亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第二章

しぼんだ蕾は花に憧れる。4

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「お邪魔します……」
 なぜかオレは今OLさんの一人暮らしだろう部屋にきていた。
「汚くてごめんね。ちょっとそこで待ってて」
案内されたリビングではそこら中にゴミや脱ぎっぱなしの服などがあるが、あまり見ていいものではないだろうと思い視線に困った。
「お待たせ、はい麦茶」
「あ、ありがとうございます」
「私は~」
とおもむろに缶ビールを開け、飲み始めた。
「朝から……」
オレは少し引き気味に呟いてしまった。
「会社休んじゃったんだし、休みならなにやってもおっけーってことにしてるのよ!」
言いながらもグビグビと上を向いて飲み干し、すでに二缶目を開けようとしている。
「はぁ……」
「それでっ君はなんか他の幽霊とかとは違う感じがしたんだけど、何者なの?」
「えっえーっと」
グイッと近寄られ、目線をそらす。正直に言っていいものなのか、一瞬悩んだ。が特に口止めされているわけでもなかったし、それより目の前にいるすでに酔っぱらい入りの植原さんの圧が強かった。
「死神、です」
「へー! 死神! だからそんな格好なのねー」
そう言われるとなんだかこっ恥ずかしさが込み上げてくる。
「死神ってことは、人を死に追いやるの?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど」
「ふぅーん、実際は違うんだ」
「どちらかというと、死んだあとの処理というか……」
「私ね、もうすぐ死ぬつもりなんだ」
「え」

 植原さんは勝手に話し出す。たぶんだけどオレを家まで呼んだ理由はこれが目的なんだろう、相手は誰でも良かったけど誰かに聞いてほしかった。ただ、生きている人なら避けがちな話題。けれど誰もかもがたどり着く終わり『死』について。他の人には話せなくてもちょうどいい語り相手がちょうどいい時期に現れたのだから。

「地元はね、もうすっごい田舎で。勉強はそこそこできたから大学行きたかったし、家を出たの。大学すら近くにないような場所だったから」
「それで大学はなんの問題もなく出れたんだけど。就活がね上手くいかなくて。でも家を出るときに大きい会社で働いてやる! なんて啖呵切っちゃったもんだから、上手くいってないなんて言えなくて」
「小さい会社に勤めてはなんか合わなくて辞めて、そういうの繰り返してるうちに私なにやってるんだろうってなっちゃって」
「……だから、死ぬんですか?」
「あはは、まぁ大きな原因の一つとしてはそうなんだけどね。それだけって言うには簡単にまとめすぎかな……」

 植原さんはいつの間にか三缶目を手に持っていた。
「昔はね夢見てたんだぁ、農業とか家の仕事じゃなくて会社で働くっていうの。凄いかっこいいなぁって。でも私全然向いてないみたいで。私がやれることは誰でもできることで、そしたら私がやる必要もないじゃん? とかなってくるし、上司にもそう言われるし」
「………………」
「今からでも家に帰ればいいとか思ってるでしょ? それはそれで私にもプライドがあるのよ。それに出ていく頃にはもうほぼ勘当されたようなものだったしね。」
「……ねぇ、君は死ぬのは悪いことって思ってる?」
「え」
以前、亞名にも言われた言葉。
──「死ぬことは悪いことなんですか?」
「みんな言うのよ。死んだら終わりだ。とか、なにもかも無駄になる。とか」
「私からしたらね、みんな偉人でもない限りそんな大したことしてないのに無駄になるとか考えすぎだって思うかな」
すでに顔を真っ赤にして、酔っぱらっているが彼女の目はしっかりと前を向いているように見えた。
「諸説色々あるけど、私は死んで終わりだなんて思わない」
「………………」
「私は死んだら花になりたいの。とても綺麗な花。誰が見ても美しいとか癒されるとか、そう思ってくれるような花」
「人間じゃなくていいんですか?」
「人間なんて汚いことばっかりじゃない。しかもいっぱいいっぱい考えなきゃいけない。死んでも人間に生まれ変わるなんて嫌だね」
「でも──」
「そう。保証なんかされてない。そもそも生まれ変わることすらわからない。そんなのそれこそ死んだ人に聞かなきゃわからないものよ」
「オレには……わかりません」
「大丈夫。答えなんて期待してないから。そのつもりで話したわけでもなかったし……」
「?」
視線がこちらを向く。
「君、なんか悩んでたでしょう?」
「え?」
「私、そういう雰囲気の違いとかすぐわかるんだ。こういう体質だからかな。今悩んでるってより、ずっと悩んでるって感じだけど」
「……まぁ」
「よかったらお姉さんに話してみない? というか私の話を聞いたんだし、君の番ってことで」
(強引だな……)
でもオレにとっても丁度よかったのかもしれない。こんな話をできる相手もいなくなってしまった今では。
「じゃあ、お願いします」
「そうこなくちゃ~、あ、その前にトイレ」
「……あ、はいどうぞ」
どうも自分の周りには自由な人が多いなぁと感じたのであった。
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