亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第二章

しぼんだ蕾は花に憧れる。3

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 部屋で一人、報告書を書く。
(こんな感じでいいのか……?)
報告書なんてたぶん生きていた頃も書いたことなかった。
「おい、しろーどこにいる?」
とりあえずその場からしろを呼んでみる。すると廊下側からしろは足音も立てずに部屋に入ってきた。
「お前、使い魔なんだってな」
すり寄ってきたしろの頭を手のひらで撫でる。ぐるぐる言いながらしろは撫でられている頭をもっとと擦りつける。
「この首輪のところに括り付ければいいのか」
オレは書いた報告書を細長く折り、しろの首輪へと括り付ける。
「メルによろしくな」
しろは相槌を打つようにこちらを一回見ると夜の闇へと混ざっていった。
(明日はこれを届けるし、亞名と同じくらいには出るか)
あの女の人が落としていった社員証を忘れないように目立つ場所に起き、寝る支度をした。


 翌朝、亞名に起こされるより早く身支度をしていると、少し驚かれた。
「どこかいくの?」
「あーちょっとな」
「そう」
「亞名も学校だろ?」
「うん……朝ごはん食べる?」
そうか、いつもは寝ていたからあまり気にしていなかった。
「亞名が食べるなら」
「じゃあかずとのも準備する」
「ありがとう」
会話している中、足元をしろがうろつく。
「ん、しろも飯か?」
「ンナーーァ」
「しろの飯はオレがあげるよ」
「うん」
しろの首輪には昨晩括り付けた紙はなく、ちゃんと届けられたことを確認した。

 朝食後、亞名が出かけるより先に寺を出たオレは、昨日の会社の前であの人を探す。
「あ」
ふと声が聞こえた方へ向くと、昨日オレに話しかけてきたスーツの女の人がこちらを見て立っていた。彼女は目が合うとその場から逃げるように立ち去ろうとする。
「あ、ちょっと待ってください」
「わ、私、何も見てないので!」
「え? ちょっと逃げないで」
逃げ足が速い。
「ごめんなさいいい」
「ちょっ、あーもう! 『植原』さん!」
彼女を追っかけながら、名前を呼んだ。
「えっなんで私の名前……」
「はぁ、やっと止まった……」
お互い息がきれているが、オレはそのまま続ける。
「『植原うえはら 花麗かれん』さんですよね。その、昨日オレに話しかけたあと──」
「そ、その件はごめんなさい。だから呪わないで……」
「え? いや呪わないけど……」
「へ?」
「いやこれ……」
彼女の落とし物をポケットから出す。
「あ……」
「昨日落としていきましたよ。名前は、書いてあったので……」
「あ、ありがとうございます」
植原さんはオレが差し出した物を両手で受け取った。
「じゃあ、オレはこれで……」
「ま、待って!」
「え?」
「その、失礼かもしれないけど。君、此の世の人ではない……よね?」
「あー……はい。一応死んでるみたいです」
「よかったー。あ、よくはないけど……私の間違えじゃなくて」
「?」
「私、俗にいう見えてしまう体質というか、そのせいでちょっと、てか色々と大変だったから」
「あーだから」
「あの、よかったらなんだけど。このあと時間ありますか?」
「??」
「こんなにまともに喋れるそっちの人って珍しくて。もう少しお話聞きたいなぁなんて」
「いやでも会社は……」
「私なんていてもいなくても変わらないというか、もともとそろそろ辞める気ではいましたから……大丈夫です」
「あ、そうなんですか」
「はい。ではどこに行きましょうか? 外だと私が怪しまれるので……。あ! 私の家で良ければこの近くなんで」
「さすがにそれは悪いんじゃ……」
「私がいいならいいんです。じゃあ行きましょう!」
なんかおかしな流れになってしまったが、こうしてオレは連れてかれるように植原さんのお宅へお邪魔することになった。
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