あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

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第一章 狼の少女

23.隠し通路

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 俺たちは走って洞穴に戻っていた。
 走りながら、綺麗な髪の女の子が俺に声をかける。

「あの、申し遅れましたが、私はミラリオといいます」
「ああ、俺はナオフリート。ナオって呼んでくれ。こっちはルーン」
「あっ...」

 ルーンは俺の背に隠れるように、ぴったり張り付いて走りだした。
 ミラリオはルーンの反応に、少し怪訝そうな顔をしていた。

 ルーン、凄い人見知りだな...。
 まあ無理もないか、『狂戦士』のことがあるからな。

 俺はそっと左手を後ろに差し出した。大丈夫だぞ、と言わんばかりに
 ルーンは走りながら俺の手を取る。ぎゅっと握っていた。

「お兄ちゃん...」

 僅かな声が聞こえた。
 俺はルーンを安心させ、ミラリオに聞いた。

「みんなはもう進んだのかな?」
「わかりません。海岸まで呼んできます、と言って出てきましたので」
「ふむ...」

 俺たち3人はすぐに洞穴に辿り着く。
 そのままミラリオに案内してもらい、最初の分かれ道を左に、倉庫があった方へ進む。
 倉庫の正反対にある通路では、3人が集まっていた。
 俺は若い獣人の男に声をかけた。

「すいません、隠し通路があると聞いたんですが」
「ああ、ここだ」

 男はそう言って通路の壁の一部を差す。
 壁には横にスライドする隠し扉があったようで、人ひとりが通れるくらいの入り口がある。入り口の先は真っ暗だ。
 隠し扉は壁の色が若干違っているようだ、薄暗いのでただ通っただけでは、まず気が付かないだろう。

「進まないんですか?」
「罠があるかもしれん」

 と若い獣人が答える。

 なるほど。
 しかし、俺の勘が正しければ、この先にはアレがある。
 おそらく罠は仕掛けられてないだろう。

 俺は若い獣人に確認して、先に進もうとした。

「進んでいいですか?」
「ああ、だが気をつけろよ」
「はい」
「お兄ちゃんっ!」

 後ろを見るとルーンが心配して俺を呼んでいた。
 俺はルーンの傍に行く。ルーンが悲しい顔をして、じっと俺を見つめる。

「お兄ちゃん...危ないから行かないで」
「...そうだな、軽率だった。ごめんな、ルーン」
「うん...」

 ルーンの肩に手を置いて安心させる。
 ルーンは少し悲しそうな顔をしていたが、俺が行かないとわかると納得していた。
 そんなやりとりを見ていた中年くらいの獣人が、ぽつりと呟く。

「儂らは子供に先陣切って行かせようとしていたな、奴隷だったとはいえ情けない...」

 俺はすぐにフォローを入れる。

「いえ、罠があるかもしれないのに、迂闊に進もうとした私が軽率でした」
「それでも儂らは何も言わなかった、子供に行かせようとしてたことに違いは無い」
「...」

 中年の獣人の言葉に、俺は何も言えなかった。

「罠の有無を聞こうにも、あの3人は死んでるからね...」

 獣人の女がそう呟く。
 俺は思い切って、推測だと強調してから、話し始めた。

「これは僕の推測です。おそらくの話ですが、この先にあるのは船だと思います。あの3人が、何かあった時にこの島を脱出するための手段を隠し持っていたんだと。完全に僕の推測ですが...」
「ふむ...仮にその推測が当たってるとして、その場合はどうなる?」

 中年の獣人が俺に聞く。

「はい、仮に船がある場合は非常用だと思われます。隠し通路からもそれが推測できます。本来ここは、奴隷は自由に行動できません。もし万が一奴隷が単独で侵入しても、あの3人が死んでいる状態でもない限り、時間も無いのにこんな通路を念入りに探したりはしないでしょう。だからおそらくですが...」
「罠をしかけている可能性は低い...と?」
「はい、非常時に罠を一つ一つ解除して船まで逃げるでしょうか?焦って解除しそこなって、罠によって死ぬことを考えたら、ここに罠を仕掛けるとは考えにくいのですが...」

 俺と中年獣人の会話をずっと聞いていた若い獣人の男は、はっきりとこの場の皆に告げた。

「よし!俺が先頭で先に進む。だが坊主が言ったことを信頼するわけじゃないからな。会話を聞いて、俺自身が罠が無いと勝手に確信したからだ。もし罠があってもそれは俺の読み間違い、俺の責任だ。坊主は一切責任が無いと、今ここではっきりと皆に言っておく」
「...」

 俺はまたも何も言えなかった。

 優しい人だな...。
 お礼を言わないと。

「あの、ありがとうございます」
「お礼はいい。これは俺が勝手に判断して、俺が勝手に進むだけだ。お礼を言われる謂われは無い」
「はいっ」

 俺は嬉しくて返事した。

 そして、若い獣人の男がランタンを手に取り。入り口の前に立つ。
 そしたら中年獣人の男がランタンを手に取って言った。

「なら次は儂が勝手に進ませてもらおうかな」

 そして、獣人の女も続く。

「子供に先に行かせるわけには行かないわ」

 結局その後に俺が続き、ルーンとミラリオが続くことになった。
 全員ランタンを持っている。
 ちなみに、ルーンは「お兄ちゃんの前は私が行くっ!」と言っていた。
 俺を守ろうとする気持ちが嬉しかったが、それは俺も同じだ。

