あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

文字の大きさ
上 下
59 / 85
第一章 狼の少女

58.王都を発つ

しおりを挟む
 翌朝、俺達三人は宿で朝食を取り、チェックアウトをした。
 時刻は8時半頃。宿を出てそのままオークション会場に向かう。
 ルーンの手を引いて歩いていると、歩調に気持ちが表れていたのか、ルーンが話し掛けてきた。

「お兄ちゃん、嬉しそうだね!」

 俺は小声でルーンに答える。

「わかるか?もうすぐ大金が手に入ると思うと、ついな」
「お金を何千枚も持って歩くの?」
「いや、なんとか魔法の硬貨入れ袋を手に入れるよ」
「うん...」

 やはりルーンは心配してくれてるな。
 大丈夫だルーン。多少高価でも、いくらでも収納できる、魔法の袋を手に入れるつもりだからな。

 オークション会場に着き、メインエントランスから中に入る。
 受付カウンターにいる女性が俺達を見つけ、すぐに声を掛けてくれた。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、ナオフリート様」

 俺はすぐに挨拶をして、グリスベルを呼びだす。

「おはようございます。すいませんが、グリスベルさんはいらっしゃいますか?」
「すぐに呼び出しますので、奥の部屋でお待ちください」

 受付の女性はそう言って、俺達を前回と同じ応接室に案内してくれた。
 俺達三人は応接室に入り、ソファに腰掛けて待っていると、すぐにグリスベルがトレイにグラスを乗せてやって来た。

 今回はグリスベル自らがお茶汲みをやるのか。
 妙に笑顔だし、思いのほかオークションがうまくいったのかな。

 そう考えていると、グリスベルがグラスを俺達の前に置き、挨拶を始めた。

「おはようございます。ご来場頂きましてありがとうございます、ナオフリート様」

 俺もすぐに返答する。

「おはようございます、グリスベルさん。それで、早速ですが落札の方は?」
「はい。昨夜のオークションで無事落札されました。落札額は、金貨3500枚です!」
「3500枚も...」
「落札者の方がその場でお支払い頂きましたので、1割を差し引いた額の、金貨3150枚を用意させて頂きました」

 グリスベルはそう言って、呼び鈴を鳴らす。
 俺達が入って来た扉とは別の扉から、大量の金貨を乗せたワゴンというかカートを押して、例の秘書風の女性が入って来た。
 カートを所定の位置まで押すと、女性は丁寧に頭を下げ、退室する。
 金貨は全て整列されており、大量の金貨を目の前にして、俺は興奮を抑えきれなかった。

「すごいですね...!これを全て頂けるんですか?」
「勿論でございます、ナオフリート様。失礼ですが、金貨を収める専用の袋はお持ちですか?」

 俺は硬貨用の袋について聞こうとしていたことを、すっかり忘れていた。
 幸い向こうから聞いてくれたので、袋を購入してから金貨を受け取りたい旨を伝えた。

「それなんですが...、今この大量の金貨を収納できる袋を持ってません。なのでこの金貨の一部を使って、その袋を購入したいんですが、どこで売ってるか教えてもらえますか?」

 それを聞いたグリスベルは、ニコリとして眼鏡をクイッと上げ、スマイルを見せながら俺に言った。

「さようでございましたか、それは丁度良かったです」
「丁度良かった?」
「はい、こちらでご用意させて頂きました」

 グリスベルがそう言ってまた呼び鈴を鳴らす。
 すると、秘書の女性が両手で1つの袋を持って入室する。

 あれ、両手で袋を持ってるのに、どうやって扉を開けたんだ?

 などと、どうでもいいことを考えていると、秘書の女性が俺の前のテーブルに袋を置き、また頭を下げて退室する。
 それを見届けてから、グリスベルが説明を始めた。

「どうぞ、こちらをお使いください」
「これはありがたい、売って頂けるんですね」
「いいえ、お売りするのではなく、それは差し上げます」
「え...」

 驚いて言葉が続けられなかった。

 いいのか?これ結構高そうだぞ。
 たぶん高性能...かなりの枚数が収納できるであろうと思うが。
 見た目も結構綺麗な袋だな。落ち着いた色だし。

 見た目は深緑色をした、大きめの巾着袋に見える。
 口が大きめで、両手を悠々と入れることが出来るだろう。
 俺は念を押してグリスベルに聞いた。

「いいんですか?かなり高価な物と見受けますが」
「どうぞ、お納めください。正確な収納可能枚数はわかりませんが、少なくとも1000万枚以上は入ります。普段使用する分には問題無いかと」

