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第四章
死神の青年は秘密を知る。1
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亞名の冬休みも終わり、日中一人でいることが多くなった。というより冬休み前に戻っただけだが、寒いからより一層オレの引き籠もり化が加速しているようだった。
よく亞名に
「かずとは(仕事がない日は)なにしてるの?」
と聞かれるが、特に何もしてないから答えに困っている。いや別に何かしなくちゃいけないってこともないとは思うが、あれ以来メルは訪ねて来ないし、忙しくしているんだろうなと思うと肩身が狭いというかなんていうか。
今日もこの暖房の効いた部屋から出られる気がしない。しろなんて隣で腹を上にして寝てやがる。何もない時はただの猫らしい。手を伸ばしてその無防備な腹をくしゃくしゃと撫でてやる。すると驚いたように目を開けて、後ろ足の爪を出しカッカッカッと蹴ってきた。悪かった。がそんなに蹴らなくてもいいじゃないか、ミミズ腫れになってしまっただろ。とそんな時間を過ごしていた。
「あら暇そうじゃない」
しろは撫でられた後には体勢を変えていて、大人しく座ったと思った矢先だった。
「…………急に喋るの止めてもらえますかねしろさん」
「今日はうわっとかないのかしら?」
「いい加減慣れた」
「そう、つまんないわね」
喋り方が違うためわかりやすい。こいつは魔女だった。
「私も暇なのよ。退屈すぎて退屈すぎて世界を一つ滅ぼす勢いなのよ」
「そんな怖い冗談やめてください」
「あながち冗談でもなかったり? まぁそんなのはどうでもいいんだけど」
魔女の気まぐれで滅ぼされる世界を想像するだけで、オレはとてつもなく小さな存在なんだと解らされるようだった。
「滅ぼさない代わりに、貴方、面白い話しなさいよ」
なんて理不尽。
「オレなんかに世界の命運を預けるなよ」
「それもそうね」
あっさり引かれたが、なんか妙に悔しいのは気のせいか。
「でも面白い話は聞きたいわ」
「こんな暇そうにしてる奴の話題が面白いとは思えないけど……。オレが魔女さんに聞きたいことはいくつかありますね」
「聞きたいこと?」
「亞名を選んだ理由とか、オレを選んだ理由とか。仕組んだ罠とか諸々と」
「そんなこと?」
魔女にとっては「そんなこと」なんだろう。人間の人生なんて。
「まぁ面白そうだったから。以外そんなに大した理由なんてないけれど……」
想像通りの回答を受ける。
「まぁあの子に関しては、素質があったからね」
「亞名?」
「貴方もわかってるでしょ? 亡くし屋はね、私情を入れられては困るの。その分あの子にはその心配が無さそうだったから頼んだだけ」
「……亡くし屋ってのは、なんなんだ?」
「本当はそんな重要性を見出してはいないけれど。でも私はこの世界で、特にこの国もだけれど自由に死を選べないのは悲しいことだと思ったわ」
「悲しい?」
「だって自分で決められないことがあるなんて嫌じゃない。私は束縛が大嫌いなの」
「はぁ」
「終わることは確実に訪れる免れようがない事実なのに、それをタブーとしたり悪いことのように取り扱ったり。それがなんか気に食わなかっただけ」
「……だから一応最低限のルールは設けて亡くし屋という仕事を作ったのか」
「そういうこと!」
なんにせよ魔女の気分次第って所があるのはあまり良いとは思えないが……
「確かにオレは死神になって、亞名と出逢って、初めてちゃんと考えることをしたが、一理あるとは思うよ」
「………………」
「? どうかしたか?」
「……飽きた」
「え」
「もっと面白い話をしましょう! この話飽きたわ」
とんでもない気まぐれ屋だ。
「だからオレに話せる話なんて──」
「じゃあ作ればいいのよ! 今からっ」
最後まで聞かずに被せるようにして魔女は言った。
