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第一章 狼の少女
22.星空の下 ■
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■ルーンの視点■
お兄ちゃんは何かを考えていたが、意を決した顔になり私に説明を始める。
「ルーン、よく聞いて」
「...うん」
私は返事をしてお兄ちゃんを見上げる。
「牢屋でうたた寝した時...頭の中で『開花』という言葉を聞いたんだ」
「開花?」
「うん。直接声を聞いたわけじゃないんだけど、なんていうか...。誰かが俺の心にメッセージを送った感じかな、うまく言えないけど」
「お兄ちゃんのそれ、たぶん私の『狂戦士』の時と同じ...と思う」
「そっか、じゃあやっぱりこれが祝福なんだな」
「『開花』がお兄ちゃんに与えられた祝福なの?」
「ああ、間違いないと思う」
お兄ちゃんは神々の祝福を与えられていたようだった。
お兄ちゃんも祝福の力を持っていたんだ...。
どんな力なのかな。
私のような力じゃないといいけど...。
お兄ちゃんは説明を続ける。
「この『開花』の祝福、名前しかわからなくて、どういう力かはわからないんだ」
「でもお兄ちゃん、どうして私の祝福を知っていたの?それも名前まで。お兄ちゃんの祝福と何か関係あるの?」
「ああ、それも説明する」
私は疑問に思ったことをお兄ちゃんに聞いていた。
でも、お兄ちゃんは信じられないことを言った。
「まず、ルーンの祝福を知っていたのは...、これは祝福の力なのかわからんが、俺は一度死んでるんだ」
「え!?」
お兄ちゃんが一度死んだ。
話の内容が衝撃的過ぎて、思わず大きな声を出していた。
お兄ちゃんは私が驚くことを想定していたのか、話しを続ける。
「さっきの3人の内、長身の眼鏡をかけて槍を持ってたやつがいただろ」
「うん...」
「あいつに槍で胸を貫かれて、一度死んでるんだ。その後、死ぬ前に時間が戻ったんだ」
お兄ちゃんが一度死んで...死ぬ前に戻った...?
そんなこと...。
お兄ちゃんが死んだ。そんなこと到底信じられなかった。
しかしお兄ちゃんは今、私に真剣に説明している。
それに牢屋に一緒にいた時の、お兄ちゃんの言動や振る舞いを思い返す。
確かお兄ちゃんは...「俺は生きてる?」とか、「あいつらは全員死んだのか」とか言ってた...。
そしてお兄ちゃんは...自分の胸をしきりに調べていた。
私はお兄ちゃんに聞いていた。
お兄ちゃんの口からもう一度はっきり聞きたかった。
「お兄ちゃんが一度死んで...死ぬ前に戻ったの?」
「うん、死んで視界が真っ暗になった後...あの牢屋に戻っていたんだ。うたた寝から目を覚ましたあの時に、時間が戻っていたんだよ。あのうたた寝の時に祝福を受けたんだと思う」
「...」
お兄ちゃんは同じことを言った。
だから私は信じようと、牢屋でのことをお兄ちゃんに聞いた。
「だからお兄ちゃんは、あの時私にそのことを聞いたり、お兄ちゃんの胸を見たりしてたの?それに、私が連れ去られることも知っていた。それも時間が戻ったから知っていたの?」
お兄ちゃんは驚いた顔をして、返事をする。
「ああ、連れ去られたルーンを助け出そうとしたんだけど、死ぬ前の傷は深くて、出血もひどかったからさ」
「...」
お兄ちゃんは私を助けようとして...。
「だから戻ったあの時は、あんなに深い傷が完治するなんて信じられないって思ったんだよ」
「...お兄ちゃん」
「どうした?ルーン」
「ごめんなさい、お兄ちゃんは私を守る為に死んだんでしょ」
私はまた感情が高ぶっていた。
お兄ちゃんが私を守る為に命を落としていた。
お兄ちゃん...私のせいで命を...。
私なんかの為にお兄ちゃんが...そして、一度命を落としても、また私を守ろうとしたお兄ちゃんに対してあんなことを...。
私はまた自責の念が溢れ出していた。
目に涙を溜めて、お兄ちゃんに対しての負い目から、感情的になっていた。
「ルーン。俺が死んだのは俺が弱かったからだ。相手を甘く見ていた。全て俺の落ち度で、ルーンは関係無いぞ」
