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第一章 狼の少女
50.検証
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「私は...ティルエラング。長いからティルでいいよ」
女の子が俺に対してそう名乗った。
まだちょっと睨んでいるなぁ。
まあ、名前を教えてくれてよかった。
「俺もナオって呼んで」
「あの子は?」
ティルは窓の方を向いて聞いた。
「ルーンだよ、俺の妹」
実の妹ではないけど、まあその辺はいいか。
俺は再度、ティルにお礼を言った。
「加勢してくれてありがとう。まだ窓の下に1人いるんだけどね」
ルーンの方を見ると、ちらちらと窓の下を伺っている。
ティルは俺に顔を向けて聞く。
「どうして襲われているの?」
「たぶん強盗だと思う。ルーン、石を貸して」
窓の傍まで歩き、ルーンから石を受け取る。
その石、キースライトの原石をティルに見せて、説明する。
「この石が高価な物らしく、これを奪いに来たんだと思う」
「...キースライトの原石ね」
「知ってるの?」
「噂に聞いたことがある程度よ。淡く黄色く光る貴重な鉱石があるって」
「この街の道具屋と鍛冶屋で見せたんだけど、たぶん道具屋から情報が漏れたか、道具屋の差し金で襲って来たんだと思う」
「...」
ティルは黙ったまま、じっと俺の手の中にあるキースライトの原石を見つめている。
その様子を見て、俺は少し不安になった。
まさかティルもカネに目が眩んで、襲って来たりしないよな?
あるいは隙を見て奪うつもりとか。
そんなことを考えていると、ルーンが小さい声で俺に声を掛ける。
「お兄ちゃん...窓の下の人はどうするの?」
俺も声をひそめて返事する。
「そうだな、出来れば捕まえたいけど、殺し合いになるのは避けたほうがいいよなぁ」
「うん...。お兄ちゃんが戦うなら、私も一緒に戦うから」
ルーンもこのまま放置出来ないことはわかっているのだろう。
有無を言わせない、はっきりした口調でそう言った。
そうだよなぁ、このままじゃ安心して寝られない。
しかしリスクを犯して、窓の外に出て攻撃を仕掛けても、仲間を呼ばれたりしたらまずいよなぁ。
どうしたもんかと考えていたら、ティルがぽつりと呟いた。
「だったらアタシが捕まえる」
「え...どうやって?」
俺は反射的に聞き返していた。
ティルは淡々と返事する。
「それは秘密」
秘密かぁ。
しかし女の子ひとりで捕まえるってのもなぁ。
助けてもらった恩もあるし、俺は一緒に戦おうと提案する。
「一人じゃ危険だよ。俺達も加勢するから...」
「大丈夫よ。アタシ一人だったら危険は無いから」
「...」
ティルは憶測ではなく、何かを確信して答えているようだった。
つまり何か作戦があるのか。
ひとりで窓の下のやつを確実に捕らえられる作戦が、それも危険が無いような。
そして俺達がいたら、その作戦は成立しないらしいな。
まあここまではっきりと断言してるんだし、任せてみようかな。
俺は念を押して聞いてみた。
「...本当に一人で大丈夫?」
「大丈夫よ。ただし、ナオとルーンはこの部屋を出ないこと。窓の外を見てもダメ。これを守れるなら、窓の下のやつを捕獲出来るわよ」
「わかった。外を見ずに、この部屋でじっとしてるよ」
「念のため、廊下の方は警戒して見張ってて」
ティルはそう言って廊下に出て、去って行った。
大丈夫かな...。
不安に思いながらも、ティルに言われた通りに行動する。
「ルーン、おいで」
窓際にいたルーンを呼び寄せ、部屋の入り口を警戒しつつ、ベッドがあった場所で待機する。
廊下から誰かが侵入し、突然戦闘になった時に俺の妨げにならないようにか、ルーンが遠慮がちに俺の手に触れる。
しばらく緊張して入り口を見ていたが、何の気配も無く、次第に気が緩んできた。
ぼーっと入り口や男の死体を見ながら、傍にいるルーンに声を掛ける。
「ティルが窓の外を見るなってさ、何だろうな」
「うん...」
「それにしてもどうやって捕まえるんだろう、あの感じだと戦闘する様子じゃなかったけど」
「たぶん、祝福の力だと思うよ、お兄ちゃん」
「ああなるほど。じゃあ窓の外を見るなってのは?」
「力を使う所を見られたくないか、巻き添えにならないように...かな?」
「巻き添えだとしたら、どんな能力が考えられる?」
「うーん...。眠ったり、麻痺したり、失神したり...」
「あり得るな」
30分くらいだろうか、ルーンとそんなことを話していたら、廊下から足音が聞こえて来た。
短剣を握りしめ、緊張して入り口を見ると、ティルが出て行った時と同じ姿で戻って来る。
そして、俺達を見ながら淡々と答えた。
「もう大丈夫よ。外の男は捕まえて、その後ホテルの支配人に突き出したわ」
俺は安堵して短剣を収めながら聞いた。
「怪我は無い?」
「大丈夫よ」
「よかった。その男に聞きたいことがあるんだけど、案内してくれる?」
「...それはやめたほうがいいわ」
「どうして?」
「もう死んでるから、何も答えられない」
「え...」
ティルの言葉に混乱する。
さっきは『捕まえて』『突き出した』って言ってたよな?
