56 / 85
第一章 狼の少女
55.ギルドの紹介
しおりを挟む
俺達三人はとりあえず、ワイバーン発着場から西側の、王都の中央へ向けて歩き出した。
先頭はティルが歩き、俺はルーンの手を引いて後に続く。
ウィラルの街からガシュレットが手配した賊は...いないようだな。
この世界に携帯電話とかあるわけじゃなさそうだが、それに似た魔道具があるかもしれない。
一応油断はしないでおこう。
「ルーン、念のため油断するなよ」
「うん...。お兄ちゃんは私が守るからっ!」
「ありがとな」
俺とルーンはキョロキョロと、王都の街並みを眺めながらティルに聞いた。
「今更だが、ティルは王都に詳しいんだな」
「そうね。何度かここで仕事したから」
仕事...。
まあ詮索はやめておくか、護衛を依頼してるだけだしな。
「良かった。じゃあまずはギルドまで案内を頼む」
「わかったわ」
ティルはそう答え、先導してくれた。
10分程歩くと、王都中央にある広場に着く。
中央には大きな男性の像があり、その足元から外側に向かって水が噴き出して、広々とした噴水となっていた。
比較的高齢の人が、像に祈っている姿が見えた。
あの像は...たぶん初代国王かな?
広場では多くの人が行き交っていて、噴水の周りにいくつもあるベンチには、多くの人が座っている。
人が多いせいか、ルーンは警戒しているようだった。
ゆっくりと気を抜いて、観光を楽しめたらよかったのになぁ。
まあしょうがないか。
広場から伸びる大通りを南に歩いていると、道の両脇に多くの露店が出ているのが目に入る。
バザーや屋台も結構あるな。
なんかいい匂いが...あれは焼き鳥屋か?
俺は白い煙といい匂いを感じ、焼き鳥屋らしき屋台を見つけた。
串に刺した肉を網の上で焼いている。どう見ても焼き鳥にしか見えなかった。
銀貨は残り28枚か。まあ焼き鳥ぐらい買えるだろう。
俺はルーンとティルに声を掛けて、焼き鳥屋の屋台に近づく。
ふむふむ...銀貨1枚で、1本か。
おや、銀貨5枚で7本のセットがあるじゃん。
屋台の食い物だとちょっと不安だが、俺の他に何人も客がいるし、まあ大丈夫だろう。
これは買いだな。
銀貨5枚を渡し、焼き鳥7本を持って戻る。
さて、これはルーンに3本食わすか。
「一人は3本食えるぞ。ルーン、食え食え」
俺はルーンに3本渡そうとしたが、ルーンは2本だけ受け取った。
「ありがとう。お兄ちゃんが食べて」
「2本でいいのか?じゃあティルどうぞ」
「私は1本でいい」
「嫌いなのか?」
「そうじゃないけど...」
「じゃあ俺が3本食うから残りの2本はティルが食ってくれ」
「...ありがとう」
「串の肉を食いながら歩くのは危険だな。一旦腰を下ろして食うか」
大通りには、ベンチとゴミ箱がセットで設置されている場所がいくつもあった。
近くのベンチに三人で腰を下ろし、焼き鳥をモグモグと食う。
うーむ、タレが効いていてなかなかうまい。
思ってたより肉がでかいな。これはありがたい。
俺達は焼き鳥を食って少し休憩し、串をゴミ箱に捨ててから、また歩き出した。
30分程歩くと、ひと際大きな建物に着いた。
目の前の建築物について、ティルが説明する。
「ここが王都のギルド本部よ」
「大きいな...」
俺が感想を漏らすと、ティルが続ける。
「キースライトの原石を高く売るのよね?顔見知りがいるから、私が話しをつけて来るわ」
「あ、ついでにこれも渡してくれるか」
ギルコードのおっさんから受け取った手紙を、ティルに渡した。
ティルは手紙を受け取り、建物に入って行く。
...。
ギルド本部の前で、俺とルーンはぼーっと待つ。
俺はルーンに小声で話し掛けた。
「ルーン、ごめんな。ゆっくりと街を見て回れば良かったんだけど。キースライトの原石があんなに高価な物だと思わなかった。警戒しないといけないから、観光どころじゃないよな」
「...私はお兄ちゃんが無事なら、それでいい」
俺の手を握っているルーンの手に、ぎゅっと力が入る。
「さっさと石を売って、あの家に帰るか」
「...うん」
バーンズフォレストは結構広大な森で、じいちゃんが暮らしていたあの家を特定するのは、まず不可能だろう。
石を売って、船の情報と、魔法の指南書と、それからうまいメシでも食ったらもう帰るか。
10分程経過すると、ティルと体格のいい老年の男が出て来た。
ティルは俺達の前で説明する。
「こちらが副ギルド長の、ドラヒルさんよ」
