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バルタス王国編 〜騎士と楽園の章〜
恐怖
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物心ついた頃から、路地裏で適当な奴を襲って金品や食べ物を盗む。そんな生活だった。
食べ物を持って俺を生んだ女の元へ還ると、俺はいつも暴力を振られていた。殴って、蹴られて。包丁で刺された事も、熱湯を浴びせられた事もあった。その度に近隣の奴隷に助けられたが、彼らは皆嫌そうな顔をしていた。
「生まなきゃ良かった」
女は確かに俺にそう言っていた。女が喚く支離滅裂な単語を繋げた文章とは言えない文章の中に唯一あるまともな言葉。
当時の俺は言葉も分からなかったが、自分に向けられた女の殺意は苦痛だった。それから、多分怖かった。だから殺す気だったとはいえ、コーネリアスに挑んだのは間違いじゃないんだ。あの魔人の前で古銃を取り出したのは、俺の人生にとって最適解だったと今でも思う。もしも古銃を取り出していなかったら、今頃どうなっていたのか想像するだけでも嫌になる。たったの五年だけだったけど、あの白い魔人達と過ごした日々はきっと『幸せ』と言うのだろう。
幸せに溺れていた。物言わぬ獣だった癖に、優しさに絆されて、安らかに油断していたんだ。
「アレン?顔色が悪いぞ」
アーサーの声で我に帰る。
ぎこちない動きでアーサーの方を向くと、視界の端で女が動いた。
逃げなければならないのに、身体が動かない。
「坊や、こんな所に居たのね。帰りましょう」
女の細い腕がアレンの掌を掴む。その力は異様に強く、女の緑の瞳は明らかに正気ではなかった。
「嫌だ、離せ…っ!」
部屋へ引き摺り込もうと掌に絡みつく指を無理矢理剥がすと、女の枝のような細い指が何本か嫌な音を立てて曲がってはいけない方向へ曲がった。
「ギャアアアアアアア!」
「アレン、何やってるんだ!」
女は悲鳴を抑えると、表情を消して骨が飛び出たその手をこちらへ伸ばす。
「坊や、何でこんな事をするの。ねぇ」
普段のアレンなら「もう一回その指折るぞ」とでも言ったが、今はそんな余裕は無い。
アレンはその手を躱すと、女の方にアーサーを突き飛ばして走り出した。
階段を走って降りていると、騒ぎを聞き付けたマリアが二階まで上がって来ていた。アレンはマリアを見て思わずほっとする。
「悲鳴が聞こえたけど…って、あんた顔色悪いよ。休んできな。はい部屋の鍵、そこの奥ね」
「ありがとう…」
「私は上の階見てくるから」
アレンはマリアが階段を登って行くと急いで部屋に駆け込み、鍵を掛けた。
(何で、あの女が此処に…)
そう思った次の瞬間、マリアの怒鳴り声が響く。
「待ちなアリシア!」
続いて響く足音。
「坊や、坊や」
直ぐそこにアリシアが居る。アレンは口を手で押さえて呼吸音が漏れないようにした。しかしアリシアは扉の向こうに居るアレンの事が見えているかのように近付いてくる。
「坊や、出ておいで」
大きな音がしてドアノブが回る。
「ヒッ…!」
「坊や、おいで」
「アリシア、いい加減にしな!ドアノブが壊れたらどうするんだい!アーサー!アリシアを止めて!」
ドアノブをがちゃがちゃ鳴らす音が激しくなる。緑の瞳を血走らせた女の顔がアレンの脳裏に過る。
「ハ…ッ、ヒグっ…!…っ、ヒュッ…う、ぐっ…、は、ぁあ…!!はぁッは、ぁ…!」
胸を押さえて蹲ると、外からアーサーの怒鳴り声が響く。
「姉さん離れろ!マリア、増援を頼む。アレン、大丈夫か!」
アレンはおかしな呼吸を繰り返しながら身体を丸めた。理性は既に飛んでおり、常勝軍の一角を率いていたアレンは今や子供のように怯えるしか出来なかった。華々しい勝利と凱旋の中で風化していった恐怖がアレンを苛む。
