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第一章 狼の少女
24.暗闇の先 ■
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■ルーンの視点■
私達3人は海岸から洞穴に向かって走っていた。
先頭を走る女の子が少しだけ振り返り、私たちに自己紹介する。
「あの、申し遅れましたが、私はミラリオといいます」
「ああ、俺はナオフリート。ナオって呼んでくれ。こっちはルーン」
「あっ...」
私は思わずお兄ちゃんの背中に隠れていた。
自分でも無意識だったと思う。
お兄ちゃんが止めてくれるとはいえ、この女の子を殺してしまうんじゃないかと、反射的に仲良くなることを避けたのかもしれない。
そんな私に向かって、お兄ちゃんはそっと左手を差し出してくれた。
私は嬉しくてすぐにお兄ちゃんの手をぎゅっと握る。
大丈夫だぞルーン、と言わんばかりのお兄ちゃんの振る舞いに、私は声を漏らしていた。
「お兄ちゃん...」
私の様子を見て安心したのか、お兄ちゃんは女の子に話し掛ける。
「みんなはもう進んだのかな?」
「わかりません。海岸まで呼んできます、と言って出てきましたので」
「ふむ...」
ミラリオさんの案内で、私たちは洞穴に戻っていた。
倉庫の反対側にある通路には3人が集まっていた。
この辺りには戻りたくなかったが、お兄ちゃんが傍にいるから安心できた。
お兄ちゃんは若い獣人の人に話し掛ける。
「進まないんですか?」
「罠があるかもしれん」
3人は罠を警戒して進めないようだった。
危険なのかな?
何があるかわからない場所だもんね。
お兄ちゃんは不用意に入ったりしないよね。
しかしお兄ちゃんは私の心配を気にせずに、先に進もうとしていた。
「進んでいいですか?」
「ああ、だが気をつけろよ」
「はい」
「お兄ちゃんっ!」
私はすぐに大きな声を出してお兄ちゃんを止めていた。
無闇に進もうとするお兄ちゃんをじっと睨む。
お兄ちゃんはすぐに私の傍に来てくれた。
「お兄ちゃん...危ないから行かないで」
「...そうだな、軽率だった。ごめんな、ルーン」
「うん...」
お兄ちゃんは私の肩に手を置いて安心させてくれた。
よかった...。
もう、お兄ちゃん...危ないことはしないで。
その時、私とお兄ちゃんのやりとりを見ていた中年くらいの獣人が、ぽつりと呟く。
「儂らは子供に先陣切って行かせようとしていたな、奴隷だったとはいえ情けない...」
お兄ちゃんはすぐに、悪かったのは自分だ、と言わんばかりに返事をする。
「いえ、罠があるかもしれないのに、迂闊に進もうとした私が軽率でした」
「それでも儂らは何も言わなかった、子供に行かせようとしてたことに違いは無い」
「...」
さらに、獣人の女性もそれを聞いて呟く。
「罠の有無を聞こうにも、あの3人は死んでるからね...」
少しの間、沈黙が続いた。お兄ちゃんは何かを考えているようだった。
そしてすぐに、お兄ちゃんが皆に向かって話し出す。
「これは僕の推測です。おそらくの話ですが、この先にあるのは船だと思います。あの3人が、何かあった時にこの島を脱出するための手段を隠し持っていたんだと。完全に僕の推測ですが...」
「ふむ...仮にその推測が当たってるとして、その場合はどうなる?」
中年の獣人の人がお兄ちゃんに尋ねる。
「はい、仮に船がある場合は非常用だと思われます。隠し通路からもそれが推測できます。本来ここは、奴隷は自由に行動できません。もし万が一奴隷が単独で侵入しても、あの3人が死んでいる状態でもない限り、時間も無いのにこんな通路を念入りに探したりはしないでしょう。だからおそらくですが...」
「罠をしかけている可能性は低い...と?」
「はい、非常時に罠を一つ一つ解除して船まで逃げるでしょうか?焦って解除しそこなって、罠によって死ぬことを考えたら、ここに罠を仕掛けるとは考えにくいのですが...」
