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第一章 狼の少女
8.寿命
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家の近くまで着いた。短剣をどこに隠そうかと考える。
じいちゃんは高齢だし、川に水を汲みに行くのは俺の仕事だ。
だったら目と鼻の先にある、川までのどこかに隠すか。
家の裏手にある畑、そこから1分もかからずに川に着く。
途中にある樹の根元に隠しておこう。
ここらの樹の根は地面にむき出しになっており、根と根の間にスペースがある場合が多い。
手ごろな樹を探し、ちょうど陰になる根を見つける。
ここでいいか、ここならまず知ってるやつ以外は見つけられないだろうな。
そっと短剣を、根と根の間に置く。
よし、あとは訓練するときにここから持ち出し、また戻しておけばいい。
俺は家に戻った。
扉を開けて居間に入ると、ゼストがうたた寝をしていた。
テーブルには昼食が用意されている。
起こすのも悪いので、テーブルを挟んで向かいにある、俺がいつも座る椅子にツタを置く。
腹が減ったな...。
あれだけの戦闘をし、傷を負ったので、いつもよりも腹が減っている。
キッチンで手を洗っていると、ゼストが目を覚ましたのか、声をかけてくる。
「ナオ、戻ったのか。遅かったの」
「ああ悪いじいちゃん、でもツタはちゃんと取って来たぜ」
俺はそう言って椅子を指さす。
「これは立派なツタじゃの、それも3本も」
「ガザンの実も取ったんだけど、うっかり落とした」
「ガザンの実ならまだ充分にある、問題ないぞ」
ゼストはそう言った、実をうっかり落としたことについては、特に何も思っていなかった。
「すげー腹減った、これ食っていい?」
「ああ、好きなだけ食え」
テーブルにあった昼食は朝と同じメニュー出った。だが量が2倍くらいに増えている。
「いつもより遅かったからな、それだけ動いたと思って多めに用意しといたぞ」
「ありがとう、じいちゃん」
俺は朝と同じように、チーズにイノシシ肉を巻き付けて、もしゃもしゃと食う。
めちゃくちゃうまい、あれだけ激しく戦ったかせいか、いくらでも食えるなこれ。
そしてマグカップを口に運び、水をごくごくと飲む。
木の実も口に放り込んで、バリバリと食う。野菜もフォークを使って口にかき込み、もさもさと食う。
うーむ、うまい。
と、朝の2倍の量を平らげていると、ゼストの皿にある料理が半分くらい残っていることに気づく。
「じいちゃん、もう食べないのか? 具合でも悪いのか?」
「もう年だからな、そんなに食えんよ」
「そっか、まあ無理して食っても良くないしな。残すなら俺が食うよ」
「ああ、好きなだけ食え」
俺はゼストから皿を受け取り、またイノシシ肉をはむはむと食い、チーズと野菜を、もしゃもしゃと食った。
ゼストはそんな俺の様子をじっと見つめていたが、ふと呟くように語り出す。
「ナオ、儂ももう88歳じゃ、いつ何時召されるかわからん」
「でも確か人間の寿命は100歳くらいだろ?」
「ああ、しかし儂は若いころに軍の魔法部隊隊長として戦争に出てたからのう、体をだいぶ酷使しておった。その代償で寿命が縮まってもしょうがないんじゃ」
「寿命が縮まるって、何年くらい?」
「さあな、儂の見立てではもう既に召されていてもおかしくないんじゃがな」
そう言ってゼストは笑う。
「じいちゃん...」
俺は寂しそうな顔をしていたのだろう、ゼストが明るく声をかける。
「そんな顔するな、ナオ。治らぬ病や怪我で死ぬわけじゃない。天寿を全うして召されるのは素晴らしいことじゃよ」
「ああ、まあそうなのかもな」
じいちゃんはこんな話でも明るいな。
まあ暗いよりはいい。
俺は料理を全て平らげて、空になった皿を持って流しまで行く。
水を張った桶に皿を沈める。
これからは家事は俺がやらないとな。
そう意気込んで。声を出す。
「じいちゃん、流しの皿は洗っとくから置いといてくれよ」
「ああ、すまんな」
「一旦川で水浴びしてくるから、すぐ戻るよ」
「ああ」
俺はそう言って家を出た。
---
それから4か月ほど過ぎた。
その日から少しずつゼストは弱っていった。本人が言うとおり、寿命なのだろう。
ゼストから料理や畑の手入れ、山羊の世話を教わった。
そして、だんだんと寝たきりになるゼストの世話をする。
そして、イノシシと戦った日から8か月目になる頃、ゼストは天に召された。
弱っていく姿を毎日見ていた為か、悲しいとか寂しいという感情は湧かなかった。
まあ毎日見ていて、自分でも別れの覚悟が出来ていたんだろうな。
地球での年齢を含めると、俺はもう40年生きてるしな。
家の裏手に墓を作る。
この世界の埋葬って土葬でいいのか?火葬にしたほうがいいのか?
ううむ、わからん。
ゾンビを使役する、とかの魔法があるかもしれないし、炎で浄化するという理屈をつけて送り出すか。
俺は棺を入れる穴を掘り、その穴に、木の枝や木材を使って、簡易の棺のようなものを作った。
そこにゼストの遺体を入れ、じいちゃん愛用の道具をいくつか入れ、ガザンの油をなみなみと注いだ。
「ここまで育ててくれてありがとう、じいちゃん」
「実は俺、この世界の住人じゃないんだ。結局言い出せなかったけどな」
「いや、もしかしたらもう住人なのかもしれない」
「まあ俺はもう一人で大丈夫だから、安心して逝ってくれ、何も心配はいらないよ」
そう遺体に話かけて、火をくべる。
棺が激しく燃え上がる。
これでちゃんとした埋葬が出来たな。
俺はその炎をぼんやりと見ていた。
じいちゃんは高齢だし、川に水を汲みに行くのは俺の仕事だ。
だったら目と鼻の先にある、川までのどこかに隠すか。
家の裏手にある畑、そこから1分もかからずに川に着く。
途中にある樹の根元に隠しておこう。
ここらの樹の根は地面にむき出しになっており、根と根の間にスペースがある場合が多い。
手ごろな樹を探し、ちょうど陰になる根を見つける。
ここでいいか、ここならまず知ってるやつ以外は見つけられないだろうな。
そっと短剣を、根と根の間に置く。
よし、あとは訓練するときにここから持ち出し、また戻しておけばいい。
俺は家に戻った。
扉を開けて居間に入ると、ゼストがうたた寝をしていた。
テーブルには昼食が用意されている。
起こすのも悪いので、テーブルを挟んで向かいにある、俺がいつも座る椅子にツタを置く。
腹が減ったな...。
あれだけの戦闘をし、傷を負ったので、いつもよりも腹が減っている。
キッチンで手を洗っていると、ゼストが目を覚ましたのか、声をかけてくる。
「ナオ、戻ったのか。遅かったの」
「ああ悪いじいちゃん、でもツタはちゃんと取って来たぜ」
俺はそう言って椅子を指さす。
「これは立派なツタじゃの、それも3本も」
「ガザンの実も取ったんだけど、うっかり落とした」
「ガザンの実ならまだ充分にある、問題ないぞ」
ゼストはそう言った、実をうっかり落としたことについては、特に何も思っていなかった。
「すげー腹減った、これ食っていい?」
「ああ、好きなだけ食え」
テーブルにあった昼食は朝と同じメニュー出った。だが量が2倍くらいに増えている。
「いつもより遅かったからな、それだけ動いたと思って多めに用意しといたぞ」
「ありがとう、じいちゃん」
俺は朝と同じように、チーズにイノシシ肉を巻き付けて、もしゃもしゃと食う。
めちゃくちゃうまい、あれだけ激しく戦ったかせいか、いくらでも食えるなこれ。
そしてマグカップを口に運び、水をごくごくと飲む。
木の実も口に放り込んで、バリバリと食う。野菜もフォークを使って口にかき込み、もさもさと食う。
うーむ、うまい。
と、朝の2倍の量を平らげていると、ゼストの皿にある料理が半分くらい残っていることに気づく。
「じいちゃん、もう食べないのか? 具合でも悪いのか?」
「もう年だからな、そんなに食えんよ」
「そっか、まあ無理して食っても良くないしな。残すなら俺が食うよ」
「ああ、好きなだけ食え」
俺はゼストから皿を受け取り、またイノシシ肉をはむはむと食い、チーズと野菜を、もしゃもしゃと食った。
ゼストはそんな俺の様子をじっと見つめていたが、ふと呟くように語り出す。
「ナオ、儂ももう88歳じゃ、いつ何時召されるかわからん」
「でも確か人間の寿命は100歳くらいだろ?」
「ああ、しかし儂は若いころに軍の魔法部隊隊長として戦争に出てたからのう、体をだいぶ酷使しておった。その代償で寿命が縮まってもしょうがないんじゃ」
「寿命が縮まるって、何年くらい?」
「さあな、儂の見立てではもう既に召されていてもおかしくないんじゃがな」
そう言ってゼストは笑う。
「じいちゃん...」
俺は寂しそうな顔をしていたのだろう、ゼストが明るく声をかける。
「そんな顔するな、ナオ。治らぬ病や怪我で死ぬわけじゃない。天寿を全うして召されるのは素晴らしいことじゃよ」
「ああ、まあそうなのかもな」
じいちゃんはこんな話でも明るいな。
まあ暗いよりはいい。
俺は料理を全て平らげて、空になった皿を持って流しまで行く。
水を張った桶に皿を沈める。
これからは家事は俺がやらないとな。
そう意気込んで。声を出す。
「じいちゃん、流しの皿は洗っとくから置いといてくれよ」
「ああ、すまんな」
「一旦川で水浴びしてくるから、すぐ戻るよ」
「ああ」
俺はそう言って家を出た。
---
それから4か月ほど過ぎた。
その日から少しずつゼストは弱っていった。本人が言うとおり、寿命なのだろう。
ゼストから料理や畑の手入れ、山羊の世話を教わった。
そして、だんだんと寝たきりになるゼストの世話をする。
そして、イノシシと戦った日から8か月目になる頃、ゼストは天に召された。
弱っていく姿を毎日見ていた為か、悲しいとか寂しいという感情は湧かなかった。
まあ毎日見ていて、自分でも別れの覚悟が出来ていたんだろうな。
地球での年齢を含めると、俺はもう40年生きてるしな。
家の裏手に墓を作る。
この世界の埋葬って土葬でいいのか?火葬にしたほうがいいのか?
ううむ、わからん。
ゾンビを使役する、とかの魔法があるかもしれないし、炎で浄化するという理屈をつけて送り出すか。
俺は棺を入れる穴を掘り、その穴に、木の枝や木材を使って、簡易の棺のようなものを作った。
そこにゼストの遺体を入れ、じいちゃん愛用の道具をいくつか入れ、ガザンの油をなみなみと注いだ。
「ここまで育ててくれてありがとう、じいちゃん」
「実は俺、この世界の住人じゃないんだ。結局言い出せなかったけどな」
「いや、もしかしたらもう住人なのかもしれない」
「まあ俺はもう一人で大丈夫だから、安心して逝ってくれ、何も心配はいらないよ」
そう遺体に話かけて、火をくべる。
棺が激しく燃え上がる。
これでちゃんとした埋葬が出来たな。
俺はその炎をぼんやりと見ていた。
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