扉がギシギシと音を立てた。あの枝のような指は何本か折ったが、何処からそんな力を出しているのだろう。
酸素が足りなくなり、意識が遠のく。意識を失えば何をされるか分かったもんじゃない。だがこうして意識を保っている今、扉は嫌な音を立てて開き始めていた。
「坊や~」
振り向かなければ良いのに、アレンは振り向いた。歪んだ扉の隙間から、女の緑の瞳が覗く。
「い、嫌だ…!」
隙間から女の手が入ってきた、瞬間。
「ほら、離れなさい。ほれ!」
続けて何かで人を叩く音。
アレンは忙しなく呼吸を繰り返しながら震える手でポーチに手を伸ばし、古銃を取り出す。
身体を起こして扉の方を向くと、震える指で弾を込めた。
そして音が止んで扉が開いた瞬間。
「危ないですねぇ」
発砲する前に銃は御祓棒によって弾き飛ばされていた。
飄々とした口調の白い着物を纏った人物がアレンに近付く。着物は返り血が付着しており、手に持っている御祓棒は赤く染まっている。床に女が倒れている事から、御祓棒で殴っていた事が伺える。
気狂い女じゃない事に安堵したアレンはそのままぐったり倒れ込んだ。
着物の人間がアレンの身体を起こした。
「過呼吸を起こしてますね。フレデリカ、そっちは私達〈桜狐〉がやります。あなたはこっちを」
アレンは入れ替わりで入って来た別の気狂い女に辟易とした。
フレデリカがアレンの背中をさする。
「吐きそう?ちょっと待って」
フレデリカは魔法で桶を創り出すとアレンに渡した。アレンはそれを受け取ると、何度か嘔吐いた後に何度も繰り返して吐き出す。
「ゔぅ、…うえ…」
桶が重たくなる頃、フレデリカはアレンの口元をハンカチで拭くと廊下に向かって言った。
「クルト、水持って来て!」
「はーい!」
フレデリカは桶を中身ごと焼却すると、アレンの背中をさすって落ち着かせた。
「アリシアは除霊師が連れて行ってくれたから安心して」
フレデリカは優しい笑顔でアレンの背を撫でながらも、心の中でアレンを詮索していた。
(アリシアは赤ちゃんの人形に青い鬘を被せて『坊や』とか言ってたけど…まさかアレンがその坊や?)
アレンが落ち着いてきた頃、クルトがコップを二つ持って来た。
「口濯ぐ用と、飲料水です」
フレデリカがもう一度桶を創り出すと、アレンに渡した。
「フレデリカさん、何の騒ぎだったんですか?」
「それはアレンに聞いた方が早いよ」
話を振られたアレンは口を濯ぎ終えると、もう吐き出す物は無いと言わんばかりに口を噤んだ。
「アレン、アリシアとはどういう関係?…あんた、黙ってたって何も分かんないよ?」
アレンは少し黙ったが、水を飲み干すと答えた。
「…俺を生んだ女。…殴られた事も蹴られた事も、刺された事もある」
クルトが「ああ…」と小さく声を漏らした。相当衝撃を受けたのだろう。
アレンは自分の手を見た。
「…俺はさっき、あの女の指を折った。力だけなら俺の方が明らかに上なのに、あの女を前にしたら身体が動かない」
フレデリカはアレンの頭を撫でた。
「それだけ怖かったんだね。あの女⸺アリシアは十九年前に帝都の郊外にあるスラムで保護した。精神を病んでいて、人間とは思えない程の力を得ていた」
「力…?」
「アレン、あんたの父親は魔人って言ったよね」
「そう、聞かされてる」
「言わなくても解るでしょうけど、あんたを孕んだという事は、アリシアと魔人の男は避妊に失敗した。魔人の体液を人体に注ぎ込んだらどうなると思う?これは過去にもある事例よ」
「…分からない」
フレデリカはクルトの方を向いた。
「あんたのお父さんは人間で、お母さんは猪頭族よね。獣人に人間の体液を注ぐと、人間の何かしらが感染る。猪頭族は知能が高くないけど、クルトのお母さんが頭良いのは人間の男と繋がったからよ」
