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第一章 狼の少女
62.掃討
しおりを挟む俺は早足で太った男に向かって歩く。
ルーンも後を付いて来る。
敵意や不信感は、悟られないようにしないとな。
太った男のすぐ傍まで近づき、俺は声を掛けた。
「すいません、僕らは今旅をしていまして。荷物持ちや、雑用をやってくれる人が欲しかったんですが...もしかして奴隷商の方ですか?」
中年の太った男は、俺に対してすぐに返事をする。
「ああそうだ。だがすまないね、ウチが扱う商品はちと高値でね。坊や達にはまだ早いようだ」
俺は努めて世間知らずの坊やを演技し、太った男に聞いた。
「おいくらですか?お金なら多少は...」
「一人金貨80枚だ。まあ二人セットなら150枚でいいが...どの道坊や達には払えないだろう?」
「...」
黙って男の話を聞いていた俺達に対して、男はさらに続ける
「また大きくなったら買いに来なさい。メイヴェリア領内で商売しているから、またどこかで会うこともあるだろう」
太った男はそう言って、話を切り上げようとした。
後ろのボディガードを思わせる男も、呑気に煙草に火を点けている。
...このデブには金貨を見せれば食いつくだろう。
300枚程でいいか。
俺は荷物を置き、例の魔法の財布を出し、中身がいくら入ってるかを表示させて、太った男に見せる。
任意の枚数を表示させられることは、過去にいろいろ実験して実証済みだった。
「よかったらその二人を譲ってくれませんか?この通りお金はありますので」
案の定、太った男は目を見開いて、財布に表示された300の文字を見る。
そしてコロッと態度を変えて、遜った物言いをする。
「これはこれは失礼致しました。高貴な方のご子息とお見受け致しましたが、ウチの商品で良ければすぐにでもお売り致します」
ウチの商品か...醜悪だな。
どうしようもない存在だな。
俺はなんとか敵意を抑えて、奴隷商に質問する。
「良かった。ところで、その奴隷二人はどうやって手に入れたんですか?」
それを聞いた奴隷商は、少し困った表情をして、歯切れの悪い返事をした。
「いやーその...。申し訳ございません。何分今後の商いにも差支える情報となりますので...。お客といえど、あのー...お教えすることは難しい形でございますので...」
まあそうだよなあ。
だが、大金には勝てまい。
「僕は奴隷商に興味があるんですよ。どうですか、教えてくれたら倍の、金貨300枚を出しますよ」
その申し出を聞いた奴隷商の目がひと際見開き、驚愕の表情となった。
食いついたことに内心ニヤリとした俺は、そのまま畳み掛ける。
「もちろんあなたの商売の邪魔をしようなんて考えてません。メイヴェリアの領地は広いし、少しお金を持ってるだけの僕がそれを知ったところで、どうにもなりませんよ」
俺はニコリとした笑顔を作り、奴隷商に対して再度告げる。
「どうですか?300枚出しますよ?」
さすがに大金をみすみす逃すのは惜しいと思ったのか、奴隷商は声を潜めて答えた。
「...実は夜の内にフトの街で攫って来ましてね。夜通し歩いてここまで来たところです」
太った男はニヤニヤしていた。
俺は低い声で返事した。
「...そうですか」
街から無理矢理連れ去ったとわかった以上、俺は殺意を抑えられなかった。
服が破れるのを厭わず、能力を使って目の前の奴隷商の頭部を、力任せに殴る。
頭部に大きな衝撃を受け、当然太った男は即死する。
問題は後ろのこいつだな...。
煙草を吸っていた男は驚いて硬直していたが、我に帰って咄嗟に剣を抜く。
俺は後ろのルーンに合図して、加勢は必要ない意図を伝え、剣を持った男に突進する。
動揺が見えるな。
...予め剣を抜いて警戒していれば、まともに応戦出来たかもな。
男は獣の様相で襲い掛かってくる俺に対して、動揺しながら剣を構えようとしたが、遅かった。
素早く接近した俺は、男の首に爪を立てて致命傷を与える。
血が噴き出すと同時に、男は反射的に手で首を押さえるが、煙草を落とし、そのまま崩れるように膝をついた。
そのまま横に倒れ、多量の出血の中で絶命した。
奴隷の二人は驚愕の表情で見ていたが、すぐに恐怖で顔が引きつる。
まあ怖いよな。
ルーンに頼むか。
俺はルーンを呼び寄せて、指示を出した。
「手錠を外すから、怖がらないように言ってくれ。それと」
「お兄ちゃんのことについて、他言しないように...でしょ」
「...そうだ」
ルーンが二人を安心させている間、俺は二人の男の所持品を漁る。
手錠の鍵と、魔法の財布やら魔道具らしきものを回収する。
一応食料も、もらっておくか。
...これじゃまるで強盗だな。
だが相手は力づくで女を攫って、手錠を掛け、奴隷として商品扱いするクズだ。
ここで始末しておけば、今後こいつらの被害に遭う者はいなくなる。
クズにはクズの対応を...。
筋が通ってるな、よし。
自己の行いを正当化し、自分に言い聞かせながら能力を解除する。
力を使った影響で疲労に襲われ、体がふらつく。
重い体をなんとか動かし、二人の女性に近づき、手錠を外してやった。
...まだ怯えてるな。
まあ躊躇なく人を殺すやつが目の前にいるんだから、そりゃ怖いよな。
丁寧な口調で安心させた方がいいかな。
二人の女性に対し、何か声を掛けようとした時、ルーンが顔を赤くして、ジトっとした目で俺を見て言った。
「お兄ちゃん、裸...」
「あ、そうだった」
俺はすぐに着替え、ルーンに相談した。
「これからどうしたらいいか...」
「とにかくお兄ちゃんは体を休めて!この二人も落ち着く時間が必要だよ」
「一旦休憩するか」
疲労が溜まった俺と、俺に対しての恐怖で怯えている二人。
俺達四人は、二体の死体がある場所から少し移動して、しばらくの時間を休憩した。
ルーンが何とか二人のケアをしてくれて、結論として、四人でフトに向かうことになった。
休憩後、俺が先頭を歩き、数歩後を三人が歩く形で出発する。
俺は歩きながら、回収した物のことを考えていた。
カネや食料はいいが、魔道具をどうするかだな。
街で売り払えば、盗品だとバレた時がやっかいだし、使い方もよくわからんし。
やっぱり軽くて小さい物以外は、捨てておくか。
回収した魔道具の一部を捨て、残った物の使い方を考えながら歩き続けた。
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