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第一章 狼の少女
2.異世界での日常
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ゼストの家は森の中にあった。隠居した老人らしく、一人で暮らしているようだ。
家の中はシンプルな構造で、玄関の扉をくぐると居間があり、奥の部屋がキッチン、右隣の部屋が寝室になっている。キッチンの左隣に浴室、右隣にトイレがあり、2階は無い。また、家の裏は畑になっており、野菜のようなものを植えている。畑のさらに奥には小さな川があり、ここから水を得ているようだ。
家のすぐ傍には柵で囲まれたスペースがあり、山羊が4頭いる。柵の中の一角に、屋根が設けられており、山羊4頭が入る十分なスペースに、水が入った桶がいくつか置かれており、干し草が積まれている。
ゼストは畑から野菜、山羊からミルクを採り、森に入っては植物の実を採取し、動物を狩って暮らしているようだった。
俺はゼストから「ナオフリート」と名付けられた。昔飼っていたオオカミの名前らしい。愛称のナオという名で呼ばれている。そして、ゼストに育ててもらい、7歳になった。
この7年間、ゼストから色々なことを学んだ。
まず、この世界は地球ではない。現代地球のような銃と科学ではなく、剣と魔法の世界、という言葉がわかりやすいだろう。
よってここは地球から何万光年も離れた別の惑星か、平行世界のどこか、ということになるのかもしれない。つまりは、地球でないこと以外は何もわかっていない。
だが言語については明らかに日本語を話している。よって、平行世界の可能性が高い。
俺がいた世界によく似た世界、ということなのだろう。
まったく、誰がなんの目的で俺をこの世界に飛ばしたのか。33歳だった俺が、新しい世界に転生して0歳からスタートか。
ゼストの家は、レイドーム帝国の北西に位置するバーンズフォレストという森の中にある。
レイドーム帝国の北には同盟国であるメイヴェリア王国がある。バーンズフォレストは、メイヴェリア王国からみて西南西にあたる。レイドーム帝国とメイヴェリア王国は、中央大陸の西部に位置する。
ゼストは元レイドーム帝国軍第二魔法部隊の隊長だったらしい。過去の戦争で部下を全て失い、自信を無くしたまま軍を退役し、貴重な魔法部隊を壊滅させてしまったことによる、帝国に対する後ろめたさから、一人で森に住むようになった。そして7年前の日、森の中で棄てられている俺を見つけた。バスケットがあった大きな木周辺には誰もいなかったらしい。
魔法とは、体内に漂う魔力を集中させ、形にして発動するものらしい。ただ、剣のような物理攻撃に対して、遠距離から一方的に攻撃できる魔法が有利かといえば、そうではない。
例えば、剣と魔法の才が並みの者に、1頭のオオカミが襲い掛かって来たとする。剣技でオオカミを撃退した場合の全身の疲労度と、魔法を使ってオオカミを撃退した場合の全身の疲労度は同じくらいらしい。よって、攻撃魔法を回避されたり、なんらかの方法で防がれた場合は、有効な攻撃にならないまま詠唱者の疲労が蓄積され、いずれ動けなくなる。体力だけでなく、魔力の消耗によっても肉体は疲労していくことから、魔力切れによる衰弱死ということもありえるらしい。
そしてこの世界には、目には見えないが、神々が存在するとされている。ごく稀に、神々から祝福を受け、特異な能力を得る者がいる。例えば、風の神の祝福を受けた者は、台風や竜巻などの災害級の能力が使え、剣の神の祝福を受けた者は、人間の動きを超越した剣技の能力を使える、など。
幼少期に特異な能力に目覚める場合が多いが、成人してからも目覚めるケースもある。
俺は剣も魔法も凡才で、今のところ神々の祝福も無い。むしろ魔法に至っては平凡ではなく、どちらかというと才能が無い方である。
しかし、現代地球では存在しなかった魔法に憧れ、ゼストに何度も教えてもらい、努力して魔法を使うことができるようになったが、ライターの火やコップ一杯の水程度のキャストが精一杯だった。これは当然、命のやりとりをする戦闘時には使えそうにないし、もちろんそれなりに疲労する。
この先も努力していけば、ある程度攻撃できるものが使えるようになるのかもしれないが、才能が無い方だとわかっていて、これ以上努力する気になれなかった。剣技の方は、まともに練習すらしていなかった。ゼストは元魔法部隊隊長なので、剣の指導には向いていなかった。
今日も、謎の鳥の鳴き声で目を覚ます。
ベッドにじいちゃんの気配が無いな、もう起きてんのか。
ゼストのベッドの横、床にひいた布団から上半身を起こし、両手を上げて伸びる。
布団から出て立ち上がり、居間に移動する。
居間ではゼストが椅子に座り、お茶を飲んでいた。テーブルに置かれたマグカップからは、湯気が立っている。
「おはよ、じいちゃん」
「おおナオ、おはよう。お前も飲むか?」
「ああ、先に顔洗ってくるから、その後で飲むよ」
ゼストに挨拶してから玄関を出て、家の裏手に向かって歩く。
もちろん家の中でも顔を洗えるが、裏の川に顔を洗いに行くことが毎朝の日課になっていた。
1分も経たない内に小さな川に着く。水面を見ると、ショートの黒髪に眠そうな目をした顔が映っている。
今回の人生ではまあまあの顔だな。
特にイケメンというほどではないが、まあ不細工という感じでもない。
両手を水中に押し込み、水をすくって顔を洗う。冷たい水が気持ちいい。
さて、戻ってお茶を飲んで朝飯食ったら、今日も森でガザンの実を取ってくるか。
ガザンの実はレモンに似た形状だが、レモンより二回りほど大きく、色も黄色ではなく赤色をしている。実から抽出できる油は、料理に使ったり、ランプに使ったり、怪我の治療に使ったりと、生活には欠かせない。
大きく伸びをして上を向く。
「今日も平和だなぁ」
快晴の空を見上げてそう呟いた。
家の中はシンプルな構造で、玄関の扉をくぐると居間があり、奥の部屋がキッチン、右隣の部屋が寝室になっている。キッチンの左隣に浴室、右隣にトイレがあり、2階は無い。また、家の裏は畑になっており、野菜のようなものを植えている。畑のさらに奥には小さな川があり、ここから水を得ているようだ。
家のすぐ傍には柵で囲まれたスペースがあり、山羊が4頭いる。柵の中の一角に、屋根が設けられており、山羊4頭が入る十分なスペースに、水が入った桶がいくつか置かれており、干し草が積まれている。
ゼストは畑から野菜、山羊からミルクを採り、森に入っては植物の実を採取し、動物を狩って暮らしているようだった。
俺はゼストから「ナオフリート」と名付けられた。昔飼っていたオオカミの名前らしい。愛称のナオという名で呼ばれている。そして、ゼストに育ててもらい、7歳になった。
この7年間、ゼストから色々なことを学んだ。
まず、この世界は地球ではない。現代地球のような銃と科学ではなく、剣と魔法の世界、という言葉がわかりやすいだろう。
よってここは地球から何万光年も離れた別の惑星か、平行世界のどこか、ということになるのかもしれない。つまりは、地球でないこと以外は何もわかっていない。
だが言語については明らかに日本語を話している。よって、平行世界の可能性が高い。
俺がいた世界によく似た世界、ということなのだろう。
まったく、誰がなんの目的で俺をこの世界に飛ばしたのか。33歳だった俺が、新しい世界に転生して0歳からスタートか。
ゼストの家は、レイドーム帝国の北西に位置するバーンズフォレストという森の中にある。
レイドーム帝国の北には同盟国であるメイヴェリア王国がある。バーンズフォレストは、メイヴェリア王国からみて西南西にあたる。レイドーム帝国とメイヴェリア王国は、中央大陸の西部に位置する。
ゼストは元レイドーム帝国軍第二魔法部隊の隊長だったらしい。過去の戦争で部下を全て失い、自信を無くしたまま軍を退役し、貴重な魔法部隊を壊滅させてしまったことによる、帝国に対する後ろめたさから、一人で森に住むようになった。そして7年前の日、森の中で棄てられている俺を見つけた。バスケットがあった大きな木周辺には誰もいなかったらしい。
魔法とは、体内に漂う魔力を集中させ、形にして発動するものらしい。ただ、剣のような物理攻撃に対して、遠距離から一方的に攻撃できる魔法が有利かといえば、そうではない。
例えば、剣と魔法の才が並みの者に、1頭のオオカミが襲い掛かって来たとする。剣技でオオカミを撃退した場合の全身の疲労度と、魔法を使ってオオカミを撃退した場合の全身の疲労度は同じくらいらしい。よって、攻撃魔法を回避されたり、なんらかの方法で防がれた場合は、有効な攻撃にならないまま詠唱者の疲労が蓄積され、いずれ動けなくなる。体力だけでなく、魔力の消耗によっても肉体は疲労していくことから、魔力切れによる衰弱死ということもありえるらしい。
そしてこの世界には、目には見えないが、神々が存在するとされている。ごく稀に、神々から祝福を受け、特異な能力を得る者がいる。例えば、風の神の祝福を受けた者は、台風や竜巻などの災害級の能力が使え、剣の神の祝福を受けた者は、人間の動きを超越した剣技の能力を使える、など。
幼少期に特異な能力に目覚める場合が多いが、成人してからも目覚めるケースもある。
俺は剣も魔法も凡才で、今のところ神々の祝福も無い。むしろ魔法に至っては平凡ではなく、どちらかというと才能が無い方である。
しかし、現代地球では存在しなかった魔法に憧れ、ゼストに何度も教えてもらい、努力して魔法を使うことができるようになったが、ライターの火やコップ一杯の水程度のキャストが精一杯だった。これは当然、命のやりとりをする戦闘時には使えそうにないし、もちろんそれなりに疲労する。
この先も努力していけば、ある程度攻撃できるものが使えるようになるのかもしれないが、才能が無い方だとわかっていて、これ以上努力する気になれなかった。剣技の方は、まともに練習すらしていなかった。ゼストは元魔法部隊隊長なので、剣の指導には向いていなかった。
今日も、謎の鳥の鳴き声で目を覚ます。
ベッドにじいちゃんの気配が無いな、もう起きてんのか。
ゼストのベッドの横、床にひいた布団から上半身を起こし、両手を上げて伸びる。
布団から出て立ち上がり、居間に移動する。
居間ではゼストが椅子に座り、お茶を飲んでいた。テーブルに置かれたマグカップからは、湯気が立っている。
「おはよ、じいちゃん」
「おおナオ、おはよう。お前も飲むか?」
「ああ、先に顔洗ってくるから、その後で飲むよ」
ゼストに挨拶してから玄関を出て、家の裏手に向かって歩く。
もちろん家の中でも顔を洗えるが、裏の川に顔を洗いに行くことが毎朝の日課になっていた。
1分も経たない内に小さな川に着く。水面を見ると、ショートの黒髪に眠そうな目をした顔が映っている。
今回の人生ではまあまあの顔だな。
特にイケメンというほどではないが、まあ不細工という感じでもない。
両手を水中に押し込み、水をすくって顔を洗う。冷たい水が気持ちいい。
さて、戻ってお茶を飲んで朝飯食ったら、今日も森でガザンの実を取ってくるか。
ガザンの実はレモンに似た形状だが、レモンより二回りほど大きく、色も黄色ではなく赤色をしている。実から抽出できる油は、料理に使ったり、ランプに使ったり、怪我の治療に使ったりと、生活には欠かせない。
大きく伸びをして上を向く。
「今日も平和だなぁ」
快晴の空を見上げてそう呟いた。
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