亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

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第一章

目を覚ました青年は死神と出会う。2

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「アタシ、死神だよ?」

「……………………」
「君もここにいるなら、たぶん同じで、死神」
「……………………」
「お仕事は、生きとし生ける人や動物の『死』を見届けること。」
「……………………」
 少しでもこんな奴の話を聞いたオレがバカだった。
明らかにヤバい格好をしている時点で気付くべきだった。この厨二病女はもう救いようがない。ここは後退れなく穏便に立ち去らねばならない。そう決心した。
「…………オレ急用思い出したから、ごめんな、それじゃっ」
「えっちょっとー……」
足早にメルから遠ざかった。
「おーいー」
メルの声が小さくなったのを確認しながらしばらくは歩き続けた。


 しばらく……いや結構歩いた……そのはず……。
息が切れ始めてオレはようやく立ち止まった。
けれどいくら進んでも景色と風景は変わらず空色をしていて、足場も浅いがずっと水場だった。
「はぁ、なんだここ……」
(出入り口も見当たらない。それどころか時間もなにもわからない。いや感じない。)
「ただの夢……?」
「夢じゃないってば」
「うわぁっ」
 パシャンッ……
(デジャブ……)
オレの目の前には突き離したと思っていたメルがいた。
「もう、無駄な抗いはやめなよー。人手不足だって言ってるでしょ?君にだけ付き合ってる時間ないんだからー」
「な、なんで……」
「ここが此の世じゃないから」
「そんなこと言われても……」
「君に記憶がないのはわかったけど、それにしてもさー往生際が悪いんじゃない?」
「……………………」
「ここには出口はないし、というかそもそもそういう次元の話じゃないんだよー。それは君だって気付いてるでしょ?」
「確かに妙な場所だけど、これが夢じゃないって証拠もないじゃないか」
「うーん、まぁ、君は確かに死んだって事実を証明しろと言われても難しいね。君自身が覚えてないわけだし。」
「じゃ、じゃあ」
「でも夢だって証拠もない」
「……………………」
「夢だったらいつか覚めるのかもしれない。そういう君の想像はわかるけど。いつまでもここに居続けるだけであって、何も進展はしないよ。それに、」
メルは続ける。
「ここに永遠に居られる保証もない。」

「それってどういう……」
「言葉のままだよ。君は何かしらの理由があって、天界でもなく今ここに居るんだ。」
「天界?」
「人間は死んだらどこにいく?とか一回でも考えたことない?」
(ないと言われればあるが……)
「まぁ宗教とか文化とか時代とかで考え方は変わるし、ここもそれらによって変わるらしいけど……。」
「現行、死んだらとりあえず天界に行くことになっている……。で、ここは天界と此の世の狭間にあるただの空間。」
「ここは、本当はあるものとして認められていない場所なの。」
「それって、誰が決めるんだ? まさか『神様』だなんて話になるのか?」
「『神様』って言っても一人じゃないからそこら辺また難しいけど……、大雑把に言えばそうだね。たぶん。」
「たぶんって」
「別にアタシも全て知ってるわけじゃないからさ。むしろなにも知らないほうだよ」
ふと、メルの表情が悲しげにみえた気がした。
「それで、『神様』は決めたの。ここはあるはずのない場所。だからここに来た者を『死神』として使いっ走りにするって」
「……なんか若干怒ってないか?」
「そりゃあ、本当に使いっ走りだし。ひっどい上司だよもう~」
「そう、なのか……?」
「てなわけで! 君にも『死神』としての仕事があります!」
「まだ納得してないが……」
「だから納得とかそういう問題じゃないんだって。ここにいる以上『死神』として働かないと消されるっていうことにもなりかねないよ?」
「け、消される……」
オレは思わず唾を飲んだ。
「もー理由とかなんでもいいんだよ。これだから最近の子は……」
見た目的には歳の変わらなさそうなメルは実際何歳なんだ?という疑問が浮かんだ。


「とにかく、人手不足だし、君にはすぐに行ってもらう所がある!」
「まてまてっ、『死神』にならないとってのは半分くらいは分かったが、何をするかも、どうやってなるのかもなんにも説明されてないけど?」
「使いっ走りって言ったでしょー。それぞれやることは色々変わるの! あ、俗に言う死神って勝手なイメージはどこかに捨ておいてね」
(随分とアバウトな概念なんだな……)
 メルは手元のノート的な何かをめくり、そしてその動きを止めた。
「えーっと。〈ここ最近、死期を迎えていない人間の勝手な死が増えているような気がします。処理するのが緊急になるから面倒くさいので、原因調べてどうにかしてください。神様〉だって。」
「なんか、『神様上司』がひどいって言ってた意味がなんとなくわかったよ……」
「一応、こっちで調べてみたけど。どうやら一人の少女が関係してるみたいなんだよね。」
「少女?」
「うん。だからその子の所に行ってきて」
「え、行って何す──」

 刹那、目の前からメルが消えた。
いや正確には違う。オレが消えた。っぽい。
いつの間にかスカイダイビングが始まっていた。
「は?わああああああああああぁぁあぁぁああ」



「これで、いいんだよね……?」
誰かに確かめるように呟かれた。
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