「...」
「謝らないといけないのは俺のほうだ。命をかけてルーンを守るつもりが、果たせずに死んだんだからな」
「お兄ちゃん、私のせいでお兄ちゃんが...ううぅっ...ごめんなさい。ごめんなさい...」
私はまたお兄ちゃんに謝り続けていた。
泣きながら、お兄ちゃんに謝る。
お兄ちゃんはそんな私を見て、強引に話を進める。
「ルーン、この話はもうやめよう。俺は生きている。戦ってルーンを守ることができたんだ。過去の時間はもう二度と起こらない。いいな、この話はやめだ」
「でも...」
「ルーン、祝福の話を続けるぞ」
「...」
お兄ちゃんは、私が自分を責めないように話を続ける。
「俺は祝福を受けた時点に巻き戻った。だから巻き戻りは祝福の力なんだと思う。そしてルーンの祝福『狂戦士』の名前を知ったのも、俺の祝福からだ」
「...うん」
「俺の祝福『開花』は、意識すると木製の枠のようなものが見える。最初、枠の中は真っ黒で何も無かったんだ。」
「...うん」
「妙なのは、さっき確認したら白い花があった。まあ実際は少しだけ咲いている蕾だが」
「うん」
「そしてその花には『ルーン』の文字が、花の下には『狂戦士』の文字があったんだ」
「...」
「牢屋から出る前までは確かに真っ黒だったんだがなぁ、なんで突然花が現れたんだろうな」
「...」
「まてよ、そういやさっきシャランッと鈴のような音が鳴ったな。祝福を与えられた時も鳴っていたから、その音が鳴ったから花が現れた、と見て間違いないだろうが...」
お、お兄ちゃん...それって...。
私はお兄ちゃんに自分の気持ちが見透かされたかと思い、恥ずかしくなった。
私の気持ち...お兄ちゃんが好きって気持ち、お兄ちゃんの祝福の力に現れたのかな...。
『開花』だから...お兄ちゃんを好きって気持ちが花になったの...?
私はいつの間にか自責の念は忘れ、自分の気持ちに気づかれたのではないかと、顔を赤くして焦っていた。
お兄ちゃんは私の様子が変わって安心したのか、話を終わらせる。
「まあとにかく、これが俺がルーンの祝福とその名前を知っていた理由だ」
「うん...、わかったよお兄ちゃん」
お兄ちゃんが私を抱いていた腕を解く。
あっ...、もっとお兄ちゃんにぎゅってしてほしかったな...。
お兄ちゃんはカゴを指差し、私に言う。
「まあなんだ、起きてからいろいろあって腹が減っただろ。ここに食い物も水もあるから好きなだけ食え」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
「この干し肉はうまいぞ、このリンゴもうまかった」
「お兄ちゃんは食べないの?」
「俺はルーンが起きるまでに食べたからな。まあ俺ももう少し食うか」
お兄ちゃんはバナナを食べている。
私は水を飲んで、お兄ちゃんに言われた通り干し肉を食べる。
塩味が効いていて美味しかった。
「見ろよルーン、波も星も綺麗だな」
「ほんとだ。すごいね、お兄ちゃん」
それからしばらく沈黙が続いた。
波が繰り返す音だけが聞こえた。
お兄ちゃんが言った通り、波も星もすごく綺麗だった。
しかし私は別のものを見ていた。
綺麗な波よりも、綺麗な星よりも、それから目が離せなかった。
お兄ちゃん...。
お兄ちゃんの顔、かっこいい...。
波を見ているお兄ちゃんを、星を見ているお兄ちゃんを、私はじっと見ていた。
胸がドキドキしていた。
顔が熱くなっていた。
そんな時、追い打ちをかけるようにお兄ちゃんは言った。
「ルーン、疲れただろ。食べてすぐ横になるのは嫌だろうから、俺にもたれて休んでいいぞ」
お、お兄ちゃん...。
お兄ちゃんの顔を見てるだけでもドキドキしていたのに、お兄ちゃんにもたれて体重を預けたら...。
私は心の声とは裏腹に、すぐに行動に移してた。
正面からは恥ずかしくて出来ず、背中からお兄ちゃんにもたれかかっていた。
体重を預けて体の力を抜こうとしたが、緊張してうまくできない。
それでもしばらくすると、自然とお兄ちゃんに体重をかけて背中を押し付けていた。
お兄ちゃん...重くないかな?
