あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

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第一章 狼の少女

57.王都観光

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 花屋の店内、カウンター内側には温厚そうな老夫婦がいる。
 おそらく夫婦で花屋を営んでいるのだろうと見てとれる。
 カウンター内側にいる、白いひげを生やした老齢の男性は、店内でキョロキョロしている俺に声を掛けた。

「いらっしゃいませ。何かお探しですかな」

 絵画を見ていた俺は、すぐに白い花について聞いた。

「すいません、この絵に描かれている花なんですが...」
「ああ、その絵の花ですか。申し訳ないが、うちの店には置いてないんだよ」

 店員の答えを聞いて、俺は少し落胆した。

 やはりこの店には置いてなかったか...。
 まあいいか。せめて花の名前と、どこに咲いているかの情報だけ聞いておくか。

 店内の花を見て回ってるティルとルーンを一瞥し、再び店員に聞いた。

「この花の名前と、どこに咲いているかを教えて頂けますか?」
「それが...私も詳しくは知らなくてね。その絵は何年か前にバザーで買ったんだよ」
「そうですか...」

 俺はまた落胆したが、店員の老人が続けて話してくれた。

「ただ、いつだったか...あるお客さんが言ってたような気もするなぁ。その絵の花は、ここから北東にある島で自生している白い花によく似てるって。島からその白い花を持ち出そうとすると、必ず枯れてしまう不思議な花とか...」
「この王都から北東に島があるんですか?」
「ああ。王都東にある港街のフトから、その島に向けて船が出ているよ」
「わかりました。ありがとうございます」

 花は無く、花の名前をわからなかったが、まったくの無収穫では無かったな。
 自生しているであろう場所はわかった。まあ確実な情報ではないけど...。

 店内の花を見て回るルーンとティルに、欲しい花を買おうと言ったが、二人とも荷物になるだけだと丁寧に断られた。

 まあそれもそうだな。今からすぐ近くの自宅に持って帰るならいいけど、旅の途中みたいなもんだしな。

 時刻は15時頃。
 花屋を出た俺達は、ティルに案内されて宿を取りに行った。
 硬貨を増やしたくないことに加えて、近いうちに大金が手に入る為、金貨1枚使ってそこそこの宿に泊まることにした。
 部屋は1Lにバストイレ付といった感じで、大きなベッドが設置してある10畳程の部屋が1つと、その隣にソファ・テーブル・イスが設置してある12畳程のリビングダイニングっぽい部屋、それにトイレと水浴びが出来る部屋が、それぞれ付いていた。

 やっぱり金貨1枚の宿だと結構広いな。これなら寛げそうだ。

 夕飯と朝食も付いている宿泊プランで、15時半頃にチェックイン手続きをした。
 宿が用意してくれる夕飯まで時間があったが、俺達三人は部屋で休むことにした。
 リビングダイニングの部屋で、俺はソファにだらっと体重を預け、俺の隣にいるルーンとイスに座っているティルに話し掛けた。

「なあ、明日の夜に俺達はオークション会場にいなくてもいいんだよな。だったら明日は終日自由な時間になるけど...何する?」

 俺に体重を預けて抱きついているルーンは、すぐに答えた。

「私はお兄ちゃんと一緒だったらどこでもいいよ!」

 ティルも続いて答えた。

「私もどこでもいい。ただ、人ごみの中だと少し危険度は増すかも...」

 二人ともどこでもいいときたか。
 さて、どこに行こうかな。
 まあゆっくり考えるか、明日になってから決めてもいいしな。

 宿の従業員が豪華な夕飯を持って来て、三人で楽しい夕飯の時間を過ごした。



 夕飯後にまったりと部屋で過ごす。
 いつもなら、トイレに行くときは俺と一緒に行くルーンだったが、今夜はトイレ付きの部屋にティルと一緒にいる為か、一人でトイレに行っているようだった。
 しかし、水浴びの時はティルを居間に残し、俺とルーンで水浴びをした。
 就寝の際はキングサイズベッドに三人で横になる。

