あいばな開花 ~異世界で愛の花を咲かせます~

だいなも

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第一章 狼の少女

20.ルーンの心境

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 俺は自分でも妙に納得していた。

 そうだ、あの夢はたぶん祝福を与えるようなものなんだと思う。
『開花』という力を与えられたのか。

 うまく言えるかわからなかったが、俺は最初からルーンに説明しようとした。

「ルーン、よく聞いて」
「...うん」

 ルーンは顔を上げて俺を見る、もう震えは止まっていた。

「牢屋でうたた寝した時...頭の中で『開花』という言葉を聞いたんだ」
「開花?」
「うん。直接声を聞いたわけじゃないんだけど、なんていうか...。誰かが俺の心にメッセージを送った感じかな、うまく言えないけど」
「お兄ちゃんのそれ、たぶん私の『狂戦士』の時と同じ...と思う」
「そっか、じゃあやっぱりこれが祝福なんだな」
「『開花』がお兄ちゃんに与えられた祝福なの?」
「ああ、間違いないと思う」

 俺はルーンの言葉を聞いて確信した。やっぱりこれは祝福だと。
 しかし、ルーンのそれと違って、俺のはどういう力かまるでわからない。
 使い方も使い道も、何も情報が無かった。

 続けてルーンに説明する。

「この『開花』の祝福、名前しかわからなくて、どういう力かはわからないんだ」
「でもお兄ちゃん、どうして私の祝福を知っていたの?それも名前まで。お兄ちゃんの祝福と何か関係あるの?」
「ああ、それも説明する」

 というかルーンは鋭いな。
 まだ幼いのに、俺より頭がいいんじゃないか?

「まず、ルーンの祝福を知っていたのは...、これは祝福の力なのかわからんが、俺は一度死んでるんだ」
「え!?」

 ルーンが驚いて、少し大きな声を出す。

「さっきの3人の内、長身の眼鏡をかけて槍を持ってたやつがいただろ」
「うん...」
「あいつに槍で胸を貫かれて、一度死んでるんだ。その後、死ぬ前に時間が戻ったんだ」

 まあ最後はルーンの腕で貫かれて死んだんだが、このことを話すと間違いなく悲しむだろからな、黙っておこう。
 それにあの槍でも充分致命傷だった。嘘は言ってないよな。

 ルーンは俺の腕の中で、真剣な顔をして下を向いて考えている。
 一度死んでる、と言った俺の言葉はショックだっただろう。
 1分程考えていたが、やがて顔を上げる。

「お兄ちゃんが一度死んで...死ぬ前に戻ったの?」
「うん、死んで視界が真っ暗になった後...あの牢屋に戻っていたんだ。うたた寝から目を覚ましたあの時に、時間が戻っていたんだよ。あのうたた寝の時に祝福を受けたんだと思う」
「...」


 死んだ後で時間が戻るなんて現象、とうてい信じられないように思えた。

 何せ記憶を持ち越していたのは俺だけだったからな。
 ルーンからしたら、時間が経過するだけの、当たり前のことだったはずだ。

 しかしルーンは、顔を上げて俺の目を見て聞いた。

「だからお兄ちゃんは、あの時私にそのことを聞いたり、お兄ちゃんの胸を見たりしてたの?それに、私が連れ去られることも知っていた。それも時間が戻ったから知っていたの?」

 驚いた。
 なんて柔軟な思考してるんだよ。
 俺の不可解な行動と今の話の整合性を確認して、もう受け入れようとしている。

『狂戦士』の名前とあの姿から、俺は勝手にルーンのことを、暴れる獣ってイメージしてたが、目の前のルーンは冷静で思慮深い。

「ああ、連れ去られたルーンを助け出そうとしたんだけど、死ぬ前の傷は深くて、出血もひどかったからさ」
「...」
「だから戻ったあの時は、あんなに深い傷が完治するなんて信じられないって思ったんだよ」
「...お兄ちゃん」
「どうした?ルーン」
「ごめんなさい、お兄ちゃんは私を守る為に死んだんでしょ」

 ...やばい。
 またルーンが目に涙を浮かべている。

「ルーン。俺が死んだのは俺が弱かったからだ。相手を甘く見ていた。全て俺の落ち度で、ルーンは関係無いぞ」
「...」
「謝らないといけないのは俺のほうだ。命をかけてルーンを守るつもりが、果たせずに死んだんだからな」
「お兄ちゃん、私のせいでお兄ちゃんが...ううぅっ...ごめんなさい。ごめんなさい...」

 この流れはいかん。

 俺は強めにルーンに言い聞かせる。

「ルーン、この話はもうやめよう。俺は生きている。戦ってルーンを守ることができたんだ。過去の時間はもう二度と起こらない。いいな、この話はやめだ」
「でも...」
「ルーン、祝福の話を続けるぞ」
「...」

 ルーンはまだ涙ぐんでいる。
 自責の念があるのだろうか。
 俺は強引に話を進めた。

「俺は祝福を受けた時点に巻き戻った。だから巻き戻りは祝福の力なんだと思う。そしてルーンの祝福『狂戦士』の名前を知ったのも、俺の祝福からだ」
「...うん」
「俺の祝福『開花』は、意識すると木製の枠のようなものが見える。最初、枠の中は真っ黒で何も無かったんだ。」
「...うん」
「妙なのは、さっき確認したら白い花があった。まあ実際は少しだけ咲いている蕾だが」
「うん」
「そしてその花には『ルーン』の文字が、花の下には『狂戦士』の文字があったんだ」
「...」
「牢屋から出る前までは確かに真っ黒だったんだがなぁ、なんで突然花が現れたんだろうな」
「...」
「まてよ、そういやさっきシャランッと鈴のような音が鳴ったな。祝福を与えられた時も鳴っていたから、その音が鳴ったから花が現れた、と見て間違いないだろうが...」

 ルーンは何も言わない、だがさっきまで泣いていたその顔が、今は若干赤らめているようだ。

 ん?なんだこの反応は?
 まてよ...。

 花が枠の中に現れたのはつい先ほど。
 その白い花はルーンの花。
 そして顔を赤らめるルーンの反応。

 これは...おそらくだが、ルーンが俺に対して『信頼』とか『好感』を持ってくれたから、その者の花が根付いた...ということなのか?
 ルーンも同じようなことを考えているんだろう。

「まあとにかく、これが俺がルーンの祝福とその名前を知っていた理由だ」
「うん...、わかったよお兄ちゃん」

 ルーンはもう泣いていないな。
 よかった。

 俺はルーンを腕の中から解放し、カゴを指差す。

「まあなんだ、起きてからいろいろあって腹が減っただろ。ここに食い物も水もあるから好きなだけ食え」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
「この干し肉はうまいぞ、このリンゴもうまかった」
「お兄ちゃんは食べないの?」
「俺はルーンが起きるまでに食べたからな。まあ俺ももう少し食うか」

 そう言ってバナナを取って、もしゃもしゃと食う。
 ルーンも水をゴクゴクと飲んで、干し肉をもぐもぐと食べている。
 顔を見ると、おいしいようだ。

「見ろよルーン、波も星も綺麗だな」
「ほんとだ。すごいね、お兄ちゃん」

 それからしばらく、俺たちはもぐもぐと食いながら、綺麗な星空の下、波が繰り返す音を聞いていた。


 ルーンが俺にもたれ掛かって、体重を預けている。
 これは俺が「ルーン、疲れただろ。食べてすぐ横になるのは嫌だろうから、俺にもたれて休んでいいぞ」と言ったからだ。
 ルーンは星空を見ている。
 ロマンチックで居心地が良かったが、これからの為にも大事なことを聞いておかなければいけない。

「ルーン、俺はルーンの『狂戦士』を止めた。勿論これからも止める。だが少しでも情報はあったほうがいい。だから『狂戦士』について教えてくれないか?」

 ルーンは俺にもたれるのをやめ、まっすぐ座り直し、俺を見つめる。
 そして少し悲しそうな顔をしたが、すぐに決心したように真剣な顔になる。

「...うん。わかった」
「さっそくだが、『狂戦士』の力を使うと、正気じゃなくなるのか?」
「うん、自分の意志では使えなかったんだけど...あの時はお兄ちゃんが、私を止めるって言ってくれたから、力が使えたんだと思う。力を使うとね、目に映る者全てを殺そうとするの」
「戦う意志が無い者でもか?例えば囚われた人質とか」
「うん、全てだよ」
「それから疲労が激しそうだったんだが」
「うん、普通の状態の何倍も疲労する。でも...お兄ちゃんが見た通り、すごく強くなる」
「ああ、そうだったな。」
「...」
「あー、まあ俺は止めたからな。ルーンがちょっと暴れただけだったよ。強さよりもルーンの耳とか尻尾が可愛いかったなぁ」
「も、もう...お兄ちゃんっ!」

 俺が気を使ったことがわかったのか、ルーンはすぐに笑顔になって言った。

「...止めてくれてありがとう、お兄ちゃん」

 俺はさらに詳しい情報を聞こうとしたその時、ザッザッと誰かの足音が聞こえた。
 どうやら4人の内の1人がここに来ているようだ。
 俺たちは足音がする方を、じっと見ている。
 そこには、ルーンと同じくらいの、あの女の子の姿が見えて来た。
 茜色に茶色が少し混じったような、綺麗なセミロングの髪で、前髪は両耳の後ろで止めている為、おでこに三角形が見える。


「あの、洞穴の奥に隠し通路があって、みんなで進むようです!」

 俺はそれを聞いて、ある期待が心に浮かんでいく。

 もしかして...アレがあるのか?

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