亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第四章

彼女の秘密は終わりを迎える。2

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 亞名達は思っていたよりも数十分早く帰ってきた。メルの仕事が早いのだろう。余計な感傷にもきっと浸らない。オレよりずっと長い期間そうしてきたのだから。
そしてオレは仕事へ行く前に約束された、話をするためにメルと二人きりになった。亞名はその間夕飯の準備をしてくるらしい。
「話ってなんだよ」
「今日の亡くし屋の仕事場のことでちょっと」
「仕事場?」
「そ。たぶん新しく亡くし屋と契約した病院でしょう。それで今日が初日らしいのだけれど、君にちょっと頼みがあるんだよ」
「なんだよ頼みって……」
「あの病院から依頼が来たときは、アタシが君の代わりに死神として行きたいの」
「それって……」
事情を知らなければわからなかったことだが、明らかにオレからあの病院を遠ざけているのだろう。それだけ彼女にとっては知られたくない秘密だったんだ。
「もちろんアタシは報酬なんていらないから。こちらの頼みなんだし」
「なにか、事情があるのか……?」
少し踏み込もうとしてみる。
「……あったとしても君には関係のない話だよ」
早速弾かれた。
「……そうか」
「じゃあそういうことでよろしくね」
「わかったよ」
オレがここで断る理由はなかった。変にいちゃもんつけてもメルに怪しまれるだけだ。
「おわった?」
ひょっこりと扉から顔を出す亞名。
「うん、ありがとう亡くし屋さん。じゃあアタシはこれで。またね」
「うん」
メルが先に手を振り、亞名も手を振っていた。それを確認したメルはその場からいなくなった。
「随分と仲がいいようで」
「? 彼女は、かずとより前からいるから」
「そうか」
「ご飯、よかったのかな?」
「帰ったんだからいいんじゃないのか」
「そう」
「じゃ、飯にしようか」
「うん」

 夕食は買ってきた出来合いのおかずにプラスで亞名がお味噌汁やご飯、卵焼きなどを作るといった感じで安定こそしているが、オレが何も作らないというのは申し訳なく思ってはいる。食べながら亞名に聞く
「なぁやっぱりオレも手伝おうか……?」
「なにを?」
「飯……」
「かずとこの前火事起こしそうだった」
「…………ですよね」
そう、申し訳なく思って少し前に料理に挑戦してみたが、危うく寺を燃やしかけた。愛歌にも家で火は使うなと言われていた記憶があるが、これほどまでとは思わなかった。
「……他のが食べたい?」
「いや、オレはこれで充分なんだが、いつも亞名だけが用意する感じだと負担になってるかなって」
「家、燃やされる方が大変」
「……はい。すみません」
基本的にオレが話しかける形だが、最近は亞名もよく喋るようになってきた気がする。それはなんだかとても良い事のように思える。
ふいに机に置かれた亞名の携帯が鳴った。
「………………」
亞名はそれを手に取り確認する。
「依頼か?」
「今日のところ。お礼、と次についての相談」
「そうか」
(そういえばメルは亞名には言ったんだろうか?)
「なぁメルに言われたんだが、今日の病院の仕事のときはオレの代わりにメルが行くらしい」
「そう」
「メルから聞いてたか?」
「なにも」
(メルはオレが勝手に伝えると思っていたのか)
「まぁなんかそういうことらしい。よろしくな」
「うん、わかった」
それから少しして二人とも食べ終わり、片付けをしてその日のやる事は終了する。その後は各自寝る時間までは自由にしている。亞名は学校の課題をやったりしているが、オレは特に課題なんてなく──
(メルのこと、どうするべきなんだろうな)
メル、そして駿河夢依のことが頭によぎる。
(課題、か……)
これはオレに対する課題なんだろうか。魔女は面白さのためだけにあそこに連れて行ったとはいえ、知ってしまったものを知らなかったことにはできない。少なくともオレはできないんだ。
(やっぱり、直接話すしかないよな)
オレはしばらくどうするのか、どうすべきなのかを考えた。そして明日、もう一度あの病院に行こうと決意する。
(明日、来なければ明後日、また来なければその次の日。そうしていればいつかは会えるだろう。そしてちゃんと事情を聞こう)
そう思ったのだった。
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