45 / 55
第四章
彼女の秘密は終わりを迎える。2
しおりを挟む
亞名達は思っていたよりも数十分早く帰ってきた。メルの仕事が早いのだろう。余計な感傷にもきっと浸らない。オレよりずっと長い期間そうしてきたのだから。
そしてオレは仕事へ行く前に約束された、話をするためにメルと二人きりになった。亞名はその間夕飯の準備をしてくるらしい。
「話ってなんだよ」
「今日の亡くし屋の仕事場のことでちょっと」
「仕事場?」
「そ。たぶん新しく亡くし屋と契約した病院でしょう。それで今日が初日らしいのだけれど、君にちょっと頼みがあるんだよ」
「なんだよ頼みって……」
「あの病院から依頼が来たときは、アタシが君の代わりに死神として行きたいの」
「それって……」
事情を知らなければわからなかったことだが、明らかにオレからあの病院を遠ざけているのだろう。それだけ彼女にとっては知られたくない秘密だったんだ。
「もちろんアタシは報酬なんていらないから。こちらの頼みなんだし」
「なにか、事情があるのか……?」
少し踏み込もうとしてみる。
「……あったとしても君には関係のない話だよ」
早速弾かれた。
「……そうか」
「じゃあそういうことでよろしくね」
「わかったよ」
オレがここで断る理由はなかった。変にいちゃもんつけてもメルに怪しまれるだけだ。
「おわった?」
ひょっこりと扉から顔を出す亞名。
「うん、ありがとう亡くし屋さん。じゃあアタシはこれで。またね」
「うん」
メルが先に手を振り、亞名も手を振っていた。それを確認したメルはその場からいなくなった。
「随分と仲がいいようで」
「? 彼女は、かずとより前からいるから」
「そうか」
「ご飯、よかったのかな?」
「帰ったんだからいいんじゃないのか」
「そう」
「じゃ、飯にしようか」
「うん」
夕食は買ってきた出来合いのおかずにプラスで亞名がお味噌汁やご飯、卵焼きなどを作るといった感じで安定こそしているが、オレが何も作らないというのは申し訳なく思ってはいる。食べながら亞名に聞く
「なぁやっぱりオレも手伝おうか……?」
「なにを?」
「飯……」
「かずとこの前火事起こしそうだった」
「…………ですよね」
そう、申し訳なく思って少し前に料理に挑戦してみたが、危うく寺を燃やしかけた。愛歌にも家で火は使うなと言われていた記憶があるが、これほどまでとは思わなかった。
「……他のが食べたい?」
「いや、オレはこれで充分なんだが、いつも亞名だけが用意する感じだと負担になってるかなって」
「家、燃やされる方が大変」
「……はい。すみません」
基本的にオレが話しかける形だが、最近は亞名もよく喋るようになってきた気がする。それはなんだかとても良い事のように思える。
ふいに机に置かれた亞名の携帯が鳴った。
「………………」
亞名はそれを手に取り確認する。
「依頼か?」
「今日のところ。お礼、と次についての相談」
「そうか」
(そういえばメルは亞名には言ったんだろうか?)
「なぁメルに言われたんだが、今日の病院の仕事のときはオレの代わりにメルが行くらしい」
「そう」
「メルから聞いてたか?」
「なにも」
(メルはオレが勝手に伝えると思っていたのか)
「まぁなんかそういうことらしい。よろしくな」
「うん、わかった」
それから少しして二人とも食べ終わり、片付けをしてその日のやる事は終了する。その後は各自寝る時間までは自由にしている。亞名は学校の課題をやったりしているが、オレは特に課題なんてなく──
(メルのこと、どうするべきなんだろうな)
メル、そして駿河夢依のことが頭によぎる。
(課題、か……)
これはオレに対する課題なんだろうか。魔女は面白さのためだけにあそこに連れて行ったとはいえ、知ってしまったものを知らなかったことにはできない。少なくともオレはできないんだ。
(やっぱり、直接話すしかないよな)
オレはしばらくどうするのか、どうすべきなのかを考えた。そして明日、もう一度あの病院に行こうと決意する。
(明日、来なければ明後日、また来なければその次の日。そうしていればいつかは会えるだろう。そしてちゃんと事情を聞こう)
そう思ったのだった。
そしてオレは仕事へ行く前に約束された、話をするためにメルと二人きりになった。亞名はその間夕飯の準備をしてくるらしい。
「話ってなんだよ」
「今日の亡くし屋の仕事場のことでちょっと」
「仕事場?」
「そ。たぶん新しく亡くし屋と契約した病院でしょう。それで今日が初日らしいのだけれど、君にちょっと頼みがあるんだよ」
「なんだよ頼みって……」
「あの病院から依頼が来たときは、アタシが君の代わりに死神として行きたいの」
「それって……」
事情を知らなければわからなかったことだが、明らかにオレからあの病院を遠ざけているのだろう。それだけ彼女にとっては知られたくない秘密だったんだ。
「もちろんアタシは報酬なんていらないから。こちらの頼みなんだし」
「なにか、事情があるのか……?」
少し踏み込もうとしてみる。
「……あったとしても君には関係のない話だよ」
早速弾かれた。
「……そうか」
「じゃあそういうことでよろしくね」
「わかったよ」
オレがここで断る理由はなかった。変にいちゃもんつけてもメルに怪しまれるだけだ。
「おわった?」
ひょっこりと扉から顔を出す亞名。
「うん、ありがとう亡くし屋さん。じゃあアタシはこれで。またね」
「うん」
メルが先に手を振り、亞名も手を振っていた。それを確認したメルはその場からいなくなった。
「随分と仲がいいようで」
「? 彼女は、かずとより前からいるから」
「そうか」
「ご飯、よかったのかな?」
「帰ったんだからいいんじゃないのか」
「そう」
「じゃ、飯にしようか」
「うん」
夕食は買ってきた出来合いのおかずにプラスで亞名がお味噌汁やご飯、卵焼きなどを作るといった感じで安定こそしているが、オレが何も作らないというのは申し訳なく思ってはいる。食べながら亞名に聞く
「なぁやっぱりオレも手伝おうか……?」
「なにを?」
「飯……」
「かずとこの前火事起こしそうだった」
「…………ですよね」
そう、申し訳なく思って少し前に料理に挑戦してみたが、危うく寺を燃やしかけた。愛歌にも家で火は使うなと言われていた記憶があるが、これほどまでとは思わなかった。
「……他のが食べたい?」
「いや、オレはこれで充分なんだが、いつも亞名だけが用意する感じだと負担になってるかなって」
「家、燃やされる方が大変」
「……はい。すみません」
基本的にオレが話しかける形だが、最近は亞名もよく喋るようになってきた気がする。それはなんだかとても良い事のように思える。
ふいに机に置かれた亞名の携帯が鳴った。
「………………」
亞名はそれを手に取り確認する。
「依頼か?」
「今日のところ。お礼、と次についての相談」
「そうか」
(そういえばメルは亞名には言ったんだろうか?)
「なぁメルに言われたんだが、今日の病院の仕事のときはオレの代わりにメルが行くらしい」
「そう」
「メルから聞いてたか?」
「なにも」
(メルはオレが勝手に伝えると思っていたのか)
「まぁなんかそういうことらしい。よろしくな」
「うん、わかった」
それから少しして二人とも食べ終わり、片付けをしてその日のやる事は終了する。その後は各自寝る時間までは自由にしている。亞名は学校の課題をやったりしているが、オレは特に課題なんてなく──
(メルのこと、どうするべきなんだろうな)
メル、そして駿河夢依のことが頭によぎる。
(課題、か……)
これはオレに対する課題なんだろうか。魔女は面白さのためだけにあそこに連れて行ったとはいえ、知ってしまったものを知らなかったことにはできない。少なくともオレはできないんだ。
(やっぱり、直接話すしかないよな)
オレはしばらくどうするのか、どうすべきなのかを考えた。そして明日、もう一度あの病院に行こうと決意する。
(明日、来なければ明後日、また来なければその次の日。そうしていればいつかは会えるだろう。そしてちゃんと事情を聞こう)
そう思ったのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
凪の始まり
Shigeru_Kimoto
ライト文芸
佐藤健太郎28歳。場末の風俗店の店長をしている。そんな俺の前に16年前の小学校6年生の時の担任だった満島先生が訪ねてやってきた。
俺はその前の5年生の暮れから学校に行っていなかった。不登校っていう括りだ。
先生は、今年で定年になる。
教師人生、唯一の心残りだという俺の不登校の1年を今の俺が登校することで、後悔が無くなるらしい。そして、もう一度、やり直そうと誘ってくれた。
当時の俺は、毎日、家に宿題を届けてくれていた先生の気持ちなど、考えてもいなかったのだと思う。
でも、あれから16年、俺は手を差し伸べてくれる人がいることが、どれほど、ありがたいかを知っている。
16年たった大人の俺は、そうしてやり直しの小学校6年生をすることになった。
こうして動き出した俺の人生は、新しい世界に飛び込んだことで、別の分かれ道を自ら作り出し、歩き出したのだと思う。
今にして思えば……
さあ、良かったら、俺の動き出した人生の話に付き合ってもらえないだろうか?
長編、1年間連載。
日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき
山いい奈
ライト文芸
★お知らせ
3月末の非公開は無しになりました。
お騒がせしてしまい、申し訳ありません。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
小柳世都が切り盛りする大阪の日本酒バー「はなやぎ」。
世都はときおり、サービスでタロットカードでお客さまを占い、悩みを聞いたり、ほんの少し背中を押したりする。
恋愛体質のお客さま、未来の姑と巧く行かないお客さま、辞令が出て転職を悩むお客さま、などなど。
店員の坂道龍平、そしてご常連の高階さんに見守られ、世都は今日も奮闘する。
世都と龍平の関係は。
高階さんの思惑は。
そして家族とは。
優しく、暖かく、そして少し切ない物語。
スメルスケープ 〜幻想珈琲香〜
市瀬まち
ライト文芸
その喫茶店を運営するのは、匂いを失くした青年と透明人間。
コーヒーと香りにまつわる現代ファンタジー。
嗅覚を失った青年ミツ。店主代理として祖父の喫茶店〈喫珈琲カドー〉に立つ彼の前に、香りだけでコーヒーを淹れることのできる透明人間の少年ハナオが現れる。どこか奇妙な共同運営をはじめた二人。ハナオに対して苛立ちを隠せないミツだったが、ある出来事をきっかけに、コーヒーについて教えを請う。一方、ハナオも秘密を抱えていたーー。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる