創世戦争記

歩く姿は社畜

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バルタス王国編 〜騎士と楽園の章〜

剣の記憶

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 目が覚めると、知らない天井が視界に入って来ると同時に鉄を打つ音が幾つも聞こえる。
(…ここは?)
 音がアレンの身体を振動して伝わる。
 足音が響き、赤毛のエルフにアレンの身体が持ち上げられた。
「コーネリアス、出来たよ」
「おお、やっとか」
 コーネリアスは『アレン』を受け取ると、『アレン』を軽く振った。どうやらアレンは剣になってしまったようだ。
「剣のタングにはあんたの御望み通りルーン文字でまじないを掛けたけど…二度と頼むんじゃないよ。あたしゃあんな細かい文字を彫刻するのは専門外なんだ」
「悪い悪い!そう怒らないでくれよ」
 エルフは鼻を鳴らして問うた。
「義兄と婚約者に会いたいってかい?随分と女々しいこって」
、ね」
 アレンはコーネリアスに婚約者がいた事を初めて知った。
「どっちでも良いけどさ、その願いは早速叶いそうだよ」
「え?」
 エルフは葉巻に火を付けながら言った。
「医師学会で神童と言われたオグリオンが十二神将御付きの医務官になるそうだ。オグリオンってあんたの元義兄だろう」
「何処でその情報を?神童なら皇帝御付きじゃないのか」
「宮廷鍛冶師…それも上位の奴から聞いた。それと皇帝の方の質問だが、オグリオンは医術書を世に出し過ぎて人間の国に情報を流していると思われている」
「医術書を出し過ぎって、その医術で世界中の怪我や病気で治せないものが減るのなら良い事だろう!」
 エルフは煙を深く吐き出して嗤った。
「帝国上層部としては都合が悪いのだろう。あれ、十二神将って上層部じゃないのかい?」
「…十二神将より上に、武公だけじゃない何かが居るという事か」
 女は答えずに鞄へ荷物を詰め込んだ。
「おい、何処へ行く?」
「私の作品のレプリカを破壊する旅にね。弟子達も腕を上げた。世間一般的に言えば『一人前』だろう。だから、あたしの役目は終わり。二度と連絡を寄越してくれるなよ。帝国の侵略戦争に加担するつもりは無い。二度と逢わない事を願うよ」
 一方的に言って女は工房を出て行った。
 コーネリアスは煙草の残り香が漂う工房に取り残された。手の中の剣を見詰めるコーネリアスの顔は暗かった。
 恐らく、帝国の方針に不信感を抱いたコーネリアスとオグリオンはアーサー達と出逢った事で裏切りを決意したのだろう。
 コーネリアスは溜息を吐くと、近くに置いてあった美しい細工の鞘に剣を仕舞う。同時に、アレンは現実へ引き戻された。
「…夢か」
「どんな夢ー!?」
 突然響く少女の声。身体を起こそうとしたその瞬間、青い旗袍チーパオを着た少女がアレンの腹に勢い良く飛び乗って来た。
「ぐぇッ!?」
「にへへ、起きた?夜ご飯だよ!」
 アレンは少女の薄暗い部屋で爛々と輝く大きい吊目気味の血のような赤い瞳に既視感を覚えた。
(何処かで見たな…何処だっけ)
「ほらぁー!起ーきーてー!」
 ばしばしと見た目に反して強過ぎる打撃を胸受けたアレンは慌てて身体を起こした。
「分かった分かった!叩くなよ、めっちゃ力強いな…ゴリラか何かかよ…」
「ゴリラじゃないもん!けど鍛錬は毎日欠かさずに行ってるよ!」
「はいはい…ゴリラって言ってごめんね」
 アレンは少女に連れられて部屋の外へ出た。明るい場所へ出ると、少女の顔が明るみになる。
(ああ、クルトの資料にあったな。こいつは苏美凛スー・メイリンか)
 苏安スーアンの第一公主(姫)にして皇位継承権第一位の『皇太子』。
 苏安は東雅トウガ系民族の国だが、美凛は東雅系には見えない。東雅系は一般的に切れ長の瞳に薄い唇と彫りの浅い顔と低い身長を持つが、美凛は目が大きくて丸っぽく、身長は顔立ちに反して百六十センチはある。
 美凛はアレンの服装を見ると、くりくりした大きい目を更に大きく丸くした。
「縞々のパジャマ!ナンセンスだ!」
「そんな言い方しなくても…後で着替える…」
 寝起きから美凛の高過ぎるテンションに付き合わされたアレンは若干疲れていた。
 一階へ向かうと一般客の姿は無く、〈プロテア〉の幹部達だけだった。
「アレンはあっちの席ね!」
 フレデリカの横だ。アレンは表情を変える事なくフレデリカの横に座った。アレンが座ると、フレデリカが紹介した。
「アレン、紹介するね。前に座ってる着物の奴は除霊師。大和ヤマト神国の武装組織〈桜狐オウコ〉の首領だよ」
 アリシアを御祓棒で叩いていた人物だ。除霊師は中性的な顔をアレンに向けた。
「ご機嫌麗しゅう、将軍殿」
「除霊師は基本的に大和で行動してるけど、海龍王キオネの命で〈プロテア〉に協力してる」
 除霊師はアレンに手紙を渡した。
「閣下宛に、キオネ陛下からです」
 封蝋を押された手紙をアレンに渡す。
 アレンは丁寧に封を切って手紙を開いた。
『十二神将アレン殿へ
〈レジスタンス=プロテア〉をグラコスの軍事演習へ招待致します。こちらは好きなタイミングで軍を動かせるので、御都合の良い時に来て頂いて大丈夫です。

