あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

文字の大きさ
上 下
48 / 85
第一章 狼の少女

47.宿泊施設で過ごす時間

しおりを挟む
 扉をノックする音が聞こえ、目が覚めた。

 あれ、寝てしまったか...。

 ぼーっとしたまま上体を起こして部屋を見渡すと、ルーンが扉に声を掛けて、丁寧に応対していた。

「はい...、どちらさまでしょうか」

 ルーンが声を掛けると、廊下から受付にいたホテルマンの声が聞こえた。

「19時になりましたので、夕食をお持ちしました」

 その声を聞いたルーンは、俺の方に振り向いて伺っている。

「ああ、いいよルーン。俺が出る」

 俺は起き上がり、扉を開錠して開ける。
 廊下には獣人のホテルマンが立っており、傍にはホテルカートというのか、ワゴンというのか、給仕用の台車に夕飯が用意されている。

「お客様、失礼致します」

 ホテルマンが声を掛けてから、台車を押して部屋の中に入る。
 窓際のテーブルに皿と食器を並べ、壁掛け棚の水差しを交換した後、再度俺達に声を掛ける。

「20時に食器を回収しに参りますが、大丈夫でしょうか」
「あ、はい。お願いします」
「では失礼致します」

 そう言ってホテルマンは去って行った。
 俺はすぐに扉を施錠すると、ルーンが壁掛け棚から水差しとコップを2個取って、テーブルにコップを置き、水を注いだ。
 それを見た俺は、ルーンに声を掛けて椅子に座った。

「ルーン、ありがとう。じゃあ食べよっか」
「おいしそうだね、お兄ちゃん」

 テーブルに並べられた料理は、品数は多くないが量はそこそこあった。

 サラダと肉料理は...俺が会社帰りによく行ってたファミレスの1.5倍はあるな。
 そういや安くてうまい某ファミレスに、週5で行ってた時期もあったなぁ。なつかしい。
 いや、そんなことはどうでもいいか。

 フォークを使って肉やサラダを口に運び、もしゃもしゃと食う。

「うまい。味付けがいいな、塩味が効いてる」
「戻ったらお兄ちゃんに作ってあげたいなぁ」
「後でレシピを聞いておくか」
「うん!」

 俺とルーンは他愛もない話しをしながら、夕食の時間を楽しく過ごした。




 食後、水が入ったコップを持って窓の外を見る。
 既に陽は落ちて暗くなっており、犬の鳴き声などが聞こえる。

「ルーン、寒くないか?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 コップの水を飲み干し、テーブルにコップを置いてからベッドに腰掛ける。
 食後のまったりした時間を寛いでいると、扉をノックする音と、ホテルマンの声が聞こえた。

「お客様、食器を回収しに参りました」

 俺はすぐに返事をして開錠し、扉を開ける

「あ、はい。とうぞ」
「失礼致します」

 ホテルマンは台車を押して部屋に入り、テーブルの上の食器を回収し、水差しを交換した。

「水がご入り用でしたら、受付までお越しください」

 そう言ったホテルマンに対し、俺は忘れないうちに料理のレシピについて聞いておいた。

「すいません、夕食のレシピが知りたいんですが」
「でしたら、明日の朝食時にお持ちします」
「ありがとうございます。お願いします」
「では失礼致します」

 そう言って、ホテルマンは台車を引いて部屋を出て行った。

 妙に紳士的な人だなぁ、まあ宿泊業だから当たり前と言えば当たり前だが。
 そういやあの人、独断で宿代を決めていたな。もしかしたら支配人兼ホテルマンとかかな。

 などと、どうでもいいことを考えていると、ルーンが話し掛けて来た。

「お兄ちゃん、水浴びはどうするの?」
「あー...。よしっ、今から行くか」
「うん!」

 俺は明日の朝でも良かったんだが...別にルーンが臭いわけでもないし。
 まあでもルーンは気にするだろうしな。
 この宿に水浴び出来る設備があるのかな?一旦フロントに聞いてみるか。

「ルーン、ちょっと受付で聞いてこよう」
「はーい」

 俺とルーンは着替えとタオルを持って、部屋を出てからカギを掛け、階段を降りて受付まで移動した。
 受付カウンター内側には紳士的な対応の、例のホテルマンがいる。
 俺達は近づいて声を掛けた。

