亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第一章

死神の青年は亡くし屋を知る。1

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 オレはロッカーの中身をとりあえず全て持ち、来た道を戻る。確かに大きい鎌を持っていても誰もオレを見ることもなく通り過ぎて行く。
街の外に何事もなく出た。が、視界の何処にも森や山のような木々が見当たらない。
「どうなってるんだ……?」
道を少し間違えたにしろ、あんな鬱蒼とした木々がということがおかしい。ついて来ていたしろもいつの間にか側にはいなく、姿を消していた。どうしたものか、と突っ立って考えていると声をかけられた。
「また、迷子?」
「はぁ……そうみたいだな」
声に聞き覚えはある。振り返ると亞名がいた。おまけにしろも抱き抱えられている。
亞名はオレが鎌を持っていてもそこには触れず、驚くこともなく、その深い蒼色をした瞳でオレを見つめていた。
「こっち」
亞名はそれだけ言い放つと、オレを抜かしぐんぐんと先へ行く。亞名を目線で追い元の視界に戻すと、その先にはが見えていた。
「はぇー」
オレは少しだけ間抜けな声をあげたが、度々の摩訶不思議出来事に慣れてきたらしい。そういうもんか。と納得が自然と出来るようになっていた。

そこからは亞名の後をついて階段を登った。道中、交わしたのは何気ない会話を少しだけ。
「亞名は学校だったんじゃないのか?」
「そうだけど」
「早くないか?」
「午前だけだった」
「……そうか」
他にも聞きたいことがいくつかあったが、寺に着いてからでもいいだろうと思い、聞かずにただ二人で黙っていた。


 寺を目の前にすると、相変わらずのひらけた広い空間に圧倒される。詳しい時間はわからないが、感覚的にまだ夕刻まで時間はあるだろう。
「亞名はこれからなにするんだ?」
「……仕事にいく」
「バイトか?」
「…………まあ、似たようなもの」
「?」
曖昧な表現にした意味はわからなかったが、そこまで気にすることでもないだろう。
「かずとは?」
「オレは……」
さてどうするか。なんにも決めていなかった故、突如と聞かれても返答に困る。
「……とりあえず、わたしは着替える」
「おう」
オレらはそれぞれの部屋に分かれた。
「さて」
(どうするかな……)
亞名に聞きたいことがあったが、バイト?なら仕方がない。帰ってからでもいいとする。
この付近を探索するにしろ、道に迷えばここまで戻ってこれる気はしなかった。
(亞名が帰るまでもう一度この資料やらを読みこむか……?)
不毛に過ぎないが、それくらいしか思いつかない。
「かずと」
「ん?」
「着替え、終わった」
亞名の方を向く。昨日出会った時と同じ服装をしていた。
(にしても、オレに報告しなくてもいいんじゃないか?)
と疑問に思ったが、亞名は言った。
「かずとも一緒にくる?」
「え?」
「………………」
この間《ま》。彼女の真っ直ぐなその目に吸い込まれそうになる恐怖を感じる。
「くる?」
亞名は2度聞いた。
「特に、予定はないし。亞名がいいなら」
オレはそう答える。
「……いいよ」
亞名はそう言うとゆっくりまばたきをするように目を閉じ、開いた。
先に歩きだそうとする亞名についていこうと手ぶらで部屋を出ると、亞名に聞かれた。
「持っていかなくていいの?」
「なにを?」
「…………いいなら、いいけど」
「………………」
意味を少しだけ考えて納得する。
(あぁ、あれか)
部屋の入り口付近の壁に立てかけておいた鎌を見る。
(今ところ使い方もなにもわからないし、メルになにか言われたわけでもないし、いいだろ)
「大丈夫」
「……そう」
亞名はもう振り返ることなく先を歩いて行った。
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