17 / 197
バルタス王国編 〜騎士と楽園の章〜
避難
しおりを挟む
戦闘を終えると、アレンはカーヴェルの死体を調べた。
(…監視魔法か。カーヴェルを通じて拠点の位置がバレたかも知れない)
アレンはカーヴェルに掛けられた魔法を容易く解除すると、死体を魔法で焼却した。
「お前ら、この国の上層部に拠点の位置がバレた可能性が高い」
ザンドラが提案する。
「地下街へ移動しましょうよ。この国の地下は大陸でも二番目に大きい鍾乳洞があって、そこに街があるのよ」
アレンは考え込んだ。昨日の話では、地下街への入り口を騎士団は把握していないらしいが、万が一何かあった時に逃げ道を確保出来ない。しかしその辺の原っぱで野営をするのはもっと危険な気がする。
「仮に地下へ逃げ込んだとして、逃げ道って確保出来てるか?」
全員黙り込んだ。
「背水の陣ならぬ『洞窟にイン』かよ…出入り口は何ヶ所あるの?」
アレンの質問にペータルが答えた。
「俺達が把握してるだけで二ヶ所。一つはスラム街跡を通って行く。もう一つはペダインズ神殿。けど神殿の方は国王達も把握してる可能性が高い」
「あれ、国王は把握してるの?」
今度はサーリヤが説明する。
「地下への入り口は知ってるが、地下街へ通じる道は把握出来てないんだ。というのも神殿は神聖な場所だから、王侯貴族は普通そこしか通りたくない。騎士団なんて貴族階級が殆どだから必然的にそうなる」
サーリヤの言葉にファーティマが形の良い鼻を鳴らして嫌味たっぷりに言った。
「神聖って言っても地下神殿は祭壇なんて無くて、処刑台と実験場があるけどな」
「処刑台と実験場?」
大半がこの話を初めて聞くようだ。全員が興味津々にファーティマを見詰める。しかしのんびり話している時間は無い。
「聞きたけりゃ幾らでも話してやるよ。けど、先ずは避難先を決めないとね」
そう言ってアレンに進行を任せる。
「地下街以外の候補地は?」
「…」
誰も答えなかった。そもそも幹部以外の構成員は全員地下街に居るのだから、置いていく訳にもいかないだろう。
「それじゃあ、地下街で決定だ。全員荷物を纏めろ、俺はマリアさんと話してくる」
全員が行動を開始すると、アレンはカウンターへ向かった。マリアは外の会話を聞いていたのか、棚の中から酒を選んで鞄に詰めていた。
「すまないな、こんな事になって」
「いや、あんたのせいじゃない。しかし、カーヴェルが此処を見付けられるなんて思わなかった。路地はかなり複雑に入り組んで汚いから、お貴族様は近付かないものだと思っていたよ」
マリアははらりと落ちてきた前髪を耳に掛けると言った。
「こんな事、慣れっこさ。チンピラ共が暴れ過ぎて店を壊した事も、チンピラが国家の重鎮と殴り合って私まで巻き込まれた事もある。そしてその度に銘酒を失ってきた」
瓶に貼られたラベルを見ながら悩む彼女の顔は哀愁が漂う。
アレンはマリアがまた銘酒を失うのが不憫に感じたので、ポーチを叩いて提案した。
「この店の酒、全部持って行こうか?樽とかはクルトに運ばせないと厳しいけど」
「どうやって?そのポーチに全部入る訳…」
アレンはカウンターに入ると、適当な酒を選んでポーチに入れた。
「入った!?」
「これ、魔法のポーチ。このポーチに入る物なら幾らでも入れられる」
そう言いながらアレンは試しに林檎を出してみた。消費期限は二十年以上前に切れているが、未だに赤く艶々としている。
「開封済みでも味とか風味とかは変わらないんじゃないかな。俺は味覚が無いから知らんけど」
試しに包丁で林檎を切ってみると、外側と同じく美味しそうだった。
「砂漠は水が少ないから、こういう水っ気の多い果物は見つけた瞬間盗んでた。食べてみる?俺は昔っからこうやって、盗んだ食べ物をハムスターみたいにポーチに隠して持ち歩いてた。ハムスターと違うのは、頬袋じゃない事と腐らないって事だな」
マリアはアレンから林檎を受け取ると、恐る恐る齧ってみた。
「…美味しい。凄い魔法だね」
「使い方は褒められたもんじゃないけどね」
アレンは脚からポーチを外すと、棚の酒を次々とポーチに入れていった。
「しかし、ポーチから酒を出す時に酒豪って勘違いされそうだね」
マリアはくすくす笑いながらそう言った。
「それは困るな。俺はスピリタス五杯で限界だよ」
「水割り?」
「いや、そのまま」
「嘘でしょ!?それ人間基準で酒豪だよ!」
「え!?」
暫しの気まずい沈黙の末、マリアはアレンのポーチに瓶を入れて話を強制的に終わらせた。
黙々と作業を進め、全ての瓶を仕舞い終える頃には学生達とアーサーの準備も出来ていた。周囲の話によれば、〈桜狐〉は先に移動しているようだ。
アーサーは麻袋の中にアリシアを入れてそれを背負っている。
アレンはアリシアを見て顔を引き攣らせたが、何でアリシアが運ばれる奴隷みたいに顔だけ袋から出して居るのかが気になる。
アーサーはアレンの視線に気付いたのか、アリシアを一旦降ろして深々と帽子を被らせた。
アレンはアリシアの側に近寄りたくなかったので、敢えてフレデリカに問うた。
「地下街へ行くのに道案内が欲しい。隣を歩いてくれるか?」
しかし嬉しそうなフレデリカの顔を見てアレンは後悔した。
「良いよー!任せて!」
フレデリカはアレンの腕を掴むとスキップで進み始めた。
一行はとても個性的な容姿で街を歩いていると目立つが、街の住民は見て見ぬフリをする。学生の一人であるネメシアが屋台に走って行ってコロッケを爆買いしても、周りは苦笑いしながら見守っているだけだ。
「昨日言った事、覚えてる?」
「ああ。俺達の行いも知らない物として見て見ぬフリをすると」
「そうそう。けど、特定の種族だけね」
「特定の?」
「イルリニア系民族の大半は、イルリニア系民族が最も優れていて偉大だと思っている。次にアネハル系民族、東雅系民族、クテシア系民族、最後に異郷民族やその他の民族」
アレンはちらりと後ろを振り向いた。イルリニア系の顔は見当たらない。
「イルリニア人は差別主義者が多い。人間に対してもそうだけど、異種族に対しては特にね。だけど態度を出して来るのは、相手の数が少ない時。例えば…あそこ見て」
男達が数人寄って集って誰かを蹴っている。男達の脚の隙間から蹴られたり殴られたりしている人間の肌の色が見えた。褐色の肌はファーティマとサーリヤと似ていて、クテシア系を思わせる。
「見えた?あの男の子は恐らくクテシア系の難民ね。ああやって一人でいる弱い奴には好き放題するのよ」
「帝国と大して変わらないな…ちょっと、実験してきて良いか?適当な事して、俺のツレだって思われないようにしてくれ」
「ん?良いよ」
アレンは男達を止めようとした兄妹を止めると、フレデリカの手を退けて男達に向かって歩いて行った。
「浮浪者め、この街に入って来るんじゃねぇ!」
短い悲鳴と肉がぶつかる鈍い音が繰り返し響く様はスラム街を彷彿とさせる。
アレンは少年を蹴っている男の後ろに近付くと、肩を叩いた。
「あんちゃん、何してんの?」
「ああ!?今忙しいんだよ、すっこんでろ異民族が!」
顔も上げずに言った男の肩を繰り返し叩く。
「ねー、何してんの?道路塞いでんだけど」
段々強く速く。すると、痛みに耐えかねた男が振り向く。
「いってぇな糞野郎!テメェも袋のネズミに⸺」
男はアレンの背丈と身に着けられた防具を見てゆっくり後退る。
「どうも、ネズミです」
嫌味や悪意は一切無い。アレン自身も帝国で差別され、ドブネズミと蔑まれていたし、それを否定するつもりも嫌だと思った事も無い。しかし相手はアレンの発していない圧のような何かを勝手に感じ取ったようだ。