 え、今1000万って言った?
 1000万枚ってことは...。
 金貨1,000枚を銀貨にして、100,000枚。
 銀貨100,000を銅貨にして、10,000,000枚。
 つまり、金貨1000枚を全て銅貨にしても入るってことか。
 ...桁が大きすぎてよくわからんな。まあ普段使いになんら問題無いか。

 枚数が大きすぎて、イメージが出来ない俺だったが、かなり高価な物だということはわかった。
 また念を押してグリスベルに聞く。

「しかし、こんな高価な物、本当にいいんですか?」
「今回の件で思いの外、当オークションの評判が上がりました。これはそのお礼でございます。出品者様へのお支払額とは別に、お受け取り下さい」
「...わかりました。そういうことであれば、ありがたく頂きます」

 俺は袋を手に取った。

 とうとう念願の硬貨袋...というか財布だな、手に入れたぞ。
 これはラッキーだな。
 船の情報といい、財布といい、簡単に...しかもタダで手に入った。
 さっそく試してみるか。

 財布を少し開き、カートの上にある金貨を1枚掴んで、財布に入れてみた。
 早速財布の中にある金貨の感触を確かめようとしたが、財布はスカスカで、何の感触も無い。

「おおっ!ほんとに消えた!」

 驚きのあまり、思わず声に出してしまっていた。

「わっ、すごい...」

 後ろで見ていたルーンも、驚いていた。

 で、財布の中の硬貨を出すときは...。

 俺は財布の中に手を入れて、頭の中で金貨1枚を思い浮かべると、手の中で確かに金貨1枚が現れた。

 なるほど、これは凄いな。

 関心しながら、カートの上の金貨を次々と財布に流し込む。
 次から次へと、財布に入った金貨は消えていった。
 ついでに手持ちの硬貨も入れておいた。

 全ての硬貨を入れ終えた後、ふとあることに気が付いた。

 あれ、待てよ。
 これって今現在、財布に何の硬貨が何枚入ってるかって、どうやってわかるんだ?
 まさか、毎回中身を全部出すんじゃないだろな。

 静止して考えていたら、そのことについてはグリスベルが説明してくれた。

「ナオフリート様、袋に手を入れたまま、金貨、銀貨、銅貨について思い浮かべてください」

 俺は言われた通りにやる。
 すると袋の表面に金貨、銀貨、銅貨の印と、印の右側にそれぞれの数字が表れた。

 なるほど、これが枚数か。これは便利だな。

 俺の動作を見ていたグリスベルが、補足説明をする。

「ナオフリート様、硬貨の出し入れと、枚数の確認は魔力を持った者にしか出来ません。しかし、ほんの僅かな魔力があれば大丈夫ですので、覚えておいてください」
「わかりました、ありがとうございます」

 改めてグリスベルに頭を下げて、お礼を述べた。

「グリスベルさん、どうもありがとうございました」

 俺がお礼を言うと、グリスベルはすぐに立ちあがって、笑顔で返事をする。

「とんでもございません。ナオフリート様、当オークションにご出品頂きまして、誠にありがとうございました。どうか次回も当オークションをご利用頂きますよう、何卒宜しくお願い致します」
「はい。次お宝を手に入れたら、またここに持ってきます!」

 手に持っていた財布を仕舞い、俺達三人はオークション会場を後にした。



 オークション会場を出てから、三人でワイバーン発着場に向かう。
 途中、行きに利用した焼き鳥屋を見つけたので、串を10本程買って広場で食うことにした。
 俺はベンチの真ん中に座り、左にルーン、右にティルが座る。

「ティル、報酬が遅くなってごめん。今払うから」
「待って。それはワイバーン飛行中にしましょ」
「わかった。じゃ焼き鳥を食うか」

 肉がなかなかでかい、焼き鳥の串。
 俺が4本で、ルーンとティルが3本ぐらい食えるだろうと10本買ったが、どうも二人とも3本も食えないらしく、俺が6本食うことになった。
 水を飲みながら、モシャモシャと焼き鳥を食う。

 焼き鳥が腹いっぱい食える...。
 大金を手に入れた後の焼き鳥は格別だな。
 ここの焼き鳥は、肉がでかい上にうまいな。
 この味付けはバーンズフォレストの家に帰ってもマネ出来るかな。

 ウィラル行きのワイバーン便については、事前にティルに聞いてある。
 今日の昼過ぎに離陸するとのことで、今の時間から考えると1時間程余裕があった。
 焼き鳥を食い終えた俺達は、ワイバーン発着場に行き、無事に王都を飛び立った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...