追伸
軍と言っても犯罪者を集めて訓練してるだけだから、是非稽古をお願いしたいな!
               君と愉快な友人になれますように。海龍王キオネ』
 美しい文字で綴られた手紙の内容のいい加減さにアレンは戸惑った。
(何なんだよ犯罪者を集めて訓練してるだけって…この世界は思ったより広くて色んな奴がいる。しかし、どうしてこうも俺を戸惑わせるのだろう。いや、もしかして俺がおかしいのか?)
 除霊師は沈黙したアレンを見ると、袖で口元を隠しながら上品に笑った。
「まことに、珍妙な御方で御座いましょう?」
「うん…」
「フレデリカですら困らせる御仁ですからね」
 フレデリカは顔をげんなりさせた。
「あいつはね、ガチの気狂きちがい!もうね、親父によく似たわよあいつ!」
 フレデリカをしてそう言わしめる猛者だ。なるべく関わりたくないが、〈プロテア〉が組織として動く為にはキオネと苏月スー・ユエは避けて通れない道だ。
 美凛が口を挟む。
「キオネに認められたら後は簡単だよ!」
「公主様!」
 口を挟んだ美凛を梓涵ズーハンが慌てて止めるが、美凛は止まらない。
「だってキオネは海竜アクアドラゴンだから凄く強いの。そんなキオネに認められたら後は父上もアーハイハイって認めてくれるよ!」
「アーハイハイとはいきませんって!皆さんすいません、続けてください。公主様、毒味はまだ終わってないからアーサー様から目を離さないでください!」
 アレンは美凛の前に座るアーサーをちらりと見た。
(毒見役はアーサー?)
 アレンはフレデリカに問うた。
「なあ、アーサーと美凛ってどんな関係なんだ?」
「従兄妹だね」
「従兄妹?人間の従兄妹ってあんなふうに主従関係みたいになるもんなのか」
 フレデリカは眉根をぐっと寄せて難しい顔をした。
「家族構成による。例えば英雄が興した国⸺特に苏安とクテシアは本家の力が圧倒的に強い。だから従兄妹でも生まれるのが分家か本家かでかなり違ってくる。因みに美凛は本家スー氏の人間で、アーサーとアリシアは母親が分家のチャオ氏だから、扱いは家臣になる」
「付け足すと、クテシアは本家は既に断絶している事。それからアーサーは自分から毒見役を買って出ている事だな」
 後ろから聞こえた声に振り向くと、コンラッドが険しい顔で水晶盤を弄っていた。
「皺ができますよコンラッド」
 除霊師が揶揄うように言うが、コンラッドの顔は険しいままだ。
「ファーティマとサーリヤ、ゼオルを始めとした五十名以上の構成員と連絡が取れない」
 アレンは三人の名前を記憶から掘り起こした。
(ファーティマとサーリヤは確かクテシアの王族で、ファーティマは偽名を使っていた。そしてゼオルは反帝国派の〈玄鉄騎士団〉にも所属している)
「ゼオルは捕まったのか」
 コンラッドは更に難しい顔をした。
「可能性は否めない」
「となると、ファーティマ君とサーリヤさんはゼオル君の救出に向かったと考えて良さそうですね」
「その二人ってどのくらい強い?」
 コンラッドと除霊師は顔を見合わせた。
「そうだな…少なくともアーサーよりは強くて頭もキレる」
「これコンラッド、アーサーを比較対象にしたら失礼ですよ」
「お前ら聞こえてるからな!」
 除霊師はくすくすと笑うと真面目に言った。
「分かり易く言えば、〈大帝の深淵〉の中位層であれば始末出来る強さです」
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