老年の男、ドラヒルは俺達に向かって頭を下げる。
「初めまして、副ギルド長のドラヒルと申します。手紙を拝見させて頂きました。いやー、元領主であるギルコードさんの頼みとあらば、喜んで引き受けさせて頂きます。キースライトの原石はオークションにかけるということで、よろしいでしょうか」
「あ、はい。ナオフリートです。こっちはルーン」
俺は反射的に返事をしていた。
ギルコードのおっさんって、元領主だったのか...。
そう見えなかったけど、優秀な人なのかな。
そんなことを考えてると、ティルが俺の耳元で囁く。
「辺境領主だけどね」
...なるほど、ウィラルは辺境だからな。
ドラヒルは話を続ける。
「ではナオフリート様、オークション会場はギルド本部のすぐ裏手です。私どものほうでオークショニアに話を付けさせて頂きますので、こちらへどうぞ」
ドラヒルに案内され、俺達三人はオークション会場に向かう。
しかし、ティルは信用出来るが、このドラヒルってやつは信用出来るのかな?
一応ギルドの副長で、今回は元辺境領主ギルコードの手紙があるから、まさか騙すようなマネはしないと思うが。
俺がそのことについて、ティルの耳元で小声で聞くと、ティルもまたぼそぼそと、俺とルーンに言った。
「大丈夫。ドラヒルさんは信用できるわよ」
「...よかった。なら安心だな」
俺がティルにそう返事すると、ルーンがぎゅっと手を握って俺に笑顔を向けた。
いつものルーンの洞察力が、ドラヒルは信用できると告げているらしい。
ものの数分歩くとオークション会場に着き、メインエントランスから中に入ると受付カウンターにいる女性が、すぐにドラヒルに駆け寄って来る。
「いらっしゃいませ、ドラヒル様。本日はどうされました?」
「ああ、すまんがグリスベルを呼んでくれるか?出品したいお客様がいるんだ」
「畏まりました」
受付の女性がカウンター奥の部屋へ入ると、すぐに若い男が出て来た。
眼鏡をかけた細身のイケメン風好青年で、かなり聡明そうに見えた。
年は18歳あたりか?
某一流大学のインテリを思わせるな。
なるほど、やり手のオークショニアってことか。
グリスベルと思わしき青年は、ドラヒルの傍に駆け寄り、頭を下げて恭しく挨拶をする。
「ドラヒル様、いらっしゃいませ。受付の者が気が利かずに失礼しました。お連れの方共々、奥の部屋へどうぞ」
「いやいや、ここの従業員は皆よくやっとるよ。グリスベル、普段の君の教育が良いと見えるな」
「ありがとうございます」
グリスベルと話していたドラヒルが、振り返って俺達三人に声を掛ける。
「とりあえず奥の部屋へ行きましょう」
グリスベルに案内され、ドラヒルを含めた俺達四人は応接室に入る。
応接室の中は高級品だらけだった。
高級ソファに、高級テーブル、花瓶の価値はわからんが、おそらく高級品だろうな。
花瓶は価値がわからんだけに怖いな。割ったらものすごい額になりそう。
カネのかかった部屋にあっけに取られていると、グリスベルがソファを勧める。
「ドラヒル様、お客様。どうぞお掛け下さい」
俺は高級ソファの真ん中に座り、左側に手を繋いだルーン、右側にティルが座る。
ふかふかのソファじゃん。黒に近い深緑のいい色で、座り心地もいい。
テーブルも黒檀か紫檀か、落ち着いたいい色を出してるな。
ドラヒルは俺達と対面の、グリスベルの隣のソファに座って言った。
「私はここでいい。今回はこちらの方が出品者様でな」
それを聞いたグリスベルもソファに座り、俺達から見て右側にいる、ドラヒルに返事をする。
「左様でございましたか、ドラヒル様」
グリスベルは俺達の方に向き直り、挨拶をした。
「申し遅れました、私は当オークションのオークショニア、グリスベルと申します。出品に際して、何なりとお申し付けください」
ドラヒルが俺達三人に向かって、笑顔で付け足す。
「このグリスベルはかなりのやり手でな、彼に依頼すれば安心ですよ」
「恐れ入ります」
グリスベルがそう言った後、俺達も名前を名乗った。
そして、本題のオークションについて聞こうとしたら、応接室の扉をノックする音が聞こえた。
すぐに秘書風の女性が、四角いトレイにグラスを5つ乗せて応接室に入って来た。
「失礼致します」
女性がそう言って、グラスを俺の前のテーブルに置く。続いてルーン、ティル、ドラヒル、グリスベルの順にグラスを置いていった。
なんで順番がわかったんだ?
