亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第四章

死神の彼女は行く先を決める。1

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 オレは家に帰ってもしばらく考え続けていた。彼女の秘密を知って、どうしたらそれを上手く解消させられるのか。そもそもオレが何かを口出してはいけないんじゃないのか。でもあの状況を見るになにか改善することはあるんじゃないのか。とまたひたすらぐるぐると、亞名が話しかけてきていることも知らずに悩み、挙げ句の果てに
「わっかんねーー!!」
と大声を出してしまう。
「ぴゃっ」
と変な声が聞こえてやっと亞名に気づく。
「あ、悪い」
「ううん、……考え事?」
「あー……うん」
ふと疑問に思っていたことを口走る。
「亞名は、ちゃんと生きてるんだよな?」
「? そうだけど」
「生きるのは、辛いか?」
なにを聞いているのか自分でもよくわからなかった。が亞名に聞いてみたくなったんだ。
「死はそこにあるだけって亞名は言ったが、じゃあ生きることに対して亞名はどう思ってるんだ?」
亞名は少し黙って考えてくれていたようだった。それでわからなくなったのか、一度こっちに振ってきた。
「かずとは?」
「オレは、生きていた頃は生きるのに精一杯でそんなこと考えたこともなかったけど。けど今思うと、色々あった。とは思う」
取り戻せた記憶を少し辿ってみる。
「オレも愛歌もさ、亞名に近いというか。親が子供の頃にはいなくなってたから、必死に死なないようにって思ってたかも」
「うん」
「でも実は、死なないように生きる。のと、ちゃんと生きる。ってのは似てるようで違うんじゃないかって最近は思ってる」
「うん」
「前者は、ただ人間の生存本能みたいなのが働いてる感じで、お腹が減ったらなにかを食べたくなるように自分の意志とは関係なくただ生き物としての生きる。だ」
「後者は?」
「後者は、自分で選んで生きるってことかなって」
「選んで?」
「こういうのは贅沢だ。とか紛争地域はどうなんだ。とか言う奴もたぶんいるが、自分で好みの洋服や食べ物を選んだり、生き方を選んで生きていくのが後者。それでオレは生きている間はずっと前者で生きてきた。って思い込んでた」
「違うの?」
「実際、親がいなくなって必死だったのは事実だけど、妹を選んで、自分で働くことを選んで。半強制的だった状況とはいえ、それは自分で選んだ人生だった」
「………………」
「だから愛歌がオレに心配かけたくなくて自殺を選んだのも、ちゃんと生きたから選べたんだって。ちゃんと生きなきゃ選べもしないんだって思うようになった」

「わたしは、選んでると思う?」
 不安げに亞名は聞いた。
「わたしは、死についてはずっと見てきたから。でもそれはちゃんと生きてきた人の選んだ死で。だからそれは悪いことではないと思ってる。死はそこにあるだけ。そう思えたのはその人がちゃんと選んだから? じゃあそれ以外の死は、生きることは、……わからない」
亞名のその言葉を聞いて素直に出た次の言葉。
「だったら、これから選べばいいんじゃないかな」
自分で言って、自分で納得した。
(あぁそうか、彼女はまだ自分では選んでなかったんだ。彼女もまた選択を母親に押し付けようとしていたんだ)
「わからなくても選べるの?」
亞名は聞いた。
「亞名はすでに選んでるよ。オレをここに住まわせたのも亞名だろ?」
「それは……」
「魔女に言われたからだとして、嫌だって答えることもできなくはなかっただろ。亡くし屋だって今まで続けてきたのは自分でそう選んでるからじゃないのか?」
「そうなの?」
「まぁ、オレも死んでから色々あって考えてようやくわかったことだし、さっきも言ったけど生きていた頃はなんにも考えてなかったさ」
「死を選ぶのと、生きることを諦める。のは違うって死神にならなきゃ、亡くし屋の仕事を手伝わなきゃ、わからなかったことかもな」
「?」
「いや、おかげでスッキリしたよ」
「わたしはなにもしてない」
「話すだけでも変わることはあるの」
「そうなんだ、じゃあよかった。あ……」
タイミングよく亞名の携帯はメッセージを受け取った。
「依頼?」
「えっと……あの病院から?」
「じゃあまた行くのか?」
「うん。明日。名前は駿河──」
「え?」
「駿河夢依」
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