あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

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第一章 狼の少女

43.買い取り

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 俺とルーンは森を抜けると、そこにはウィラルの街の門が見えた。
 門の前には中年の男がやる気無さそうに立っており、タバコを吹かしている。

「着いたなー」
「あれがウィラルの街...」
「まあ特に止められることもないだろう。行くか、ルーン」
「うん!お兄ちゃん」

 ルーンの手を引いて、門に向かって歩き出す。
 門のすぐ前まで来ると、中年の男がやる気無さそうに声を掛けて来た。

「おや、子供だけとは珍しいな...」

 俺は適当に挨拶をする。

「こんにちは」

 門番も適当に答えた。

「ああ、まあ何も無い街だけどゆっくりしていきな」

 特に詮索されることも無く、俺たちは門を過ぎてウィラルの街に入る。
 街中はちらほらと通行人を見かけるが、あまり活気があるようには見えなかった。

 とりあえず鉱石をなんとかするか。

 俺はまず商店に行こうとしたが、この鉱石をもらった時の言葉をふと思い出した。

 まてよ、鍛冶屋に持って行ったほうがいいとか言ってたな...。
 先に鍛冶屋で聞いてみるか。

「ルーン、まず鍛冶屋を探すぞ」
「そういえば、鍛冶屋で売ったほうがいいって言ってたね」
「ルーンも覚えてたか。まあ別の店で売らずに値段だけ聞いてもいいんだけどな」

 俺はそう言って、ルーンの手を取って街中をうろついた。
 門から真っすぐ行くと街の中心部があり、そこには小さな噴水と花壇がある。
 そこから東、右に向かってルーンと一緒にうろうろと彷徨っていると、右側に道具屋と思われる店を発見する。

「なあルーン、一旦あの店で聞くだけ聞いてみようか」
「でも...貴重な物だったら、お兄ちゃんが狙われないか心配...」
「うーん、持ってる物を見せず聞いてもいいが...まどろっこしいな。親切そうな人だったら見せて聞いてみるよ」
「うん...」

 木製の枠にガラスがチェック模様にはめ込まれた扉を開け、ルーンと一緒に店に入る。
 カランとドアに取り付けられた小さな鐘が鳴った。

「いらっしゃいませ」

 奥から初老の男が出て来て、俺たちに声を掛けた。
 子供二人だけの客という状況だったが、特に不審には思っていないようだった。
 店主が続けて言う。

「何かお探しでしょうか。小さな街なので品揃えは良くありませんが、何なりとお申し付けください」

 どうも紳士な感じのじいさんだな...。
 愛想が悪いわけでも無いし、この感じなら大丈夫だろう。

 俺はそう判断して、持っていたキースライトの原石を店主に見せて聞いた。

「すいません、この石なんですが...」

 店主は少し目を開き、驚いたような表情を見せて呟いた。

「これは...」

 この反応は...高く売れそうだな。
 よし、適当にでっちあげて値段を聞くか。

「知り合いのおじさんから、冒険のお土産でもらった石なんですが...いくらで買い取って頂けますか?」
「そうですな...金貨100枚でどうでしょうか」
「金貨100枚ですか!?」

 俺は驚いて聞き返してしまった。
 俺の反応に、店主は説明を始めた。

「これはキースライトの原石でございますな。近年は採鉱量が減っておりまして、以前と比べて価値が上がっている物でございます。まあ相場は金貨80枚程ですが、親戚から頂いたお土産を売るということは、余程お金が要り様なのでしょう。サービスで100枚にしておきましょう」

 おいおい、金貨10枚ぐらいで売れたらラッキーぐらいに思ってたのに、その10倍じゃん。
 これならかなり豪遊できるな...。

 と考えていたら、後ろのルーンが俺の服をくいくいと引っ張る。
 その仕草から、ある予感を覚えた。
 店主に怪しまれないように、後ろを振り返って芝居をする。

「なんだよル...ああ、そうだったな。お腹がすいたのか。そういえば昼飯がまだだったな」

 ルーンの顔は俺が思った通りの顔をしていた。
 神妙な顔で俺を見ていたルーンだが、俺の芝居を一目で見抜くと合わせてくれる。

「お兄ちゃん、早くご飯食べに行こうよ。私お肉がいい!」

 うーむ、迫真の演技だな。実際歩き疲れてこの街に辿り着いてから、ご飯を食べてないんだし。
 それよりもルーンのあの顔だ。
 おそらく、このじいさんは...。

 俺はルーンの顔を見た後で、店主の反応を思い出していた。
 そして不信感が高まり、一旦店を出ようと決めた。
 店主に対して、昼食をダシに店を出る方向で会話を始める。

「すいません、この街で宿か食堂はありますか?先にお昼ご飯を食べてからまた来ようと思います」
「ああ、それでしたらここで食べていかれてはどうですか。大口の買い取りになりますので、お客様をおもてなしさせて頂きたいと存じます」

 ...このじいさん、急に引き止め出したぞ。
 露骨に来やがったな。そうはいくかっての。

「いいえ、宿も決めないといけませんし」

 俺が冷静にそう言うと、店主は不信がられてはまずいと思ったのか、それ以上引き止めようとはしなかった。

「さようでございますか。ではここを出て右手にまっすぐ行くと食堂がございます」
「わかりました、ありがとうございます」

 俺は返事をしてキースライトの原石を仕舞い、振り向いて後ろのルーンに声を掛けた。

「ルナリア、ご飯食べに行くぞ」
「はーい、お兄ちゃん」

 あえて偽名で呼び、ルーンの手を引いてドアを開けようと手を伸ばす。

 怪しいやつだとわかった以上、情報を漏らさないに越したことはないからな。

 木製の枠にはめられたガラスに反射し、背後では店主がこちらをじっと見ていた。
 ドアを開けると、また鐘がカランと鳴る。

「またのご来店をお待ちしております」

 背後でその言葉を聞きながら、俺たちは店を出て右手に歩き出した。
 しばらくまっすぐ歩いた後、道の端に寄り、ルーンと話しをする。

「ルーン、ありがとな。今のってやっぱり...」
「うん...石を見てから態度が不自然だったよ」
「ということは...金貨100枚では安く買い叩かれるってことなのかな」
「たぶん...」
「うーん、そんなに高価なのか。やっぱり鍛冶屋で聞いてみるか」
「お兄ちゃんが心配だよ。やっぱり貴重な物みたいだし、狙われたりしないかな」

 俺は後ろを振り返り、注意深く見回す。
 俺達を意識してるような不審な人物は...いないな。

「今の所尾行してるやつはいないようだな、あの店内には他の客はいなかったし、あるとすれば、あの店主が単独でこのキースライトの原石を狙うってぐらいか」
「危なくなりそうだったらどうするの?」
「その時は全力で森に逃げるか、切り札もあるしな」
「いざとなったら、私がお兄ちゃんを背負うから」
「交互に力を使えばかなりの距離を稼げるな、まあなんとかなるだろ」

 俺とルーンはヒソヒソと話した後、鍛冶屋を探した。

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