この秘書風の女も、出来るな。
...そして四角いトレイも高そうだな。
「失礼致しました」
女性が出ていき、グリスベルが話しを始める。
「して、今回はどのような品物でございますか?」
ドラヒルが笑顔で答える。
「それがキースライトの原石でな。まあ、私もまだ実物は見てないんだが。物が物だけに、こういう場ではないと危ないのでな」
ドラヒルが言い終わると同時に、俺はキースライトの原石を取り出し、テーブルの上に置いた。
グリスベルとドラヒルが目を見開いて、驚愕の表情を浮かべる。
先に言葉を出したのはドラヒルだった。
「なるほど...。これは素晴らしい。ギルコードさんが依頼するのも納得しました」
次いで、グリスベルも言葉を出す。
「...これ程の一品は滅多に出品されませんね。失礼ですが、手に取って見てもよろしいでしょうか?」
両手に白いシルクの手袋をはめて、グリスベルが俺に聞く。
「どうぞ」
俺が答えると、グリスベルは鉱石を持ち上げ、目の前でまじまじと観察した。
その様子を見ていたドラヒルが、上機嫌でグリスベルに聞く。
「どうかね、おおよそどれぐらいの値がつくかな?」
グリスベルは少し鉱石を見ながら考え、静かに答えた。
「おそらくですが...最低3000、状況によっては3500はいくかと」
それを聞いた俺は、顔には出さなかったが歓喜していた。
3500て金貨3500枚だよな?
そんな値が付くのか...。やっぱ王族が買うんだろうな。
金貨3500枚も手に入れたら、豪遊し放題じゃん!
ほぼギルコードが言った通りの金額だったが、実際にオークショニアが目の前で言うと現実味があり、大金が手に入るというワクワクが抑えられなかった。
先頭はティルが歩き、俺はルーンの手を引いて後に続く。
ウィラルの街からガシュレットが手配した賊は...いないようだな。
この世界に携帯電話とかあるわけじゃなさそうだが、それに似た魔道具があるかもしれない。
一応油断はしないでおこう。
「ルーン、念のため油断するなよ」
「うん...。お兄ちゃんは私が守るからっ!」
「ありがとな」
俺とルーンはキョロキョロと、王都の街並みを眺めながらティルに聞いた。
「今更だが、ティルは王都に詳しいんだな」
「そうね。何度かここで仕事したから」
仕事...。
まあ詮索はやめておくか、護衛を依頼してるだけだしな。
「良かった。じゃあまずはギルドまで案内を頼む」
「わかったわ」
ティルはそう答え、先導してくれた。
10分程歩くと、王都中央にある広場に着く。
中央には大きな男性の像があり、その足元から外側に向かって水が噴き出して、広々とした噴水となっていた。
比較的高齢の人が、像に祈っている姿が見えた。
あの像は...たぶん初代国王かな?
広場では多くの人が行き交っていて、噴水の周りにいくつもあるベンチには、多くの人が座っている。
人が多いせいか、ルーンは警戒しているようだった。
ゆっくりと気を抜いて、観光を楽しめたらよかったのになぁ。
まあしょうがないか。
広場から伸びる大通りを南に歩いていると、道の両脇に多くの露店が出ているのが目に入る。
バザーや屋台も結構あるな。
なんかいい匂いが...あれは焼き鳥屋か?
