あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

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第一章 狼の少女

37.ある日の午前

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 二人で家に帰って来てから、しばらくの日数が経過した。
 ルーンとの生活は、思っていたよりも楽しかった。
 ルーンに新しいことを教えていくことも楽しかったが、何より話し相手がいることが大きい。
 それにルーンは、俺を信頼してなついてくれている。
 俺のどんな話も真剣に聞いて、感心してくれる。
 いつも自分の傍にいて、自分の話を聞いてくれる。それも可愛い女の子が。
 1人で生活していた俺にとっては、劇的に環境が変わっていた。

 まあさすがにまだ幼いからな、もちろん手を出したりはしてないが。
 俺だってルーンが望んでもいないのに、手を出すつもりは無い。
 そういうことをすれば、奴隷を虐げるやつと同じようなやつになるからな。
 そんなことをするくらいなら、腹を切って死んだ方がマシだ。

 入浴や就寝はもちろんだが、ルーンはよくトイレも一緒に入って来る。
 ルーンはもちろん、男の子である俺に対して性的な興味があるわけではない。
 いや、あるのかもしれなかったが、一緒に居たがるのは寂しさとか、憧れとか、好奇心とか、別の要素が大きいからだと思われた。
 まだ幼いということも相まって、娘を育てているような感じがしなくもない。

 しかし、別の見方をすれば教祖を崇拝する狂信的な信者に似てなくもないかな...。
 まあ、ルーンは盲目的に俺を崇拝しているわけではないか。
 賢くて柔軟な発想が出来て、さらに洞察力もある。
 俺がやってはいけないことをしようとしたら、迷わずに止めてくれるだろう。
 間違っても一緒にやる、なんてことにはならないはずだ。

 ルーンに自分の家だと言って安心させたことによるのか、それとも二人の生活が問題無く続いてることによるのか、とにかくルーンの白い花は4分咲きになっていた。

 おそらくだが、ルーンはこの生活が幸せだと感じてくれているんだろうな。
 でなければ開花したりしないはずだが...。
 少なくとも嫌なことや、不安を抱えて生活してるわけではないことは確かだ。
 それは毎日ルーンの顔を見ていればわかる、いつ見ても明るい笑顔だからな。

 毎朝笑顔で「おはよう、お兄ちゃん」と言ってくれる。
 そんなルーンに、俺は感謝していた。




 そんなある日の朝、ルーンと一緒に起きる。
 しがみついているルーンを起こさないように腕の中から抜けようとするが、バレずに抜け出したことはない。
 いつものごとく、ルーンが笑顔で言う。

「おはよう、お兄ちゃん」
「おはようルーン」

 俺達は寝間着のまま、二人で家の裏にある川まで歩いていく。

「今日もいい天気だなー」
「今日もお洗濯するよ!お兄ちゃん」

 そういやルーンが来てから洗濯の習慣ができたな。
 前は俺1人だけで暮らしていたから、気にしなかったが...。
 やっぱり毎日同じものを着ていて、人間の汗とかいろいろなもので汚れて、臭いままってのはダメだな、うん。

 歩いて1分もしない内に川に着く。
 ルーンは両手で水をすくって顔を洗っていたが、俺はかがんで顔を水面に突っ込んだ。
 ひんやりとした水の感触が気持ちよく、目が覚める。

「あー、爽快感」
「お兄ちゃん、髪まで濡れてるよ」
「まあ細かいことはいい」

 ルーンと他愛のない会話をしながら、両手をまっすぐ空に向けて、目を閉じて伸びる。

「うーーーーーん。体が伸びる」
「お兄ちゃんたら、猫さんみたいで可愛い」
「よし、ルーンも伸ばしてやろう」
「わっ、お兄ちゃん...」

 俺はルーンの両手を取り、万歳の姿勢になるように優しく持ち上げる。
 そのまま少し力を入れて、伸ばしてやる。

「痛くないか?」
「うー...んん...。気持ちいいよ、お兄ちゃん」
「伸びろ伸びろ」

 二人でじゃれあいながら、朝の時間を過ごす。
 家に戻り、朝食の準備をする。いつものようにイノシシ肉にチーズもどき、木の実と野菜を皿に盛りつけた。
 二人でもしゃもしゃと食いながら、今日の予定について話しをする。
 午前はだいたい森に行き、木の実や果物などを採取したり、獲物がいれば狩りをする。

「さて、朝食も終わったし、今日も森に行くか」
「今日はどうするの?」
「とりあえずガザンの実を採って、あとは獲物がいれば狩りでもするか」
「お昼には戻る?」
「そうだな、一回戻るか」
「はーい、じゃあ洗濯物を干してくるね」
「よし、まずは洗濯だな」

