あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

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第一章 狼の少女

45.食堂で昼食

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 1枚の金貨を貰った俺は、鍛冶屋から出ようと振り返り、ルーンと一緒に扉に向かって歩き出した。
 扉に手をかけようとしたところで、背後から鍛冶屋の親父の声が聞こえた。

「そういやあ坊ちゃん。キースライトの原石だが、そいつはもう誰かに見せたのか?」

 俺は親父の声を聞いて、ルーンと手を繋いだまま上体だけ振り返った。

 やっぱり金貨2000枚や3000枚もの代物だから、心配しているのかな。
 まあもう見せてしまったんだけど。

「はい、向こうの通りにある道具屋の主人に見せましたが...」

 俺がそう言うと、親父は若干顔を顰めて言った。

「ガシュレットの野郎か...」

 なんだ...?
 やっぱり危ない人なのか?
 というかあの爺さん、ガシュレットって名前なのか。

 俺は不安になってすぐに聞いた。

「あの、危ない人なんですか?紳士そうに見えたんですが...」
「ああ、見かけはな」
「では悪い噂が?」
「いや、一切無い」

 見かけが紳士で、悪いうわさが一切無いなのに危ないのか?
 まあ実際俺たちを騙そうとしていた現場を見てはいるが、あれが無かったら紳士だと思っていただろう。

 俺が考え込んでいると、親父が続けて言った。

「悪い噂が一切無いのが怪しいんだよ。少なくとも俺は聞いたことが無い」
「ああ、そういうことですか...」
「まあこんな子供たち相手に強盗するとは思えんが、一応用心しておいたほうがいいな」
「わかりました。ご忠告ありがとうございます」
「おっと忘れてた、俺の名前はギルコードだ。またな坊ちゃん」
「はい」

 俺はそう言って一旦ルーンの手を放し、ギルコードの方を向いて頭を深く下げた。
 そしてまたルーンの手を取り、扉を開けて鍛冶屋を後にした。
 通りに出てすぐに、俺は辺りを見回した。

 ...特に怪しい奴はいないか。
 考え過ぎかな。

 周囲を確認した後、ルーンに声を掛けた。

「よし、まずはご飯を食べにいくか」
「うん!」

 ルーンは元気よく返事をした。
 それを聞いて歩き出そうとした俺は、今から食堂を探してうろつくのは効率が悪いことに気づいた。

「しまった、ギルコードのおっさんから食堂の場所を聞いておけばよかった」

 独り言のようにそう漏らして、再び鍛冶屋の扉を開ける。
 そして、カウンターの内側にいるギルコードに声を掛ける。

「すいませんギルコードさん、この辺りに食堂はありますか?」

 返事はすぐに帰って来た。

「ああ、食堂ならここを出て右手にまっすぐ歩くとあるぞ。酒樽の看板が見えるから、すぐにわかるだろう」
「わかりました、ありがとうございます」

 お礼を言って、また扉を閉める。
 俺はルーンの顔を見て告げた。

「ルーン、遅くなってごめんな。食堂の場所がわかったから行こう」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 ルーンの手を握って右手に歩き出すと、すぐに宿の看板が目に入った。

 おっ、ここに宿があるのか。
 メシ食ったら一旦ここに来てみるか。
 ギルコードさんがいる鍛冶屋も近いし、安かったらここでもいいな。

 そんなことを考えながら歩いていると、聞いていた通りの看板が目に入る。

「おっ、酒樽の看板があるな。ここだな」
「あんまり混んでないみたいだね、お兄ちゃん」

 街の規模が小さいからなのか、昼から酒を飲んでる人が少ないからなのか、混雑してる様子ではなかった。

「よし、入ろう」
「うん!」

 俺はルーンを連れて食堂に入った。
 店内はカウンターと、テーブル席がいくつかあった。他に客は2~3人しかいない。
 テーブルの席にルーンと向かい合って座り、店内を眺めていると女性の店員がやってきた。

 見た目から推測すると、50歳ぐらいか?
 よそ者お断りとかだったらどうしよう...まあ旅人もよく来るし、そんなことはないか。

 俺とルーンの前に水が入ったコップを置き、笑顔で話し掛けて来た。

「いらっしゃい。可愛いお客さんだね。お昼ご飯かい?」
「はい、メニューはありますか?」
「ああ、だけど昼食にお勧めの料理があるよ。どうだい、安くしとくよ」
「ええと...いくらですか?」
「子供だからね、2人で銀貨5枚でいいよ」

 おばさんの返事を聞いて、少し考えていた。

 銀貨5枚ってことは...俺が今持ってる金貨1枚を渡すと、銀貨95枚返って来るってことか。
 安いことは安いが...95枚もの銀貨をジャラジャラと持って歩くのか...それは大丈夫なのか?
 というかこの世界は、みんな硬貨をジャラジャラと鳴らしながら歩いてるのかな。そんな感じでは無かったように思うが...。
 まあとりあえず料理を決めるか。

 俺は硬貨の枚数について考えるのをやめ、ルーンに聞くことにした。

「ルーン、どうする?食べたいものあるだろ」
「お勧めの料理がいい」
「...わかった。じゃあすいません、お勧めのやつお願いします」
「はいよー」

 おばさんはオーダーを取って厨房に戻っていった。

 お勧めの料理か...いわゆるチェーン店なんかがよくやってる、日替わりランチセットってやつかな?
 食材の在庫を見て、ありあわせで作ってるようなイメージだが。
 ルーンに気を遣わせてしまったかな、まったくよくできた娘だなぁ。
 まあ何事も無ければ大金が手に入る。どんなに安く売っても、嫌ってくらいご馳走が食えるようにはなるだろう。

 そんなことを考えていると、ルーンは俺の顔をじっと見ていることに気づいた。
 俺は考えを見透かされたと思い、確認しようと声を掛けたがすぐに遮られてしまった。

「なあルーン...」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。ご馳走も確かに嬉しいけど、お兄ちゃんと一緒に居られることが何より嬉しいんだから」
「ルーン...」

 ルーンは声をひそめて俺に告げた。

「だから...危なくなるようなことはしないでね。お兄ちゃんが危険な目に遭うなら、大金もご馳走もいらない。あの家でお兄ちゃんと一緒に居られるなら、他に何もいらないよ」

 ルーンはそう言って、少し微笑んで俺の目を見ていた。

「そっか...そうだな。たまにこうやって刺激があるのもいいが、平穏が一番幸せってことだな。ありがとな、ルーン」
「はーい」

 ルーンは可愛らしく返事をした。
 そして、しばらくすると料理と水が入ったポットがテーブルに置かれた。
 料理の内容は...思っていたよりは豪華だった。

 パンと野菜スープに、魚の塩焼き、ジャガイモとチーズとほうれん草を卵でとじたもの...みたいな感じか。
 子供だからおまけしてくれたのかな?これを2人分で銀貨5枚は安いな。味もなかなか良い。

 もしゃもしゃと食いながら、ルーンに声を掛けた。

「なかなかうまいな、ルーン」
「うん。おいしいね、お兄ちゃん」

 よかった、ルーンも満足してるようだ。
 俺達は食堂で昼食を取り、しばらくゆっくりした。

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