「よ、用事が…ずらかるぞ!」
「うわぁぁ、待ってくれよ!」
男達が一目散に逃げ出したので、アレンは内心「ほぉ~」と思った。どうやら弱い奴にしか手を出さないのは本当のようだ。例えばファーティマやサーリヤは容姿端麗だが、ファーティマに至っては腹筋は割れていて強そうなので手は出されないだろう。
「兄ちゃん…」
立ち去ろうとしたアレンに殴られていた少年が声を掛ける。
アレンが振り向くと、顔を上げた少年は鼻血を垂らしながら満面の笑みを浮かべた。
「兄ちゃん格好良い!」
「…は?」
「それ、鎧だろ?それに、強い魔法使いだろ?」
「いや、別に魔法使いって訳じゃ…」
少年はぶんぶんと首を振った。
「オイラはクテシアの血が流れてるんだ。体内を流れる魔力を感じ取るなんて簡単だぞ?」
少年は立ち上がると身体の下に隠していた何か包みを取り出してアレンに渡した。
「なあ、オイラはこの本の持ち主を探してるんだ!兄ちゃん、この本の魔力と兄ちゃんの魔力の波長が一致するんだけど、これ兄ちゃんの落とし物か?三年くらい前に今のスラム街跡で見付けたんだ」
少年に急かされてボロ布を捲ると、見事な青い革の表紙が現れる。
「表紙のこの紋章…帝国の紋章じゃないか」
アレンがそう言うと、フレデリカが駆け寄って来た。
「その本、見せて!」
アレンが本を渡すと、フレデリカは中身を確認した。
「…この術式と魔力。間違い無い」
フレデリカはアレンに本を渡すと、スカートのポケットから可愛らしい財布を取り出した。
「坊や、その本は何エギルダ?」
アレンは本を捲って驚いた。
「おい白紙の本に幾ら使うつもりだ?」
「只の白紙じゃない!」
少年とフレデリカの声が重なり、アレンは少し怯んだ。
フレデリカは財布の中身を確かめながら言った。
「それは英雄アレッサンドロの魔導書よ」
(…監視魔法か。カーヴェルを通じて拠点の位置がバレたかも知れない)
アレンはカーヴェルに掛けられた魔法を容易く解除すると、死体を魔法で焼却した。
「お前ら、この国の上層部に拠点の位置がバレた可能性が高い」
ザンドラが提案する。
「地下街へ移動しましょうよ。この国の地下は大陸でも二番目に大きい鍾乳洞があって、そこに街があるのよ」
アレンは考え込んだ。昨日の話では、地下街への入り口を騎士団は把握していないらしいが、万が一何かあった時に逃げ道を確保出来ない。しかしその辺の原っぱで野営をするのはもっと危険な気がする。
「仮に地下へ逃げ込んだとして、逃げ道って確保出来てるか?」
全員黙り込んだ。
「背水の陣ならぬ『洞窟にイン』かよ…出入り口は何ヶ所あるの?」
アレンの質問にペータルが答えた。
「俺達が把握してるだけで二ヶ所。一つはスラム街跡を通って行く。もう一つはペダインズ神殿。けど神殿の方は国王達も把握してる可能性が高い」
「あれ、国王は把握してるの?」
今度はサーリヤが説明する。
「地下への入り口は知ってるが、地下街へ通じる道は把握出来てないんだ。というのも神殿は神聖な場所だから、王侯貴族は普通そこしか通りたくない。騎士団なんて貴族階級が殆どだから必然的にそうなる」
サーリヤの言葉にファーティマが形の良い鼻を鳴らして嫌味たっぷりに言った。
「神聖って言っても地下神殿は祭壇なんて無くて、処刑台と実験場があるけどな」
「処刑台と実験場?」
大半がこの話を初めて聞くようだ。全員が興味津々にファーティマを見詰める。しかしのんびり話している時間は無い。
「聞きたけりゃ幾らでも話してやるよ。けど、先ずは避難先を決めないとね」
そう言ってアレンに進行を任せる。
「地下街以外の候補地は?」
「…」
誰も答えなかった。そもそも幹部以外の構成員は全員地下街に居るのだから、置いていく訳にもいかないだろう。