私はそれを聞いて感心していた。
お兄ちゃん凄い...。
でも、危険が無いって決まったわけじゃないんだよね...。
お兄ちゃんたちの会話をじっと聞いていた若い獣人の人が、大きな声で皆に告げる。
「よし!俺が先頭で先に進む。だが坊主が言ったことを信頼するわけじゃないからな。会話を聞いて、俺自身が罠が無いと勝手に確信したからだ。もし罠があってもそれは俺の読み間違い、俺の責任だ。坊主は一切責任が無いと、今ここではっきりと皆に言っておく」
「...」
お兄ちゃんと私は黙って聞いてた。
みんな、優しい人だな...。
お兄ちゃんが危険な目に遭わないように配慮してくれていた。
そして、若い獣人の人がランタンを手に取り、入り口の前に立った。
次に、中年獣人の男の人が後に続いて答える。
「なら次は儂が勝手に進ませてもらおうかな」
獣人の女の人がその次に続く。
「子供に先に行かせるわけには行かないわ」
後は私とお兄ちゃんとミラリオさんが残る。
私はお兄ちゃんを守る為に告げる。
「お兄ちゃんの前は私が行くっ!」
でもお兄ちゃんはまた私に気を遣って言った。
「じゃあルーンは俺の後ろをぴったりとくっついて、ついて来て。俺の左手を離さないように」
「うんっ!お兄ちゃん!」
私はお兄ちゃんと手を繋げることに歓喜して、勢いよく返事していた。
まあ、お兄ちゃんにぴったりくっついていたら、何かあったらすぐにわかるから大丈夫だよね?
私はお兄ちゃんの左手ではなく、左腕に抱きついていた。
そのままぞろぞろと歩き出す。
私の後ろではミラリオさんが私たちをじっと見ていた。
羨ましそうな視線が刺さる。
ミラリオさんもお兄ちゃんに助けてもらったんだよね。
お兄ちゃんは優しくてかっこいいから...。
歩いていると先頭から声が聞こえた。
「ここから下り階段だ、気をつけろ!」
集団で階段を降り、またぞろぞろと通路を歩く。
しばらく歩くと、ランタンに照らされて微かに部屋の入り口のようなものが見えて来た。
波の音も聞こえてくる。
お兄ちゃんにぴたりと付いて、部屋に入る。
真っ暗だ...。
お兄ちゃんが傍にいるから怖く無いけど。
お兄ちゃんは壁を調べている。
私はお兄ちゃんの邪魔にならない様に腕を離すが、代わりに手を握った。
その時、部屋の真ん中あたりにいる先頭の人から声があがった。
「見ろ!船だ!」
私とお兄ちゃんを除く皆が真ん中に集まる。
本当に船があったんだ...お兄ちゃんが言った通りだ、凄いな。
お兄ちゃんは船の傍には行かず、船の前にある壁を注視している。
どうも壁に何か仕掛けられているようだった。
お兄ちゃんは壁をどうにかして脱出できるようにしようと考えているのだろうか。
だが突然、大きな爆発音が洞穴内に響く。
「お兄ちゃんっ!」
私はすぐにお兄ちゃんの腕を掴む。
それと同時に部屋が明るくなった。天井に吊り下げられている石から光が放たれている。
お兄ちゃんは天井の壁際を見ている。
どうも部屋があるみたいだった。
洞穴内の揺れは激しくなっていく。
「お兄ちゃん...」
私は怖くなってお兄ちゃんの腕を強く掴む。
どうしよう...でもなんとかお兄ちゃんは助けないと。
揺れはさらに激しさを増し、天井から岩や砂が落ちてくる。
今から入り口に戻っても間に合わない。あの天井の部屋すら間に合わない。
もう船に入るくらいしか...。
お兄ちゃんも同じことを考えていたのか、私を抱えて船に飛び乗った。
なんか船の奥に避難しようとしていたが、天井が崩れて身動きできる隙間も無くなっていた。
私をぎゅっと抱きしめるお兄ちゃんの声が聞こえた。
「ルーン、おまえだけでも守り...」
私も咄嗟に返事をしていた。
「お兄ちゃん...」
しかし意識が無くなっていく。
お兄ちゃん...。
お兄ちゃんはまた命を懸けて私を守ろうとしてくれたんだ。
