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第一章 狼の少女

55.ギルドの紹介

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 俺達三人はとりあえず、ワイバーン発着場から西側の、王都の中央へ向けて歩き出した。
 先頭はティルが歩き、俺はルーンの手を引いて後に続く。

 ウィラルの街からガシュレットが手配した賊は...いないようだな。
 この世界に携帯電話とかあるわけじゃなさそうだが、それに似た魔道具があるかもしれない。
 一応油断はしないでおこう。

「ルーン、念のため油断するなよ」
「うん...。お兄ちゃんは私が守るからっ!」
「ありがとな」

 俺とルーンはキョロキョロと、王都の街並みを眺めながらティルに聞いた。

「今更だが、ティルは王都に詳しいんだな」
「そうね。何度かここで仕事したから」

 仕事...。
 まあ詮索はやめておくか、護衛を依頼してるだけだしな。

「良かった。じゃあまずはギルドまで案内を頼む」
「わかったわ」

 ティルはそう答え、先導してくれた。
 10分程歩くと、王都中央にある広場に着く。
 中央には大きな男性の像があり、その足元から外側に向かって水が噴き出して、広々とした噴水となっていた。
 比較的高齢の人が、像に祈っている姿が見えた。

 あの像は...たぶん初代国王かな?

 広場では多くの人が行き交っていて、噴水の周りにいくつもあるベンチには、多くの人が座っている。
 人が多いせいか、ルーンは警戒しているようだった。

 ゆっくりと気を抜いて、観光を楽しめたらよかったのになぁ。
 まあしょうがないか。

 広場から伸びる大通りを南に歩いていると、道の両脇に多くの露店が出ているのが目に入る。

 バザーや屋台も結構あるな。
 なんかいい匂いが...あれは焼き鳥屋か?

 俺は白い煙といい匂いを感じ、焼き鳥屋らしき屋台を見つけた。
 串に刺した肉を網の上で焼いている。どう見ても焼き鳥にしか見えなかった。

 銀貨は残り28枚か。まあ焼き鳥ぐらい買えるだろう。

 俺はルーンとティルに声を掛けて、焼き鳥屋の屋台に近づく。

 ふむふむ...銀貨1枚で、1本か。
 おや、銀貨5枚で7本のセットがあるじゃん。
 屋台の食い物だとちょっと不安だが、俺の他に何人も客がいるし、まあ大丈夫だろう。
 これは買いだな。

 銀貨5枚を渡し、焼き鳥7本を持って戻る。

 さて、これはルーンに3本食わすか。

「一人は3本食えるぞ。ルーン、食え食え」

 俺はルーンに3本渡そうとしたが、ルーンは2本だけ受け取った。

「ありがとう。お兄ちゃんが食べて」
「2本でいいのか?じゃあティルどうぞ」
「私は1本でいい」
「嫌いなのか?」
「そうじゃないけど...」
「じゃあ俺が3本食うから残りの2本はティルが食ってくれ」
「...ありがとう」
「串の肉を食いながら歩くのは危険だな。一旦腰を下ろして食うか」

 大通りには、ベンチとゴミ箱がセットで設置されている場所がいくつもあった。
 近くのベンチに三人で腰を下ろし、焼き鳥をモグモグと食う。

 うーむ、タレが効いていてなかなかうまい。
 思ってたより肉がでかいな。これはありがたい。

 俺達は焼き鳥を食って少し休憩し、串をゴミ箱に捨ててから、また歩き出した。




 30分程歩くと、ひと際大きな建物に着いた。
 目の前の建築物について、ティルが説明する。

「ここが王都のギルド本部よ」
「大きいな...」

 俺が感想を漏らすと、ティルが続ける。

「キースライトの原石を高く売るのよね?顔見知りがいるから、私が話しをつけて来るわ」
「あ、ついでにこれも渡してくれるか」

 ギルコードのおっさんから受け取った手紙を、ティルに渡した。
 ティルは手紙を受け取り、建物に入って行く。

 ...。

 ギルド本部の前で、俺とルーンはぼーっと待つ。
 俺はルーンに小声で話し掛けた。

「ルーン、ごめんな。ゆっくりと街を見て回れば良かったんだけど。キースライトの原石があんなに高価な物だと思わなかった。警戒しないといけないから、観光どころじゃないよな」
「...私はお兄ちゃんが無事なら、それでいい」

 俺の手を握っているルーンの手に、ぎゅっと力が入る。

「さっさと石を売って、あの家に帰るか」
「...うん」

 バーンズフォレストは結構広大な森で、じいちゃんが暮らしていたあの家を特定するのは、まず不可能だろう。
 石を売って、船の情報と、魔法の指南書と、それからうまいメシでも食ったらもう帰るか。

 10分程経過すると、ティルと体格のいい老年の男が出て来た。
 ティルは俺達の前で説明する。

「こちらが副ギルド長の、ドラヒルさんよ」

 老年の男、ドラヒルは俺達に向かって頭を下げる。

「初めまして、副ギルド長のドラヒルと申します。手紙を拝見させて頂きました。いやー、元領主であるギルコードさんの頼みとあらば、喜んで引き受けさせて頂きます。キースライトの原石はオークションにかけるということで、よろしいでしょうか」
「あ、はい。ナオフリートです。こっちはルーン」

 俺は反射的に返事をしていた。

 ギルコードのおっさんって、元領主だったのか...。
 そう見えなかったけど、優秀な人なのかな。

 そんなことを考えてると、ティルが俺の耳元で囁く。

「辺境領主だけどね」

 ...なるほど、ウィラルは辺境だからな。

 ドラヒルは話を続ける。

「ではナオフリート様、オークション会場はギルド本部のすぐ裏手です。私どものほうでオークショニアに話を付けさせて頂きますので、こちらへどうぞ」

 ドラヒルに案内され、俺達三人はオークション会場に向かう。

 しかし、ティルは信用出来るが、このドラヒルってやつは信用出来るのかな?
 一応ギルドの副長で、今回は元辺境領主ギルコードの手紙があるから、まさか騙すようなマネはしないと思うが。