どういうことだ...?
状況を把握しようと、ティルに確認する。
「ティル、さっき『ホテルの支配人に突き出した』って...」
「うん、だから捕まえてから死体を突き出した」
「...」
捕まえてから死体になるまでの部分が無かった。
ティルは構わず続けて話す。
「誰の差し金か聞くつもりだったの?」
「うん」
「それなら私がもうやった」
「おお!で、答えは?」
「それを言おうとしたけど、言う前に死んだわ」
「...なるほど」
ようやく状況が把握出来てきた。
ティルは死んだと言ったな。
ということは、捕獲した現場で他の誰かに、直接殺されたわけじゃなさそうだな。
口封じの為に、予め何かされてたのか?
そんなことを考えていたら、ティルが提案してきた。
「念のため死体だけでも見る?こいつも連れて行かないといけないし」
ティルは床で死んでいる男を指す。
...ティルが嘘を吐いてるとは思えないが、ティルの言う通り、念の為見ておいた方がいいか。
「一応見ておくよ、案内を頼めるかな?」
「いいわよ、ついて来て」
「わかった。こいつは俺が運ぶよ。ルーン、一緒に来るか?」
ルーンに死体を見せるのはどうかと思ったが、考えてみればあの島からずっと凄惨な現場を一緒に見ていた。
よって、ルーンに対して度々そういう気遣いをすることは、逆に嫌がられるかと思って声を掛けていた。
「...うん。お兄ちゃんと一緒に行く」
「...」
ティルは少しの間黙ってルーンを見ていたが、結局何も言わずに廊下に出た。
「ルーン、死体は俺が持って行くから触らない様に」
「...はーい」
さすがにルーンに男の死体を触らせたくない。
俺はティルの後を追って、床の男をズルズルと引っ張って1階まで移動する。ルーンも後ろをトコトコと付いて来ていた。
1階に降りるとティルが紳士的なホテルマンと会話していた。
俺が死体を運んで来た所を見ると、もう話しをつけていたのか、すぐに指示を出した。
「その死体はこの人が預かるって」
「わかった」
受付カウンターの近くまで死体を引きずり、ホテルマンに伝える。
「すいません、ここに置いておきます」
「お話は伺っております。お預かり致しますので...」
ホテルマンは変わらず紳士的に対応していた。
傍にいるティルが淡々と告げる。
「捕獲した男の死体はこっちよ」
さっきは死体を引きずっていたから出来なかったが、今は手を自由に使える状態になっている。
俺はルーンの手を取って言った。
「ルーン、行こう」
「うん...」
ルーンは俺の手をぎゅっと握りしめて付いて来た。
ティルに案内されて、宿の裏口から出て倉庫らしき建物に入る。
入ってすぐ傍の床に男の死体があった。
口から泡が出ている所を見ると、肺がやられたのか?毒で窒息??
うーん、よくわからん。
男の所持品を漁る前に、ティルに聞いてみた。
「こいつの所持品は?」
「ナイフ以外、何も持って無かった」
まあ信じていいだろうな。
念の為に死体を見に来た俺が、今ここで念の為に所持品を漁ることは充分あり得る。
そんな状況で嘘を吐くとは思えない。
死体を見ても収穫無し。たいした所持品も無し。
その状況で、俺はわかってて聞いていた。
「...つまり、何の情報も得られないってこと?」
「そういうことになるわね」
「...部屋に戻ろう」
再びルーンの手を引いて倉庫を出て、裏口からメインエントランスに戻る。
受付を通って部屋に戻ろうとすると、ホテルマンが呼び止めた。
「お客様、部屋の扉とベッドが壊されたようなので、別の部屋を用意させて頂きました」
「あの、ベッドについては立てかけた結果壊されたので、こちらにも落ち度があります。今は持ち合わせが無いですが、必ず相応の費用を払いますので...」
俺が申し訳なさそうに言うと、ホテルマンは続けて説明口調で話した。
「とんでもございません。お客様、強盗の侵入を許したのは私どもの落ち度でございます。二度とこのようなことを起こさない様に、防犯を強化致しますので、どうかお許しください。明日の朝まで総出で見張らせて頂きます。宿代については明朝にお返しさせて頂きます」
ホテルマンは深々と頭を下げ、両腕を突き出して、手の平に乗せた新しいルームキーを俺に差し出した。
その様子を見て、俺はなんとか落としどころを提案するように言った。
「いえ、それはいけません。...では双方に落ち度があったということで、新しいルームキーは頂きます。それと、俺たちはちゃんと宿泊するので、宿代の返却については受領できません。壊れたベッドについては...後日お金を持ってきます」
「お客様、ベッドについては強盗が破壊しております。これは侵入を許したわたく...」
俺はキリが無いと思って、ホテルマンの言葉を遮って言った。
「わかりました。ではベッドは強盗が壊したということで」
「はい。では新しいカギをお受け取りください」
なんとか落としどころが見つかり、ルームキーを受け取った。
三人でゾロゾロと廊下を歩きながら、俺は今夜と明日のことについて考えていた。
いくら宿の強盗対策を強化しても、今夜はさすがに安心して寝れないなぁ。
もし追加で来た賊が、ホテルの従業員以上の手練れだったらどうするんだろう。
...いっそ、ティルにボディーガードを頼めないかな。
何の能力かはわからないが、無傷で賊を捕獲したところを見ると、かなり強そうだ。
俺は歩きながら、ティルに尋ねてみた。
「ティル、お金はちゃんと払うから。護衛を引き受けてくれたら有難いんだけど...」
俺の後ろからルーンがギュッと背中に抱きついて来た。
まあ待てルーン、護衛は必要なんだ。
「...」
ティルは無言で、前を歩いている。
この反応は...無理か。
まあしょうがないな。
俺が諦めかけていたら、ティルは淡々と答えた。
「いいわよ。報酬については中で話しましょう」
ティルが立っていた部屋の番号は、新しく受け取ったルームキーと同じ番号だった。
女の子が俺に対してそう名乗った。
まだちょっと睨んでいるなぁ。
まあ、名前を教えてくれてよかった。
「俺もナオって呼んで」
「あの子は?」
ティルは窓の方を向いて聞いた。
「ルーンだよ、俺の妹」
実の妹ではないけど、まあその辺はいいか。
俺は再度、ティルにお礼を言った。
「加勢してくれてありがとう。まだ窓の下に1人いるんだけどね」
ルーンの方を見ると、ちらちらと窓の下を伺っている。
ティルは俺に顔を向けて聞く。
「どうして襲われているの?」
「たぶん強盗だと思う。ルーン、石を貸して」
窓の傍まで歩き、ルーンから石を受け取る。
その石、キースライトの原石をティルに見せて、説明する。
「この石が高価な物らしく、これを奪いに来たんだと思う」
「...キースライトの原石ね」
「知ってるの?」
「噂に聞いたことがある程度よ。淡く黄色く光る貴重な鉱石があるって」
「この街の道具屋と鍛冶屋で見せたんだけど、たぶん道具屋から情報が漏れたか、道具屋の差し金で襲って来たんだと思う」
「...」
ティルは黙ったまま、じっと俺の手の中にあるキースライトの原石を見つめている。
その様子を見て、俺は少し不安になった。
まさかティルもカネに目が眩んで、襲って来たりしないよな?