フレデリカはアレンにおかしな形にひしゃげたドアノブを見せた。
「アリシアのあの腕でドアノブを壊せるのは、魔人とヤったから。それも、かなり強い魔人とね」
その時、ドアノブが落ちた。フレデリカは落ちたドアノブを拾って呟いた。
「アリシアの実家であるアルヴァ王家は魔人を差別していた。差別していた対象に孕まされて、望まぬ力を手に入れて…狂ってもおかしくないよね」
アレンは何も言わずに思考する。
(…強い魔人か…)
何れ敵対する事になるのだろう。女一人を恐れているようでは話にならない。
「言っておくけど、恐怖を克服しなくても良いからね」
まるでアレンの考えを見透かしたようなフレデリカの発言にアレンは戸惑い、警戒した。
「…何で」
「クルトもこれは聞いて欲しい。人は生まれながらに強さが決まってる。だけど、強い感情はその限界を壊す。そういう人達を私は何人も知ってるよ」
フレデリカはアレンの頭を撫でて言った。
「私は今、君にそういう感情がたったの一つでも在るのを知って安心した」
アレンは暫し沈黙するとフレデリカの手を頭から退けた。
「あれ、何だか優しい退け方だね」
「…疲れただけ」
フレデリカは思わずくすっと笑った。
「…何だよ」
「別にぃ?そうだ、あんたは笑わないから知らないだろうけど、笑い過ぎると顔が疲れるのよ。それと同じで強過ぎる感情は心を疲弊させる。適度な休憩が必要よ」
フレデリカは魔法で青いボーダー柄のパジャマを創り出すとアレンに渡した。
「ご飯の時間になったら起こすから、着替えて寝ておいで。扉は直しておくから心配しなくて良い。クルト、今から食材の買い出しに行くよ」
扉を魔法で直すフレデリカにクルトが返事をする。
「はい!それじゃあ行って来ますね」
二人が出て行き、着替えようと畳まれたパジャマを広げるアレンの顔が凍り付いた。
「…下着まであんのかよ」
サイズはぴったり。フレデリカに採寸された記憶は無いのに、これはどういう事だろう。
(後で問い詰めてやる)
食べ物を持って俺を生んだ女の元へ還ると、俺はいつも暴力を振られていた。殴って、蹴られて。包丁で刺された事も、熱湯を浴びせられた事もあった。その度に近隣の奴隷に助けられたが、彼らは皆嫌そうな顔をしていた。
「生まなきゃ良かった」
女は確かに俺にそう言っていた。女が喚く支離滅裂な単語を繋げた文章とは言えない文章の中に唯一あるまともな言葉。
当時の俺は言葉も分からなかったが、自分に向けられた女の殺意は苦痛だった。それから、多分怖かった。だから殺す気だったとはいえ、コーネリアスに挑んだのは間違いじゃないんだ。あの魔人の前で古銃を取り出したのは、俺の人生にとって最適解だったと今でも思う。もしも古銃を取り出していなかったら、今頃どうなっていたのか想像するだけでも嫌になる。たったの五年だけだったけど、あの白い魔人達と過ごした日々はきっと『幸せ』と言うのだろう。
幸せに溺れていた。物言わぬ獣だった癖に、優しさに絆されて、安らかに油断していたんだ。
「アレン?顔色が悪いぞ」
アーサーの声で我に帰る。
ぎこちない動きでアーサーの方を向くと、視界の端で女が動いた。
逃げなければならないのに、身体が動かない。
「坊や、こんな所に居たのね。帰りましょう」
女の細い腕がアレンの掌を掴む。その力は異様に強く、女の緑の瞳は明らかに正気ではなかった。
「嫌だ、離せ…っ!」
部屋へ引き摺り込もうと掌に絡みつく指を無理矢理剥がすと、女の枝のような細い指が何本か嫌な音を立てて曲がってはいけない方向へ曲がった。
「ギャアアアアアアア!」
「アレン、何やってるんだ!」
女は悲鳴を抑えると、表情を消して骨が飛び出たその手をこちらへ伸ばす。
「坊や、何でこんな事をするの。ねぇ」
