あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

文字の大きさ
上 下
49 / 85
第一章 狼の少女

48.不審者

しおりを挟む
 ルーンと部屋に戻り、またベッドに腰を下ろして寛ぐ。

 やっぱり泊まりはいいな、わくわくする。
 時刻は21時ぐらいか、やることも無いし寝るかな。

 俺は寝る支度をしながら、ルーンに声をかける。

「ルーン、そろそろ寝るか。今日は疲れたし、明日も大変そうだしな」
「うん。じゃあお兄ちゃん、寝る前におトイレ...」
「ああ、一緒に行こう」

 部屋の扉にカギを掛けて、ルーンと一緒にトイレに行く。
 旅行の気分を味わいながら、まったりと用を足していると、いつものように俺にしがみついているルーンから、石鹸のいい匂いがした。

 そういや他の宿泊客の姿をあまり見ないな。
 見たのは脱衣所の少女だけだが...。
 安くて良い宿なのに、今の時期は利用する人が少ないのかな。

 そんなことをぼーっと考えながら、手を洗って部屋に戻る。
 扉にカギをかけ、荷物をベッドの傍に置いてから、ルーンに声を掛ける。

「ルーン、念のために荷物をすぐに取れるように、傍に置いておこう」
「うん。わかった、お兄ちゃん」

 ルーンも同じように、荷物をまとめてからベッドの傍に置いた。

「さて寝るか。おいで、ルーン」
「うん!」

 部屋の灯りを消し、ルーンと一緒にベッドに入る。
 俺の右半身にぎゅっと抱きついて、顔を脇の下辺りに摺り寄せているルーン。
 俺は右腕で抱えるようにルーンを抱いて、囁いた。

「おやすみ、ルーン」
「おやすみなさい、お兄ちゃん」

 ルーンの体温を感じて、いつもの状態で眠りについた。



 ...。

 コンコンコンと扉をノックする音が聞こえる。

 ん?
 誰か来たのか?
 もう朝...ではないな。

 起き上がろうとモソモソと動くと、ルーンも動き出した。

「お兄ちゃん...さっきの音...」
「ごめん、起こしちゃったな」
「...」

 どうやらノックの音で、ルーンも起きていたようだ。
 俺達は小声で会話する。

「誰か来たの...?」
「みたいだな、とりあえず確認するか」

 そう言ってベッドから抜け出そうとすると、突然ルーンが俺の右腕を強く抱き止めた。

「お兄ちゃんっ...」
「大丈夫だ。いきなり扉を開ける程不用心じゃない」
「うん...」
「まずは何の用件か確認するだけだ」

 ルーンにそう言って安心させ、俺はベッドから抜け出して時間を確認する。

 日付が変わったぐらいか。
 こんな時間に来るってことは、よほど大事な用か、もしくは...。
 とりあえず聞いてみるか。

 再度ノックが聞こえ、俺は扉の前に立って声を掛けた。
 扉は施錠されている。

「はい、どうしました?」
「お客様すいません、すぐに見て頂きたい物がありまして」

 廊下から聞こえる男の声は、例のホテルマンのものではなかった。

 ...なんだ?

 俺は言いようのない、奇妙な違和感を感じていた。

 すぐに見て頂きたいね...。
 まあマジで緊急の用件かもしれないから、もうちょっと情報が必要だな。

 後ろを見るとルーンが不安そうな顔をしている。
 俺は念の為、ルーンに向かって人差し指を唇に当ててサインを出し、手招きして俺の傍に来させる。

 ルーンなら声のトーンとかで見破ることができるんじゃないか。
 まあこの時間に来て、扉を開けさせようとしてる時点で怪しいが。

 ルーンは俺の左腕を抱きかかえ、不安そうな顔で傍に立つ。
 俺は続けて廊下に声を掛けた。

「ええと、見て頂きたい物って...何かあったんですか?」

 廊下からはすぐに返事があった。

「はい。先ほど宿の傍で殺された人がおりまして...。息絶える寸前に『これを子供二人に渡してくれ』と言っておりました。お客様のことではないでしょうか」

 殺された...?
 随分物騒な話だな。

 奇妙な違和感は強くなる。
 もちろん心当たりなど無かった。

 一応ギルコードのおっさんの可能性もあるが...どこの宿に泊まるかは言ってない。
 仮に、どうにかして俺達が泊まる宿を突き止めたとして、俺達に何かを渡すために来た所を殺された?
 若しくは別の場所で襲われて、死ぬ間際に俺達に何かを渡す為に、ここまで来た?
 うーん...今日会って話をしただけの関係なのに、どちらも現実的では無いな。