 この大きさだと...この部屋は、本来は夫婦用の部屋なのかな。
 三人で寝ると、ほんの少し狭いくらいか。

 ベッドの真ん中に俺が横になり。右腕側にティルが、左腕側にルーンがいる。
 ルーンはいつも通り、俺にベタッとくっついている。

 ティルが右にいるのは、この部屋の出入り口に近いからか。
 まあさすがにこの宿を襲う賊はいないと思うが。
 従業員の数も多かったしな。

 そこそこクラスの宿なので、セキュリティについては安心できると考えていた。
 それでも一応ティルに声を掛けて、寝ることにした。

「ティル、警戒してくれてありがとな。あと同じベッドで寝ることになってごめん。嫌だったら俺達はソファで寝るけど...」
「別に、嫌じゃない」
「この宿はたぶん大丈夫だよ。ゆっくり休んでくれ」
「わかった、ありがとう」

 ティルの返事を聞いていると、気を遣ってる感じでは無さそうだった。

 これは、就寝は同じベッドでオッケー、ぐらいまでは好感があるってことなのかな。
 ウィラルで出会った時は、俺に裸姿をまじまじと眺められてたってのに、嫌われなくてよかった...。

 俺はルーンに声を掛け、眠りにつくことにした。

「おやすみ、ルーン」
「おやすみなさい、お兄ちゃん」

 いつもの声を聞き、いつものルーンの体温を感じ、安心して眠りについた。




 翌日、俺達三人は宿で朝食を取った後、受付で金貨をもう1枚払って、同じ部屋を取った。
 それから三人で外出し、午前中はバザーや衣料品店、教会などを回った。
 その後は大衆食堂で昼食を取り、午後には武器屋や道具屋、魔法や錬金術用の道具を扱う専門店などを見て回る。
 夕方に喫茶店に寄り、三人であれやこれやと話をする。

 よかった...支出は概ね予測通りだ。
 計算して硬貨を使ったから、手持ちの枚数はそんなに多く無いな。

 今の所持金は、金貨2枚と銀貨が15枚になっていた。

 今日は一日中楽しかったな。
 ルーンもティルも喜んでたし、可愛い女の子二人連れて王都を回って、俺も楽しかった。
 明日は大金が手に入るし、特に刺客や賊がいるわけでもないし、やっぱり王都に来てよかった。

 その日も同じ宿で夕飯を取り、同じ夜を過ごす。
 ティルが右側、ルーンが左側で、俺が真ん中に横になる。
 ベタッとくっついて来たルーンに、いつものように声を掛けた。

「おやすみ、ルーン」
「おやすみなさい、お兄ちゃん」

 ルーンは両腕を回して、俺の左腕を抱きかかえる。
 俺の左腕が、ルーンの抱き枕のようになっていた。

 さて、明日は朝食を取った後でオークション会場に行くか。
 落札されていれば、大金が手に入るな。
 落札者がいなくても、オークション側が買い取ってくれる。
 もし万が一盗難等があったら、補償金としてさらに多くの金貨が手に入るが...。まあそれは無いか。
 あのグリスベルが取り扱う以上、破損や紛失、盗難といった事件の発生は無いだろう。

 ドラヒルもやり手だと認めていたグリスベル。俺は実際に目の前で彼を見て、信頼できる人物だと思っていた。

 金貨が手に入ったら、まずは硬貨専用の魔法の袋だな。
 何千枚もの硬貨を持って移動するのは...危険すぎる。
 そして何より鬱陶しいことこの上ない。

 オークション側から金貨を受け取る前に、硬貨用の袋を手に入れるにはどうしたらいいかと考えながら、俺の意識は薄れていった。
 何かあったらティルが対応してくれるだろう、という意識に加えて、ルーンが傍にいてリラックスした状態だったのだろう。俺は眠りについた。

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