創世戦争記

歩く姿は社畜

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バルタス王国編 〜騎士と楽園の章〜

創世と金の髪飾り

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「ファーティマ、もしかして後つけられた?」
「まさか。あんたはスラム側から来たから知らないかもしれないけど、地底は危険な魔物がうじゃうじゃ居るんだぜ?」
「じゃあ騎士団と軍隊はスラム側から来てるのか」
「そういう事」
 アレンは焦った。神殿側はファーティマが地形を変えてしまったので、使えない可能性が高い。
「貧民しか居ない洞窟で籠城戦?糞じゃねぇか」
 アレンは悪態を吐いて走り出した。
 ダンスホールに戻ると、何人かの住民が〈プロテア〉と口論していた。
「お前達が迂闊だったんだ!どう責任を取る!?」
「私達じゃないわよ!今入り口がバレたとか言ってる奴居たわよね、そいつなんじゃないの!?そいつ連れて来なさいよ!」
「そうですよ!私達の責任って言い切れなくないですか!?私の故郷では論より証拠が重要なんですよ!」
 アレンはザンドラと梓涵ズーハンが住民達と喧嘩しているのを止めて言った。
「お前ら、喧嘩やめて。一旦ホールに集合。それと、町長的な存在って居るの?」
 梓涵は首を振った。
「町長みたいなのは居ないですけど、纏め役としてチンピラが居た筈です」
「そいつら逃げたみたいよ」
 ザンドラがスラム街の方を指差すが、エルフと人間の視力では差があり過ぎる。アレンも目は良いが、松明で照らしただけの暗闇では目を凝らしてもぼんやりとしか見えない。
「最悪だな。お前ら、荷物の準備。さっさと逃げるぞ」
「アレン待って、逃げるってどういう事?戦わないの?」
 ザンドラの言葉にアレンは目を見開いた。
「戦うって…勝てると思う?構成員も大して残っていない上に、このままじゃあ袋叩きにされて終わりだ」
 アレンの言葉に誰も言い返せずにいると、ファーティマが挙手する。発言を許可すると、ファーティマは真面目な顔で言った。
「何か違和感あるんだよね。俺がこの街を攻略するなら、出入口が分かった時点でそこを爆破して閉じ込める。あいつらがやってる事は非効率だ」
 その時、ザンドラがあっと声を上げた。
「逃げようとしてたチンピラが殺された」
「誰に殺られたか分かるか?」
「白いローブを着てる。聖職者かな…?けど武器は手甲鈎だな…うわやば、目が合った。あいつら絶対人間じゃない」
「裁判神官に化けた魔人だ!」
 これで敵が非効率的な手段を使う理由が分かった。目的はアレンと魔導書⸺もとい〈時空の書〉だ。
 アレンはロビーへ入るとフレデリカを探した。何とかして侵攻を食い止めなければならない。その為には彼女に砦か壁を作ってもらわないといけない。
「フレデリカ!敵襲だ!」
「知ってる!リーダー、どうする?」
「砦か城壁は創れるか?」
「素材さえあれば創れる。でもどうするつもり?創っても籠城戦なんて出来ないよ」
 アレンは視線を下に落とした。侵略国家の将軍として攻撃戦しかやってこなかったアレンには、どうすれば良いのか最適解が解らない。
 その時、誰かが横を通った風圧で丈の長い服の裾が捲れ、ポーチのベルトが視界に入る。
「…これだ」
「ポーチ?」
 アレンはポーチを指差して言った。
「これのもっと大規模な空間を創って、そこに全員入れる。お前が人の立てるような地面を作って、その空間の扉になる媒体を誰かが持って洞窟の外に出れば、籠城戦をしなくて良い!」
「待ちなよ、あんたの身体が保たないよ!」
「今これ以外の方法はある?ファーティマにペダインズ神殿の方の通路を掘らせる?天井が崩落しかねないだろ」
 フレデリカは拳を握り締めた。
「あんたに何かあったら⸺」
 フレデリカの言葉を遮るようにアレンは空間魔法で〈時空の書〉を取り出す。
「魔力の代替案はこれ。確か、俺と同じ波長の魔力が沢山あるんだろ?負担は減る筈だ」
「…」
「なあ、今は選り好みしてる余裕は無いんだって。俺だって危険な行為はしたかねぇよ。けど、やるしか無いだろ。俺は攻撃戦の専門家であって、防衛戦は専門外なんだ。この状況でも他の手段があるなら教えてくれ。無いだろ?」
 フレデリカは渋々といった様子で承諾した。
「分かった。じゃあ、アレンは魔法の準備をしてて。私は媒体を探して来る」
「媒体なんだけど、広場の床は?」
 扉を開けてアレンが言うと、フレデリカの目が一瞬で輝く。除霊師とコンラッドが本気で喧嘩しても壊れない石畳。堅固な城壁を築くにはもってこいだろう。
「任せて!こんな良い素材、材質は何かしら。ちょっとパクって分析しよう」
 アレンは構成員を広場から離れさせると、フレデリカが空中へ浮かび上がった。彼女の杖が金色に光る。石畳でできた円状の広場が空中へ浮かび上がり、スラム街側へ飛んで行く。正確な魔法操作は石畳の破片一つ落とす事なく運んで行く。
 町民がアレンに向かって怒鳴った。
「おい、何をするつもりだ!?広場が⸺」
 アレンは土が剥き出しになった広場の真ん中へ立つと言った。
「黙って見てろ。創世の瞬間を」
 〈時空の書〉が青い光を放って頁を開いた。同時にアレンの中に膨大な記憶が流れ込んで来る。今や帝国の紋章となった魔法陣と〈創世の四英雄〉、そして彼が愛した女の顔。
(…フレデリカ。お前、アレッサンドロに愛されてたみたいだよ)
 全てを掌握出来た。今まで何となくで扱ってきたこの魔法の全てが手に取るように分かる。膨大な情報量だが、まるでオーダーメイドで作られた服のように馴染む。まるで最初からアレンの為に用意されていたかのように。或いは、アレン自身が書いた言葉であるかのように。
 広場いっぱいに魔法陣が展開された。帝国の旗にも描かれている、砂時計を模した魔法陣。
 その魔法陣から魔力が吹き荒れ、人々の髪や服をばたばたと靡かせる。
「開け。時空魔法、虚空の門ヴォイドゲート
 巡る時を現すように回転する魔法陣から放たれた光が巨大な扉を形成し、別時空へ繋がる扉が重々しく開いた。
 アレンはスラム側を見た。石畳を媒体に、城壁が街を囲うように創造されていく。
「フレデリカ、こっちは準備出来た!」
 宙から降りてくると、フレデリカは空間魔法で金の髪飾りを取り出した。媒体として使うつもりのようだが、髪飾りに触れる手は何処か淋しげだ。
 アレンは咄嗟に理解する。アレッサンドロがフレデリカに送った髪飾りだ。
「おい、もっと他の媒体は無いのか?それ大切な物なんだろ?」
 選り好みしている余裕は無い、そう言ったのはアレンだが、フレデリカの顔を見ていると、何故か胸が痛む。
「優しいんだね、君って。そう、これは私の大切な人から贈られた物。あいつが他国を攻撃するようになってからは、唯の一度も着けていない。だからね⸺」
 髪飾りが扉の中へ消えた。フレデリカが投げたのだ。
「あいつへの想いは、今此処で捨てる。もう一度始めよう、虚無から!創造魔法、原初創生プリモーディアル・クリエイション!」
 永い時間の中、聖女フレデリカの魔力を浴び続けた髪飾りは淡い光を放ち、自然へと変質する。まるでアレンにかの英雄の面影を重ねないという宣言のように。
「後悔は無いのか?」
「無いね。髪飾りなんて後で買えば良い」
 そう言って強がるフレデリカの顔を眺めていると、不思議な色の瞳と視線がぶつかった。
「…ほら、ぼんやりしてないで!せっかく創ったんだから使わないと!」
「あ、ああ。〈プロテア〉の幹部は一旦集まれ!その他構成員は城壁の守備に当たれ。洞窟内での戦闘になるから敵は重火器は持っていない筈だが、神官に気を付けろ!」
 アレンは外に集まって来ていた構成員に指示する。
 構成員達が各々移動している間、アレンはザンドラ達と揉めていた町人に話し掛けた。
「時間はプロテアが稼ぐ。住民を全員この空間に入れろ。混雑を避ける為、荷物は最小限で」
「わ、分かった…」
 偉大な魔法を前に震え上がっていた町民達は頷いて走って行く。
 そしてアレンは集まった幹部達を見て口を開いた。作戦は此処からが重要だ。
「この中で我こそは一騎当千って奴、出て来い」
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