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第一章 狼の少女

58.王都を発つ

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 翌朝、俺達三人は宿で朝食を取り、チェックアウトをした。
 時刻は8時半頃。宿を出てそのままオークション会場に向かう。
 ルーンの手を引いて歩いていると、歩調に気持ちが表れていたのか、ルーンが話し掛けてきた。

「お兄ちゃん、嬉しそうだね!」

 俺は小声でルーンに答える。

「わかるか?もうすぐ大金が手に入ると思うと、ついな」
「お金を何千枚も持って歩くの?」
「いや、なんとか魔法の硬貨入れ袋を手に入れるよ」
「うん...」

 やはりルーンは心配してくれてるな。
 大丈夫だルーン。多少高価でも、いくらでも収納できる、魔法の袋を手に入れるつもりだからな。

 オークション会場に着き、メインエントランスから中に入る。
 受付カウンターにいる女性が俺達を見つけ、すぐに声を掛けてくれた。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、ナオフリート様」

 俺はすぐに挨拶をして、グリスベルを呼びだす。

「おはようございます。すいませんが、グリスベルさんはいらっしゃいますか?」
「すぐに呼び出しますので、奥の部屋でお待ちください」

 受付の女性はそう言って、俺達を前回と同じ応接室に案内してくれた。
 俺達三人は応接室に入り、ソファに腰掛けて待っていると、すぐにグリスベルがトレイにグラスを乗せてやって来た。

 今回はグリスベル自らがお茶汲みをやるのか。
 妙に笑顔だし、思いのほかオークションがうまくいったのかな。

 そう考えていると、グリスベルがグラスを俺達の前に置き、挨拶を始めた。

「おはようございます。ご来場頂きましてありがとうございます、ナオフリート様」

 俺もすぐに返答する。

「おはようございます、グリスベルさん。それで、早速ですが落札の方は?」
「はい。昨夜のオークションで無事落札されました。落札額は、金貨3500枚です!」
「3500枚も...」
「落札者の方がその場でお支払い頂きましたので、1割を差し引いた額の、金貨3150枚を用意させて頂きました」

 グリスベルはそう言って、呼び鈴を鳴らす。
 俺達が入って来た扉とは別の扉から、大量の金貨を乗せたワゴンというかカートを押して、例の秘書風の女性が入って来た。
 カートを所定の位置まで押すと、女性は丁寧に頭を下げ、退室する。
 金貨は全て整列されており、大量の金貨を目の前にして、俺は興奮を抑えきれなかった。

「すごいですね...!これを全て頂けるんですか?」
「勿論でございます、ナオフリート様。失礼ですが、金貨を収める専用の袋はお持ちですか?」

 俺は硬貨用の袋について聞こうとしていたことを、すっかり忘れていた。
 幸い向こうから聞いてくれたので、袋を購入してから金貨を受け取りたい旨を伝えた。

「それなんですが...、今この大量の金貨を収納できる袋を持ってません。なのでこの金貨の一部を使って、その袋を購入したいんですが、どこで売ってるか教えてもらえますか?」

 それを聞いたグリスベルは、ニコリとして眼鏡をクイッと上げ、スマイルを見せながら俺に言った。

「さようでございましたか、それは丁度良かったです」
「丁度良かった?」
「はい、こちらでご用意させて頂きました」

 グリスベルがそう言ってまた呼び鈴を鳴らす。
 すると、秘書の女性が両手で1つの袋を持って入室する。

 あれ、両手で袋を持ってるのに、どうやって扉を開けたんだ?

 などと、どうでもいいことを考えていると、秘書の女性が俺の前のテーブルに袋を置き、また頭を下げて退室する。
 それを見届けてから、グリスベルが説明を始めた。

「どうぞ、こちらをお使いください」
「これはありがたい、売って頂けるんですね」
「いいえ、お売りするのではなく、それは差し上げます」
「え...」

 驚いて言葉が続けられなかった。

 いいのか?これ結構高そうだぞ。
 たぶん高性能...かなりの枚数が収納できるであろうと思うが。
 見た目も結構綺麗な袋だな。落ち着いた色だし。

 見た目は深緑色をした、大きめの巾着袋に見える。
 口が大きめで、両手を悠々と入れることが出来るだろう。
 俺は念を押してグリスベルに聞いた。

「いいんですか?かなり高価な物と見受けますが」
「どうぞ、お納めください。正確な収納可能枚数はわかりませんが、少なくとも1000万枚以上は入ります。普段使用する分には問題無いかと」

