あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

文字の大きさ
上 下
28 / 85
第一章 狼の少女

27.先に脱出

しおりを挟む
 ルーンの手を引いて来た道を戻る。もう危険は無いと判断し、ランタンは点けている。
 俺は大事なことをルーンと相談した。

「ルーン、あの船のことだが」
「うん...4人乗りだよね、お兄ちゃん」
「ああ、俺たちは全員で6人だ」
「じゃあ2人は残らないといけないの?でも体重は...」
「いや、俺も体重のことは考えた。しかし乗るのは人だけじゃない。衣類も医療品も食料も載せないといけない」
「...」
「ルーン、ミラリオは軽い。だからあの4人に乗ってもらおう。俺とルーンが残ることになるが、また船で迎えに来てもらうようにする」
「うん、お兄ちゃんと一緒ならいいよ」
「ありがとな、ルーン」

 ルーンは聡明だ。
 船で迎えに来させる手段があることを見抜いているのだろう。

「もっと素敵な島なら、ずーっとお兄ちゃんと一緒に残るのに...」

 ルーンはぼそっと呟いたが、狭くて静かな通路なので丸聞こえだった。
 俺はルーンが可愛くて、我慢できずに答えていた。

「俺も、可愛いルーンと二人っきりで過ごしたいよ」

 そう言って振り向いて、後ろのルーンに微笑む。
 ルーンは暗がりでも分かるほど顔を真っ赤にして、ぎゅっと握っていた俺の左手を、一層強く握りしめていた。

 ルーンも納得したし、全員生きて脱出できそうだな。

 俺とルーンは隠し扉を通り、4人がいる倉庫まで戻って来た。
 4人は服を着替え、果物や干し肉を食べていた。
 俺は4人にゆっくりと告げる。

「みなさん、落ち着いて聞いてください。この島を脱出するための船を見つけました」

 4人は驚いて一斉にこちらを見る。

「まずは船までみなさんを案内します。ランタンを持ってついて来てください。ああ、大丈夫です。船があることを見て頂ければ、またここに戻って来て食事をして頂いて構いません。怪我をしてる方はいませんよね」

 4人はしばらく黙っていたが、やがて倉庫内にあるランタンを手に取った。
 俺とルーンが隠し扉まで歩き出すと、4人はゾロゾロとついて来た。

「では私とこの娘の二人が先導します。暗いので足元に気をつけて、ついて来てください」

 俺は右手にランタンを持ち、左手はルーンに差し出す。
 ルーンは得意げな笑顔になって、俺の手をぎゅっと握る。

 ほんとにルーンは可愛いな。
 さて、あいつの死体は上にあるから大丈夫だとして、部屋が暗いかもしれないな。
 照明は恐らくあの球のどれかだろう。まあ外からの光も入ってるし、大丈夫か。

 俺とルーンが先頭を歩き、後ろの4人が後に続く。
 階段に差し掛かると後ろに声を掛けて、注意を促す。
 6人は、特に何事もなく部屋に到着した。
 部屋に入ると若い獣人の男が驚いて叫ぶ。

「おい、船だ!外に繋がってるぞ!!」

 俺とルーンを除く皆が船の傍に集まる。
 4人はしきりに船と、壊れた壁の向こう側を見ている。
 俺はしばらくして4人に声をかける。

「みなさん、見ての通りこの船は4人乗りです。私とこの娘の二人がここに残りますので、みなさんは食料や衣料などを船に積み、脱出してください」

 4人は驚いて声が出ないようだった。
 警戒していたのかもしれなかったが、中年の獣人が俺に聞いた。

「君は...君たちは何者じゃ?あの3人を殺し、儂たちを解放し、倉庫の場所や隠し扉の場所、それに船まで把握していた。儂たちを助けてくれたことは事実じゃ、だから罠とは到底思えんが...」
「私は人を奴隷として扱うやつが大嫌いなだけです。ここの施設に詳しいことについては...話すと長くなるので省かせてもらいます。もちろん私たちは敵ではありませんよ。私たちも助けが必要なんです」
「というと?」
「まずは4人で船に乗って脱出してください。そして操縦できる方は、1人でまたこの島に戻って来てください」
「裏切って戻って来ない、とは考えないのか?」
「みなさんは当然無一文ですよね、それに食料や服、医療品などもあの倉庫にあるだけだ。なので船には少量の食料と薬、着替えを一着ずつ積んでください。どの道4人乗って、それに加えて物資を積むので、少量しか積めません」
「ふむ...」
「3人と物資を陸地に降ろしたら、またここに戻って来て、今度は積めるだけの鉱石や物資を積んで、また陸地に向けて出発してください。今度は人の体重が軽いので、高く売れる貴重な鉱石を積むことが出来ますよ。まあ鉱石なので数は限られますが」
「なるほど、そういうことか。十分な物資があれば町までたどり着くことができ、鉱石があれば町で換金してカネを手に入れることが出来ると」
「はい、そういうことです」
「...それなら戻って来ざるを得ないな」

