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第三章
失くした日々は夢か現か。1
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オレが亡くし屋、亞名のところへ来て数ヶ月が経った。まだ凍えるほどではないが若干の肌寒さを感じる季節へと気候も移ろい変わってゆく。
亞名と出逢ってからオレの生活は移ろいゆく世の中とは反対に、専属死神として一貫しているが……。
亞名はどうなんだろうか。同居人が一人増えただけとは言っていたしお互い突っ込んだところには未だ干渉していないからわからないのが本音だ。今日も特に変わりなく学校へ行った。そろそろ帰ってくる時間だとは思うが。
なんて時計を眺めていると、玄関が開く音がした。亞名が帰ってきたのだろう。たまには出迎えにいってやるかと思い玄関に向かう。
「よ、おかえり」
「あ……かずと」
何かいつもと様子がおかしい。オレは亞名を見て違和感を感じた。
「……ただいま」
亞名はそんなオレの視線は無視して中に入ろうとしていたが、オレはその様子を見て玄関での作業が一つ足りないことに気づく。
「……亞名、靴はどうしたんだよ」
「………………」
「朝は履いてただろ?」
「…………忘れた」
「いや履いてきた靴忘れる奴いないだろ、上履きのまま帰ってくるならまだしも」
この時点でなにか嫌な予感がしていた。
「じゃあ……無くした」
「じゃあって適当な……」
「………………」
「……鞄」
「………………」
「鞄見せろよ」
「……かずとには関係ないよ」
「いいから見せてみろって」
半ば強引に亞名の手に持っていた鞄を奪い取る。
「あっ」
バササササッ
亞名が取手を握りしめていたため、お互い力が中途半端にかかり、鞄の蓋がその場で開いてしまう。ノートや教科書が音を立てて床に落ちる。
「………………」
「……これなんだよ」
「………………」
亞名は黙っているが、落ちた物の中には明らかに自分で書いていないだろう暴言や汚い言葉が表紙に油性マジックで書かれていた。
「………………」
亞名は黙ったまましゃがみ、そのノートなどを拾い集める。
「これ、イジメだろ? 靴も無くしたんじゃなくて、隠されたか何かされたんだろ?」
「……そうでもかずとに関係あるの?」
亞名の深く青い目が真っすぐに見上げてきた。
「関係あるだろ、干渉しないっつったってオレ達は……」
亞名のなぜか強い気迫に負けないように強く答えてみたものの止まってしまう。
(オレ達は……なんだ?)
仕事仲間、だからといってプライベートまで干渉しない。暗黙の了解みたいなものだった。一緒に暮らしているからといって家族になったわけでもない。友達でもない。オレ達は、なんなのだろうか。わからない。
わからないからといってオレにはこの事実を見逃すことが出来なかった。何故かって……
「つっっっ」
キーーーーンと嫌な金属音のようなものが頭に響く。と同時にものすごい頭痛に見舞われた。
「くっ、たぁ」
オレは頭を抱え、その場にしゃがみ込む。
「かずと?」
目を瞑っていても、前後に激しく揺れ動くような感覚。耳鳴りはいつの間にか色んな音が気持ち悪いほどに混ざり合っていた。
「かずと?」
「──ちゃん」
「どうしよう……」
「──お兄ちゃん」
ピピピピピピッ
「う、るさ」
「──起きて」
キーーーーッ、ダンッ、ガッシャーン
「キャーーーーーーー」
ピーポーピーポー、ウウーーーウウウ
「うるさい」
「──はやくしないと」
「うるさいっ」
「──何寝ぼけてるの?」
ピピピピピピピ
「うるさい!」
「──ちょっと」
「うわぁぁぁぁぁぁぁあぁっっっっ」
亞名と出逢ってからオレの生活は移ろいゆく世の中とは反対に、専属死神として一貫しているが……。
亞名はどうなんだろうか。同居人が一人増えただけとは言っていたしお互い突っ込んだところには未だ干渉していないからわからないのが本音だ。今日も特に変わりなく学校へ行った。そろそろ帰ってくる時間だとは思うが。
なんて時計を眺めていると、玄関が開く音がした。亞名が帰ってきたのだろう。たまには出迎えにいってやるかと思い玄関に向かう。
「よ、おかえり」
「あ……かずと」
何かいつもと様子がおかしい。オレは亞名を見て違和感を感じた。
「……ただいま」
亞名はそんなオレの視線は無視して中に入ろうとしていたが、オレはその様子を見て玄関での作業が一つ足りないことに気づく。
「……亞名、靴はどうしたんだよ」
「………………」
「朝は履いてただろ?」
「…………忘れた」
「いや履いてきた靴忘れる奴いないだろ、上履きのまま帰ってくるならまだしも」
この時点でなにか嫌な予感がしていた。
「じゃあ……無くした」
「じゃあって適当な……」
「………………」
「……鞄」
「………………」
「鞄見せろよ」
「……かずとには関係ないよ」
「いいから見せてみろって」
半ば強引に亞名の手に持っていた鞄を奪い取る。
「あっ」
バササササッ
亞名が取手を握りしめていたため、お互い力が中途半端にかかり、鞄の蓋がその場で開いてしまう。ノートや教科書が音を立てて床に落ちる。
「………………」
「……これなんだよ」
「………………」
亞名は黙っているが、落ちた物の中には明らかに自分で書いていないだろう暴言や汚い言葉が表紙に油性マジックで書かれていた。
「………………」
亞名は黙ったまましゃがみ、そのノートなどを拾い集める。
「これ、イジメだろ? 靴も無くしたんじゃなくて、隠されたか何かされたんだろ?」
「……そうでもかずとに関係あるの?」
亞名の深く青い目が真っすぐに見上げてきた。
「関係あるだろ、干渉しないっつったってオレ達は……」
亞名のなぜか強い気迫に負けないように強く答えてみたものの止まってしまう。
(オレ達は……なんだ?)
仕事仲間、だからといってプライベートまで干渉しない。暗黙の了解みたいなものだった。一緒に暮らしているからといって家族になったわけでもない。友達でもない。オレ達は、なんなのだろうか。わからない。
わからないからといってオレにはこの事実を見逃すことが出来なかった。何故かって……
「つっっっ」
キーーーーンと嫌な金属音のようなものが頭に響く。と同時にものすごい頭痛に見舞われた。
「くっ、たぁ」
オレは頭を抱え、その場にしゃがみ込む。
「かずと?」
目を瞑っていても、前後に激しく揺れ動くような感覚。耳鳴りはいつの間にか色んな音が気持ち悪いほどに混ざり合っていた。
「かずと?」
「──ちゃん」
「どうしよう……」
「──お兄ちゃん」
ピピピピピピッ
「う、るさ」
「──起きて」
キーーーーッ、ダンッ、ガッシャーン
「キャーーーーーーー」
ピーポーピーポー、ウウーーーウウウ
「うるさい」
「──はやくしないと」
「うるさいっ」
「──何寝ぼけてるの?」
ピピピピピピピ
「うるさい!」
「──ちょっと」
「うわぁぁぁぁぁぁぁあぁっっっっ」
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