 え、今1000万って言った?
 1000万枚ってことは...。
 金貨1,000枚を銀貨にして、100,000枚。
 銀貨100,000を銅貨にして、10,000,000枚。
 つまり、金貨1000枚を全て銅貨にしても入るってことか。
 ...桁が大きすぎてよくわからんな。まあ普段使いになんら問題無いか。

 枚数が大きすぎて、イメージが出来ない俺だったが、かなり高価な物だということはわかった。
 また念を押してグリスベルに聞く。

「しかし、こんな高価な物、本当にいいんですか?」
「今回の件で思いの外、当オークションの評判が上がりました。これはそのお礼でございます。出品者様へのお支払額とは別に、お受け取り下さい」
「...わかりました。そういうことであれば、ありがたく頂きます」

 俺は袋を手に取った。

 とうとう念願の硬貨袋...というか財布だな、手に入れたぞ。
 これはラッキーだな。
 船の情報といい、財布といい、簡単に...しかもタダで手に入った。
 さっそく試してみるか。

 財布を少し開き、カートの上にある金貨を1枚掴んで、財布に入れてみた。
 早速財布の中にある金貨の感触を確かめようとしたが、財布はスカスカで、何の感触も無い。

「おおっ!ほんとに消えた!」

 驚きのあまり、思わず声に出してしまっていた。

「わっ、すごい...」

 後ろで見ていたルーンも、驚いていた。

 で、財布の中の硬貨を出すときは...。

 俺は財布の中に手を入れて、頭の中で金貨1枚を思い浮かべると、手の中で確かに金貨1枚が現れた。

 なるほど、これは凄いな。

 関心しながら、カートの上の金貨を次々と財布に流し込む。
 次から次へと、財布に入った金貨は消えていった。
 ついでに手持ちの硬貨も入れておいた。

 全ての硬貨を入れ終えた後、ふとあることに気が付いた。

 あれ、待てよ。
 これって今現在、財布に何の硬貨が何枚入ってるかって、どうやってわかるんだ?
 まさか、毎回中身を全部出すんじゃないだろな。

 静止して考えていたら、そのことについてはグリスベルが説明してくれた。

「ナオフリート様、袋に手を入れたまま、金貨、銀貨、銅貨について思い浮かべてください」

 俺は言われた通りにやる。
 すると袋の表面に金貨、銀貨、銅貨の印と、印の右側にそれぞれの数字が表れた。

 なるほど、これが枚数か。これは便利だな。

 俺の動作を見ていたグリスベルが、補足説明をする。

「ナオフリート様、硬貨の出し入れと、枚数の確認は魔力を持った者にしか出来ません。しかし、ほんの僅かな魔力があれば大丈夫ですので、覚えておいてください」
「わかりました、ありがとうございます」

 改めてグリスベルに頭を下げて、お礼を述べた。

「グリスベルさん、どうもありがとうございました」

 俺がお礼を言うと、グリスベルはすぐに立ちあがって、笑顔で返事をする。

「とんでもございません。ナオフリート様、当オークションにご出品頂きまして、誠にありがとうございました。どうか次回も当オークションをご利用頂きますよう、何卒宜しくお願い致します」
「はい。次お宝を手に入れたら、またここに持ってきます!」

 手に持っていた財布を仕舞い、俺達三人はオークション会場を後にした。



 オークション会場を出てから、三人でワイバーン発着場に向かう。
 途中、行きに利用した焼き鳥屋を見つけたので、串を10本程買って広場で食うことにした。
 俺はベンチの真ん中に座り、左にルーン、右にティルが座る。

「ティル、報酬が遅くなってごめん。今払うから」
「待って。それはワイバーン飛行中にしましょ」
「わかった。じゃ焼き鳥を食うか」

 肉がなかなかでかい、焼き鳥の串。
 俺が4本で、ルーンとティルが3本ぐらい食えるだろうと10本買ったが、どうも二人とも3本も食えないらしく、俺が6本食うことになった。
 水を飲みながら、モシャモシャと焼き鳥を食う。

 焼き鳥が腹いっぱい食える...。
 大金を手に入れた後の焼き鳥は格別だな。
 ここの焼き鳥は、肉がでかい上にうまいな。
 この味付けはバーンズフォレストの家に帰ってもマネ出来るかな。

 ウィラル行きのワイバーン便については、事前にティルに聞いてある。
 今日の昼過ぎに離陸するとのことで、今の時間から考えると1時間程余裕があった。
 焼き鳥を食い終えた俺達は、ワイバーン発着場に行き、無事に王都を飛び立った。

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