 二人で洗濯をして、衣類を干す。
 それから家を出て、ルーンとおしゃべりしながら獣道を歩いた。

「うーむ、平和だなぁ」
「平和だねっ」
「狂暴な獣も...いないようだな」
「暖かいからまだ寝てるのかな?」

 ルーンの頭の中では、クマが寝息を立ててスヤァ...と眠っているのだろう。

「平和な世界だな」
「お兄ちゃんが森の主様だねっ」
「そんなガラじゃない...ただの怠け者だよ」

 くだらないことを話しながら、ガザンの樹の群生地に着く。

「すっごーい、おっきいね...」

 ルーンがそこら中にそびえ立つ、高い樹を見上げて声を漏らす。
 俺もつられて見上げる。
 呆然と見ていたら、あることが思い浮かんだ。

 そういや...今までは、高い場所に生っているでかい実は採れなかったが、『狂戦士』の力を使えば採れるんじゃないか?

 よし、やってみるか。

「ルーン、高い枝に生っている実が見えるか?あのでかい実を採るぞ」
「どうやって採るの?樹に登るのは危ないよ」
「大丈夫だって、祝福の力があるだろ?」
「あ...でも、危ないことはしないでね」
「ああ、約束するよ」

 俺はルーンにそう言って、辺りを確認する。

 まあこんな森の奥深くに人なんて滅多にいないと思うが、念のためにな。

 辺りに人の気配が無いのを確認した俺は、服を脱ぐ。
 突然脱ぎだした俺に、ルーンが驚く。

「お、お兄ちゃんっ...」
「まてまて、『狂戦士』の力を使うんだから、服が破れたらまずいだろ」

 顔を真っ赤にしたルーンが、あたふたと慌てている。

「う、うん...そうだね...」

 ルーンにかまわず、俺は服を脱いで裸になる。
 ちらりとルーンを見ると、顔をトマトのように染めて俯いている。

 こんな可愛い姿のルーンを見ると、つい意地悪したくなるな。

 俺は『狂戦士』の力を使い、獣じみた外見に変身してルーンに告げる。
 4分咲きの影響か、あの洞穴での変身時と比べて衝動が大きく抑えられていた。

「ルーン、大丈夫だとは思うが念のために見ててくれ」
「はーい...」

 ルーンは恥ずかしそうにそう返事した。

 さて、疲れる前にやるか。

 俺は勢いよく地面を蹴って跳躍する。
 ガザンの樹の枝に捕まり、腕に力を込めて、より高く登る。
 サルのようにするすると登り、森の樹々が見渡せるほどの高い場所まで来る。
 目の前には大きい実がいくつも見える。

 こいつでいいか。

 実を一つもぎ取って、すぐに飛び降りて落下する。
 途中で何度か枝に片手をかけて、落下の衝撃を殺しながら難なく地面まで辿り着く。
『狂戦士』の力を解除し、疲労で息が上がっていたが、裸のまま両手でガザンの実を持ち上げ、ルーンに声をかける。

「はぁ...はぁ...見ろよルーン、でかいだろー!」

 ふらふらとした足取りで、ルーンの方に向かって歩く。
 まだ顔が赤いルーンは、ちらちらとこちらを見ながら呟く。

「お兄ちゃん...わかったから服を着て...」
「おっ、そうだったな」

 服を着ると、ルーンが心配そうに声をかけてくる。

「お兄ちゃん疲れてない?大丈夫?」
「ああ、ちょっと疲れたな。休むか」

 俺は地面に腰を降ろし...そのまま寝転ぶ。
 地面は芝生のように短い雑草が生えていた。風がそよいで、草や葉が音を立てて揺れている。
 目を閉じて横になっていると、ルーンが近づいて、俺の頭の方で屈んだ。

「お兄ちゃん...じっとして」

 ルーンは俺の頭を持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。

 おー、これが膝枕というやつか。
 前の世界では彼女なんていなかったからな。
 うーむ、いい匂いもするし、これは素晴らしい。

 そんなことを考えつつ、ルーンに話し掛ける。

「でかい実も採れたし、これで当面は油の心配は無いな。ちょっと休んだら一旦戻るか」
「そうだね、お兄ちゃん」
「頭重くないか」
「大丈夫だよ」
「そっか。ルーンのふともも柔らかくていい感じだ」
「...」

 ちらりと目を開けると、ルーンがまた顔を赤くして俺を見つめていた。
 再び目を閉じて休んでいると、疲労に加えて、風とルーンの膝の心地良さに、すぐにうとうとする。

 平和だなぁ。
 ここが、今の暮らしが、幸せというやつなのかもしれんな。

 そのまま眠りについた。

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