俺は白い煙といい匂いを感じ、焼き鳥屋らしき屋台を見つけた。
串に刺した肉を網の上で焼いている。どう見ても焼き鳥にしか見えなかった。
銀貨は残り28枚か。まあ焼き鳥ぐらい買えるだろう。
俺はルーンとティルに声を掛けて、焼き鳥屋の屋台に近づく。
ふむふむ...銀貨1枚で、1本か。
おや、銀貨5枚で7本のセットがあるじゃん。
屋台の食い物だとちょっと不安だが、俺の他に何人も客がいるし、まあ大丈夫だろう。
これは買いだな。
銀貨5枚を渡し、焼き鳥7本を持って戻る。
さて、これはルーンに3本食わすか。
「一人は3本食えるぞ。ルーン、食え食え」
俺はルーンに3本渡そうとしたが、ルーンは2本だけ受け取った。
「ありがとう。お兄ちゃんが食べて」
「2本でいいのか?じゃあティルどうぞ」
「私は1本でいい」
「嫌いなのか?」
「そうじゃないけど...」
「じゃあ俺が3本食うから残りの2本はティルが食ってくれ」
「...ありがとう」
「串の肉を食いながら歩くのは危険だな。一旦腰を下ろして食うか」
大通りには、ベンチとゴミ箱がセットで設置されている場所がいくつもあった。
近くのベンチに三人で腰を下ろし、焼き鳥をモグモグと食う。
うーむ、タレが効いていてなかなかうまい。
思ってたより肉がでかいな。これはありがたい。
俺達は焼き鳥を食って少し休憩し、串をゴミ箱に捨ててから、また歩き出した。
30分程歩くと、ひと際大きな建物に着いた。
目の前の建築物について、ティルが説明する。
「ここが王都のギルド本部よ」
「大きいな...」
俺が感想を漏らすと、ティルが続ける。
「キースライトの原石を高く売るのよね?顔見知りがいるから、私が話しをつけて来るわ」
「あ、ついでにこれも渡してくれるか」
ギルコードのおっさんから受け取った手紙を、ティルに渡した。
ティルは手紙を受け取り、建物に入って行く。
...。
ギルド本部の前で、俺とルーンはぼーっと待つ。
俺はルーンに小声で話し掛けた。
「ルーン、ごめんな。ゆっくりと街を見て回れば良かったんだけど。キースライトの原石があんなに高価な物だと思わなかった。警戒しないといけないから、観光どころじゃないよな」
「...私はお兄ちゃんが無事なら、それでいい」
俺の手を握っているルーンの手に、ぎゅっと力が入る。
「さっさと石を売って、あの家に帰るか」
「...うん」
バーンズフォレストは結構広大な森で、じいちゃんが暮らしていたあの家を特定するのは、まず不可能だろう。
石を売って、船の情報と、魔法の指南書と、それからうまいメシでも食ったらもう帰るか。
10分程経過すると、ティルと体格のいい老年の男が出て来た。
ティルは俺達の前で説明する。
「こちらが副ギルド長の、ドラヒルさんよ」
老年の男、ドラヒルは俺達に向かって頭を下げる。
「初めまして、副ギルド長のドラヒルと申します。手紙を拝見させて頂きました。いやー、元領主であるギルコードさんの頼みとあらば、喜んで引き受けさせて頂きます。キースライトの原石はオークションにかけるということで、よろしいでしょうか」
「あ、はい。ナオフリートです。こっちはルーン」
俺は反射的に返事をしていた。
ギルコードのおっさんって、元領主だったのか...。
そう見えなかったけど、優秀な人なのかな。
そんなことを考えてると、ティルが俺の耳元で囁く。
「辺境領主だけどね」
...なるほど、ウィラルは辺境だからな。
ドラヒルは話を続ける。
「ではナオフリート様、オークション会場はギルド本部のすぐ裏手です。私どものほうでオークショニアに話を付けさせて頂きますので、こちらへどうぞ」
ドラヒルに案内され、俺達三人はオークション会場に向かう。
しかし、ティルは信用出来るが、このドラヒルってやつは信用出来るのかな?
一応ギルドの副長で、今回は元辺境領主ギルコードの手紙があるから、まさか騙すようなマネはしないと思うが。
俺がそのことについて、ティルの耳元で小声で聞くと、ティルもまたぼそぼそと、俺とルーンに言った。
「大丈夫。ドラヒルさんは信用できるわよ」
「...よかった。なら安心だな」
俺がティルにそう返事すると、ルーンがぎゅっと手を握って俺に笑顔を向けた。
いつものルーンの洞察力が、ドラヒルは信用できると告げているらしい。
ものの数分歩くとオークション会場に着き、メインエントランスから中に入ると受付カウンターにいる女性が、すぐにドラヒルに駆け寄って来る。
「いらっしゃいませ、ドラヒル様。本日はどうされました?」
「ああ、すまんがグリスベルを呼んでくれるか?出品したいお客様がいるんだ」
「畏まりました」
受付の女性がカウンター奥の部屋へ入ると、すぐに若い男が出て来た。
眼鏡をかけた細身のイケメン風好青年で、かなり聡明そうに見えた。
年は18歳あたりか?
