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第二章
夜更けに吹く風は嘆き彷徨う。1
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次の日の夜。というよりほぼ深夜、日付がまた変わろうかという時間。亞名とオレは依頼主に指定された場所にいた。
とある中学校の屋上。夜風が強く、バサバサと服や髪が流される。
オレの少し前に亞名が。そして亞名の前、屋上のフェンスを挟んで一人少年がいた。それが今回の依頼主となる人物。身に纏っている制服はこの学校の物だろうか、まだ身長もさほど伸びていないのだろうと思わせる余分がある。
「………………」
亡くし屋の依頼をするためには二つの条件のどちらかをクリアしなければならない。と亞名は言っていた。
一つ目は、病院か施設のすでに寿命が短い人々を身内や病院施設側が依頼すること。その場合、当人の意思確認が必須だが、それが難しい場合はその限りではないらしい。
二つ目は、自分の意志で自分の亡くしを依頼すること。
つまり、今回亡くし屋の依頼をしたのは二つ目のパターン。自分で自分を亡くすことを選んだということになる。
(……この学校の生徒だとしたら想定中学生。まだ何も知らない子供だ。そんな依頼……)
「ぼ、僕を殺してくれるんですよね?」
少年は聞いた。
「わたしは殺さない。亡くすだけ」
亞名には、その違いがあるのだろう。他者が聞いたらどう思うかは別だが。
「ど、どっちにしても死ねるならそれでいいんだ!」
少年の様子は切羽詰まっていた。それもそうだ、今にも落ちそうな屋上の縁にいるのだから。
「やるなら早くしてよ!」
「………………」
「依頼は受けてくれたんだろ!? お金も払った!」
(……お金か)
その金はどこから手に入れたものなんだろうか。亡くし屋の依頼は安いものではない。お小遣いやお年玉を貯めたにせよ、全て使ってもその歳までの年数で足りるかはわからない。
「…………そう」
「……っ亞名!」
思わず声をかけてしまった。
「これはわたしの仕事だから」
「………………」
「なに、一人で喋ってるんだよ。早くしろよ!」
少年にオレの姿は見えない。それ故にオレも何ができるわけでもない。
「じゃあ、始める」
オレにすらわかるほど、少年はゴクリと唾を飲んだ。亞名はいつものように、いやいつも以上かもしれない。合わせた両手を握りしめ祈り願った。その願いはきっとどこにいるかもわからない神様に届くのだろう。
程なくして少年は気を失うようにして倒れ、そこから落ちていった。違和感があったのは、そこからオレも引き寄せられるように落ちた感覚がした、というか何故か一緒に落ちている。
「うわぁぁあ!?!?」
落ちる恐怖で目を強く閉じた。
「っだっっ」
地面についたのか底に全身を打ち付けていたが、少ししたら痛みは消える。じんとしていた痛みが抜け、目を開ける。けれどそこにはさっきまでいた中学校はなかった。
「真っ暗じゃないか」
何も見えない。上も下も横も壁なのかそれとも空間なのかすらわからないほど黒く見えた。
(あの少年の『魂の狭間』か)
暗さに目が少し慣れ、立ち上がる。
(さっきはよくわからなかったけど、泥水みたいなものが足元を浸しているな)
「早く少年を見つけないと」
なんとなく居そうな方向へ足を動かす。足場が悪いから少しずつしか進めない。
「くそ、なんだこのドロドロした水は……」
まるで沼にいるような気分になっていた。進むたびにどんどん深くなっていくようで、進みもどんどん遅くなる。
「ったく、どこだよ……」
「!」
(なにか、聞こえた?)
耳を澄ますと、聞こえてきたのは泣き声と笑い声だった。
とある中学校の屋上。夜風が強く、バサバサと服や髪が流される。
オレの少し前に亞名が。そして亞名の前、屋上のフェンスを挟んで一人少年がいた。それが今回の依頼主となる人物。身に纏っている制服はこの学校の物だろうか、まだ身長もさほど伸びていないのだろうと思わせる余分がある。
「………………」
亡くし屋の依頼をするためには二つの条件のどちらかをクリアしなければならない。と亞名は言っていた。
一つ目は、病院か施設のすでに寿命が短い人々を身内や病院施設側が依頼すること。その場合、当人の意思確認が必須だが、それが難しい場合はその限りではないらしい。
二つ目は、自分の意志で自分の亡くしを依頼すること。
つまり、今回亡くし屋の依頼をしたのは二つ目のパターン。自分で自分を亡くすことを選んだということになる。
(……この学校の生徒だとしたら想定中学生。まだ何も知らない子供だ。そんな依頼……)
「ぼ、僕を殺してくれるんですよね?」
少年は聞いた。
「わたしは殺さない。亡くすだけ」
亞名には、その違いがあるのだろう。他者が聞いたらどう思うかは別だが。
「ど、どっちにしても死ねるならそれでいいんだ!」
少年の様子は切羽詰まっていた。それもそうだ、今にも落ちそうな屋上の縁にいるのだから。
「やるなら早くしてよ!」
「………………」
「依頼は受けてくれたんだろ!? お金も払った!」
(……お金か)
その金はどこから手に入れたものなんだろうか。亡くし屋の依頼は安いものではない。お小遣いやお年玉を貯めたにせよ、全て使ってもその歳までの年数で足りるかはわからない。
「…………そう」
「……っ亞名!」
思わず声をかけてしまった。
「これはわたしの仕事だから」
「………………」
「なに、一人で喋ってるんだよ。早くしろよ!」
少年にオレの姿は見えない。それ故にオレも何ができるわけでもない。
「じゃあ、始める」
オレにすらわかるほど、少年はゴクリと唾を飲んだ。亞名はいつものように、いやいつも以上かもしれない。合わせた両手を握りしめ祈り願った。その願いはきっとどこにいるかもわからない神様に届くのだろう。
程なくして少年は気を失うようにして倒れ、そこから落ちていった。違和感があったのは、そこからオレも引き寄せられるように落ちた感覚がした、というか何故か一緒に落ちている。
「うわぁぁあ!?!?」
落ちる恐怖で目を強く閉じた。
「っだっっ」
地面についたのか底に全身を打ち付けていたが、少ししたら痛みは消える。じんとしていた痛みが抜け、目を開ける。けれどそこにはさっきまでいた中学校はなかった。
「真っ暗じゃないか」
何も見えない。上も下も横も壁なのかそれとも空間なのかすらわからないほど黒く見えた。
(あの少年の『魂の狭間』か)
暗さに目が少し慣れ、立ち上がる。
(さっきはよくわからなかったけど、泥水みたいなものが足元を浸しているな)
「早く少年を見つけないと」
なんとなく居そうな方向へ足を動かす。足場が悪いから少しずつしか進めない。
「くそ、なんだこのドロドロした水は……」
まるで沼にいるような気分になっていた。進むたびにどんどん深くなっていくようで、進みもどんどん遅くなる。
「ったく、どこだよ……」
「!」
(なにか、聞こえた?)
耳を澄ますと、聞こえてきたのは泣き声と笑い声だった。
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