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第一章
亡くし屋の少女は死神を雇う。3
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「……他になにかある?」
「いや…………」
聞きたいことが無いかと言われたらあるのだが、亞名の生い立ちを聞いたら何も他に言ってあげることがなかった。
「なら……」
「?」
珍しく亞名の方からアクションが起こされる。
「かずとはどうしたいの?」
「えっ」
「わたしを、責める? 怒る?」
「っっ」
「死ぬことは悪いことなんですか?」
真っ直ぐに問いかけられる。
「それは……」
「…………オレには、わからない」
「………………」
「いや、なんて言えばいいのかな。今はまだ、わからない。が正しいかな?」
「今は……?」
「オレは、自分のこともよく思い出せてないんだ」
「………………」
「目が覚めたら変なヤツにお前は死んだ。とか、だから『死神』になれ。やらなんやら言われてさ」
「オレには死んだ記憶もない。目覚める前、どんな生活をしてたかも思い出せない。亞名と出逢って名前は思い出せたんだ。でもそれ以外は今のところ何もわからないんだよ」
「………………」
亞名は黙って聞いてくれていた。
「だから、今のオレには死ぬことが悪いかどうかは判断できない。良いことかどうかもわからないけどね」
「安易に亞名を怒ったり、やっていることを悲しんだり、また肯定したりもできない」
「………………」
「……が、オレの答えなんだけど」
「………………」
亞名の表情を伺う。
「……そう」
それだけ言った。けれどさっきまでの刺すような真っ直ぐな強さはそこにはなく、少しだけ口元が緩んで見えた気がした。
「……とはいったものの」
「?」
「オレは上司に亞名の調査を頼まれてるんだよな」
「なにを、すればいいの?」
「オレにもそんなわからなくて……」
と、亞名への返答にも悩んでいた矢先、オレ達の間に入るようにどこからともなく現れた『しろ』が机に乗る。
「うわ、お前どこから……」
「はぁーい?」
「!!」
『声』が聞こえた。
「おいこらメル。いつもいつもお前は急に……」
「メルー? あぁ、あの子ね」
「? メルじゃないのか?」
「声の違いすらわからないのかしら?」
言われてみれば、メルよりすましたような声と口調をしている。
「君は誰だ……?」
オレがそう聞くのと被るように亞名が口を開く。
「お久しぶりです」
「亞名の……知り合い?」
「久しぶりねー、どう? お仕事はかどってるかしら?」
「はい」
「仕事……って、あ」
(そういえば、亞名は『誰か』に亡くし屋にされたと言っていたか)
「君ははじめましてね。タナカカズトくん?」
「えっ?」
「あ、名字ってまだ思い出してなかったかしら、ミスったわね……」
なにやら小さい声で自らの過ちを悔いているようだったが、オレはそんなことよりも気になった。この人が何者なのか。
「オレ、名乗りましたっけ?」
「いやー? でもまぁ別にいいでしょ。そんなことは」
「貴方は誰ですか? メルも知ってるみたいですが……」
「ふふ、そんな怖い顔しなくてもいいじゃない。私が誰かはだいたい検討がついているんでしょ? それならそれでだいたいは合ってるわ」
「………………」
「私のことはなんだっていいのよ。貴方達の物語なんだから」
「?」
「今日来たのは、他でもない。君に、次に進んでもらうために提案しにきたのよ」
「次……? 提案?」
「そう。貴方のいう上司にも許可は取っているわ。もちろんその上にもね」
(その上って『神様』かなんかじゃなかったか?)
「貴方、亞名を手伝いなさい」
「!」
「亡くし屋の専属死神ってところかしらね。亡くし屋の仕事上、死神を避けては通れないのよ」
(無断でやっていたから、オレやメルにあんな調査依頼がきたのか……)
「お察しの通り」
「!!」
「オレ……口に出してました?」
「いや? まぁだからそういうわけで、公式に順序を踏んできたのよ」
「そうなん、ですか」
(なんか、いろいろ掴み所がなくてわからないなこの人)
「はぐれ死神の貴方なら使っていいらしいし、まぁこれはこれで面白そうだから」
「はぁ」
「亡くし屋さん的にも、問題ないわよね?」
「ない」
「じゃあ決まり! 二人ともお仕事頑張ってね~!」
ブチッ
通話的なにかが切れる音がして、嵐の様に去っていった。
「なんなんだあの人は……」
「……あの人のことは考えても無駄だと思う」
「……確かに」
(勢いがすごかったが、それなりにメルとは全く違う空気感があったし、なにより少し恐ろしかった)
どうしてそう思うかまではわからなかったけれど。
「それで、亞名はいいのか?」
「?」
「さっきの人が言ってたことだよ」
「かずとがいいなら」
「そうか……」
(まぁ他に何もすることはないしな……)
「じゃあ、そのなんだ、改めてこれからよろしく」
「……こちらこそ」
その後、二人と一匹でご飯を食べ、オレ達は今日はお開きにした。
布団に入りながら、今日のことを振り返り、少し考えた。
「亡くし屋……か」
死神の役割がちゃんとできるかも心配だったが、オレはそれ以外に今、選択肢はない。
時間はあるのだろうし、とりあえず記憶が戻るまでやるのは問題ないだろう。
「……タナカカズト」
それが、オレの名前。
ありきたりな名字だったな。と少しだけ残念がったが、馴染みはあった。