 中年獣人は腕を組んで考え込んでいる。
 他の3人も考え込んでいた。

「お兄ちゃん...凄い...」

 ルーンは目をキラキラさせて俺を見ていた。

 まあもともと裏切るとは思ってないが、物資が無いと陸地に着いても長く生きられないだろう。
 さすがに命が懸かっていたら戻って来るはずだ。

 俺がそう考えていると、中年獣人は意を決したように叫んだ。

「よし!それでいこう。異論のある者はいるか?」

 中年獣人は3人を見るが、声は上がらない。
 意見がまとったのを見て、俺は皆に告げる。

「決まりましたね。では一旦倉庫まで戻って食事の再開をしましょう。そして積める物を持って行きましょう」

 俺はそう言って、また4人を先導する。
 ルーンの手を握ったまま戻ろうとした時に、ミラリオがじっと俺たちを見ていたが、俺はそのことに気が付かなかった。

 俺達6人は倉庫に戻り、それぞれ食事を再開する。

 そういや今回はまともに食事してないな。

 俺は前回の海岸の時のように、干し肉や果物をもしゃもしゃと好きなだけ食べた。
 ルーンも好きな物を食べているようだ。

 食事が終わると4人は船に積む物を物色していた。
 俺とルーンは倉庫の外で待つ。
 すると、ミラリオが倉庫から出て来て俺たちに声を掛けた。

「あの...助けてくれてありがとうございます。私はミラリオといいます」
「何もされてないよね?」
「はい、助かりました。それでその...船で脱出することなんですが...」
「うん、どうしたの?」
「あの...私が残りますので...」

 ルーンが後ろからぎゅっと俺の袖を掴んだ。

「ああ、大丈夫だよ。俺とこの娘の二人で残るから。キミを少しでも早くこの島から出してあげたいんだ。だからあのお姉さんと一緒に脱出して欲しい」
「でも...」

 ミラリオはまだ納得がいってないようだった。
 俺は続けてミラリオに言う。

「まだこの島の全容がわかったわけじゃない、危険なことがあるかもしれない。だから先に脱出して欲しい、それに俺達もすぐに行くからね。先に待っててよ」
「...はい、わかりました」

 ミラリオはしぶしぶそう言うと、倉庫に戻って行った。
 ルーンはまだ俺の袖を掴んでいる。

 ルーンはもう...可愛いなあ。
 よし、まずは4人に出発してもらおう。

 4人は倉庫からそれぞれ物資を持ち出すと、ぞろぞろと隠し扉を通って船まで歩いて行った。
 俺とルーンも船がある部屋まで移動する。
 持ってきた物資を全て積もうとしていたが、どうも重量オーバーのようだった。
 運転が出来るらしい中年獣人が言う。

「これは明らかに過積載じゃな」

 そう言って、中年獣人はいくつかの物資を降ろした。
 そして、船の様子を見て満足いったのか、俺たちに告げた。

「では出発するぞ。遅くても2日以内には戻る」
「はい、3人が飢え死にしない為にも、お願い致します」
「ああ、わかった」

 中年獣人はそう言って操縦席に座り、船を出発させる。
 船はすぐに壁に開いた穴を抜け、遠くに見えなくなる。
 ミラリオだけは、見えなくなるまで寂しそうな顔をして、俺たちを見ていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アンリレインの存在証明

黒文鳥
ファンタジー
かつて「怪異」と呼ばれた現象が解明され対処法が確立して百二十年。 その対処を目的とする組織に所属する研究員であるレン。 発動すれば『必ず』自身を守る能力を持つ彼は、とある事情から大変難ありの少女アルエットの相方として仕事を任されることとなる。 知識0の勉強嫌い挙句常識欠如した美少女改め猛犬アルエットと、そんな彼女に懐かれてしまったレン。 期間限定の相棒との仕事は果たして混迷を極めてーー。 「それでも私は、レンがいればそれで良い」 これは奇跡のような矛盾で手を繋ぐことになった二人の、存在証明の物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...