普段のアレンなら「もう一回その指折るぞ」とでも言ったが、今はそんな余裕は無い。
アレンはその手を躱すと、女の方にアーサーを突き飛ばして走り出した。
階段を走って降りていると、騒ぎを聞き付けたマリアが二階まで上がって来ていた。アレンはマリアを見て思わずほっとする。
「悲鳴が聞こえたけど…って、あんた顔色悪いよ。休んできな。はい部屋の鍵、そこの奥ね」
「ありがとう…」
「私は上の階見てくるから」
アレンはマリアが階段を登って行くと急いで部屋に駆け込み、鍵を掛けた。
(何で、あの女が此処に…)
そう思った次の瞬間、マリアの怒鳴り声が響く。
「待ちなアリシア!」
続いて響く足音。
「坊や、坊や」
直ぐそこにアリシアが居る。アレンは口を手で押さえて呼吸音が漏れないようにした。しかしアリシアは扉の向こうに居るアレンの事が見えているかのように近付いてくる。
「坊や、出ておいで」
大きな音がしてドアノブが回る。
「ヒッ…!」
「坊や、おいで」
「アリシア、いい加減にしな!ドアノブが壊れたらどうするんだい!アーサー!アリシアを止めて!」
ドアノブをがちゃがちゃ鳴らす音が激しくなる。緑の瞳を血走らせた女の顔がアレンの脳裏に過る。
「ハ…ッ、ヒグっ…!…っ、ヒュッ…う、ぐっ…、は、ぁあ…!!はぁッは、ぁ…!」
胸を押さえて蹲ると、外からアーサーの怒鳴り声が響く。
「姉さん離れろ!マリア、増援を頼む。アレン、大丈夫か!」
アレンはおかしな呼吸を繰り返しながら身体を丸めた。理性は既に飛んでおり、常勝軍の一角を率いていたアレンは今や子供のように怯えるしか出来なかった。華々しい勝利と凱旋の中で風化していった恐怖がアレンを苛む。
扉がギシギシと音を立てた。あの枝のような指は何本か折ったが、何処からそんな力を出しているのだろう。
酸素が足りなくなり、意識が遠のく。意識を失えば何をされるか分かったもんじゃない。だがこうして意識を保っている今、扉は嫌な音を立てて開き始めていた。
「坊や~」
振り向かなければ良いのに、アレンは振り向いた。歪んだ扉の隙間から、女の緑の瞳が覗く。
「い、嫌だ…!」
隙間から女の手が入ってきた、瞬間。
「ほら、離れなさい。ほれ!」
続けて何かで人を叩く音。
アレンは忙しなく呼吸を繰り返しながら震える手でポーチに手を伸ばし、古銃を取り出す。
身体を起こして扉の方を向くと、震える指で弾を込めた。
そして音が止んで扉が開いた瞬間。
「危ないですねぇ」
発砲する前に銃は御祓棒によって弾き飛ばされていた。
飄々とした口調の白い着物を纏った人物がアレンに近付く。着物は返り血が付着しており、手に持っている御祓棒は赤く染まっている。床に女が倒れている事から、御祓棒で殴っていた事が伺える。
気狂い女じゃない事に安堵したアレンはそのままぐったり倒れ込んだ。
着物の人間がアレンの身体を起こした。
「過呼吸を起こしてますね。フレデリカ、そっちは私達〈桜狐〉がやります。あなたはこっちを」
アレンは入れ替わりで入って来た別の気狂い女に辟易とした。
フレデリカがアレンの背中をさする。
「吐きそう?ちょっと待って」
フレデリカは魔法で桶を創り出すとアレンに渡した。アレンはそれを受け取ると、何度か嘔吐いた後に何度も繰り返して吐き出す。
「ゔぅ、…うえ…」
桶が重たくなる頃、フレデリカはアレンの口元をハンカチで拭くと廊下に向かって言った。
「クルト、水持って来て!」
「はーい!」
フレデリカは桶を中身ごと焼却すると、アレンの背中をさすって落ち着かせた。
「アリシアは除霊師が連れて行ってくれたから安心して」
フレデリカは優しい笑顔でアレンの背を撫でながらも、心の中でアレンを詮索していた。
(アリシアは赤ちゃんの人形に青い鬘を被せて『坊や』とか言ってたけど…まさかアレンがその坊や?)