私はお兄ちゃんにしがみつくだけだった。お兄ちゃん、ごめんなさい。
このまま死んじゃうのかな、でも最後はお兄ちゃんの腕の中で...よかった。
私達3人は海岸から洞穴に向かって走っていた。
先頭を走る女の子が少しだけ振り返り、私たちに自己紹介する。
「あの、申し遅れましたが、私はミラリオといいます」
「ああ、俺はナオフリート。ナオって呼んでくれ。こっちはルーン」
「あっ...」
私は思わずお兄ちゃんの背中に隠れていた。
自分でも無意識だったと思う。
お兄ちゃんが止めてくれるとはいえ、この女の子を殺してしまうんじゃないかと、反射的に仲良くなることを避けたのかもしれない。
そんな私に向かって、お兄ちゃんはそっと左手を差し出してくれた。
私は嬉しくてすぐにお兄ちゃんの手をぎゅっと握る。
大丈夫だぞルーン、と言わんばかりのお兄ちゃんの振る舞いに、私は声を漏らしていた。
「お兄ちゃん...」
私の様子を見て安心したのか、お兄ちゃんは女の子に話し掛ける。
「みんなはもう進んだのかな?」
「わかりません。海岸まで呼んできます、と言って出てきましたので」
「ふむ...」
ミラリオさんの案内で、私たちは洞穴に戻っていた。
倉庫の反対側にある通路には3人が集まっていた。
この辺りには戻りたくなかったが、お兄ちゃんが傍にいるから安心できた。
お兄ちゃんは若い獣人の人に話し掛ける。
「進まないんですか?」
「罠があるかもしれん」
3人は罠を警戒して進めないようだった。
危険なのかな?
何があるかわからない場所だもんね。
お兄ちゃんは不用意に入ったりしないよね。
しかしお兄ちゃんは私の心配を気にせずに、先に進もうとしていた。
「進んでいいですか?」
「ああ、だが気をつけろよ」
「はい」
「お兄ちゃんっ!」
私はすぐに大きな声を出してお兄ちゃんを止めていた。
無闇に進もうとするお兄ちゃんをじっと睨む。
お兄ちゃんはすぐに私の傍に来てくれた。
「お兄ちゃん...危ないから行かないで」
「...そうだな、軽率だった。ごめんな、ルーン」
「うん...」
お兄ちゃんは私の肩に手を置いて安心させてくれた。
よかった...。
もう、お兄ちゃん...危ないことはしないで。
その時、私とお兄ちゃんのやりとりを見ていた中年くらいの獣人が、ぽつりと呟く。
「儂らは子供に先陣切って行かせようとしていたな、奴隷だったとはいえ情けない...」
お兄ちゃんはすぐに、悪かったのは自分だ、と言わんばかりに返事をする。
「いえ、罠があるかもしれないのに、迂闊に進もうとした私が軽率でした」
「それでも儂らは何も言わなかった、子供に行かせようとしてたことに違いは無い」
「...」
さらに、獣人の女性もそれを聞いて呟く。
「罠の有無を聞こうにも、あの3人は死んでるからね...」
少しの間、沈黙が続いた。お兄ちゃんは何かを考えているようだった。
そしてすぐに、お兄ちゃんが皆に向かって話し出す。
「これは僕の推測です。おそらくの話ですが、この先にあるのは船だと思います。あの3人が、何かあった時にこの島を脱出するための手段を隠し持っていたんだと。完全に僕の推測ですが...」
「ふむ...仮にその推測が当たってるとして、その場合はどうなる?」
中年の獣人の人がお兄ちゃんに尋ねる。
「はい、仮に船がある場合は非常用だと思われます。隠し通路からもそれが推測できます。本来ここは、奴隷は自由に行動できません。もし万が一奴隷が単独で侵入しても、あの3人が死んでいる状態でもない限り、時間も無いのにこんな通路を念入りに探したりはしないでしょう。だからおそらくですが...」
「罠をしかけている可能性は低い...と?」
「はい、非常時に罠を一つ一つ解除して船まで逃げるでしょうか?焦って解除しそこなって、罠によって死ぬことを考えたら、ここに罠を仕掛けるとは考えにくいのですが...」
私はそれを聞いて感心していた。
お兄ちゃん凄い...。