あるいは隙を見て奪うつもりとか。
そんなことを考えていると、ルーンが小さい声で俺に声を掛ける。
「お兄ちゃん...窓の下の人はどうするの?」
俺も声をひそめて返事する。
「そうだな、出来れば捕まえたいけど、殺し合いになるのは避けたほうがいいよなぁ」
「うん...。お兄ちゃんが戦うなら、私も一緒に戦うから」
ルーンもこのまま放置出来ないことはわかっているのだろう。
有無を言わせない、はっきりした口調でそう言った。
そうだよなぁ、このままじゃ安心して寝られない。
しかしリスクを犯して、窓の外に出て攻撃を仕掛けても、仲間を呼ばれたりしたらまずいよなぁ。
どうしたもんかと考えていたら、ティルがぽつりと呟いた。
「だったらアタシが捕まえる」
「え...どうやって?」
俺は反射的に聞き返していた。
ティルは淡々と返事する。
「それは秘密」
秘密かぁ。
しかし女の子ひとりで捕まえるってのもなぁ。
助けてもらった恩もあるし、俺は一緒に戦おうと提案する。
「一人じゃ危険だよ。俺達も加勢するから...」
「大丈夫よ。アタシ一人だったら危険は無いから」
「...」
ティルは憶測ではなく、何かを確信して答えているようだった。
つまり何か作戦があるのか。
ひとりで窓の下のやつを確実に捕らえられる作戦が、それも危険が無いような。
そして俺達がいたら、その作戦は成立しないらしいな。
まあここまではっきりと断言してるんだし、任せてみようかな。
俺は念を押して聞いてみた。
「...本当に一人で大丈夫?」
「大丈夫よ。ただし、ナオとルーンはこの部屋を出ないこと。窓の外を見てもダメ。これを守れるなら、窓の下のやつを捕獲出来るわよ」
「わかった。外を見ずに、この部屋でじっとしてるよ」
「念のため、廊下の方は警戒して見張ってて」
ティルはそう言って廊下に出て、去って行った。
大丈夫かな...。
不安に思いながらも、ティルに言われた通りに行動する。
「ルーン、おいで」
窓際にいたルーンを呼び寄せ、部屋の入り口を警戒しつつ、ベッドがあった場所で待機する。
廊下から誰かが侵入し、突然戦闘になった時に俺の妨げにならないようにか、ルーンが遠慮がちに俺の手に触れる。
しばらく緊張して入り口を見ていたが、何の気配も無く、次第に気が緩んできた。
ぼーっと入り口や男の死体を見ながら、傍にいるルーンに声を掛ける。
「ティルが窓の外を見るなってさ、何だろうな」
「うん...」
「それにしてもどうやって捕まえるんだろう、あの感じだと戦闘する様子じゃなかったけど」
「たぶん、祝福の力だと思うよ、お兄ちゃん」
「ああなるほど。じゃあ窓の外を見るなってのは?」
「力を使う所を見られたくないか、巻き添えにならないように...かな?」
「巻き添えだとしたら、どんな能力が考えられる?」
「うーん...。眠ったり、麻痺したり、失神したり...」
「あり得るな」
30分くらいだろうか、ルーンとそんなことを話していたら、廊下から足音が聞こえて来た。
短剣を握りしめ、緊張して入り口を見ると、ティルが出て行った時と同じ姿で戻って来る。
そして、俺達を見ながら淡々と答えた。
「もう大丈夫よ。外の男は捕まえて、その後ホテルの支配人に突き出したわ」
俺は安堵して短剣を収めながら聞いた。
「怪我は無い?」
「大丈夫よ」
「よかった。その男に聞きたいことがあるんだけど、案内してくれる?」
「...それはやめたほうがいいわ」
「どうして?」
「もう死んでるから、何も答えられない」
「え...」
ティルの言葉に混乱する。
さっきは『捕まえて』『突き出した』って言ってたよな?
どういうことだ...?
状況を把握しようと、ティルに確認する。
「ティル、さっき『ホテルの支配人に突き出した』って...」
「うん、だから捕まえてから死体を突き出した」
「...」
捕まえてから死体になるまでの部分が無かった。
ティルは構わず続けて話す。
「誰の差し金か聞くつもりだったの?」
「うん」
「それなら私がもうやった」
「おお!で、答えは?」
「それを言おうとしたけど、言う前に死んだわ」
「...なるほど」
ようやく状況が把握出来てきた。
ティルは死んだと言ったな。
ということは、捕獲した現場で他の誰かに、直接殺されたわけじゃなさそうだな。
口封じの為に、予め何かされてたのか?