アレンが落ち着いてきた頃、クルトがコップを二つ持って来た。
「口濯ぐ用と、飲料水です」
フレデリカがもう一度桶を創り出すと、アレンに渡した。
「フレデリカさん、何の騒ぎだったんですか?」
「それはアレンに聞いた方が早いよ」
話を振られたアレンは口を濯ぎ終えると、もう吐き出す物は無いと言わんばかりに口を噤んだ。
「アレン、アリシアとはどういう関係?…あんた、黙ってたって何も分かんないよ?」
アレンは少し黙ったが、水を飲み干すと答えた。
「…俺を生んだ女。…殴られた事も蹴られた事も、刺された事もある」
クルトが「ああ…」と小さく声を漏らした。相当衝撃を受けたのだろう。
アレンは自分の手を見た。
「…俺はさっき、あの女の指を折った。力だけなら俺の方が明らかに上なのに、あの女を前にしたら身体が動かない」
フレデリカはアレンの頭を撫でた。
「それだけ怖かったんだね。あの女⸺アリシアは十九年前に帝都の郊外にあるスラムで保護した。精神を病んでいて、人間とは思えない程の力を得ていた」
「力…?」
「アレン、あんたの父親は魔人って言ったよね」
「そう、聞かされてる」
「言わなくても解るでしょうけど、あんたを孕んだという事は、アリシアと魔人の男は避妊に失敗した。魔人の体液を人体に注ぎ込んだらどうなると思う?これは過去にもある事例よ」
「…分からない」
フレデリカはクルトの方を向いた。
「あんたのお父さんは人間で、お母さんは猪頭族よね。獣人に人間の体液を注ぐと、人間の何かしらが感染る。猪頭族は知能が高くないけど、クルトのお母さんが頭良いのは人間の男と繋がったからよ」
フレデリカはアレンにおかしな形にひしゃげたドアノブを見せた。
「アリシアのあの腕でドアノブを壊せるのは、魔人とヤったから。それも、かなり強い魔人とね」
その時、ドアノブが落ちた。フレデリカは落ちたドアノブを拾って呟いた。
「アリシアの実家であるアルヴァ王家は魔人を差別していた。差別していた対象に孕まされて、望まぬ力を手に入れて…狂ってもおかしくないよね」
アレンは何も言わずに思考する。
(…強い魔人か…)
何れ敵対する事になるのだろう。女一人を恐れているようでは話にならない。
「言っておくけど、恐怖を克服しなくても良いからね」
まるでアレンの考えを見透かしたようなフレデリカの発言にアレンは戸惑い、警戒した。
「…何で」
「クルトもこれは聞いて欲しい。人は生まれながらに強さが決まってる。だけど、強い感情はその限界を壊す。そういう人達を私は何人も知ってるよ」
フレデリカはアレンの頭を撫でて言った。
「私は今、君にそういう感情がたったの一つでも在るのを知って安心した」
アレンは暫し沈黙するとフレデリカの手を頭から退けた。
「あれ、何だか優しい退け方だね」
「…疲れただけ」
フレデリカは思わずくすっと笑った。
「…何だよ」
「別にぃ?そうだ、あんたは笑わないから知らないだろうけど、笑い過ぎると顔が疲れるのよ。それと同じで強過ぎる感情は心を疲弊させる。適度な休憩が必要よ」
フレデリカは魔法で青いボーダー柄のパジャマを創り出すとアレンに渡した。
「ご飯の時間になったら起こすから、着替えて寝ておいで。扉は直しておくから心配しなくて良い。クルト、今から食材の買い出しに行くよ」
扉を魔法で直すフレデリカにクルトが返事をする。
「はい!それじゃあ行って来ますね」
二人が出て行き、着替えようと畳まれたパジャマを広げるアレンの顔が凍り付いた。
「…下着まであんのかよ」
サイズはぴったり。フレデリカに採寸された記憶は無いのに、これはどういう事だろう。
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