あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

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第一章 狼の少女

52.王都に到着

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 ティルに案内してもらい、ワイバーン便の発着場所にたどり着いた。
 ドラゴンのような、怪鳥のような、大きな生き物が横になって寝ている。
 その生き物を近くで見て納得した。

 ここがいわゆる空港か。
 なるほど、これなら人を運べるな。

 ワイバーンの近くには、木製のプレハブみたいな直方体の籠がいくつか並んで置かれている。

 大きさは14畳程度か?それよりもうちょっと大きいかな...。
 あの籠を、ワイバーンが掴んで運搬するのか。
 途中でワイバーンが籠を離したらどうするんだろ。

 ぼーっとワイバーンを見ながらそんなことを考えていると、ティルが教えてくれた。

「大丈夫よ、籠は念の為にワイバーンの足と紐で結ぶから」
「それなら安心だな」

 発着場の管理者らしきおっさんに、三人分の料金を払う。

 三人で銀貨45枚だから...ひとり15枚か。
 これが高いのか安いのか、わからん。

 俺達三人は、他の乗客と一緒にゾロゾロと籠に向かって歩く。

 乗客は全部で八人くらいか。
 大丈夫かな...籠の中で殺人事件とか起きたりしないかな。

 推理小説のような展開を不安視しつつ、籠に入る。
 籠の中には簡易の椅子やテーブルがいくつかあり、床には薄い布が敷いてあった。
 ワイバーンの負担にならないようにか、全て軽くて粗末な作りの物だった。
 しかし、万が一床が抜けると落下して死亡する為か、床そのものは厚く頑丈なものだった。

 俺達の他に五人...どうも業者っぽいな。
 男が三人に女が二人だな、痴情のもつれから殺人事件に発展するとか無いよな。

 搭乗員らしき男が最後に籠に入り、扉が閉められて施錠される。
 そして、男は乗客に向かってアナウンスをした。

「皆様、これより王都へ向けて飛び立ちます。2時間程飛んだ後に、一旦近くの村で休憩を取ります。なお、ワイバーンの背にも操縦士や飼育士など、何人かおりますのでご安心ください」

 アナウンス後、大きな咆哮が聞こえ、籠が揺れる。
 例えるなら、エレベータに乗って上の階に向かう、それに似た感覚がした。

 ワイバーンが籠を持ち上げて離陸したか。
 どれどれ、窓の外は...と。

 俺は窓を覗き込む。
 地上からどんどん離れていき、すぐに山脈を見渡せる高度まで上がっていった。

「高度が上がったからかしら、...ちょっと寒いわね」

 傍にいるティルが、ぽつりと呟く。

 そういや心なしか、寒くなってきたような...。

「ルーン、寒くないか?」

 俺の手を握ってるルーンに話し掛ける。

「...ちょっと寒い」

 ルーンはそう言って、手をぎゅっと握りしめる。

 しかし、上に羽織るような物も無いしなぁ。
 使い捨てカイロとか、お湯を入れた物があるわけでも無い。
 となると、これしかないか。

 俺はルーンを抱き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。
 両腕をルーンの背中に回し、自分の胸にルーンを押し付ける。

「わーい。お兄ちゃん、あったかい...」

 ルーンは目を閉じて、俺の胸に顔を埋めている。
 ティルを見ると、ほんの少し不満げな顔をしてルーンを見ている。
 俺の視線に気が付くと、はっとして顔を逸らした。

 ティルもやってほしいのかな?
 いや、出会ってあんまり時間経って無いけど、嫌われてはないよな。

 ルーンを抱いたままぼーっとしてると、搭乗員が再度アナウンスする。

「皆様、この部屋の気温を少々上げさせていただきます。気が利かずに申し訳ございません」

 搭乗員はそう言って、掌を上に向けて両手を突き出し、詠唱する。
 しばらくすると、暖かくなってきた。

 おー、これも魔法か。
 便利だなぁ。
 王都で魔法を学べる簡単な書物がないか探してみるか。

 それからルーンやティルと他愛のない話をしていると、すぐに2時間程が経過し、休憩の為に一旦ワイバーンが地上に降りた。
 籠がひときわ大きく揺れ、窓の外を見る。

 ここは...広場か。
 村のはずれに広場を設けて、ワイバーン発着場としているのかな。

「皆様、今から30分後に出発致しますので、必ず時間までにお戻りください」

 搭乗員がそう言って扉を開錠し、乗客がゾロゾロと扉から出ていく。

「ルーン、ティル。俺達も出るか」
「うん...。お兄ちゃん、おトイレ行きたい...」
「わ、わたしも...」

 ルーンとティルが顔を赤くしてもじもじとして言った。

 二人とも我慢してたのか...。
 まあ上空に浮く密室空間で、そこに他人がいたら言い出しにくいか。
 それに部屋が寒かった時間もあったからな。
 これは村に行ってトイレを借りに...て感じではなさそうだな。
 お外で、ってことかな。