「はぁ? どうやって……」
「にゃはは、それは今から教えてあげるわ」
見たこともない相手の口元が最高に悪くニヤけているのが想像できる。なにやら嫌な予感がした。
よく亞名に
「かずとは(仕事がない日は)なにしてるの?」
と聞かれるが、特に何もしてないから答えに困っている。いや別に何かしなくちゃいけないってこともないとは思うが、あれ以来メルは訪ねて来ないし、忙しくしているんだろうなと思うと肩身が狭いというかなんていうか。
今日もこの暖房の効いた部屋から出られる気がしない。しろなんて隣で腹を上にして寝てやがる。何もない時はただの猫らしい。手を伸ばしてその無防備な腹をくしゃくしゃと撫でてやる。すると驚いたように目を開けて、後ろ足の爪を出しカッカッカッと蹴ってきた。悪かった。がそんなに蹴らなくてもいいじゃないか、ミミズ腫れになってしまっただろ。とそんな時間を過ごしていた。
「あら暇そうじゃない」
しろは撫でられた後には体勢を変えていて、大人しく座ったと思った矢先だった。
「…………急に喋るの止めてもらえますかねしろさん」
「今日はうわっとかないのかしら?」
「いい加減慣れた」
「そう、つまんないわね」
喋り方が違うためわかりやすい。こいつは魔女だった。
「私も暇なのよ。退屈すぎて退屈すぎて世界を一つ滅ぼす勢いなのよ」
「そんな怖い冗談やめてください」
「あながち冗談でもなかったり? まぁそんなのはどうでもいいんだけど」
魔女の気まぐれで滅ぼされる世界を想像するだけで、オレはとてつもなく小さな存在なんだと解らされるようだった。
「滅ぼさない代わりに、貴方、面白い話しなさいよ」
なんて理不尽。
「オレなんかに世界の命運を預けるなよ」
「それもそうね」
あっさり引かれたが、なんか妙に悔しいのは気のせいか。
「でも面白い話は聞きたいわ」
「こんな暇そうにしてる奴の話題が面白いとは思えないけど……。オレが魔女さんに聞きたいことはいくつかありますね」
「聞きたいこと?」
「亞名を選んだ理由とか、オレを選んだ理由とか。仕組んだ罠とか諸々と」
「そんなこと?」
魔女にとっては「そんなこと」なんだろう。人間の人生なんて。
「まぁ面白そうだったから。以外そんなに大した理由なんてないけれど……」
想像通りの回答を受ける。
「まぁあの子に関しては、素質があったからね」
「亞名?」
「貴方もわかってるでしょ? 亡くし屋はね、私情を入れられては困るの。その分あの子にはその心配が無さそうだったから頼んだだけ」
「……亡くし屋ってのは、なんなんだ?」
「本当はそんな重要性を見出してはいないけれど。でも私はこの世界で、特にこの国もだけれど自由に死を選べないのは悲しいことだと思ったわ」
「悲しい?」
「だって自分で決められないことがあるなんて嫌じゃない。私は束縛が大嫌いなの」
「はぁ」
「終わることは確実に訪れる免れようがない事実なのに、それをタブーとしたり悪いことのように取り扱ったり。それがなんか気に食わなかっただけ」
「……だから一応最低限のルールは設けて亡くし屋という仕事を作ったのか」
「そういうこと!」
なんにせよ魔女の気分次第って所があるのはあまり良いとは思えないが……
「確かにオレは死神になって、亞名と出逢って、初めてちゃんと考えることをしたが、一理あるとは思うよ」
「………………」
「? どうかしたか?」
「……飽きた」
「え」
「もっと面白い話をしましょう! この話飽きたわ」
とんでもない気まぐれ屋だ。
「だからオレに話せる話なんて──」
「じゃあ作ればいいのよ! 今からっ」
最後まで聞かずに被せるようにして魔女は言った。
「はぁ? どうやって……」
「にゃはは、それは今から教えてあげるわ」
見たこともない相手の口元が最高に悪くニヤけているのが想像できる。なにやら嫌な予感がした。
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