
 正直、このまま城を壊しても良かったと思っている。だが、無駄な殺しはしたくないと苏安軍と〈プロテア〉の話し合いで決定されたので、形だけでも降伏勧告をしておく。
「放て!」
 しかし、返ってきたのは言葉ではなく矢の雨だった。
「盾兵!」
 苏月が素早く指示を出すと、素早い動作で出て来た盾兵が盾を持ち上げ、降りしきる矢の雨から味方を守る。
 アレンは矢を切り落としながら言った。
「攻撃開始!」
 アレンが馬に跨ってその場を素早く離れると、巨人ジャイアント達が破城槌を引っ張った。
「破城槌だ!破城槌を狙え!」
 エルフ達が弓を構えた。
 アレンは近くに居た弓兵から弓を取ると、素早く引き絞る。
「弓兵、構え!歩兵は梯子を持ってこい!」
 言い終わると同時に放たれた矢は、城壁から指示を出すエルフの司令官の口に吸い込まれるように飛んでいく。
「ぎゃあああああ!」
 エルフ達から悲鳴が上がった。
 苏月も声を張り上げる。
ヤン親王隊、弓矢構え!」
 陽達は素早く矢をつがえると、エルフ達を上回る速度で放つ。
 アレンは弓を兵士に返すと、フレデリカの元へ馬で駆け寄った。
「奇襲部隊に指示を」
「分かった!」
 フレデリカが水晶盤を取り出すと、城壁の向こうから岩が飛んできた。敵は投石機も持っているらしい。
 岩は巨人の頭に当たって怯ませる。当たらなくても、後ろの方の兵士達は岩に押し潰されてしまった。
「投石機の破壊を優先させるね」
「頼んだ」
 その時、岩が破城槌の柱に使われていた古代樹を吹き飛ばした。
(あの岩、只の岩じゃないな)
 ダルカン達が造った破城槌は硬い金属が使われている。その金属部分ごと吹き飛ばしてしまったのだ。
「ダルカン老、岩の解析を進めてくれ」
「了解じゃ」
 投石機は近くを狙えない。梯子を急いで運ばせなければ。
(にしても、森の中に投石機だなんて)
 もしかしたら、森を破壊してでも城を守る覚悟があったのかも知れない。
 その時、苏月が馬を降りてやって来た。矢が降りしきる中でも悠然と歩く姿は威風堂々としていて余裕を感じさせる。
 苏月は腕を組んで言った。
「まどろっこしいのは嫌いだ」
「けど梯子が来ない事には…」
 苏月は城壁を指差した。
「壁キックで登れば良い。十二神将は一騎当千だろう?」
「いやいやいや」
 十二神将が一騎当千…そんな幻想は東側の化物共によって打ち砕かれた。そしてその化物は今、アレンの目の前に居る。
「このままでは全ての破城槌が壊される。城壁の戦力を削るぞ」
 既に破城槌の一つが壊され、巨人にも負傷者が出ている。もう時間が無いのだ。
「分かった。で、城壁に登るのは何人でやるの?」
 苏月はたまたま目が合ったネメシアの肩を掴んで引っ張り寄せた。
「壁キックは出来るか?」
「多分無理!」
 アレンも出来ないしやった事が無い。いきなりぶっつけ本番でやって転んだら恥ずかしくて嫌だ。そういう気持ちを込めてアレンが首を振ると、苏月は「最近の子供は壁キックとかして遊ばないのか」と言いながら二人の襟首を引っ掴んで城壁の角の方へ進む。
「月さん、嘘でしょ!?俺重たいよ?無茶はやめようか!」
「美凛パパぁ御慈悲をぉ!」
 しかし苏月はそれを無視して地面を蹴ると、更に壁を蹴った。そして何度か壁を蹴ると、アレンとネメシアを宙へ放り投げる。
 アレンとネメシアは悲鳴を上げながらも空中で武器を構え、着地と同時に敵を斬り倒す。
「侵入者だ、殺せ!」
 アレンは本城キープの方を見た。本城までは少し距離があり、城壁と本城の間には街が広がっている。しかし街は戦時体制で、兵士達が投石機を操作していた。
「ネメシア、城壁は任せる!」
「え、アレンはどうすんのさ!」
「城門を開ける。そうしたらもっと戦いやすくなる筈だ!」
 アレンはそう言うとエルフの兵を蹴り落として城壁から飛び降りる。