 俺は二人に言葉を掛けた。

「あー、とりあえずちょっとここから離れるか」

 俺達3人は広場から離れて草むらに移動する。
 少し歩くと小川に着いた。
 ティルはトマトの様に顔を真っ赤にして、俺に言った。

「ご、護衛だからしょうがないけど...あんまり見たり聞いたりしないでね...」
「大丈夫だ、すぐそこの樹の下にいるから!」

 俺は20メートル程先の、高い樹を指してそう言い、ルーンの手を引いて一緒に移動する。
 二人で樹の根元にしゃがんで中腰になり、用を足す。
 ルーンは両腕を俺の首に回し、ぎゅっと上半身だけ抱きついている。
 そんなルーンの頭部に口を近づけて、ぼそぼそと会話した。

「ルーン、もうすぐ王都だな。怖く無かったか?」
「うん!お兄ちゃんがぎゅってしてくれたから、怖く無かったよ」
「あの高さなら『狂戦士』の力を使っても死ぬだろうなぁ...。いくら身体能力が強化されてても、落下の衝撃に耐えられる程のものとは思えんな。まあ途中で高い樹でもあれば、落下の加速を軽減できるかもしれないが...」
「お兄ちゃん...」

 排泄後に小川の水で、自分とルーンの股を洗う。

「ルーン、寒くないか?」

 タオルでルーンの股をごしごしと拭きながら聞くと、

「...大丈夫だよ」

 顔を真っ赤にしたルーンが、俯いてぼそっと呟いた。
 その後、ティルと合流して三人で広場に戻る。

「どうしようか...村に行ってみるか?」

 俺は二人に声を掛けた。
 ルーンは俺の目をじっと見て答える。

「お兄ちゃん...」

 ああ、これはアレだな。
 キースライトの原石と短剣。貴重な物を2つも持ったまま、人が多いところにわざわざ行くのは危ない、ってことを訴えてる目だな。

 ティルも俺に答える。

「村は食料と水を割高で販売しているだけで、著名人もいないし、ここでしか手に入らない品物も無いわよ」

 ...行く価値無しだな。

「まあもう出発まで時間も無いしな、行かなくてもいいか」

 と二人に言って、三人で籠に入る。
 せめて村の名前だけは知っておこうと、ティルに聞いた。

「ちなみにこの村の名前は?」
「クレジュ村よ」

 クレジュ村ね。
 たぶんすぐ忘れるかもしれん...。

 それから俺達三人は籠の中で雑談して過ごし、10分程経過すると乗客がワラワラと戻って来た。
 八人全員が籠に乗り込むのを搭乗員が確認し、扉を施錠してから乗客にアナウンスする。

「皆様、では出発致します。1時間半ほどで王都に到着予定です」

 再び大きな咆哮が聞こえ、籠が宙に浮いた。
 窓の外を見ると、大地が遠くなっていく。
 搭乗員が再び暖房の魔法をキャストして、暖かい籠の中で、到着まで三人で雑談して過ごす。

「ルーン、ティル。王都に着いたらまずギルドに行きたい。手持ちの銀貨は28枚あるから、とりあえずパンかなんかを買って、食いながら行くか」
「はーい」
「わかったわ」

 他愛もない話をしていると、いつのまに時間が経過したのか、再び搭乗員がアナウンスをする。

「皆様、王都の上空に着きました」

 俺はルーンと一緒に窓の外を見る。

 うおっ、凄いなこれ。
 街の北側にひと際でかい王宮があって、その南側辺りから扇状に、どこまでも建築物がある。
 どうも王宮の後ろにも何か建築物があるようだが、よく見えないな。

「これが王都か...凄いな」
「ほんとだ...凄いね、お兄ちゃん」

 ティルは見慣れているのか、特に何も感じていないようだった。

 ...これじゃ田舎者丸出しだな。まあいいけど。

 ワイバーンは王都の東側の広場に到着する。王宮から南東の方角にあたる。

「皆様、王都に着きました。ご利用ありがとうございました」

 籠が地面に降ろされ、足元が大きく揺れて衝撃が来るのを感じた。
 すぐに搭乗員が扉を開錠し、俺はルーンの手を引いて外に出た。

 太陽光を浴びて、目を細めながら外の景色を見る。
 王都のワイバーン発着場は、日本の空港のように広大な敷地だった。

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