あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

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第一章 狼の少女

36.家の様子

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 3日ぶりに家に帰って来た。
 たった3日しか経っていないからか、外見は変わっていない。
 俺はまず、ルーンの手を引いて家の中に入った。

「...変わってないな。特に荒らされているわけでもない」
「ここがお兄ちゃんが暮らしていたお家...」
「念のため見て回るか。ルーン、こっちが寝室だよ」

 居間を確認した後、ルーンの手を放して右側にある寝室に入る。
 そこも変わらず、あの日釣り竿の材料を探しに出かけた時のままだった。
 後から入って来たルーンが、寝室を見て話し出す。

「ここがお兄ちゃんが寝ている部屋なんだ...私も一緒に寝たい」
「ああ、ベッドは一つだから別の布団を出すよ。じいちゃんと暮らしていた時は、俺が床に寝ていたからな。床に布団を敷くのも結構いいもん...」

 俺が言い終わる前に、ルーンが遮って声を上げた。

「お兄ちゃんと一緒のお布団で寝たいの!」
「あ、ああ...そうだな。一緒にベッドで寝るか」
「わーい!」

 ルーンが喜んで俺の腕に抱きついている。

「ルーン、他も見て回るぞ」
「はーい」

 俺はそう言って、ルーンを連れて台所や浴室を見て回った。
 浴室を確認した時に、また同じようなやりとりが始まる。

「ここがお風呂...私も一緒に入りたい」
「じゃあ二人で一緒に入ろうな」
「うん!」

 狭い家の中全体を見て回ったが、何かが変わった形跡が無かった。

 まあカネを置いているわけでも無いし、食料だって携帯性に優れたものがあるわけじゃないからなぁ。
 わざわざこんな家に入ってまで、盗んでいく物なんて無いだろうな。

 それから俺達は、家の裏手にある畑や、山羊たちの様子を見に行った。

「ここも変わってない...ようだな。山羊も変わらず4頭いるし。畑も荒れているわけでもない」
「わぁ、山羊さんだ!お兄ちゃんが飼ってるの?」

 ルーンは好奇心いっぱいの様子で聞く。

「ああ、ミルクや羊毛を採取できるからな」
「そうなんだ...山羊さんに触っていい?」
「もちろん」

 俺はルーンの手を引いて、1頭の山羊の傍まで来る。
 山羊はまるで怯えた様子が無く、というよりも俺達が近づいても無反応だった。

 ずいぶん図太い山羊だな。
 こんな無警戒だったか?

 まず俺が山羊を触ってルーンを安心させた。

 うーむ、もふもふした手触りがいい。

「ほら、おとなしいだろ」

 それを見たルーンが同じように、わさわさと山羊を撫でる。

「ほんとだ、もふもふしてる...」

 それからしばらく、俺たちは満足するまで山羊を撫で続ける。

「おっといかん、触り心地がよくて我を忘れていた」
「ごめんね、山羊さん」
「よし、干し草を補充するか」
「私も手伝うよ」
「ああ、一緒にやろう」

 俺とルーンは草を集め、陽が当たる地面に置いて日干しする。

「さて、次は水だが...そういや川の水が流れるように、脇道を作ったんだった」
「新鮮な水がいつでも使えるね、お兄ちゃん」
「あの時は苦労したなぁ。ある程度の幅と深さを確保しないといけないから、何日か重労働だったな」
「これからは一緒にやろうよ」
「そうだな、二人でやれば作業時間も減るし、何よりルーンと話しながら作業が出来るのが嬉しいな」
「お兄ちゃんっ」

 ルーンがべたっと抱きつく。

「お兄ちゃんといっぱいお話したいな」
「今日から二人きりで暮らすからな。些細なことでもいっぱい話しをしような、ルーン」
「うん!」
「さてと、次は畑だが...ここは特に手入れする必要は無いな」
「野菜ができるの?」
「そうだ。ほっといたら勝手に育つからな。日照りが続けばそこの水を撒けばいい」

 俺は重労働により作り出した小さな川の路を指す。そして、続けてルーンに告げる。

「まあ二人になったから、もうちょっと畑を大きくしてもいいかもな」
「うん。一緒に畑を作ろう、お兄ちゃん」
「今日は疲れたからまた今度な。まあ別にここに畑を作って野菜を作らなくても、森にある程度自生しているのがあるからな」
「取りに行くときは色々教えてね」
「もちろんだ」