 俺の左腕を抱くルーンの両腕に、力が籠る。
 とりあえずもう少し聞いてみるか。

「いえ、心当たりはありませんが。どんな人でしたか?」
「さあ...私も部下から聞いた話ですので。とりあえず物を見て頂けますでしょうか。見て頂ければ人違いかどうかはっきりしますので」
「どういう物ですか?知り合いはいないので、人違いだと思いますが」
「はい。鞄なんですが、どうも中の音から察するに、いくつか物が入っているようでして。私が勝手に開けるわけにもいきませんので、実際に見て頂ければ早いかと...」

 そこまで聞いて、ルーンが目一杯力強く俺の腕を引いて、耳元で小さく囁いた。

「お兄ちゃん...」

 ルーンの顔を見ると、不安で怯えているように見える。
 力強く抱いているルーンの両腕は、俺の体を引っ張り、まるで扉から遠ざけようとしている様だった。

 なるほどな。
 ガシュレットの差し金と見ていいだろう。
 あのじじい、やりやがったな...。
 狙いはキースライトの原石か。

 俺はすぐに思考を切り替えて、ルーンと道具を死守するにはどうすればいいかと考えた。

 よし、とりあえず扉を突破されなければいい。
 窓から逃げるかどうかはその後考えよう。
 となると、何か使える物は...。

 俺は部屋を見渡す。
 元々シンプルな部屋なので、使える物は限られていた。

 やっぱりベッドしかないか...。
 仕方ない、こいつを使うか。
 とりあえずルーンに石と短剣を持たせて、いざとなったらルーンを抱えて窓から飛び出せばいいか。
 よし、それでいこう。

 俺はルーンに小声で指示を出して、すぐに服を脱いだ。

「ルーン、俺は扉を破られない様にベッドを立てかける。ルーンはキースライトの原石と短剣を持って、窓の外の様子を見てくれ。くれぐれも静かに、慎重にな」
「う、うん...」

 ルーンは言われた通り、ゴソゴソと荷物を漁って石と短剣を取り出している。
 裸になった俺は、まず廊下に声を掛ける。

「わかりました、寝てたのでちょっと待ってください。今扉を開けますから」

 よし、これで多少モタついても時間は稼げるな。
 俺達が怪しんでいることはバレているだろうが、扉を封鎖しようとしてることまでは読めまい。

『狂戦士』の力で獣っぽい外見に変身し、ベッドを持ち上げる。
 狭い部屋の中で、ベッドを斜めにしてなんとか扉まで運ぶ。
 途中何度か壁にぶつけたが、扉に立てかけることが出来た。

「あの、何をされているんですか?」

 さすがに部屋の中から何度か大きな物音があれば、相手も怪しんでいたようだった。
 しかし、もう扉を封鎖した後だったので、俺は服を着ながらどう答えようかとゆっくり考えていた。

 毎度毎度、服を脱いで着て...めんどくさいな。
 まあ筋肉が肥大化するから、服が破れることを考えればしょうがないか。
 それよりもこの状況だ。どうしたもんか...。

 振り返ってルーンを見ると、ちょうど窓からこちらに向かって来ていた。
 俺の耳元に口を寄せて、ルーンが囁く。

「お兄ちゃん、窓の下に男の人が1人いるよ。多分廊下の人の仲間...」
「わかった。ありがとな、ルーン」
「うん...。梯子とかは無いみたいだけど...」
「大丈夫だ、心配するな」

 俺はルーンの頭を撫でてやり、両腕で抱きしめて安心させる。
 ルーンは若干不安そうな顔をしていたが、焦りやパニックになっている様子は微塵も感じられなかった。

 あの短時間で、窓の外の状況を把握したのか。
 さすが俺のルーンだな。

 俺はルーンの優秀さに喜んでいたが、すぐに思考を切り替える。

 さて...外にも敵がいるのか。
 窓から侵入することは無さそうだが、どうしたもんか...。
 とりあえず廊下のやつをどうにかしないとな。
 このまま何も答えずに待つか?
 いや、待ったところで救援が来るとは限らない。あの紳士なホテルマンが、既に殺されているってこともありえる。
 ギルコードのおっさんも、状況を知れば味方してくれるだろうが、それを伝える手段が無い。

 俺はルーンを抱きしめたまま、考え続ける。

 だが基本的には、時間が経てば経つほど強盗側は不利になるはずだ。
 目的は石を盗みに来たと見ていいだろう。
 そして深夜の人目に付かない内に、短時間で強盗しないといけないのであれば、強行してくるだろう。
 時間が経てば、今は寝ている他の宿泊客も起きて来るしな。
 よし、相手が強行することに備えたほうがいいか。

 俺は、相手が力づくで扉を破って来ると読んで、それに備えようとルーンと話しをした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...