亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第四章

死神の彼女は行く先を決める。4

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「なんでって、別にお前、自分で選んで死にたいわけじゃないだろ」
「………………」
「お前はただ母親に自分の人生を押し付けたくなくて、これからも生きることでかかる迷惑をかけたくなくて、いや、そうやって生きている生きていく事実が嫌という口実、つまりって言ってるだけだろ」
「っ君に、何がわかるの?」
「亡くし屋の手伝いをするようになって、自分で死を選んだ人らをオレは沢山見てきた。もちろん現状から逃げたくて死ぬことを選んだ人もいっぱいいた」
「それじゃあアタシの何が悪いの? その人達と一緒でしょ」
「一緒じゃない」
「なんで?」
「その人達はみんな自分で死を選んで死んでいった。メルはまだなにも自分で選んでないだろ?」
「………………」
「お前はまだ逃げることすら選んでないよ」
「は? 何言って」
「メル、いや駿河夢依は仮死状態なんかじゃない」
「え……」
「ただ寝てるだけなんだ。事故で重症になって寝たきり、なんてことはない。それはメルの勘違いだ」
「そんな、わけ」
「これは君の、駿河夢依のただの夢にすぎない。長い間ずっと迷子になっている夢」
「……はは、寝てるだけ? 迷子の夢? 何言ってるの? そんなんでアタシが説得されるわけ──」
「いい加減起きろよメル!」
出した大声がビリビリと空気を震わせた。それでもメルはポツリポツリと続ける。
「……今さら、何言っても無駄だよ」

「だからお前は──」
「なんで? なんで今なんだよ! 十年だよ? もういいじゃん、放っておいてよ! アタシは十年の間、大変な思いをして生きていくことが怖くて逃げてたの! そういうことでいいじゃん。逃げ続けた先がこういう結末。ってことでいいじゃん! なんの根拠があってアタシがずっとずっと迷子だったって! そんなの、何言っても今までの十年が帰ってくるわけでもない。気休めにもならない。お母さんとお父さんはもう仲良くなんてない。世の中も全部、全部変わってる。お母さんだけはずっと側にいてくれたけど、その時間も帰ってこない! お母さんの人生をアタシが奪った。それなのに生きていいはずがない。生きることを望んじゃいけない。そう思って何が悪いの? お母さんがやっとアタシを亡くしてくれそうなのに、なんで……」
 メルはもうしゃがみ込んで泣いていた。小さな小さな迷子になってしまった子供のように。
「院長が、お母さんに嘘をついて説得したかもしれない……」
「っ! そんな、かもしれないじゃ……」
「本当だよ」
「亞名……」
「駿河さんは、あなたのお母さんはずっと信じてたって。どこにも異常がなくて寝ているだけっていう前の院長の話を」
亞名はメルのお母さんにどこまで何を話したんだろうか。メルのお母さんはその場で、亞名の声しか聞こえない状態で静かに涙を流していた。
「メルさん……駿河夢依さん、あなたはどうしたいですか?」
「え……?」
「亡くし屋の依頼条件は本人の意志が最優先されます。あなたはどうしたいですか?」
「アタシは……」
「アタシは……お母さんが許してくれるのなら、これからも迷惑をかけてもいいなら、生きたい。生き直したい」
亞名が駿河さんにそれを伝えると、駿河さんは
「ワタシがあなたのことを恨んでいるわけないでしょう夢依。だってこれはワタシがしたくて、ワタシが勝手にずっと側にいただけなのだから。あなたが望んでくれるのならお母さんはいつだってなんだって力になるわ」
「ふぇ……」
メルは顔をグシャグシャにして泣いていた。

 病室にはほどなくして朝日が差し込む。しばらく泣いていたメルは立ち上がると、涙を拭きながらオレに向かって言った。
「君に会えなかったらアタシはずっと迷子のままだった。それが魔女の悪戯だとしても、策略だとしても、なんでもいい。君と亡くし屋さん。いや、カズトくんと亞名ちゃんに出逢えたこと、本当に良かったって思うよ」
「あぁ」
「うん」
オレと亞名の返事は同時に重なる。
「それで、もしよかったらだけど、亞名ちゃん」
「?」
「アタシがその、駿河夢依に戻っても、友達……で、いてくれる?」
「え、オレは?」
「いやだって、死神って普通の人には見えないから」
「そう、だったか」
二人の予想以上に落ち込んでいたのか、メルと亞名は笑っていた。
「わたしは、いいよ」
「本当? 嬉しい」
「まぁオレも心のどこかで思ってくれれば、それでいいよ」
「たまにはね」
「たまになのか……」
「じゃあ、本当にありがとう。この気持ちは忘れないよ」
「あぁ」
「またね」
「うん」
メルは笑顔で朝日の向こう側へと透けるように消えていった。
「オレ達も帰るか、邪魔しちゃ悪いし」
お母さんの方を見て思ったことを亞名に言う。
「うん」
「ンーーーニャ」
伸びをしてから声を出したしろ。
「しろも帰ろう」
「ニャ」
そこにはもう魔女の影はなかった。
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