ありきたり……普通……
頭を回転させていたが、いつの間にか眠りに落ちていた。
「いや…………」
聞きたいことが無いかと言われたらあるのだが、亞名の生い立ちを聞いたら何も他に言ってあげることがなかった。
「なら……」
「?」
珍しく亞名の方からアクションが起こされる。
「かずとはどうしたいの?」
「えっ」
「わたしを、責める? 怒る?」
「っっ」
「死ぬことは悪いことなんですか?」
真っ直ぐに問いかけられる。
「それは……」
「…………オレには、わからない」
「………………」
「いや、なんて言えばいいのかな。今はまだ、わからない。が正しいかな?」
「今は……?」
「オレは、自分のこともよく思い出せてないんだ」
「………………」
「目が覚めたら変なヤツにお前は死んだ。とか、だから『死神』になれ。やらなんやら言われてさ」
「オレには死んだ記憶もない。目覚める前、どんな生活をしてたかも思い出せない。亞名と出逢って名前は思い出せたんだ。でもそれ以外は今のところ何もわからないんだよ」
「………………」
亞名は黙って聞いてくれていた。
「だから、今のオレには死ぬことが悪いかどうかは判断できない。良いことかどうかもわからないけどね」
「安易に亞名を怒ったり、やっていることを悲しんだり、また肯定したりもできない」
「………………」
「……が、オレの答えなんだけど」
「………………」
亞名の表情を伺う。
「……そう」
それだけ言った。けれどさっきまでの刺すような真っ直ぐな強さはそこにはなく、少しだけ口元が緩んで見えた気がした。
「……とはいったものの」
「?」
「オレは上司に亞名の調査を頼まれてるんだよな」
「なにを、すればいいの?」
「オレにもそんなわからなくて……」
と、亞名への返答にも悩んでいた矢先、オレ達の間に入るようにどこからともなく現れた『しろ』が机に乗る。
「うわ、お前どこから……」
「はぁーい?」
「!!」
『声』が聞こえた。
「おいこらメル。いつもいつもお前は急に……」
「メルー? あぁ、あの子ね」
「? メルじゃないのか?」
「声の違いすらわからないのかしら?」
言われてみれば、メルよりすましたような声と口調をしている。
「君は誰だ……?」
オレがそう聞くのと被るように亞名が口を開く。
「お久しぶりです」
「亞名の……知り合い?」
「久しぶりねー、どう? お仕事はかどってるかしら?」
「はい」
「仕事……って、あ」
(そういえば、亞名は『誰か』に亡くし屋にされたと言っていたか)
「君ははじめましてね。タナカカズトくん?」
「えっ?」
「あ、名字ってまだ思い出してなかったかしら、ミスったわね……」
なにやら小さい声で自らの過ちを悔いているようだったが、オレはそんなことよりも気になった。この人が何者なのか。
「オレ、名乗りましたっけ?」
「いやー? でもまぁ別にいいでしょ。そんなことは」
「貴方は誰ですか? メルも知ってるみたいですが……」
「ふふ、そんな怖い顔しなくてもいいじゃない。私が誰かはだいたい検討がついているんでしょ? それならそれでだいたいは合ってるわ」
「………………」
「私のことはなんだっていいのよ。貴方達の物語なんだから」
「?」
「今日来たのは、他でもない。君に、次に進んでもらうために提案しにきたのよ」
「次……? 提案?」
「そう。貴方のいう上司にも許可は取っているわ。もちろんその上にもね」
(その上って『神様』かなんかじゃなかったか?)
「貴方、亞名を手伝いなさい」
「!」
「亡くし屋の専属死神ってところかしらね。亡くし屋の仕事上、死神を避けては通れないのよ」
(無断でやっていたから、オレやメルにあんな調査依頼がきたのか……)
「お察しの通り」
「!!」
「オレ……口に出してました?」
「いや? まぁだからそういうわけで、公式に順序を踏んできたのよ」
「そうなん、ですか」
(なんか、いろいろ掴み所がなくてわからないなこの人)
「はぐれ死神の貴方なら使っていいらしいし、まぁこれはこれで面白そうだから」
「はぁ」
「亡くし屋さん的にも、問題ないわよね?」
「ない」
「じゃあ決まり! 二人ともお仕事頑張ってね~!」
ブチッ
通話的なにかが切れる音がして、嵐の様に去っていった。
「なんなんだあの人は……」
「……あの人のことは考えても無駄だと思う」
「……確かに」
(勢いがすごかったが、それなりにメルとは全く違う空気感があったし、なにより少し恐ろしかった)
どうしてそう思うかまではわからなかったけれど。
「それで、亞名はいいのか?」
「?」
「さっきの人が言ってたことだよ」
「かずとがいいなら」
「そうか……」
(まぁ他に何もすることはないしな……)
「じゃあ、そのなんだ、改めてこれからよろしく」
「……こちらこそ」
その後、二人と一匹でご飯を食べ、オレ達は今日はお開きにした。
布団に入りながら、今日のことを振り返り、少し考えた。
「亡くし屋……か」
死神の役割がちゃんとできるかも心配だったが、オレはそれ以外に今、選択肢はない。
時間はあるのだろうし、とりあえず記憶が戻るまでやるのは問題ないだろう。
「……タナカカズト」
それが、オレの名前。
ありきたりな名字だったな。と少しだけ残念がったが、馴染みはあった。
ありきたり……普通……
頭を回転させていたが、いつの間にか眠りに落ちていた。
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