某一流大学のインテリを思わせるな。
なるほど、やり手のオークショニアってことか。
グリスベルと思わしき青年は、ドラヒルの傍に駆け寄り、頭を下げて恭しく挨拶をする。
「ドラヒル様、いらっしゃいませ。受付の者が気が利かずに失礼しました。お連れの方共々、奥の部屋へどうぞ」
「いやいや、ここの従業員は皆よくやっとるよ。グリスベル、普段の君の教育が良いと見えるな」
「ありがとうございます」
グリスベルと話していたドラヒルが、振り返って俺達三人に声を掛ける。
「とりあえず奥の部屋へ行きましょう」
グリスベルに案内され、ドラヒルを含めた俺達四人は応接室に入る。
応接室の中は高級品だらけだった。
高級ソファに、高級テーブル、花瓶の価値はわからんが、おそらく高級品だろうな。
花瓶は価値がわからんだけに怖いな。割ったらものすごい額になりそう。
カネのかかった部屋にあっけに取られていると、グリスベルがソファを勧める。
「ドラヒル様、お客様。どうぞお掛け下さい」
俺は高級ソファの真ん中に座り、左側に手を繋いだルーン、右側にティルが座る。
ふかふかのソファじゃん。黒に近い深緑のいい色で、座り心地もいい。
テーブルも黒檀か紫檀か、落ち着いたいい色を出してるな。
ドラヒルは俺達と対面の、グリスベルの隣のソファに座って言った。
「私はここでいい。今回はこちらの方が出品者様でな」
それを聞いたグリスベルもソファに座り、俺達から見て右側にいる、ドラヒルに返事をする。
「左様でございましたか、ドラヒル様」
グリスベルは俺達の方に向き直り、挨拶をした。
「申し遅れました、私は当オークションのオークショニア、グリスベルと申します。出品に際して、何なりとお申し付けください」
ドラヒルが俺達三人に向かって、笑顔で付け足す。
「このグリスベルはかなりのやり手でな、彼に依頼すれば安心ですよ」
「恐れ入ります」
グリスベルがそう言った後、俺達も名前を名乗った。
そして、本題のオークションについて聞こうとしたら、応接室の扉をノックする音が聞こえた。
すぐに秘書風の女性が、四角いトレイにグラスを5つ乗せて応接室に入って来た。
「失礼致します」
女性がそう言って、グラスを俺の前のテーブルに置く。続いてルーン、ティル、ドラヒル、グリスベルの順にグラスを置いていった。
なんで順番がわかったんだ?
この秘書風の女も、出来るな。
...そして四角いトレイも高そうだな。
「失礼致しました」
女性が出ていき、グリスベルが話しを始める。
「して、今回はどのような品物でございますか?」
ドラヒルが笑顔で答える。
「それがキースライトの原石でな。まあ、私もまだ実物は見てないんだが。物が物だけに、こういう場ではないと危ないのでな」
ドラヒルが言い終わると同時に、俺はキースライトの原石を取り出し、テーブルの上に置いた。
グリスベルとドラヒルが目を見開いて、驚愕の表情を浮かべる。
先に言葉を出したのはドラヒルだった。
「なるほど...。これは素晴らしい。ギルコードさんが依頼するのも納得しました」
次いで、グリスベルも言葉を出す。
「...これ程の一品は滅多に出品されませんね。失礼ですが、手に取って見てもよろしいでしょうか?」
両手に白いシルクの手袋をはめて、グリスベルが俺に聞く。
「どうぞ」
俺が答えると、グリスベルは鉱石を持ち上げ、目の前でまじまじと観察した。
その様子を見ていたドラヒルが、上機嫌でグリスベルに聞く。
「どうかね、おおよそどれぐらいの値がつくかな?」
グリスベルは少し鉱石を見ながら考え、静かに答えた。
「おそらくですが...最低3000、状況によっては3500はいくかと」
それを聞いた俺は、顔には出さなかったが歓喜していた。
3500て金貨3500枚だよな?
そんな値が付くのか...。やっぱ王族が買うんだろうな。
金貨3500枚も手に入れたら、豪遊し放題じゃん!
ほぼギルコードが言った通りの金額だったが、実際にオークショニアが目の前で言うと現実味があり、大金が手に入るというワクワクが抑えられなかった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる