あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

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第一章 狼の少女

53.お兄ちゃんとお出掛け ■

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 お兄ちゃんと一緒に暮らしてから、1年が経過した。

 あの島を出て、お兄ちゃんと一緒に森を歩いて、この家に連れて来てもらってからもう1年かぁ。
 早いなぁ...。

 私はお兄ちゃんの家に住ませてもらって、毎日お兄ちゃんに面倒見てもらってる。
 お兄ちゃんとお話しをしながら家事をしたり、食べ物を採ったり、山羊さんのお世話をしたり、毎日がとても楽しい。

 そして...毎日がとても幸せです、お兄ちゃん。
 お兄ちゃんと一緒に起きて、一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入ったり、一緒のベッドで寝たり。
 お兄ちゃんは優しくて強くて、そんなお兄ちゃんの傍に居させてもらえることが嬉しいな。
 お兄ちゃん...大好きです。

 幸せな生活をしていたある日、お兄ちゃんが私に言った。

「ルーン、街に行こう!」

 お兄ちゃんは、メイヴェリア王国の領内にある、ウィラルという街に行こうと誘ってくれた。
 お金は島を脱出した時にもらった鉱石を売るらしい。
 私は勿論、お兄ちゃんと一緒に行くことにした。
 準備をして、出発の前夜にお兄ちゃんとベッドの中で話をする。

「お兄ちゃん、明日は楽しみだね」
「ああ、ルーンと一緒だから俺も楽しみだ」
「お兄ちゃん...」

 私、お兄ちゃんとだったらどこへでも行くから。
 私の傍に居てくれてありがとう、お兄ちゃん。

 出発の朝。
 私とお兄ちゃんは、前もって準備しておいた荷物を持って、家を出る。
 お兄ちゃんは、真っすぐ森を抜けるルートを考えていたようだったけど、思ったより暑くて、川沿いに歩こうと言ってくれた。
 1年前と同じように、お兄ちゃんと手を繋いで一緒に旅をする。

 島からお兄ちゃんの家に向かう時もそうだったけど、今はもっと頼もしい感じがする。
 思い出してみたら、お兄ちゃんは出会った時からふしぎだったな。
 私より2歳年上なんだけど、なんていうか...、もっとずっと年上のお兄ちゃんみたいな感じ。
 危ない時でも冷静で、私が取り乱してる時でも優しく慰めてくれた。
 お兄ちゃんと出会えてよかった...。

 時折休憩しながら、お兄ちゃんと一緒に歩き続ける。
 川沿いに歩いているので、いつでも川の水が使えるのが嬉しかった。

 汗を流す時も、おトイレの時も、足元に流れている綺麗な水が使えるからよかった。
 お兄ちゃんに汗臭いって思われないようにしないと。

 お昼はお兄ちゃんが樹に登って、空高く飛んでる鳥を撃ち落としてくれた。

 もう...危ないことはしないでほしいのに。

 昼食後、またお兄ちゃんと手を繋いで、二人でテクテクと歩く。
 途中、休憩した時にお兄ちゃんに抱きしめられて、お兄ちゃんはそのまま地面に寝転んだ。
 仰向けになって空を見るお兄ちゃんの胸の上で、私はお兄ちゃんの両腕に抱かれていた。
 お兄ちゃんは私を、その胸に抱いたまま呟く。

「あー...癒される...」

 私も癒されるよ、お兄ちゃん...。
 お兄ちゃんの胸、腕の中で、あったかい。
 あー、幸せだなぁ。
 ずっとこうしていたいな。

 その後何度か休憩を挟み、しばらくお兄ちゃんと一緒に歩き続けた。
 夕方になり、陽が沈む前にお兄ちゃんとテントを張って焚火の準備をした。
 夕飯を食べ、お兄ちゃんと一緒に眠る。

 お外でお兄ちゃんとお泊り...なんか楽しいな。

 私がいつものように、お兄ちゃんにぎゅっと抱きつくと、お兄ちゃんは私の頭を撫でてくれた。
 お外で寝ているのに、いつものベッドのように安心した。



 翌朝、お兄ちゃんと川に行って、洗顔したりおトイレを済ませたりして、その後で朝食を取る。

 なんだか新鮮!
 昨日は出発してからお兄ちゃんと一緒に寝るまでに、色んなことがあって楽しかったな。
 今日はウィラルの街に着くのかな。お兄ちゃんと旅をするのって楽しいな。
 でも街に着いたら、お兄ちゃんが危険な目に遭わないようにしないと...。

 お兄ちゃんが私の手をぎゅっと握ってくれて、私は元気一杯で歩き出す。
 今日も快晴でいい天気だった。



 午前中にウィラルの街に着き、まずはお兄ちゃんと一緒に鉱石を買い取ってくれる店を探した。
 しばらく彷徨った後、お兄ちゃんが道具屋を見つけ、私に聞いてきた。

「なあルーン、一旦あの店で聞くだけ聞いてみようか」
「でも...貴重な物だったら、お兄ちゃんが狙われないか心配...」
「うーん、持ってる物を見せず聞いてもいいが...まどろっこしいな。親切そうな人だったら見せて聞いてみるよ」
「うん...」

 大丈夫かな...。

「いらっしゃいませ」

 店の奥から初老の男の人が出て来て、私たちに声を掛けた。

 よかった、悪い人じゃなさそう。
 高価な物だから、お兄ちゃんが騙されないように気をつけないと。

 しかしお兄ちゃんが鉱石を見せると、お店の人の様子がおかしくなった。
 一見普通に話しているように見えるが、妙な違和感があった。

 ...?
 なんだろ。表面上は冷静を装っているけど、内心は高揚しているような...。

 お兄ちゃんは鉱石の値段を聞いている。
 お店の人が金貨100枚と答えているが、おそらくお兄ちゃんを騙して、安く買い叩こうとしているように見えた。

「金貨100枚ですか!?」

 聞き返しているお兄ちゃんは気付いていない...。
 すぐに教えてあげないと。
 でも、直接言ったらお兄ちゃんに危害が及ぶかもしれない。
 どうしよう...。

 私は背後からお兄ちゃんの袖を引っ張った。
 くいくいと何度か引っ張って、その動作に想いを込める。

 お兄ちゃん、気付いて!

 振り返ったお兄ちゃんは、私の意図を汲んでくれて、芝居をしてくれた。

「なんだよル...ああ、そうだったな。お腹がすいたのか。そういえば昼飯がまだだったな」

 よかった...。お兄ちゃん、わかってくれたんだ。
 何も言わなくてもわかってくれて、嬉しいな。

 すぐにお店から出る為に、私も合わせて芝居をする。

「お兄ちゃん、早くご飯食べに行こうよ。私お肉がいい!」

 お兄ちゃんも芝居を続け、私たちはお店を出て食堂に向かった。
 しばらく歩いた後、お兄ちゃんと私は道の端で話をした。

「ルーン、ありがとな。今のってやっぱり...」
「うん...石を見てから態度が不自然だったよ」

 お兄ちゃんが高価な物を持ってるって情報が広がったら嫌だな...。
 でも、お兄ちゃんは私が絶対に守るから。

 お兄ちゃんが私を、命を懸けて守ってくれたように。

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