でも、お兄ちゃん温かい...落ち着くなぁ。
私は星空を見ながら、幸せな時間を過ごしていた。
お兄ちゃんの体温を背中に感じながら、うとうとしかけていた時、お兄ちゃんの声が聞こえた。
「ルーン、俺はルーンの『狂戦士』を止めた。勿論これからも止める。だが少しでも情報はあったほうがいい。だから『狂戦士』について教えてくれないか?」
お兄ちゃんの声のトーンから、真剣な話だとわかった。
私はお兄ちゃんにもたれるのをやめ、まっすぐ座り直し、お兄ちゃんを見つめて返事をする。
「...うん。わかった」
「さっそくだが、『狂戦士』の力を使うと、正気じゃなくなるのか?」
「うん、自分の意志では使えなかったんだけど...あの時はお兄ちゃんが、私を止めるって言ってくれたから、力が使えたんだと思う。力を使うとね、目に映る者全てを殺そうとするの」
「戦う意志が無い者でもか?例えば囚われた人質とか」
「うん、全てだよ」
「それから疲労が激しそうだったんだが」
「うん、普通の状態の何倍も疲労する。でも...お兄ちゃんが見た通り、すごく強くなる」
「ああ、そうだったな。」
「...」
「あー、まあ俺は止めたからな。ルーンがちょっと暴れただけだったよ。強さよりもルーンの耳とか尻尾が可愛いかったなぁ」
「も、もう...お兄ちゃんっ!」
お兄ちゃんは、また私が自分を責めないように気を遣っていた。
私はそんな気遣いが嬉しくてすぐにお礼を伝えた。
「...止めてくれてありがとう、お兄ちゃん」
やっぱりお兄ちゃんは優しいな。
『狂戦士』の私を止めるなんて、今でも信じられない。
強くて優しいお兄ちゃん...。
その時、後ろの森から誰かの足音が聞こえた。
お兄ちゃんも足跡がする方をじっと見ている。
足音が大きくなってきて...私と同じ年くらいの女の子が森から出て来る。
茜色のような髪をした、可愛い女の子だった。
洞穴から走って来た女の子が私たちに向かって言う。
「あの、洞穴の奥に隠し通路があって、みんなで進むようです!」
隠し通路...?
お兄ちゃんを見ると、難しい顔をしていた。何かを考えているようだった。
お兄ちゃんは何かを考えていたが、意を決した顔になり私に説明を始める。
「ルーン、よく聞いて」
「...うん」
私は返事をしてお兄ちゃんを見上げる。
「牢屋でうたた寝した時...頭の中で『開花』という言葉を聞いたんだ」
「開花?」
「うん。直接声を聞いたわけじゃないんだけど、なんていうか...。誰かが俺の心にメッセージを送った感じかな、うまく言えないけど」
「お兄ちゃんのそれ、たぶん私の『狂戦士』の時と同じ...と思う」
「そっか、じゃあやっぱりこれが祝福なんだな」
「『開花』がお兄ちゃんに与えられた祝福なの?」
「ああ、間違いないと思う」
お兄ちゃんは神々の祝福を与えられていたようだった。
お兄ちゃんも祝福の力を持っていたんだ...。
どんな力なのかな。
私のような力じゃないといいけど...。
お兄ちゃんは説明を続ける。
「この『開花』の祝福、名前しかわからなくて、どういう力かはわからないんだ」
「でもお兄ちゃん、どうして私の祝福を知っていたの?それも名前まで。お兄ちゃんの祝福と何か関係あるの?」
「ああ、それも説明する」
私は疑問に思ったことをお兄ちゃんに聞いていた。
でも、お兄ちゃんは信じられないことを言った。
「まず、ルーンの祝福を知っていたのは...、これは祝福の力なのかわからんが、俺は一度死んでるんだ」
「え!?」
お兄ちゃんが一度死んだ。
話の内容が衝撃的過ぎて、思わず大きな声を出していた。
お兄ちゃんは私が驚くことを想定していたのか、話しを続ける。
「さっきの3人の内、長身の眼鏡をかけて槍を持ってたやつがいただろ」
「うん...」
「あいつに槍で胸を貫かれて、一度死んでるんだ。その後、死ぬ前に時間が戻ったんだ」
お兄ちゃんが一度死んで...死ぬ前に戻った...?
そんなこと...。
お兄ちゃんが死んだ。そんなこと到底信じられなかった。
しかしお兄ちゃんは今、私に真剣に説明している。
それに牢屋に一緒にいた時の、お兄ちゃんの言動や振る舞いを思い返す。
確かお兄ちゃんは...「俺は生きてる?」とか、「あいつらは全員死んだのか」とか言ってた...。
そしてお兄ちゃんは...自分の胸をしきりに調べていた。
私はお兄ちゃんに聞いていた。
お兄ちゃんの口からもう一度はっきり聞きたかった。
「お兄ちゃんが一度死んで...死ぬ前に戻ったの?」
「うん、死んで視界が真っ暗になった後...あの牢屋に戻っていたんだ。うたた寝から目を覚ましたあの時に、時間が戻っていたんだよ。あのうたた寝の時に祝福を受けたんだと思う」
「...」
お兄ちゃんは同じことを言った。
だから私は信じようと、牢屋でのことをお兄ちゃんに聞いた。
「だからお兄ちゃんは、あの時私にそのことを聞いたり、お兄ちゃんの胸を見たりしてたの?それに、私が連れ去られることも知っていた。それも時間が戻ったから知っていたの?」
お兄ちゃんは驚いた顔をして、返事をする。
「ああ、連れ去られたルーンを助け出そうとしたんだけど、死ぬ前の傷は深くて、出血もひどかったからさ」
「...」
お兄ちゃんは私を助けようとして...。
「だから戻ったあの時は、あんなに深い傷が完治するなんて信じられないって思ったんだよ」
「...お兄ちゃん」
「どうした?ルーン」
「ごめんなさい、お兄ちゃんは私を守る為に死んだんでしょ」
私はまた感情が高ぶっていた。
お兄ちゃんが私を守る為に命を落としていた。
お兄ちゃん...私のせいで命を...。
私なんかの為にお兄ちゃんが...そして、一度命を落としても、また私を守ろうとしたお兄ちゃんに対してあんなことを...。
私はまた自責の念が溢れ出していた。
目に涙を溜めて、お兄ちゃんに対しての負い目から、感情的になっていた。
「ルーン。俺が死んだのは俺が弱かったからだ。相手を甘く見ていた。全て俺の落ち度で、ルーンは関係無いぞ」
「...」
「謝らないといけないのは俺のほうだ。命をかけてルーンを守るつもりが、果たせずに死んだんだからな」
「お兄ちゃん、私のせいでお兄ちゃんが...ううぅっ...ごめんなさい。ごめんなさい...」
私はまたお兄ちゃんに謝り続けていた。
泣きながら、お兄ちゃんに謝る。
お兄ちゃんはそんな私を見て、強引に話を進める。
「ルーン、この話はもうやめよう。俺は生きている。戦ってルーンを守ることができたんだ。過去の時間はもう二度と起こらない。いいな、この話はやめだ」
「でも...」
「ルーン、祝福の話を続けるぞ」
「...」
お兄ちゃんは、私が自分を責めないように話を続ける。
「俺は祝福を受けた時点に巻き戻った。だから巻き戻りは祝福の力なんだと思う。そしてルーンの祝福『狂戦士』の名前を知ったのも、俺の祝福からだ」
「...うん」
「俺の祝福『開花』は、意識すると木製の枠のようなものが見える。最初、枠の中は真っ黒で何も無かったんだ。」
「...うん」
「妙なのは、さっき確認したら白い花があった。まあ実際は少しだけ咲いている蕾だが」
「うん」
「そしてその花には『ルーン』の文字が、花の下には『狂戦士』の文字があったんだ」
「...」
「牢屋から出る前までは確かに真っ黒だったんだがなぁ、なんで突然花が現れたんだろうな」
「...」
「まてよ、そういやさっきシャランッと鈴のような音が鳴ったな。祝福を与えられた時も鳴っていたから、その音が鳴ったから花が現れた、と見て間違いないだろうが...」
お、お兄ちゃん...それって...。
私はお兄ちゃんに自分の気持ちが見透かされたかと思い、恥ずかしくなった。
私の気持ち...お兄ちゃんが好きって気持ち、お兄ちゃんの祝福の力に現れたのかな...。
『開花』だから...お兄ちゃんを好きって気持ちが花になったの...?
私はいつの間にか自責の念は忘れ、自分の気持ちに気づかれたのではないかと、顔を赤くして焦っていた。
お兄ちゃんは私の様子が変わって安心したのか、話を終わらせる。
「まあとにかく、これが俺がルーンの祝福とその名前を知っていた理由だ」
「うん...、わかったよお兄ちゃん」
お兄ちゃんが私を抱いていた腕を解く。
あっ...、もっとお兄ちゃんにぎゅってしてほしかったな...。
お兄ちゃんはカゴを指差し、私に言う。
「まあなんだ、起きてからいろいろあって腹が減っただろ。ここに食い物も水もあるから好きなだけ食え」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
「この干し肉はうまいぞ、このリンゴもうまかった」
「お兄ちゃんは食べないの?」
「俺はルーンが起きるまでに食べたからな。まあ俺ももう少し食うか」
お兄ちゃんはバナナを食べている。
私は水を飲んで、お兄ちゃんに言われた通り干し肉を食べる。
塩味が効いていて美味しかった。
「見ろよルーン、波も星も綺麗だな」
「ほんとだ。すごいね、お兄ちゃん」
それからしばらく沈黙が続いた。
波が繰り返す音だけが聞こえた。
お兄ちゃんが言った通り、波も星もすごく綺麗だった。
しかし私は別のものを見ていた。
綺麗な波よりも、綺麗な星よりも、それから目が離せなかった。
お兄ちゃん...。
お兄ちゃんの顔、かっこいい...。
波を見ているお兄ちゃんを、星を見ているお兄ちゃんを、私はじっと見ていた。
胸がドキドキしていた。
顔が熱くなっていた。
そんな時、追い打ちをかけるようにお兄ちゃんは言った。
「ルーン、疲れただろ。食べてすぐ横になるのは嫌だろうから、俺にもたれて休んでいいぞ」
お、お兄ちゃん...。
お兄ちゃんの顔を見てるだけでもドキドキしていたのに、お兄ちゃんにもたれて体重を預けたら...。
私は心の声とは裏腹に、すぐに行動に移してた。
正面からは恥ずかしくて出来ず、背中からお兄ちゃんにもたれかかっていた。
体重を預けて体の力を抜こうとしたが、緊張してうまくできない。
それでもしばらくすると、自然とお兄ちゃんに体重をかけて背中を押し付けていた。
お兄ちゃん...重くないかな?
でも、お兄ちゃん温かい...落ち着くなぁ。
私は星空を見ながら、幸せな時間を過ごしていた。
お兄ちゃんの体温を背中に感じながら、うとうとしかけていた時、お兄ちゃんの声が聞こえた。
「ルーン、俺はルーンの『狂戦士』を止めた。勿論これからも止める。だが少しでも情報はあったほうがいい。だから『狂戦士』について教えてくれないか?」
お兄ちゃんの声のトーンから、真剣な話だとわかった。
私はお兄ちゃんにもたれるのをやめ、まっすぐ座り直し、お兄ちゃんを見つめて返事をする。
「...うん。わかった」
「さっそくだが、『狂戦士』の力を使うと、正気じゃなくなるのか?」
「うん、自分の意志では使えなかったんだけど...あの時はお兄ちゃんが、私を止めるって言ってくれたから、力が使えたんだと思う。力を使うとね、目に映る者全てを殺そうとするの」
「戦う意志が無い者でもか?例えば囚われた人質とか」
「うん、全てだよ」
「それから疲労が激しそうだったんだが」
「うん、普通の状態の何倍も疲労する。でも...お兄ちゃんが見た通り、すごく強くなる」
「ああ、そうだったな。」
「...」
「あー、まあ俺は止めたからな。ルーンがちょっと暴れただけだったよ。強さよりもルーンの耳とか尻尾が可愛いかったなぁ」
「も、もう...お兄ちゃんっ!」
お兄ちゃんは、また私が自分を責めないように気を遣っていた。
私はそんな気遣いが嬉しくてすぐにお礼を伝えた。
「...止めてくれてありがとう、お兄ちゃん」
やっぱりお兄ちゃんは優しいな。
『狂戦士』の私を止めるなんて、今でも信じられない。
強くて優しいお兄ちゃん...。
その時、後ろの森から誰かの足音が聞こえた。
お兄ちゃんも足跡がする方をじっと見ている。
足音が大きくなってきて...私と同じ年くらいの女の子が森から出て来る。
茜色のような髪をした、可愛い女の子だった。
洞穴から走って来た女の子が私たちに向かって言う。
「あの、洞穴の奥に隠し通路があって、みんなで進むようです!」
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お兄ちゃんを見ると、難しい顔をしていた。何かを考えているようだった。
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