そんなことを考えていたら、ティルが提案してきた。
「念のため死体だけでも見る?こいつも連れて行かないといけないし」
ティルは床で死んでいる男を指す。
...ティルが嘘を吐いてるとは思えないが、ティルの言う通り、念の為見ておいた方がいいか。
「一応見ておくよ、案内を頼めるかな?」
「いいわよ、ついて来て」
「わかった。こいつは俺が運ぶよ。ルーン、一緒に来るか?」
ルーンに死体を見せるのはどうかと思ったが、考えてみればあの島からずっと凄惨な現場を一緒に見ていた。
よって、ルーンに対して度々そういう気遣いをすることは、逆に嫌がられるかと思って声を掛けていた。
「...うん。お兄ちゃんと一緒に行く」
「...」
ティルは少しの間黙ってルーンを見ていたが、結局何も言わずに廊下に出た。
「ルーン、死体は俺が持って行くから触らない様に」
「...はーい」
さすがにルーンに男の死体を触らせたくない。
俺はティルの後を追って、床の男をズルズルと引っ張って1階まで移動する。ルーンも後ろをトコトコと付いて来ていた。
1階に降りるとティルが紳士的なホテルマンと会話していた。
俺が死体を運んで来た所を見ると、もう話しをつけていたのか、すぐに指示を出した。
「その死体はこの人が預かるって」
「わかった」
受付カウンターの近くまで死体を引きずり、ホテルマンに伝える。
「すいません、ここに置いておきます」
「お話は伺っております。お預かり致しますので...」
ホテルマンは変わらず紳士的に対応していた。
傍にいるティルが淡々と告げる。
「捕獲した男の死体はこっちよ」
さっきは死体を引きずっていたから出来なかったが、今は手を自由に使える状態になっている。
俺はルーンの手を取って言った。
「ルーン、行こう」
「うん...」
ルーンは俺の手をぎゅっと握りしめて付いて来た。
ティルに案内されて、宿の裏口から出て倉庫らしき建物に入る。
入ってすぐ傍の床に男の死体があった。
口から泡が出ている所を見ると、肺がやられたのか?毒で窒息??
うーん、よくわからん。
男の所持品を漁る前に、ティルに聞いてみた。
「こいつの所持品は?」
「ナイフ以外、何も持って無かった」
まあ信じていいだろうな。
念の為に死体を見に来た俺が、今ここで念の為に所持品を漁ることは充分あり得る。
そんな状況で嘘を吐くとは思えない。
死体を見ても収穫無し。たいした所持品も無し。
その状況で、俺はわかってて聞いていた。
「...つまり、何の情報も得られないってこと?」
「そういうことになるわね」
「...部屋に戻ろう」
再びルーンの手を引いて倉庫を出て、裏口からメインエントランスに戻る。
受付を通って部屋に戻ろうとすると、ホテルマンが呼び止めた。
「お客様、部屋の扉とベッドが壊されたようなので、別の部屋を用意させて頂きました」
「あの、ベッドについては立てかけた結果壊されたので、こちらにも落ち度があります。今は持ち合わせが無いですが、必ず相応の費用を払いますので...」
俺が申し訳なさそうに言うと、ホテルマンは続けて説明口調で話した。
「とんでもございません。お客様、強盗の侵入を許したのは私どもの落ち度でございます。二度とこのようなことを起こさない様に、防犯を強化致しますので、どうかお許しください。明日の朝まで総出で見張らせて頂きます。宿代については明朝にお返しさせて頂きます」
ホテルマンは深々と頭を下げ、両腕を突き出して、手の平に乗せた新しいルームキーを俺に差し出した。
その様子を見て、俺はなんとか落としどころを提案するように言った。
「いえ、それはいけません。...では双方に落ち度があったということで、新しいルームキーは頂きます。それと、俺たちはちゃんと宿泊するので、宿代の返却については受領できません。壊れたベッドについては...後日お金を持ってきます」
「お客様、ベッドについては強盗が破壊しております。これは侵入を許したわたく...」
俺はキリが無いと思って、ホテルマンの言葉を遮って言った。
「わかりました。ではベッドは強盗が壊したということで」
「はい。では新しいカギをお受け取りください」
なんとか落としどころが見つかり、ルームキーを受け取った。
三人でゾロゾロと廊下を歩きながら、俺は今夜と明日のことについて考えていた。
いくら宿の強盗対策を強化しても、今夜はさすがに安心して寝れないなぁ。
もし追加で来た賊が、ホテルの従業員以上の手練れだったらどうするんだろう。
...いっそ、ティルにボディーガードを頼めないかな。
何の能力かはわからないが、無傷で賊を捕獲したところを見ると、かなり強そうだ。
俺は歩きながら、ティルに尋ねてみた。
「ティル、お金はちゃんと払うから。護衛を引き受けてくれたら有難いんだけど...」
俺の後ろからルーンがギュッと背中に抱きついて来た。
まあ待てルーン、護衛は必要なんだ。
「...」
ティルは無言で、前を歩いている。
この反応は...無理か。
まあしょうがないな。
俺が諦めかけていたら、ティルは淡々と答えた。
「いいわよ。報酬については中で話しましょう」
ティルが立っていた部屋の番号は、新しく受け取ったルームキーと同じ番号だった。
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