 エルフの兵達の中に飛び降りたアレンは、大きく剣を振った。哀れな兵達の手や首が次々と宙を舞い、血飛沫が上がる。
 経験も実力もアレンが圧倒的だが、数が多過ぎる。
「相手は二人だ、さっさと殺せ!」
 アレンは苏安軍の兵士がうっかり紛れていない事を確認すると、十二神将〈神風〉としての力を解放した。
 過酷なスラムで重要な事は何か?それは速度だ。非力で成長の遅い少年が生き残るには、手際の良さと逃げ足の速さ、判断の速さが必要だった。
 魔物は人型種族より早く環境に適応出来る。そして強い魔人の血を引くアレンは、速度が重視される環境下で、所謂『進化』を遂げた。
「…疾きこと、風の如く」
 踏み出すごとに、エルフの神に愛された美しい身体が真っ二つに斬れる。瞬間移動のように動くアレンの姿は、エルフの優れた視力でも目視出来ない程だ。
 ぐるりと剣を振ると、突風と共にエルフ達が吹き飛ぶ。
「お前、その目は…!」
 エルフの一人がアレンの正体に気付く。
「魔人ならば何故、ソレアイアに刃を向けるか!」
 アレンはいつの間にか城門の前に立っていた。そして城門の鍵を破壊して言う。
「三月分の給料を貰えなかったからだよ」
 そんなのは冗談だ。帝国に捨てられ、今は仲間達が居る。それだけで充分だ。
「死ぬ覚悟は出来たか?」
 エルフから視線を逸らさぬまま、アレンは扉に後ろ蹴りをする。
 西日と共に破壊された森と同盟軍が視界に入り、エルフ達は怯んだ。
「さあ、後ろの正面だぁれ?」
 エルフ達がアレンの言葉に後ろを向いた瞬間、誰かが叫んだ。
「投石機だ、投石機を守れ!襲撃だーッ!」
「けど前から⸺」
 戦いに正々堂々も何も無い。飛び散る血と臓物、ぶつかり合って火花を散らす武器、悲鳴と鬨の声だけだ。何か言おうとしたエルフを無表情で後ろから斬り伏せたアレンを、エルフ達は非難した。
「卑怯者!」
 卑怯者の後ろから、同盟軍が押し寄せて来る。城門を突破しようとする者、梯子を登り始める者…圧倒的な数の暴力に物を言わせる男にエルフ達は憤った。
 しかし、怒りの形相は直ぐに恐怖へと変わる。
「本隊は私に続け!」
 苏月の号令と共に角笛が響き、大軍が押し寄せて来る。
 アレンは剣を仕舞うと、フレデリカが手綱を引く馬に飛び乗った。
「フレデリカ、何か違和感感じないか?」
「弱過ぎるわね」
 何か、裏がある気がするのだ。リーサグシア城に到達するまで、襲撃も受けなかった。
「魔人が居るのは、ほぼ確定事項だろう」
「毎回恒例ってやつね。もううんざりよ!」
 フレデリカは苛々と剣を振って馬上から敵を斬り伏せた、その時だった。
「おいおい、またかよ!」
 地鳴りと共に、城壁が回転する。建築物を操作する魔法⸺ファズミルだ。
「空城の計…ってこういう事かな」
 今度は本隊の後ろから悲鳴が上がる。
「空城の割に、餌はいっぱいだったわよ。苏月、後で空城の計について教えてよ」
 ヴェロスラヴァが鞭剣を弄びながら妖艶に笑う。その横にはガンダゴウザも居た。
「袋の鼠だ。今回は逃さんぞ!」
 アレンはファズミルに向かって言った。
「袋の鼠になるのはお前らだ。三人纏めてあの世へ送ってやる」
 ファズミルは喋るのが得意ではないのか、それには答えなかった。代わりに、すっと手を上げる。すると、エルフの死体を媒介に城壁の上に魔人達が召喚された。
「全ては、帝国の為に。お前達は死ね」
「理由も無く部下をクビにする糞みてぇな国家の為なんて嫌だね」
 アレン達は警戒しながら得物を構えた。皆、帝国の支配より自由を望んでいる。
「勝つのはこっちだ」
 ソレアイアとリーサグシアを帝国の飛び地になどさせない。膿を出し切ってやるのだ。
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