「すいません、水浴びできる場所はありますか?」
「はい、そこの廊下の突き当りの部屋でございます」

 ホテルマンは、宿泊部屋がある廊下とは逆の廊下を指した。
 俺は当然有料だと思い、値段を聞いた。

「ええと、利用料はいくらですか?」
「短時間でしたらお代は結構です」
「わかりました、ありがとうございます。少しだけ利用させてもらいます」

 なんというサービスのいいホテルだ。

 俺達は突き当りの部屋の前まで移動し、扉の前で立ち止まった。

「これってノックしたほうがいいよな?」
「うん...。誰かが利用しているかも...」

 俺は扉をノックして反応を確かめるが、ドアの内側からは何の音も聞こえなかった。

「なんだ、誰もいないのか。行くぞルーン」
「うん!」

 扉を開けて中に入ると...そこは脱衣所らしき部屋で、裸の女の子が立っていた。
 目は虚ろで、ぼーっとしている。
 髪型はボブというのだろうか、黒色の綺麗な髪だった。
 年は俺と同じくらいのように見えた。
 身長は俺よりも高く、顔や体を見るに、獣人であることは間違いなかった。

 どことなくネコを連想させるな...。
 それにしても細身だなぁ。

 裸の女の子に見とれていると、ルーンがぎゅっと俺の腕を引いて、低い声で呟いた。

「お兄ちゃん...」
「おっ、そうだった」

 腕を引かれた俺は、すぐに裸の女の子に声を掛ける。

「すいません、すぐに出ていきます」

 女の子は正気を取り戻したのか、俺達を見ると驚きの形相になり、みるみるうちに顔を赤くさせる。

「え、え...?」

 取り乱してる女の子をそのままにして、俺達はすぐに廊下に出た。
 ルーンの様子を伺うと、不機嫌な顔をしている。
 なんて言い訳すればいいかわからず、俺はとりあえず話し掛けていた。

「ルーン...あの...」
「お兄ちゃん...部屋に入ったことについては、お兄ちゃんは悪くないよ。だって返事が無かったもんね。でも、部屋に入った後で、お兄ちゃんはじっと見ていたよね?」
「う...、はい...」
「もうっ、お兄ちゃんはえっちなんだから...」
「ごめんなさい...」
「あの人にも、もう一回ちゃんと謝ってね」
「はい...」

 ルーンの言うことはもっともだ。
 裸の女の子がいることに気づいた時点で出るべきだったな。
 それをじっと見ていた俺が悪い...。
 しかしラッキーだった。もうちょっと見たかったな。

 と、内心ではあまり反省せずに、俺は廊下でじっと待つ。
 しばらく待っていると、脱衣所の扉が開き、先ほどの女の子が出て来た。
 もちろん着衣の状態だったが、女の子は顔をゆでダコのように真っ赤にして、俺達に申し訳なさそうに声を掛けた。

「あ、あの...ごめんなさい。アタシ...ぼーっとしてて。ノックに気が付かなくて...」

 俺はすぐに謝罪した。

「いえ、じっと見てた俺が悪いです。すいませんでした」

 女の子に向かって深々と頭を下げる。
 すると女の子は、真っ赤な顔を両手で覆い、涙声になっていた。

「じっと見てた...ううぅ...」

 そう呟いて、女の子は足早く去って行った。
 その様子を呆然と見ていた俺に対して、ルーンが低い声を出す。

「お兄ちゃん...」

 ルーンがジトっとした目で俺を睨んでいる。
 無理矢理テンションを上げて、誤魔化そうと大きな声でルーンに告げる。

「よしルーン、水浴びだ!短時間ならタダだぞ!」

 俺はルーンの手を握って脱衣所に入った。
 服を脱いでいると、ルーンが俺に、静かに言った。

「お兄ちゃん、次からは気をつけてね」
「わかった!」

 俺とルーンは一緒に水浴びをして、汗や汚れを落とす。
 わしゃわしゃとルーンの髪と体を洗ってやると、機嫌が直ったようだった。

「お兄ちゃんも洗ってあげるー!」

 と、笑顔で俺に声を掛けるルーン。
 二人で体を洗いあい、それが終わるとすぐに体を拭いて服を着る。

 ふう...さっぱりしたな。
 まあ短時間の範囲だよな...たぶん。

 俺達は脱衣所を出て、受付で再度ホテルマンにお礼を言って、部屋に戻った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...