魔力閉鎖症なので、生きるためにはどんなにクズ男でも傍にいます。

くまだった

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番外編

神様の思し召し ~リルとすれ違った~1

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冤罪で爵位を剥奪された後、気落ちした父は、ろくにおれと話をしないまま、床について帰らぬ人になった。持病もあったのではないかと言われた。

 母はとうの昔に亡くなっている。

 住んでいた屋敷はあっという間に、借金取りに差し押さえられて、追い出された。

 親戚は巻き込まれては困ると疎遠になった。

 頼りにしていた父の弟の家に行こうものなら「お前はおれたちと関係ない、二度と来るな」と玄関前で水を掛けられた。閉まった扉が開いたと思ったら頭から紙幣を掛けられる。

 「恨まれたら困るからな、ありがたく思え」
 こんな屈辱的なことをされて、少額でもそれを嬉しいと思う自分が嫌だった。

 地面で蹲ってたままでいると、昔よく遊んだ従姉妹が泣きながら、お金を集めておれにパンやタオルと一緒に渡してくれる。
 「ごめんなさい。許して」

 おれは受け取ると無言で従姉妹の屋敷を背に歩き始めた。

 どこにも泊まれない時は路地裏でも寝る時があったが、おれの容姿は女に好かれるみたいで食う寝るには困らなかった。

 お金さえ出せば年齢に関係なく酒を出す店に通い、おれの相手になりたい女がいれば相手をしてなんとか凌いでいた。女の家を転々とする。
 一人のところには煩わしくて、とどまらないようにしていた。


 「おい、またケンカしてるぞ」いつもの酒場で飲んでいると後ろから肩を掴まれる。
 見ると、派手に髪を結った女同士がいい争っている。
 「あいつらどっちがお前を泊めるかで争っているらしいぜ」面白そうに、下卑た笑いをする男達。

 「わけーのに今からこうだと将来はどんな色男になるのやら。トムお前も爪の垢でももらっときな」

 昼間から飲みにきてる連中が酒の肴に、どちらが勝つか賭けている。

 ヤジが周囲を飛び交う。
 おれはなんの興味ももてず、喧騒を背中に酒を飲んでいた。

 学校には行かず、街をさ迷っていたら、以前、仲の良かった友達と偶然に会った。

 おれに気づいたそいつは「よお」と引きつった笑みを浮かべた。明らかに迷惑そうだった。

 そいつは急に何か思いついた顔をして「ダニエルえらく困ってるそうじゃないか。よかったらいい仕事があるんだ」と言い出した。

 そいつの家もおれの家と似たり寄ったりの没落ぶりだったはずだ。

 おれは怪しいと思いながらも、ついて行った。
 大きな酒屋問屋の裏口に連れて行かれる。

 「さあ今から出てくる女を襲えよ。お金がお前もほしいだろ。女は今日の売り上げ金を持って出てくる。怪しまれないように近寄って、背後に回った時に頭を叩いて金の入ったバックを奪え。簡単な仕事だろ」と笑っている。

 たしかに学校でも素行の悪い奴だったが、こんな気持ちの悪い笑いをするやつだっただろうか。
 おれはそいつから背中を押されてドアの近くまで行く。

 ドアからはあたりをキョロキョロ見回しながら女が出てきた。か弱そうな女だ。きっと簡単に鞄も奪えるだろう。

 おれはその女の背後に回ると、「肩に埃がついていますよ」と声をかける。女は体をビクッと振るわせると振り向いておれの顔を見た。

 おれは微笑む。女は顔を赤らめた。「狙われてますよ」と伝える。女がまたビクッと体を震わせる。辺りを見回して、奴の姿を見つける。そしておれに礼をすると、慌ててドアの中に戻った。

 おれはそのままそこから走り去った。
 最後に振り向くと、怒り狂ったそいつの姿が見えた。


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