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第一章 狼の少女
14.死に戻り
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燈色の光が視界に入る。
木箱の上に置かれたランタンが淡く光を放っている。
「...」
傍にいるルーンが心配そうに、俺の顔を覗き込んでいる。
ここは、どこだ?
ルーンは元に戻ったのか?
俺はまずルーンの顔を見る。そこには綺麗な茶色の瞳を宿したルーンの顔が、依然俺を心配そうに見ていた。
頭の耳もお尻の尻尾も無い。
「え...。ルーン、大丈夫なのか?」
「...?」
ルーンは何を聞かれているのかわからないようだ。
「俺は? 生きてる??」
混乱のあまり、ルーンの前で怖がらせないように優しい口調にしていたのを、やめてしまっている。
そしてルーンの顔を見たあと、思い出したかのように急いで自分の服をまくり上げ、胸を見る。
そこには、傷一つない綺麗な胸がった。
ルーンは、俺が何をやっているかわからないようで、さっきよりも心配そうに俺を見ている。
「ルーン、あの後何が? いや、それよりあいつらは全員死んだのか?」
「...??」
俺はルーンに縋るように聞くが、ルーンは困ったような顔で何も言わずにいる。
どうなった?
あれからどうなったんだ?
ルーンはあの豹変する力の影響で、記憶を失っているのか?
しかし、俺の胸の傷は誰が治療したんだ?
完全に貫かれ、内臓が破壊されていたのに、こんな僅かな時間で完治できるもんなのか?
そして、なんでまた牢屋にいるんだ?
わからないことだらけだった。
今の状況を理解しようとするが、余計混乱が広がっている。
あの場にいた、頼みの綱であるルーンに何度も聞くが、俺が何を言ってるかわからないようだった。
よし、一旦落ち着け。
落ち着いてゆっくり整理しよう。
ルーンの瞳は戻っている。
俺の胸の傷は完治している。
俺たちはまた牢屋にいる。銀色のカギはベッドの下、影の中にある。
そしてルーンは俺が何を言っているかわからない。
...しばらく考え、ある仮説を思いついた。
荒唐無稽だが、状況の説明を少し変えれば、筋が通るように見える。
ルーンの瞳は戻っている。これはいい。
だが、次の俺の胸の傷、これは完治したんじゃなくて、元に戻ったのだとしたら?
そして俺たちは「また」牢屋にいるのではなく、牢屋にいる時に戻ったのだとしたら?
つまりルーンの瞳は、赤くなってから戻ったんじゃなく、赤くなる前に戻っているのだとしたら。
時間が戻っている、このことが推測される。
そうすれば、持って行ったはずのカギがベッドの下にあることや、ルーンが俺の言葉を理解できないことも、辻褄が合うように思える。
いや、そんなことあり得るのか?
死んだら時間が巻き戻る?いくら剣と魔法の世界とはいえ、そんなことが?
しかし、俺はふと目を覚ました状況を思い出した。
そうか...あれか。
あの夢が、何かの引き金になったのか。
ルーンの腕に貫かれ、死んだ後に元に戻った俺は、夢を見た直後の時点だった。
あの夢...いや、あの言葉も関係あるのか?
そう思って頭の中で『開花』を意識するが、変わらず木製の枠が出てきて、枠の中は真っ黒なままだ。
...さっぱりわからんな。
いや、落ち着け。
今わかってることをやろう。
俺は時間が戻ったと仮定して進めることにした。
次死んだらもう戻れないかもしれない。
今回だけのチャンスをもらって生き延びたと考える。
誰か知らんが感謝する。
また生きてルーンと話ができるからな。
だがそうなると、このあとルーンはまた連れて行かれることになる。
あの時は目を覚ましてから2時間後だったから、今回は起きてどれくらい経った?
たぶん30分か、遅くても45分くらいだろう。
今回のチャンスは絶対に失敗できない。天使か悪魔か神か、俺に与えてくれた最後のチャンスだと思え。
俺はあの時、部屋に飛び込んでからの場面を思い返す。
見張りの男にナイフを刺すまではよかった。しかしその後、ナイフを掴まれて抜けなくなるのは想定していなかった。
自分の甘さに嫌気がさすが、今度は確実に成功させようと考える。
要は、もう一つ武器があればいいのか。
最初に見張りの男を刺すことに変更は無い。
これで確実に1人減らせるからな。
であれば、刺した段階でその武器を捨て、次の武器を構えて看守に向かえばいい。
できれば同じように軽くて持ち運びやすいナイフがあればいいがな。
俺は武器をもう一つ手に入れて、見張りの男を刺したと同時にもう一つの武器で看守を襲う計画を考えた。
いや、待てよ。
あの看守の突きは速かった、あの時は振り向いたと同時に、目の前に槍があったから、避けられなかった。
しかも次はあいつに向かって行かなければならない。
ナイフを回収しないにしても、振り向いてこちらから移動する分、あいつも突きを放つ時間があるだろうと想定しておかないとな。
俺は慎重に思考を巡らす。
これがラストチャンスだと思わないとな。
一度あの場で戦っている俺は、大きなアドバンテージがある。
ルーンを助ける為に、出来る限りのことはやってやる。
槍の対策について考えた俺は、すぐに計画を立てる。
あと60分から90分ほどであいつらが来て、ルーンを連れて行くだろう。
よし、鉄板を探そう。
槍については回避することを考えなかった。
あのリーチで攻撃されたら、何度か回避したとしても、いずれ刺される。
回避した瞬間に踏み込めるだけの瞬発力は、俺には無かった。
ならば、受けるしかない。
胸に鉄板を仕込んでいれば、致命傷を避けられる。
俺はすぐにベッドの下からカギを取り出し、ルーンに話かける。
「ルーン、よく聞いてくれ。俺は今からこの牢を出てあるものを探しに行く」
「ナオ様、どうやって出るの?」
「ここにカギがある。これでこの扉は開く」
「...」
ルーンは信じられないようだった。
俺はルーンに見せるように、ゆっくりと開錠し、扉を押す。
抵抗無く開いた扉を見て、ルーンは驚いている。
「ルーン、よく聞いて」
俺は再度ルーンに告げる。
「今からルーンを助ける為に必要な物を探しに行く、だからルーンはここでじっとしてて欲しい」
「ナオ様、私も一緒に...」
「ルーン、俺は必ず戻る。約束する」
「...」
俺はルーンの目を見て言った。
ルーンは泣きそうな顔をしている。どこにも行かないで、一人にしないで、と顔に出ている。
「ルーン。ルーンを置いて一人で逃げたりしない。すぐに戻るからここで待ってて」
「うん...」
ルーンは涙声で返事をした。納得していないようだが、こればかりは我慢してもらわないといけない。
「ルーン、すぐ戻るよ」
俺はそう言って牢屋を出て、木製の扉に向かった。
歩きながら、あいつら3人を倒す場所についてふと考えたが、やはり不意を突けるあの状況でないと難しいと結論付けた。
木製の扉を開ける、カギはかかっていなかった。
そこは...奴隷が採鉱現場に行く前の、作業着やつるはしなどの道具が置いてある部屋だった。
扉を閉めた俺は、すぐに壁にあるランプを点け、部屋の中を探る。
ここに道具が揃っているなら、アレがあると思うが...。
俺はすぐにそれを見つけた。片手で持てるつるはし。ハンドル部分が短く、大きく振りかぶらなくても打ち付けることが出来る。
しかし金属でできた頭部、その先端は、何度も打ち付けてきたのだろうか、丸くなってしまっている。
俺はすぐに周りを見回し、部屋の隅にある研ぎ石を見つけた。大きな音を立てないように、ゆっくりとつるはしを研ぐ。
先端は、人体に刺さるぐらいに鋭くなった。
よし、これでまずあの見張りの首を狙う、そしてつるはしを手放し、倉庫にあるナイフに持ち替えて看守に襲い掛かる。
あとは、胸に仕込む板がいるな...。
俺は部屋を見回したが、欲しいものは見つからなかった。
しかし視界には、入ってきた扉とは別の扉が映る。
この先は...作業場か。
俺はいくつか置いてあったランタンを一つ手に持ち、その扉を開けて進んだ。
作業場は真っ暗だった。ランタンの灯りを頼りに、すぐに使えそうな物はないかと探す。
ふと、足にコツンと硬い感触があった。
ランタンを向けると、表面が若干ぼこぼこに歪んだ長方形の銅板があった。
何に使うものかわからんが、これは使えそうだ。しかし念のためもう一枚欲しいな...。
お? まだある。
周りを照らすと、いくつか落ちていた。
俺は使えそうな2枚を回収し、前の部屋に戻る。
あとは胸に仕込むだけだ、括り付けるヒモがいるな。
作業着のパーツを使うか。
作業着の一部やヒモを、つるはしの先端でなんとか切断し、2枚の銅板を胸に括り付けた。
落ちないようにきつく縛る。
そして、念のため、また少しつるはしを研いでおいた。
よし、ルーンの元に戻ろう!
俺はつるはしを持ってランプを消し、部屋を後にした。
木箱の上に置かれたランタンが淡く光を放っている。
「...」
傍にいるルーンが心配そうに、俺の顔を覗き込んでいる。
ここは、どこだ?
ルーンは元に戻ったのか?
俺はまずルーンの顔を見る。そこには綺麗な茶色の瞳を宿したルーンの顔が、依然俺を心配そうに見ていた。
頭の耳もお尻の尻尾も無い。
「え...。ルーン、大丈夫なのか?」
「...?」
ルーンは何を聞かれているのかわからないようだ。
「俺は? 生きてる??」
混乱のあまり、ルーンの前で怖がらせないように優しい口調にしていたのを、やめてしまっている。
そしてルーンの顔を見たあと、思い出したかのように急いで自分の服をまくり上げ、胸を見る。
そこには、傷一つない綺麗な胸がった。
ルーンは、俺が何をやっているかわからないようで、さっきよりも心配そうに俺を見ている。
「ルーン、あの後何が? いや、それよりあいつらは全員死んだのか?」
「...??」
俺はルーンに縋るように聞くが、ルーンは困ったような顔で何も言わずにいる。
どうなった?
あれからどうなったんだ?
ルーンはあの豹変する力の影響で、記憶を失っているのか?
しかし、俺の胸の傷は誰が治療したんだ?
完全に貫かれ、内臓が破壊されていたのに、こんな僅かな時間で完治できるもんなのか?
そして、なんでまた牢屋にいるんだ?
わからないことだらけだった。
今の状況を理解しようとするが、余計混乱が広がっている。
あの場にいた、頼みの綱であるルーンに何度も聞くが、俺が何を言ってるかわからないようだった。
よし、一旦落ち着け。
落ち着いてゆっくり整理しよう。
ルーンの瞳は戻っている。
俺の胸の傷は完治している。
俺たちはまた牢屋にいる。銀色のカギはベッドの下、影の中にある。
そしてルーンは俺が何を言っているかわからない。
...しばらく考え、ある仮説を思いついた。
荒唐無稽だが、状況の説明を少し変えれば、筋が通るように見える。
ルーンの瞳は戻っている。これはいい。
だが、次の俺の胸の傷、これは完治したんじゃなくて、元に戻ったのだとしたら?
そして俺たちは「また」牢屋にいるのではなく、牢屋にいる時に戻ったのだとしたら?
つまりルーンの瞳は、赤くなってから戻ったんじゃなく、赤くなる前に戻っているのだとしたら。
時間が戻っている、このことが推測される。
そうすれば、持って行ったはずのカギがベッドの下にあることや、ルーンが俺の言葉を理解できないことも、辻褄が合うように思える。
いや、そんなことあり得るのか?
死んだら時間が巻き戻る?いくら剣と魔法の世界とはいえ、そんなことが?
しかし、俺はふと目を覚ました状況を思い出した。
そうか...あれか。
あの夢が、何かの引き金になったのか。
ルーンの腕に貫かれ、死んだ後に元に戻った俺は、夢を見た直後の時点だった。
あの夢...いや、あの言葉も関係あるのか?
そう思って頭の中で『開花』を意識するが、変わらず木製の枠が出てきて、枠の中は真っ黒なままだ。
...さっぱりわからんな。
いや、落ち着け。
今わかってることをやろう。
俺は時間が戻ったと仮定して進めることにした。
次死んだらもう戻れないかもしれない。
今回だけのチャンスをもらって生き延びたと考える。
誰か知らんが感謝する。
また生きてルーンと話ができるからな。
だがそうなると、このあとルーンはまた連れて行かれることになる。
あの時は目を覚ましてから2時間後だったから、今回は起きてどれくらい経った?
たぶん30分か、遅くても45分くらいだろう。
今回のチャンスは絶対に失敗できない。天使か悪魔か神か、俺に与えてくれた最後のチャンスだと思え。
俺はあの時、部屋に飛び込んでからの場面を思い返す。
見張りの男にナイフを刺すまではよかった。しかしその後、ナイフを掴まれて抜けなくなるのは想定していなかった。
自分の甘さに嫌気がさすが、今度は確実に成功させようと考える。
要は、もう一つ武器があればいいのか。
最初に見張りの男を刺すことに変更は無い。
これで確実に1人減らせるからな。
であれば、刺した段階でその武器を捨て、次の武器を構えて看守に向かえばいい。
できれば同じように軽くて持ち運びやすいナイフがあればいいがな。
俺は武器をもう一つ手に入れて、見張りの男を刺したと同時にもう一つの武器で看守を襲う計画を考えた。
いや、待てよ。
あの看守の突きは速かった、あの時は振り向いたと同時に、目の前に槍があったから、避けられなかった。
しかも次はあいつに向かって行かなければならない。
ナイフを回収しないにしても、振り向いてこちらから移動する分、あいつも突きを放つ時間があるだろうと想定しておかないとな。
俺は慎重に思考を巡らす。
これがラストチャンスだと思わないとな。
一度あの場で戦っている俺は、大きなアドバンテージがある。
ルーンを助ける為に、出来る限りのことはやってやる。
槍の対策について考えた俺は、すぐに計画を立てる。
あと60分から90分ほどであいつらが来て、ルーンを連れて行くだろう。
よし、鉄板を探そう。
槍については回避することを考えなかった。
あのリーチで攻撃されたら、何度か回避したとしても、いずれ刺される。
回避した瞬間に踏み込めるだけの瞬発力は、俺には無かった。
ならば、受けるしかない。
胸に鉄板を仕込んでいれば、致命傷を避けられる。
俺はすぐにベッドの下からカギを取り出し、ルーンに話かける。
「ルーン、よく聞いてくれ。俺は今からこの牢を出てあるものを探しに行く」
「ナオ様、どうやって出るの?」
「ここにカギがある。これでこの扉は開く」
「...」
ルーンは信じられないようだった。
俺はルーンに見せるように、ゆっくりと開錠し、扉を押す。
抵抗無く開いた扉を見て、ルーンは驚いている。
「ルーン、よく聞いて」
俺は再度ルーンに告げる。
「今からルーンを助ける為に必要な物を探しに行く、だからルーンはここでじっとしてて欲しい」
「ナオ様、私も一緒に...」
「ルーン、俺は必ず戻る。約束する」
「...」
俺はルーンの目を見て言った。
ルーンは泣きそうな顔をしている。どこにも行かないで、一人にしないで、と顔に出ている。
「ルーン。ルーンを置いて一人で逃げたりしない。すぐに戻るからここで待ってて」
「うん...」
ルーンは涙声で返事をした。納得していないようだが、こればかりは我慢してもらわないといけない。
「ルーン、すぐ戻るよ」
俺はそう言って牢屋を出て、木製の扉に向かった。
歩きながら、あいつら3人を倒す場所についてふと考えたが、やはり不意を突けるあの状況でないと難しいと結論付けた。
木製の扉を開ける、カギはかかっていなかった。
そこは...奴隷が採鉱現場に行く前の、作業着やつるはしなどの道具が置いてある部屋だった。
扉を閉めた俺は、すぐに壁にあるランプを点け、部屋の中を探る。
ここに道具が揃っているなら、アレがあると思うが...。
俺はすぐにそれを見つけた。片手で持てるつるはし。ハンドル部分が短く、大きく振りかぶらなくても打ち付けることが出来る。
しかし金属でできた頭部、その先端は、何度も打ち付けてきたのだろうか、丸くなってしまっている。
俺はすぐに周りを見回し、部屋の隅にある研ぎ石を見つけた。大きな音を立てないように、ゆっくりとつるはしを研ぐ。
先端は、人体に刺さるぐらいに鋭くなった。
よし、これでまずあの見張りの首を狙う、そしてつるはしを手放し、倉庫にあるナイフに持ち替えて看守に襲い掛かる。
あとは、胸に仕込む板がいるな...。
俺は部屋を見回したが、欲しいものは見つからなかった。
しかし視界には、入ってきた扉とは別の扉が映る。
この先は...作業場か。
俺はいくつか置いてあったランタンを一つ手に持ち、その扉を開けて進んだ。
作業場は真っ暗だった。ランタンの灯りを頼りに、すぐに使えそうな物はないかと探す。
ふと、足にコツンと硬い感触があった。
ランタンを向けると、表面が若干ぼこぼこに歪んだ長方形の銅板があった。
何に使うものかわからんが、これは使えそうだ。しかし念のためもう一枚欲しいな...。
お? まだある。
周りを照らすと、いくつか落ちていた。
俺は使えそうな2枚を回収し、前の部屋に戻る。
あとは胸に仕込むだけだ、括り付けるヒモがいるな。
作業着のパーツを使うか。
作業着の一部やヒモを、つるはしの先端でなんとか切断し、2枚の銅板を胸に括り付けた。
落ちないようにきつく縛る。
そして、念のため、また少しつるはしを研いでおいた。
よし、ルーンの元に戻ろう!
俺はつるはしを持ってランプを消し、部屋を後にした。
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