 俺がそのことについて、ティルの耳元で小声で聞くと、ティルもまたぼそぼそと、俺とルーンに言った。

「大丈夫。ドラヒルさんは信用できるわよ」
「...よかった。なら安心だな」

 俺がティルにそう返事すると、ルーンがぎゅっと手を握って俺に笑顔を向けた。
 いつものルーンの洞察力が、ドラヒルは信用できると告げているらしい。
 ものの数分歩くとオークション会場に着き、メインエントランスから中に入ると受付カウンターにいる女性が、すぐにドラヒルに駆け寄って来る。

「いらっしゃいませ、ドラヒル様。本日はどうされました?」
「ああ、すまんがグリスベルを呼んでくれるか?出品したいお客様がいるんだ」
「畏まりました」

 受付の女性がカウンター奥の部屋へ入ると、すぐに若い男が出て来た。
 眼鏡をかけた細身のイケメン風好青年で、かなり聡明そうに見えた。

 年は18歳あたりか?
 某一流大学のインテリを思わせるな。
 なるほど、やり手のオークショニアってことか。

 グリスベルと思わしき青年は、ドラヒルの傍に駆け寄り、頭を下げて恭しく挨拶をする。

「ドラヒル様、いらっしゃいませ。受付の者が気が利かずに失礼しました。お連れの方共々、奥の部屋へどうぞ」
「いやいや、ここの従業員は皆よくやっとるよ。グリスベル、普段の君の教育が良いと見えるな」
「ありがとうございます」

 グリスベルと話していたドラヒルが、振り返って俺達三人に声を掛ける。

「とりあえず奥の部屋へ行きましょう」

 グリスベルに案内され、ドラヒルを含めた俺達四人は応接室に入る。
 応接室の中は高級品だらけだった。

 高級ソファに、高級テーブル、花瓶の価値はわからんが、おそらく高級品だろうな。
 花瓶は価値がわからんだけに怖いな。割ったらものすごい額になりそう。

 カネのかかった部屋にあっけに取られていると、グリスベルがソファを勧める。

「ドラヒル様、お客様。どうぞお掛け下さい」

 俺は高級ソファの真ん中に座り、左側に手を繋いだルーン、右側にティルが座る。

 ふかふかのソファじゃん。黒に近い深緑のいい色で、座り心地もいい。
 テーブルも黒檀か紫檀か、落ち着いたいい色を出してるな。

 ドラヒルは俺達と対面の、グリスベルの隣のソファに座って言った。

「私はここでいい。今回はこちらの方が出品者様でな」

 それを聞いたグリスベルもソファに座り、俺達から見て右側にいる、ドラヒルに返事をする。

「左様でございましたか、ドラヒル様」

 グリスベルは俺達の方に向き直り、挨拶をした。

「申し遅れました、私は当オークションのオークショニア、グリスベルと申します。出品に際して、何なりとお申し付けください」

 ドラヒルが俺達三人に向かって、笑顔で付け足す。

「このグリスベルはかなりのやり手でな、彼に依頼すれば安心ですよ」
「恐れ入ります」

 グリスベルがそう言った後、俺達も名前を名乗った。
 そして、本題のオークションについて聞こうとしたら、応接室の扉をノックする音が聞こえた。
 すぐに秘書風の女性が、四角いトレイにグラスを5つ乗せて応接室に入って来た。

「失礼致します」

 女性がそう言って、グラスを俺の前のテーブルに置く。続いてルーン、ティル、ドラヒル、グリスベルの順にグラスを置いていった。

 なんで順番がわかったんだ?
 この秘書風の女も、出来るな。
 ...そして四角いトレイも高そうだな。

「失礼致しました」

 女性が出ていき、グリスベルが話しを始める。

「して、今回はどのような品物でございますか?」

 ドラヒルが笑顔で答える。

「それがキースライトの原石でな。まあ、私もまだ実物は見てないんだが。物が物だけに、こういう場ではないと危ないのでな」

 ドラヒルが言い終わると同時に、俺はキースライトの原石を取り出し、テーブルの上に置いた。
 グリスベルとドラヒルが目を見開いて、驚愕の表情を浮かべる。
 先に言葉を出したのはドラヒルだった。

「なるほど...。これは素晴らしい。ギルコードさんが依頼するのも納得しました」

 次いで、グリスベルも言葉を出す。

「...これ程の一品は滅多に出品されませんね。失礼ですが、手に取って見てもよろしいでしょうか?」

 両手に白いシルクの手袋をはめて、グリスベルが俺に聞く。

「どうぞ」

 俺が答えると、グリスベルは鉱石を持ち上げ、目の前でまじまじと観察した。
 その様子を見ていたドラヒルが、上機嫌でグリスベルに聞く。

「どうかね、おおよそどれぐらいの値がつくかな?」

 グリスベルは少し鉱石を見ながら考え、静かに答えた。

「おそらくですが...最低3000、状況によっては3500はいくかと」

 それを聞いた俺は、顔には出さなかったが歓喜していた。

 3500て金貨3500枚だよな?
 そんな値が付くのか...。やっぱ王族が買うんだろうな。
 金貨3500枚も手に入れたら、豪遊し放題じゃん!

 ほぼギルコードが言った通りの金額だったが、実際にオークショニアが目の前で言うと現実味があり、大金が手に入るというワクワクが抑えられなかった。

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