亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第四章

平穏な日々は徒然にて。

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 永遠に死神として生きる。そう選択したオレだったが、すでに今瀕死の事態を迎えている。
「まずい、これはまずい」
身体が勝手に震えだすのが止まらない。だが今、この部屋にはオレ一人だ。この事態をなんとかして解決しなければならない。解決しなければ、死、あるのみ。
ガタガタと音を立て震え続ける身体をなんとか保とうと、かろうじて機能している脳みそをフル回転させる。ほぼ限界に近い身体でどうにか誰かに気づいてもらえれば……そんな淡い期待を抱き、廊下に一歩踏み出る。
「つっっっ」
出す足一歩一歩が針で刺されるように痛い。よく聞く地獄での針山というのはこういうことかと理解した。意識が段々と薄れてくる。あと少し、あと少しなんだと歩みを進めるが、願いは虚しく身体が先に動かなくなってしまった。
「っ、だっ」
顔から倒れ、おでこを強打する。
(あぁ、オレ、ここで死ぬんだな……)
と確信したその時、ガラララと引き戸が開く音がし、タッタッタッと誰かが走ってくる音がした。がその音は近くに来ると段々とゆっくりになっていき、側で止まった。
「音がしたから来たけど……なにしているの?」
「助け、助けて……」
「?」
隣に立っている少女は何を言われたかわからないと、無慈悲に首を傾げる。
「し、死ぬ」
「………………」
これに至ってはもう無視に近い無反応だった。いやもとからそういう子ではあるが。
追い打ちをかけるように何かがオレを踏んでいく。
「う」
「ニャァーン」
「しろ、さすがに踏むのは可哀想」
その黒いふにゃっとした物体を抱きかかえる少女。
「いや、てか、まじで死ぬって」
「なにが?」
オレはふるふるしながら大声を上げる。
「この寒さにじゃーーーーーーーー!!!!!!」
「じゃーーーーーー」
「じゃーーーー」
声はこだまして響き渡った。

「………………」
「………………」
「……そう」
「いや待って!? なんでこんな雪景色の中、亞名は凍えてないんだ!?」
 真冬の寺は雪がつもり、廊下はほぼ野ざらし状態。部屋には暖房器具など無し。隙間は空いている。そんな状態で普通に過ごしている亞名はなんなんだ?
「? そんなに寒くないから」
「さては人間じゃないのか?」
薄々思っていたことだが、もしかすると亞名は人間じゃないかもしれない……
「人間だけど」
と即座に否定された。
「いやそうだけど! もうそんなことどうでもいいけど、とにかく寒すぎるんだが!」
「あ」
「あ?」
「そっか……」
「?」
「こっち、誰も使ってなかったから。最低限綺麗にはしてたけど。暖房とかそういう設備は付けてなかったね」
「亞名ちゃん!? そんな冷静に言われても……。いや勝手に居候になったのはオレだが……」
「ごめんなさい」
「いや、思えばそうだよな。ってなったからいい……けどもう死にそう」
「かずとは死なないでしょ?」
真顔で返される。この子に冗談や言葉のあやは通じない。
「……とにかく早く暖まりたいです」
「わかった」
亞名は自分の部屋の方へと向かっていく。その後ろをガタガタ震えながらついて行く。

「はぁーーーー生きてる感じがする」
 こたつという人類最上級の発明品に命を救われる。
「かずとは生きてないでしょ?」
「………………」
これまで生活の最低限しか干渉しなかったから、亞名の部屋に初めて入ったが、そこそこ広い空間を使っていた。
勉強するためであろう個人机が壁側にあり、こたつは真ん中、横にはちゃんとしたベッドがあり、部屋はエアコンが付いている。その他余計なものは一切なかったが、それは亞名が興味ないからだろう。愛歌はこれよりいくらも狭い二人の部屋にぬいぐるみを置いてたっけ。と思い出しもした。
「少し生き返ったが、まじで寝るときどうしよう……」
この暖かい部屋にいるともう一歩も外に出ることは叶わなくなる。
「布団持ってきてここで寝たら?」
「……いやさすがに申し訳ない、が他に名案も思いつかない」
「わたしは構わない」
「……じゃあお言葉に甘えます」
「うん」
と、平穏を過ごしたのであった。
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