 ルーンは俺が守る。

 だからルーンに、

「じゃあルーンは俺の後ろをぴったりとくっついて、ついて来て。俺の左手を離さないように」
「うんっ!お兄ちゃん!」

 ルーンが嬉しそうに俺の左腕を握る。ぎゅっと。
 そしてぞろぞろと通路を進む。
 ルーンの後ろのミラリオがじっと俺達を見ていたが、俺はそのことには気が付かなった...。

 歩き始めるとすぐに、前方から声が聞こえる。

「ここから下り階段だ、気をつけろ!」

 若い獣人の男が後ろに注意喚起する。
 そして同じようにぞろぞろ、ゆっくり階段を下りる。
 階段を下りきり、また通路をぞろぞろと歩く、通路の幅は入り口と同じく狭い。
 しばらく歩くと、部屋の入り口が見える。
 扉は無い。中は真っ暗だった。

 ...波の音が聞こえる。

 先頭から慎重に部屋に入っていく。
 その部屋は...かなり広いと思われた。天井は高いようで、はっきりと見えない。
 部屋の壁にはランプがあったが、外から火を灯すタイプではなかった。

 たぶん電気のスイッチみたいな、魔法が電気のように作用する仕掛けがあるんじゃないか?
 なんかの仕掛けを作動させると、連動して壁のランプが一斉に点くとか。

 と思ったが、仕組みを知らない上に初めての場所なので、そう簡単に見つからない。
 壁伝いに探ろうかとした時に、若い獣人の男が喜びの混じった叫び声をあげた。

「見ろ!船だ!」

 若い獣人の男が照らしている先に、確かに船はあった。
 ルーンを除く皆がランタンを持って一斉に近寄る、その周囲が照らされる。
 どうやらここの地形は凹の形になっており、窪んでる部分に水があり、船を置いているようだ。
 船そのものは、黒四柱のものよりも、素材も構造も優れているように見える。
 しかし、船の正面には壁があり、壁の一番下の僅かな部分のみ、外に通じているようだ。

 隙間は狭いな。
 海水のみが自由に出入りできるってことか。
 要するにこの壁をなんとか壊せば、外の海に出られるわけだな。

 俺は壁を注意深く見る、するとタバコの箱ぐらいの四角い何かが壁に貼り付けられていた。
 それらは何個かあり、ワイヤーのようなもので繋がっている。

 これも仕掛けか。
 電気を流して起爆するC4みたいなもんか?

 あとは仕掛けを作動させれば脱出できる、俺はそう安堵した。
 しかし、俺が探索する前に、大きな爆発音が聞こえ、洞穴内が揺れ動く。

「な、なんだ!」

 若い獣人の男が驚いて叫ぶ。
 皆も驚いて、あたふたとしている。

「お兄ちゃんっ!」

 ルーンがすぐに俺の腕を掴む。
 俺は冷静に状況を把握しようとしたが、突然部屋が明るくなり、さらに混乱する。

 なんだ!?
 自動で仕掛けが作動したのか?

 俺はまず天井を見た、天井には吊り下がっているクリスタルのような石がいくつもあり、下に向けて光を放っている。
 天井を見ていると、壁際に四角い部屋があるのを見つける。部屋の入り口からは、壁に接して階段が地面まで続いていた。

 まだ仲間がいたのか...。

 部屋の窓のような四角い枠から、男の顔が見える。

 洞穴内の揺れは激しくなっていく。

 おそらくだが、非常用の設備含め、この洞穴そのものを管理している者なのだろう。
 俺たちがランタンを持ってここに入って来たのを見て、所長がやられ、奴隷が脱走したと確信し、何かの仕掛けを作動させた...ってとこか。

 窓から顔を見せる男は何も話さない、しかし俺たちを睨みつけていた。

 ここを崩落させるつもりか!?
 しかし、自分も死ぬぞ。
 いや、どの道脱走した奴隷達によって殺されると踏んで、俺たちを道連れにする気なのだろう。
 くっ、ここまで来て...。

「お兄ちゃん...」

 ルーンはぎゅっと俺の腕を掴んでいる。
 揺れはさらに激しさを増し、天井から岩や砂が落ちてくる。

 まずいな、洞穴の入り口まで戻る余裕は無さそうだ...。
 どうする...?

 俺は周りを見回しながら、なんとか船の前にある壁を壊す方法が無いかを探した。
 壁を壊す仕掛けはあの天井にある部屋の中だろう。今から階段を登っても間に合いそうにない。

 だとすれば無理矢理壁を壊すか、タバコの箱のようなものに衝撃を与えて起爆させるしかない。
 しかし、どちらも間に合いそうにない。

 どちらの方法も試す時間が無いほど洞穴内は崩落していた。
 目の前のいたるところに岩や石が落ちてくる。その場に立っているだけで、落石が頭部を直撃して死亡することは充分ありえる状況だ。
 俺は苦し紛れにルーンを抱えて船に飛び移る。
 他の者も同じように船に飛び込んでくる。
 船は狭く、4人乗りのようだった。
 皆はなんとか落石を回避しようと船内の奥に進もうとする。
 俺も同じようにルーンを抱きかかえて船内に入ったが、洞穴が本格的に崩落し、天井そのものが落ちてくる。
 大きな衝撃が襲い、身動きできる隙間も無くなる。

 やっぱり無駄か...。
 せっかくルーンを救出できたのに...!

「ルーン、おまえだけでも守り...」

 ルーンをぎゅっと抱きしめていたが、強い圧迫感と酸欠ですぐに意識が薄れていく。

「お兄ちゃん...」

 最後にルーンの声を聞いて腕に力を込めたが、意識を保つことはできなかった。

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