でも、危険が無いって決まったわけじゃないんだよね...。
お兄ちゃんたちの会話をじっと聞いていた若い獣人の人が、大きな声で皆に告げる。
「よし!俺が先頭で先に進む。だが坊主が言ったことを信頼するわけじゃないからな。会話を聞いて、俺自身が罠が無いと勝手に確信したからだ。もし罠があってもそれは俺の読み間違い、俺の責任だ。坊主は一切責任が無いと、今ここではっきりと皆に言っておく」
「...」
お兄ちゃんと私は黙って聞いてた。
みんな、優しい人だな...。
お兄ちゃんが危険な目に遭わないように配慮してくれていた。
そして、若い獣人の人がランタンを手に取り、入り口の前に立った。
次に、中年獣人の男の人が後に続いて答える。
「なら次は儂が勝手に進ませてもらおうかな」
獣人の女の人がその次に続く。
「子供に先に行かせるわけには行かないわ」
後は私とお兄ちゃんとミラリオさんが残る。
私はお兄ちゃんを守る為に告げる。
「お兄ちゃんの前は私が行くっ!」
でもお兄ちゃんはまた私に気を遣って言った。
「じゃあルーンは俺の後ろをぴったりとくっついて、ついて来て。俺の左手を離さないように」
「うんっ!お兄ちゃん!」
私はお兄ちゃんと手を繋げることに歓喜して、勢いよく返事していた。
まあ、お兄ちゃんにぴったりくっついていたら、何かあったらすぐにわかるから大丈夫だよね?
私はお兄ちゃんの左手ではなく、左腕に抱きついていた。
そのままぞろぞろと歩き出す。
私の後ろではミラリオさんが私たちをじっと見ていた。
羨ましそうな視線が刺さる。
ミラリオさんもお兄ちゃんに助けてもらったんだよね。
お兄ちゃんは優しくてかっこいいから...。
歩いていると先頭から声が聞こえた。
「ここから下り階段だ、気をつけろ!」
集団で階段を降り、またぞろぞろと通路を歩く。
しばらく歩くと、ランタンに照らされて微かに部屋の入り口のようなものが見えて来た。
波の音も聞こえてくる。
お兄ちゃんにぴたりと付いて、部屋に入る。
真っ暗だ...。
お兄ちゃんが傍にいるから怖く無いけど。
お兄ちゃんは壁を調べている。
私はお兄ちゃんの邪魔にならない様に腕を離すが、代わりに手を握った。
その時、部屋の真ん中あたりにいる先頭の人から声があがった。
「見ろ!船だ!」
私とお兄ちゃんを除く皆が真ん中に集まる。
本当に船があったんだ...お兄ちゃんが言った通りだ、凄いな。
お兄ちゃんは船の傍には行かず、船の前にある壁を注視している。
どうも壁に何か仕掛けられているようだった。
お兄ちゃんは壁をどうにかして脱出できるようにしようと考えているのだろうか。
だが突然、大きな爆発音が洞穴内に響く。
「お兄ちゃんっ!」
私はすぐにお兄ちゃんの腕を掴む。
それと同時に部屋が明るくなった。天井に吊り下げられている石から光が放たれている。
お兄ちゃんは天井の壁際を見ている。
どうも部屋があるみたいだった。
洞穴内の揺れは激しくなっていく。
「お兄ちゃん...」
私は怖くなってお兄ちゃんの腕を強く掴む。
どうしよう...でもなんとかお兄ちゃんは助けないと。
揺れはさらに激しさを増し、天井から岩や砂が落ちてくる。
今から入り口に戻っても間に合わない。あの天井の部屋すら間に合わない。
もう船に入るくらいしか...。
お兄ちゃんも同じことを考えていたのか、私を抱えて船に飛び乗った。
なんか船の奥に避難しようとしていたが、天井が崩れて身動きできる隙間も無くなっていた。
私をぎゅっと抱きしめるお兄ちゃんの声が聞こえた。
「ルーン、おまえだけでも守り...」
私も咄嗟に返事をしていた。
「お兄ちゃん...」
しかし意識が無くなっていく。
お兄ちゃん...。
お兄ちゃんはまた命を懸けて私を守ろうとしてくれたんだ。
私はお兄ちゃんにしがみつくだけだった。お兄ちゃん、ごめんなさい。
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