 俺は家の裏手にある、柵で囲まれた山羊の住処や畑の様子を確認し、変わってないことに安堵した。

「さてと、今日は旅で疲れたから一日ゆっくり休もうか」
「お兄ちゃんは休んでいて。私はお兄ちゃんの言う通りにお手伝いする!」
「だーめーだ。ルーンもゆっくり休むこと」
「はーい...」

 ルーンはしぶしぶ納得したようだ。

「おっと忘れてた、あの短剣も確認しないとな」
「短剣?」

 ルーンが首を傾げて俺を見る。

「前に森で大きいイノシシに襲われている子を助けたことがあってな、その時にお礼に短剣をもらったんだ」
「やっぱりお兄ちゃんは優しいね。でも大きいイノシシって、お兄ちゃんは大丈夫だったの?」
「実は結構危なかった」
「...もう危ないことはしないでね」
「ああ、大丈夫だ」
「ところでお兄ちゃん、襲われていた子って...女の子?」
「女の子だったけど...それがどうかしたか?」
「ふーん、女の子を助けてあげたんだ。その子の名前は?」
「いや、それが...なんとかイノシシを追い払ったんだけど、怪我もあったし意識を失いかけてて...まともに会話もせずに別れたよ。まあ俺が寝てる間に治療をしてくれたらしいんだが」
「そうなんだ...。その子はきっと、忘れずにずっとお兄ちゃんのことを覚えてるよ」
「まあ無事でよかったよ。身分が高そうな子だったからな、あれに懲りて1人で出歩いたりしないだろう。またどこかで会えるかもな」

 ルーンと会話しながら、短剣を隠している樹の根元まで歩く。

「おっ、ここだ」

 根の間に隠された短剣を見つける。相変わらず傷んだ様子は無い。
 ルーンはそれを見て、野ざらしを疑問に思ったのか、俺に聞いた。

「お兄ちゃん、どうして外に置いてるの?」
「じいちゃんに詮索されたくなかったんだよ。まあ寿命で死んでからは家の中に置いてもよかったんだけど、つい癖で」
「でも...雨が降ったりしたら傷んじゃうよ」
「見てみろ、ルーン。新品みたいに綺麗だろ?」

 俺は短剣を回収して鞘から抜き、剣身をルーンに見せた。

「ほんとだ...綺麗...」
「この短剣をもらってから1年以上経つが...未だに傷1つ無い。もちろん頻繁に使用しているにも拘らずな」
「どうして傷まないの?」
「わからん。たぶん魔法か何かで守られているんだと思う」
「ふしぎ...」
「まあ盗まれてなくてよかった。さて、家に戻るぞ」
「はーい」

 俺とルーンは家に戻り、疲れを癒すようにダラダラと寛いだ。
 ルーンと一緒に夕飯を取り、食後に一緒に入浴する。
 それから就寝する時も、同じベッドで二人で入った。
 いつものごとく、ルーンがべたっと抱きつく。

「お兄ちゃん、あったかい」
「ルーン、言い忘れた」
「なあに?」
「今日からここがお前の家だ。絶対追い出したりしないから、好きなだけここに居ろよ」
「お兄ちゃんっ!」

 ルーンがいっそう強く、ぎゅっと抱きついてくる。

「やりたいことが見つかるまで、しばらくここで二人で暮らしていこうな」
「うん!ありがとう、お兄ちゃん」
「おやすみ、ルーン」
「おやすみなさい」

 なつかしいベッドの感触、しかし三日前と違うところがある。
 隣には可愛い女の子がいる。柔らかくていい匂いがして、暖かい感触がする。

 明日はルーンと狩りか釣りにでも行くか。
 そういやあの釣り竿を回収するのを忘れてたな。
 喉元にナイフを突き立てたられて、その場に置いてたんだっけか。
 明日狩りに行くついでにルーンの分の釣り竿も作るか。

 俺はこれからの生活、ルーンと森を回り、狩りや釣りを二人で楽しむことを想像しながら、眠りについた。

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