亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第三章

失くした日々は夢か現か。3

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 そう、その日オレは掛け持ちしているバイトの残業で家に帰るのが遅くなった。バイト先を出たのは夜10時を過ぎていた。連絡もできず遅くなったから早く帰ろうと携帯も見ずに家へ真っすぐ一目散に帰ったんだ。
玄関の鍵を開け、ドアを開くとなぜか部屋の電気が全て消えていた。その時はまだ少し早いけど寝たのか? なんて気楽なことを考えていた。

 パチッパチッと左手で壁側にある電気のスイッチを付ける。部屋は二人で暮らすにもギリギリというくらいの広さだ。電気が付けば玄関からすぐことがわかった。
「あれ、愛歌?」
友達の家にでも泊まりに行ったのだろうか。そしたら連絡が入ってるはず、とそこで初めて自分の携帯を取り出す。
「なんだこれ」
知らない番号から数十分おきに電話がかかってきていた。愛歌からのメッセージは何も入っていない。
(愛歌が携帯を失くして、友達に借りた……とか?)
とりあえずこの電話番号にかけてみることにする。
「もしもし……」
「あっやっと繋がりました!」
「あ、えっと、どちら様で……?」
「すみません、えっと、田中和人さんで間違いないでしょうか?」
「はい、そうですが」
「我々、警察の者なんですが……」
「えっ」
警察という言葉を聞いたその時、脳内には目まぐるしく多種多様な嫌な予感が駆け巡った。
(愛歌になにかあった? もしかして事故? 愛歌は無事なのか? いやでも本人からの連絡は全くない…… 愛歌は? 愛歌は?)
「あの、落ち着いて聞いてください」
あぁ、ドラマかなんかでよく聞く台詞だ。落ち着けるわけがないのに、落ち着いて聞けだなんて他人事にもほどがある。
「妹が、帰ってなくて! 愛歌は、妹になにかあったんですか!?」
「誠に残念なのですが……」

「田中愛歌さんは、自殺した。と思われます」

「え、は? 自殺?」
驚くくらい、その言葉の意味を理解できなかった。
「え、あの、事故……とか何かの間違いじゃないですか? え? というかそもそも愛歌じゃないんじゃないですか?」
混乱して自分でも何が言いたいのか何が聞きたいのかなにもわからないままポロポロと口が言葉を出す。
「はい、えっとただいま我々は現場の、愛歌さんの学校にいるのですが、事件性はないかと」
「学校? ちょっと何言ってるか」
「和人さん、大変ショックなのはわかりますが……」
わかる。それを聞いた瞬間オレは何かプツリと糸が切れてしまったんだ。
「は? わかる? お前らにオレらの何がわかるんだよ! 愛歌が自殺するわけねえだろ! たっ、たった二人でずっと生きてきたんだぞ! オレがバイトできるようになったからって愛歌も置いて出てったクソみたいな母親なんか見返してやるって二人で! まだ愛歌なんて小学生なのに! 親戚なんか連絡先も知らない。そもそもそんなクズ親の親戚なんてみんなクズに決まってる。そんな奴らから誰が守ってくれるわけもない! だからオレが、オレが、愛歌を守るって決めたんだよ! 愛歌も本当に良い子に育って、二人でいれば貧乏でもなんでも幸せだったんだよ! お前らに何がわかんだよ! 兄思いで優しい子だった愛歌が勝手に死ぬはずないだろ! はぁ? 意味わかんねえ わがんねえよ………………」

 もう思考も顔も何もかもぐちゃぐちゃで最後の方は言葉も出なくなった。オレは今まで誰かの不満なんて言ってこなかった。愛歌がそんなことを言っているオレを見ると悲しむだろうから。誰かの悪口を聞くことすら悲しいことだと思う、今の世の中他にそんな人がいることが想像できないくらい、そのくらい愛歌は優しかった。
オレが黙るのを見計らって電話の先はこう伝えた。
「とりあえず、今日はもう遅いので、明日和人さんのお家に伺います。いいですか?」
オレはそれに対して返事をしたかどうかまで覚えていない。ただその後は玄関に座り込み、ずっとこれは夢で早く醒めるようにと目を開け続けていた。
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