「それじゃあ、地下街で決定だ。全員荷物を纏めろ、俺はマリアさんと話してくる」
全員が行動を開始すると、アレンはカウンターへ向かった。マリアは外の会話を聞いていたのか、棚の中から酒を選んで鞄に詰めていた。
「すまないな、こんな事になって」
「いや、あんたのせいじゃない。しかし、カーヴェルが此処を見付けられるなんて思わなかった。路地はかなり複雑に入り組んで汚いから、お貴族様は近付かないものだと思っていたよ」
マリアははらりと落ちてきた前髪を耳に掛けると言った。
「こんな事、慣れっこさ。チンピラ共が暴れ過ぎて店を壊した事も、チンピラが国家の重鎮と殴り合って私まで巻き込まれた事もある。そしてその度に銘酒を失ってきた」
瓶に貼られたラベルを見ながら悩む彼女の顔は哀愁が漂う。
アレンはマリアがまた銘酒を失うのが不憫に感じたので、ポーチを叩いて提案した。
「この店の酒、全部持って行こうか?樽とかはクルトに運ばせないと厳しいけど」
「どうやって?そのポーチに全部入る訳…」
アレンはカウンターに入ると、適当な酒を選んでポーチに入れた。
「入った!?」
「これ、魔法のポーチ。このポーチに入る物なら幾らでも入れられる」
そう言いながらアレンは試しに林檎を出してみた。消費期限は二十年以上前に切れているが、未だに赤く艶々としている。
「開封済みでも味とか風味とかは変わらないんじゃないかな。俺は味覚が無いから知らんけど」
試しに包丁で林檎を切ってみると、外側と同じく美味しそうだった。
「砂漠は水が少ないから、こういう水っ気の多い果物は見つけた瞬間盗んでた。食べてみる?俺は昔っからこうやって、盗んだ食べ物をハムスターみたいにポーチに隠して持ち歩いてた。ハムスターと違うのは、頬袋じゃない事と腐らないって事だな」
マリアはアレンから林檎を受け取ると、恐る恐る齧ってみた。
「…美味しい。凄い魔法だね」
「使い方は褒められたもんじゃないけどね」
アレンは脚からポーチを外すと、棚の酒を次々とポーチに入れていった。
「しかし、ポーチから酒を出す時に酒豪って勘違いされそうだね」
マリアはくすくす笑いながらそう言った。
「それは困るな。俺はスピリタス五杯で限界だよ」
「水割り?」
「いや、そのまま」
「嘘でしょ!?それ人間基準で酒豪だよ!」
「え!?」
暫しの気まずい沈黙の末、マリアはアレンのポーチに瓶を入れて話を強制的に終わらせた。
黙々と作業を進め、全ての瓶を仕舞い終える頃には学生達とアーサーの準備も出来ていた。周囲の話によれば、〈桜狐〉は先に移動しているようだ。
アーサーは麻袋の中にアリシアを入れてそれを背負っている。
アレンはアリシアを見て顔を引き攣らせたが、何でアリシアが運ばれる奴隷みたいに顔だけ袋から出して居るのかが気になる。
アーサーはアレンの視線に気付いたのか、アリシアを一旦降ろして深々と帽子を被らせた。
アレンはアリシアの側に近寄りたくなかったので、敢えてフレデリカに問うた。
「地下街へ行くのに道案内が欲しい。隣を歩いてくれるか?」
しかし嬉しそうなフレデリカの顔を見てアレンは後悔した。
「良いよー!任せて!」
フレデリカはアレンの腕を掴むとスキップで進み始めた。
一行はとても個性的な容姿で街を歩いていると目立つが、街の住民は見て見ぬフリをする。学生の一人であるネメシアが屋台に走って行ってコロッケを爆買いしても、周りは苦笑いしながら見守っているだけだ。
「昨日言った事、覚えてる?」
「ああ。俺達の行いも知らない物として見て見ぬフリをすると」
「そうそう。けど、特定の種族だけね」
「特定の?」
「イルリニア系民族の大半は、イルリニア系民族が最も優れていて偉大だと思っている。次にアネハル系民族、東雅系民族、クテシア系民族、最後に異郷民族やその他の民族」
アレンはちらりと後ろを振り向いた。イルリニア系の顔は見当たらない。
「イルリニア人は差別主義者が多い。人間に対してもそうだけど、異種族に対しては特にね。だけど態度を出して来るのは、相手の数が少ない時。例えば…あそこ見て」
男達が数人寄って集って誰かを蹴っている。男達の脚の隙間から蹴られたり殴られたりしている人間の肌の色が見えた。褐色の肌はファーティマとサーリヤと似ていて、クテシア系を思わせる。
「見えた?あの男の子は恐らくクテシア系の難民ね。ああやって一人でいる弱い奴には好き放題するのよ」
「帝国と大して変わらないな…ちょっと、実験してきて良いか?適当な事して、俺のツレだって思われないようにしてくれ」
「ん?良いよ」
アレンは男達を止めようとした兄妹を止めると、フレデリカの手を退けて男達に向かって歩いて行った。
「浮浪者め、この街に入って来るんじゃねぇ!」
短い悲鳴と肉がぶつかる鈍い音が繰り返し響く様はスラム街を彷彿とさせる。
アレンは少年を蹴っている男の後ろに近付くと、肩を叩いた。
「あんちゃん、何してんの?」
「ああ!?今忙しいんだよ、すっこんでろ異民族が!」
顔も上げずに言った男の肩を繰り返し叩く。
「ねー、何してんの?道路塞いでんだけど」
段々強く速く。すると、痛みに耐えかねた男が振り向く。
「いってぇな糞野郎!テメェも袋のネズミに⸺」
男はアレンの背丈と身に着けられた防具を見てゆっくり後退る。
「どうも、ネズミです」
嫌味や悪意は一切無い。アレン自身も帝国で差別され、ドブネズミと蔑まれていたし、それを否定するつもりも嫌だと思った事も無い。しかし相手はアレンの発していない圧のような何かを勝手に感じ取ったようだ。
「よ、用事が…ずらかるぞ!」
「うわぁぁ、待ってくれよ!」
男達が一目散に逃げ出したので、アレンは内心「ほぉ~」と思った。どうやら弱い奴にしか手を出さないのは本当のようだ。例えばファーティマやサーリヤは容姿端麗だが、ファーティマに至っては腹筋は割れていて強そうなので手は出されないだろう。
「兄ちゃん…」
立ち去ろうとしたアレンに殴られていた少年が声を掛ける。
アレンが振り向くと、顔を上げた少年は鼻血を垂らしながら満面の笑みを浮かべた。
「兄ちゃん格好良い!」
「…は?」
「それ、鎧だろ?それに、強い魔法使いだろ?」
「いや、別に魔法使いって訳じゃ…」
少年はぶんぶんと首を振った。
「オイラはクテシアの血が流れてるんだ。体内を流れる魔力を感じ取るなんて簡単だぞ?」
少年は立ち上がると身体の下に隠していた何か包みを取り出してアレンに渡した。
「なあ、オイラはこの本の持ち主を探してるんだ!兄ちゃん、この本の魔力と兄ちゃんの魔力の波長が一致するんだけど、これ兄ちゃんの落とし物か?三年くらい前に今のスラム街跡で見付けたんだ」
少年に急かされてボロ布を捲ると、見事な青い革の表紙が現れる。
「表紙のこの紋章…帝国の紋章じゃないか」
アレンがそう言うと、フレデリカが駆け寄って来た。
「その本、見せて!」
アレンが本を渡すと、フレデリカは中身を確認した。
「…この術式と魔力。間違い無い」
フレデリカはアレンに本を渡すと、スカートのポケットから可愛らしい財布を取り出した。
「坊や、その本は何エギルダ?」
アレンは本を捲って驚いた。
「おい白紙の本に幾ら使うつもりだ?」
「只の白紙じゃない!」
少年とフレデリカの声が重なり、アレンは少し怯んだ。
フレデリカは財布の中身を確かめながら言った。
「それは英雄アレッサンドロの魔導書よ」
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる