亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

文字の大きさ
上 下
54 / 55
第四章

亡くし屋の少女は未来を選ぶ。2

しおりを挟む
 古びた寺という二人暮らしにしては大きい家の中に、亞名は初めて友人を招き入れる。
「おじゃましまーす」
「どうぞ」
どことなく緊張していそうな亞名は、亡くし屋の時の威厳がまったくない。
冷房が効いた部屋に案内すると、亞名はお茶を取ってくると言って台所へと行ってしまった。
「へぇーこれが亞名ちゃんの部屋ねぇ」
夢依はキョロキョロ部屋を見渡している。そんな夢依にオレは話しかける。
「なぁ」
「なに?」
「もう、その、だいぶ出歩けるのか?」
「あはは、ここまで一人で来たし、そもそも寝てただけだから身体のどこかが痛いわけじゃなかったし、体力つけるだけだったよ」
「そっか」
もう一つ、会ってから疑問だったことを聞いてみる。
「あとさ」
「?」
「オレのこと、ちゃんと見えてるんだな」
「そうだね、余裕で見えてるし聞こえてるね」
「そうか」
なんだかホッとした。
「アタシも聞きたいんだけどさ」
「なんだ?」
「なんか、亞名ちゃん変わった?」
「なにが?」
「一緒に居すぎると変化に気づかないか……」
「どういう意味だよ」
「いや良い意味だよ。良い意味で変わったかなって」
「どう変わったんだ?」
「前より随分真顔じゃなくなってきたし、冗談も余裕で言ったりやったりするし」
「……そう言われてみれば、初めて亞名と出逢った時に比べれば変わったのかもしれないな」
「言われてみなくても結構違うけどね?」
「ま、それこそ変わらないものなんてない。んじゃないか?」
「ふふっ、そうかもね」

 なんて夢依と話していたら亞名がお盆でお茶を運んできた。なんか異様にカタカタカタと震えているのは気のせいか。
「手伝おうか?」
「大丈夫」
亞名はそれを一生懸命こぼさぬように机の上に置き、僅かだが震える手で夢依の前にコップを置く。
「粗茶ですが」
「ありがとー」
「なんか様子おかしくないか?」
「いたって普通」
「亞名の口から今まで普通なんて言葉聞いたことなかったぞ?」
「あはははっ、君達本当に仲がいいんだね、関心関心」
「夢依も笑ってないでどうにかしろよこれ」
「普通、わたしは普通……」
ブツブツブツと亞名は呟き続けている。
「ねぇ亞名ちゃん?」
「ふぁい」
声が裏返ってやがる。
「アタシ、普通じゃなきゃいけない。とは程遠いところにいたからさ、普通ってなにかわからないんだ。だから亞名ちゃんはいつもの亞名ちゃんで居てくれないとわからないよ」
「わかった」
亞名は表情をスンッと真顔に戻す。
「そうそう、それそれ、亞名ちゃんはそれが普通だよ」
「よかった」
「流石だな」
とオレは小さく呟いた。少なくとも壊れた亞名を戻すことはオレにはできないだろう。
「え? なに? もっと大きな声で褒めてくれて構わないんだよ?」
「前言撤回しよう」
「なんだよつれないな」
夢依の方は少々子供っぽさが出るようになったが、自由気ままなのは変わらない様子だった。

 夢依は亞名とこうして死神ではなく友達として話せるのが嬉しいらしい。亞名は質問攻めにあっていた。
「ねぇ、今も亡くし屋さんやってるの?」
「うん」
「そっか、部活とかはしてないの?」
「してない」
「亞名ちゃんは今高校生だっけ?」
「うん」
「他にやりたいこととかあったりする?」
「他?」
「うん、例えば部活とか、バイトとか」
「仕事があるから」
「じゃあ例えば、亡くし屋の仕事がなかったら~とかは?」
「それ、オレも気になるな」
「………………」
しばらく考え込む亞名。5分くらい経ったが答えが出る様子がない。
「そんなに難しく考えなくていいよ。大きくなくてもいいし。例えば、アタシはね今ケーキが食べたいかも、とか。そんな程度のこと、ある?」
「………………」
亞名は考え込んでいた顔をあげ一度夢依の方を見て何かを言おうとするがやめてしまった。
「あ、こいつに聞かれるの嫌なんでしょ」
「なっ」
「いいよアタシに内緒話みたいに言っても」
亞名は夢依に近づいて夢依の耳元を手で隠し何か言ったらしい。
「ほうほう、へぇー」
ニヤニヤとしながらこっちを見る。
「なんだよ」
「君さ、ちょっとしばらくの間、アタシが良いって呼びに行くまでどっか行っててくれないかな?」
「え、なんでだよ」
「君がいると出来ないことなんだよねー?」
夢依は終始ニヤニヤしている。
「でもアタシでいいの? 頑張ってはみるけどちゃんとは出来ないかもよ?」
亞名は首を縦に振る。
「オッケー、任せて。かわいい亞名ちゃんのためならなんだってやってあげる」
と言って亞名に軽くハグをしていた。
(こいつは本当にこんなキャラだったか?)
「ちょっといつまでいるつもり? 早くどっかいって」
シッシッと手の甲を見せて払い除ける動作をする夢依。
「はいはいわかったよ」
オレは自分の部屋にとりあえず避難した。

 どのくらいの時間か聞かずにこっちに来てしまったが、呼びに行くと言っていたしとりあえず数十分待つか……。と数十分待てど、夢依が呼びに来る気配はなかった。かといって勝手に行くと怒られそうだからそのままオレはうたた寝を始める。春先にこの部屋も冷暖房を完備したから真夏でも暑さにやられることもなく心地よく寝てしまった。
「っでっっ」
頭を蹴られるような感触で目覚めた。寝起きで何が起きたのか把握できていない。
「おはようカズトくんよく寝ていたわね」
「はっメ、夢依……。あれ今何時だ……?」
寝に入った頃は14時くらいだっただろうか、辺りはもうすっかり暗くなり始めていた。
「まぁいいや、早く起きて! 素人のアタシにしては完璧だわ!」
腕を掴まれ亞名の部屋まで連れて行かれる。

「なんだよ、寝起きなんだ……け……」
 一瞬で目が覚めた。
「どうよ」
そこに経っていたのは確かに亞名だったが、いつもサラサラとたなびかせていた長い黒髪は無く、顎下くらいまでで綺麗にバッサリと切ってあった。
亞名はというと、少しだけ頬を赤らめて恥ずかしげにしているが、いつも吸い込まれそうな深い青の瞳はなんだか夜空のようにキラキラしているように見えた。
「なになに? 良すぎて絶句しちゃった?」
「あぁ、とても似合ってるな亞名」
そう褒めるとなぜか亞名は夢依の後ろに隠れてしまった。
「あらあらあら、これから仕事なんでしょう? 大丈夫、しっかり可愛いから」
また亞名の顔色がさらに赤くなった。どうやら褒められるのに慣れていないためこんな態度になっているらしい。
「あ、今日仕事か」
「君もちゃんとしてよね。アタシの分までやってるんだろうし……手を抜いたら許さないから」
「ちゃんとやってるさ」
「アタシは今日はもう帰るね、お母さんが夕食作ってるみたいだし。ご飯はまた今度食べに来るから」
「あ、ありがとう、夢依さん!」
亞名の声は聞いたことがないくらい明るく跳ねていた。
「うん、またね! ばいばーい」
手を振り返す亞名はなんだかとても嬉しそうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

よくできた"妻"でして

真鳥カノ
ライト文芸
ある日突然、妻が亡くなった。 単身赴任先で妻の訃報を聞いた主人公は、帰り着いた我が家で、妻の重大な秘密と遭遇する。 久しぶりに我が家に戻った主人公を待ち受けていたものとは……!? ※こちらの作品はエブリスタにも掲載しております。

凪の始まり

Shigeru_Kimoto
ライト文芸
佐藤健太郎28歳。場末の風俗店の店長をしている。そんな俺の前に16年前の小学校6年生の時の担任だった満島先生が訪ねてやってきた。 俺はその前の5年生の暮れから学校に行っていなかった。不登校っていう括りだ。 先生は、今年で定年になる。 教師人生、唯一の心残りだという俺の不登校の1年を今の俺が登校することで、後悔が無くなるらしい。そして、もう一度、やり直そうと誘ってくれた。 当時の俺は、毎日、家に宿題を届けてくれていた先生の気持ちなど、考えてもいなかったのだと思う。 でも、あれから16年、俺は手を差し伸べてくれる人がいることが、どれほど、ありがたいかを知っている。 16年たった大人の俺は、そうしてやり直しの小学校6年生をすることになった。 こうして動き出した俺の人生は、新しい世界に飛び込んだことで、別の分かれ道を自ら作り出し、歩き出したのだと思う。 今にして思えば…… さあ、良かったら、俺の動き出した人生の話に付き合ってもらえないだろうか? 長編、1年間連載。

日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき

山いい奈
ライト文芸
★お知らせ 3月末の非公開は無しになりました。 お騒がせしてしまい、申し訳ありません。 引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。 小柳世都が切り盛りする大阪の日本酒バー「はなやぎ」。 世都はときおり、サービスでタロットカードでお客さまを占い、悩みを聞いたり、ほんの少し背中を押したりする。 恋愛体質のお客さま、未来の姑と巧く行かないお客さま、辞令が出て転職を悩むお客さま、などなど。 店員の坂道龍平、そしてご常連の高階さんに見守られ、世都は今日も奮闘する。 世都と龍平の関係は。 高階さんの思惑は。 そして家族とは。 優しく、暖かく、そして少し切ない物語。

サイケデリック!ブルース!オルタナティブ!パンク!!

大西啓太
ライト文芸
日常生活全般の中で自然と編み出された詩集。

スメルスケープ 〜幻想珈琲香〜

市瀬まち
ライト文芸
その喫茶店を運営するのは、匂いを失くした青年と透明人間。 コーヒーと香りにまつわる現代ファンタジー。    嗅覚を失った青年ミツ。店主代理として祖父の喫茶店〈喫珈琲カドー〉に立つ彼の前に、香りだけでコーヒーを淹れることのできる透明人間の少年ハナオが現れる。どこか奇妙な共同運営をはじめた二人。ハナオに対して苛立ちを隠せないミツだったが、ある出来事をきっかけに、コーヒーについて教えを請う。一方、ハナオも秘密を抱えていたーー。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...